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2006年12月16日 (土)

電流によって発生する光子の個数分布

 今日は量子電磁力学(QED)に基づいて,電流密度が存在するときに発生する輻射場における光子の個数分布を考察することにより,量子電磁力学の一端を垣間見てみましょう。 

 ゲージ(dauge)としては,"輻射ゲージ(radiation gauge)=Coulombゲージ":∇=0 を採用します。

 

 解くべき場の方程式は,□Tとなります。

 

 ただし,□≡∂2/∂t2-∇2はD'Alembertian)であり,T は電流密度の横成分,つまり∇T0 を満足する成分です。

 

 場の方程式を解けば,形式解として,

 (x)=in(x)+∫-∞t4yDret(x-y)T(y)

 =out(x)+∫t4yDadv(x-y)T(y)なる表式を得ます。

 

ただし,Dret(x-y),Dadv(x-y)はそれぞれ遅延Green関数,先進Green関数です。

 

ここでのGreen関数は□の逆演算子:□-1を意味します。(□-1微分演算子□の逆なので積分演算子です。) 

 

in(x),out(x)は,それぞれ,In-field(入射場)とOut-field(射出場)であり,それぞれ無限の過去と無限の未来での漸近場を示します。

 

ただし,くりこみ定数を考慮しない表現をしています。

 

ここで,D関数と呼ばれるGreen関数:D(z)を.

 

D(z)≡Dret(z)-Dadv(z)

={i/(2π)3}∫d4kθ(k0)δ(k2)(e-ikz-eikz)

 

によって定義します。

 

すると,in(x)+∫-∞t4yDret(x-y)T(y)

out(x)+∫t4yDadv(x-y)T(y)から,

 

out(x)=in(x)+∫4yD(x-y)T(y)

と書けます。

そして"散乱行列=S行列"の演算子:S^をS^-1in(x)S^≡out(x)で定義します。

 

すると,S^-1in(x)S^=in(x)+∫d4yD(x-y)T(y)

なる等式が成立します。

k空間(運動量空間)で考察した方が容易なのでT をFourier展開形で表わしておきます。

 

横電流はT(y)≡∫0dk0/(2π)∫d3λ=12ε(k,λ){j(k,λ)e-iky+j*(k,λ)eiky}]/(2π)3/2と表現されます。

 

in(x)=∫d4(2k0)1/2θ(k0)δ(k2)[Σλ=12ε(k,λ){a^in(k,λ)e-ikx+a^in+(k,λ)eikx}]/(2π)3/2と展開します。

 

同様に,out(x)=∫d4(2k0)1/2θ(k0)δ(k2)[Σλ=12ε(k,λ){a^out(k,λ)e-ikx+a^out+(k,λ)eikx}]/(2π)3/2です。 

そこで,a^out(k,λ)=a^in(k,λ)+ij(k,λ)/(2||)1/2,また

S^-1a^in(k,λ)S^=a^in(k,λ)-ij(k,λ)/(2||)1/2 です。

 

それ故,S^-1a^in+(k,λ)S^=a^in+(k,λ)-ij*(k,λ)/(2||)1/2

も成立します。

 

ただし,k2=0 です。 

a^in(k,λ)はS^-1a^in(k,λ)S^なる変換により,c-数である電流密度の値だけシフトされるという形になっています。

 

そこでS^を陽に解くことができます。

そのために,線形演算子A^,B^に対して,[A^,B^]がc-数のときは,

B^A^e-B^=A^+[B^,A^]なる公式が成立するのを利用します。

 

A^=a^in(k,λ),S^=-B^,[A^,B^]=ij(k,λ)/(2||)1/2なら,

S^-1a^in(k,λ)S^=a^in(k,λ)-ij(k,λ)/(2||)1/2

が成立します。

 

また,[a^in(k,λ),a^in+(k',λ')]=δ3('λλ'です。

 

そこで,B^がa^inとa^in+の線形結合であると仮定して,

S^=exp [i∫d3λ=12(k,λ)a^in+(k,λ)

+j*(k,λ)a^in(k,λ)}/(2||)1/2]とおけば,

散乱行列の演算子S^として整合的であることがわかります。

In-stateで挟まれたS行列要素を評価するためには,S^を正規順序(normal-ordering)にしておくのが便利です。

 

こんどは,[A^,B^]がc-数のとき,A^+B^=eA^B^-[A^,B^]/2なる公式を用います。

 

S^は3つの指数関数の積として,

 

S^=exp[i∫d3λ=12(k,λ)a^in+(k,λ)}/(2||)1/2]

exp [i∫d3λ=12*(k,λ)a^in(k,λ)}/(2||)1/2]

exp[-∫3λ=12|j(k,λ)|2}/(4||)]

 

と表わされます。

こうしてS^の陽な形がわかったので,特殊な偏極λ12,..λnを持つn個の光子が電流密度 J によって,ある3n次元のk空間の領域に輻射として生成される確率Pnを計算することができます。

 

まず,Pn(,λ12,..,λn)

≡Σk∈R |<k1λ1,k2λ2,..,knλn;out|0;in>|2

=Σk∈R |<k1λ1,k2λ2,..,knλn;in|S^|0;in>|2

と書きます。

先のS^の表現を代入して,上の式に寄与するS^のn個の生成演算子とゼロ個の消滅演算子の項で展開すると,

 

n(,λ12,..,λn)

=exp[-∫3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||)]

Σk∈R |<k1λ1,k2λ2,..,knλn;in|(1/n!)

[i∫3λ=12(k,λ)a^in+(k,λ)}/(2||)1/2]n|0;in>|2

 

と書くことができます。

もし与えられた波数空間の領域で任意の偏極を持つ光子の輻射確率を求めたいのであればさらに簡単化できます。 

まず,ゼロ個の生成は真空で挟んだ値として,

0exp [-∫3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||)]

とします。

 

そして,n個生成は

n()≡P0Σλi=12Σk∈R |<k1λ1,k2λ2,..,knλn;in|(1/n!)

[i∫3λ=12(k,λ)a^in+(k,λ)}/(2||)1/2]n|0;in>|2

です。

 

n()=0Σα|<α;in|(1/n!)[i∫R 3λ=12(k,λ)a^in+(k,λ)}/(2||)1/2]n|0;in>|2

{P0/(n!)2}<0;in|{[∫R 3λ=12*(k,λ)a^in(k,λ)}/(2||)1/2]n[∫R 3λ=12(k,λ)a^in+(k,λ)}/(2||)1/2]n|0;in>

 

となります。

 

結局,n()=P0[∫R 3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||)]n/n!が得られます。

を全空間に取ったときのPn()を単にnで表わせばこれはPoisson分布になることがわかります。

 

それ故,輻射される光子の個数の平均値を<n>と書けば,この平均個数は電流密度の強さによって定まります。

 

<n>=3λ=12|j(k,λ)|2}/(2||)=Σn=0nPn

なる式です。

 

n確かにn[e-<n><n>]/n!というPoisson分布となり,確率の条件であるΣn=0n1を満たします。

また,輻射の全エネルギーEは,

E=Σn=0Σλi=12Σk|<k1λ1,k2λ2,..,knλn;in|S|0;in>|2(k10+k20+..+kn0)=<0;in|S^-1H^0(in)S^|0;in>

で与えられます。

 

ここで,H^0(in)≡∫d3k{k0in+(k,λ)a^in(k,λ)}は自由輻射場のHamiltonianです。 

S^-1a^in(k,λ)S^=a^in(k,λ)+ij(k,λ)/(2||)1/2,かつ

S^-1a^in+(k,λ)S^=a^in+(k,λ)-ij*(k,λ)/(2||)1/2

(ただしk2=0 )を代入すれば,

 

エネルギーはE=(1/2)∫3λ=12|j(k,λ)|2}となります。

 

これは,電流密度から放出されるエネルギーEについての古典的結果と一致します。

 

(※古典論では,電流から放出されるエネルギーEは,

E=(1/2)∫d3(T22)(1/2)∫3λ=12|j(k,λ)|2}

です。※)

  

参考文献;J.D.Bjorken S.D.Drell「Relativistic Quantum Fields」(McGraw-Hill Books Company)

 

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