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2006年12月 1日 (金)

星の進化とチャンドラセカール質量

星を構成する気体物質の圧力をP,密度をρ,万有引力定数をGとし,それぞれcを星の中心,gを気体,rを輻射,eを電子,Iを正イオンの添字を表わすものとします。

 

すると,Emden解における質量Mは,M=[Pc3/(4πG3ρc4)]1/2φN

φN≡-(N+1)1/22dθN(ξ)/dξ]ξ=ξNで与えられます。

 

ここで,Pc=Pgc+Prc,Pgc=PIc+Pecですが,βc=Pgc/PcとおけばPrc/Pc=1-βcです。

ρcは電子とイオンによるもので,平均分子量μと水素原子の質量mHを用いてPgc=ρcBc/(μmH)と書けます。

  

c は,もちろん星の中心の温度です。

 

このとき,Pc3c4=(Pc/Pgc)4{Bc/(μmH)}4/Pc=(1-βc){B/(μmH)}4c4/(βc4c)となります。

 

ところが,Stefan-Boltzmannの法則:E=aT4とP=E/3(Eはエネルギー密度)により,Pc=aTc4/3ですから,星の全質量はM=[3{B/(μmH)}4/(4πG3a)]1/2{(1-βc)1/2c2Nとなります。

 

これは,輻射優勢のとき:βc<<1のときにはMが大きくなることを示唆しています。

dP/dr=-GM(r)ρ(r)/r2の両辺に4πr3を掛けて,0 ~ Rまでrで積分すると∫0R4πr3(dP/dr)dr=-0M(GM(r)/r)dM(r)です。

 

右辺は星自身の重力エネルギーΩを表わしています。

 

一方,左辺=[4πr3]r=0=R3∫PdVですから,Ω=-3∫PdVなる等式が得られます。

 

ところで星の内部で比熱比:γが一定であるとすると,P=E/n=(γ-1)Eであり内部エネルギーはU=∫EdVですから,3(γ-1)U+Ω=0 を得ます。この等式は星のvirial定理と呼ばれています。

一方,Ω=-0M(GM(r)/r)dM(r)=-GM2/(2R)-∫{GM(r)2/(2r2)}dr=-GM2/(2R)-∫{M(r)/ρ(r)}dPです。

ここで,ポリトロープガス球の関係:NdlogP=(N+1)dlogρより,

dP/ρ=(N+1)d(P/ρ)を用いると,

 

Ω=-GM2/(2R)-∫{M(r)/ρ(r)}dP

=-GM2/(2R)-{(N+1)/2}∫PdVです。

 

そして,∫PdV=(γ-1)U=-Ω/3ですから,-GM2/R(5-N)Ω/3,あるいは,Ω=3GM2/{(N-5)R}です。

 

よって,U=-Ω/{3(γ-1)}=GM2/{(γ-1)(5-N)R}を得ますから,内部エネルギーと重力エネルギーを加えた全エネルギーをEtとすると,

t=U+Ω=-(3γ-4)GM2/{(γ-1)(5-N)R}

=(3γ-4)Ω/{3(γ-1)}=-(3γ-4)U

となります。

もっとも,Et=U+Ω=-(3γ-4)Uの関係を導くだけなら,こんな面倒な計算をしなくても,3(γ-1)U+Ω=0 からすぐ得られます。

星が重力的に束縛されているためにはt0 が必要ですから,γ>4/3でなければなりません。

 

そして,γ>4/3の場合,星の表面からエネルギーが放出されるとdEt/dt<0 であり,Et(3γ-4)Ω/{3(γ-1)}によってdΩ/dt<0 であって,dU/dt>0 であることがわかります。

 

つまり,収縮によって解放された重力エネルギーΔΩのうちΔΩ/{3(γ-1)}が内部エネルギーに加わり,残りは外部に放出されることになります。

通常,物体から熱エネルギーが流出すれば,その物体の温度は低下するのですが,重力平衡にある星では逆に,エネルギーが流出するほど内部エネルギーUが増加するので温度が上がることになります。

以下では,星間ガスから原始星になり主系列星になっていくという星の進化の議論に入っていきますが,星の質量によってその進化過程が異なるという話になっていきます。

 

ただし,その詳細については,私自身がまだ十分に把握していないので,概略しか述べることはできませんが。。。。

星の内部の圧力を無視すると,物質はd2/dt2=-GM/r2によって自由落下するので,星の平均密度をρとするとその落下時間tffは,

ff{3/(4πGρ)}1/2 で与えられます。

 

一方,圧力が大きくて重力が無視できるときは,

ρ2/dt2=-d/dr> 0 なので,膨張時間 exは,ρR/ex2~ P/Rと近似して,tex~ R/(P/ρ)1/2となります。

 

そして,重力と圧力が釣り合った平衡の状態では,

オーダー的にff~ tex になると考えられます。

 

/ρ=kB/(μmH)により,tex~ R/(P/ρ)1/2

={μmH/(kB)}1/2{3M/(4πρ)}1/3ですから,ff~ texの条件は

温度TについてT~ (GH/kB)ρ1/32/3を意味します。

  

これをT-ρの両対数曲線で表わしたとき,この条件を満たす曲線を力学的平衡線といいます。

ρに対して,温度Tがこの力学的平衡線より低いときにはff<texなので収縮が起きます。

 

また,質量が小さいときは力学的平衡線は温度Tの低い方に下がるので,収縮は,より低温にならないと始まりません。

 

一方,収縮して密度ρが高くなるとガス雲は冷却の原因となる赤外線などの輻射に対して不透明になります。(輻射に対して不透明とは輻射が見えないこと,つまり輻射が小さいことを意味します。)

 

不透明になった原始星は輻射冷却が不透明性によって阻害されるため,断熱的に収縮して結果として温度は上昇します。

 

そして収縮の途中では水素分子の解離と電離にそのエネルギーを費やすため,やがて温度上昇は横ばいになり,電離が終わると再び温度が上昇してゆきます。

 

その後は,まず中心部で収縮が止み,次に外層の落下収縮も止まります。

 

こうして原始星は収縮して平衡に向かい,いわゆる主系列星になります。

 

(※つまり,星が力学的平衡線上にある状態が主系列星です。)

 

この段階を"林フェイズ"といいます。

主系列星でHが燃焼され尽くされると,星はHeコア(ヘリウム核)と初期の元素組成を保つ外層部との層状な構造となり,Heコアの表面でのHの殻燃焼段階に入ります。

 

殻燃焼が進むと,Heコアの質量が大きくなるためにコアは収縮し星は半径が増大して巨星化します。(図はホームページから借用)

 

   

 

それ以後の進化はその質量によって異なることが知られています。

 

M<3M太陽の星はその進化とともに小さい星になります。

 

そして内部の核エネルギーを使い果たすと共に収縮し,中心密度が高くなって電子が縮退を始めます。

 

それでも表面からのエネルギー放出は続くので,冷却してやがて電子の縮退圧で支えられる星になります。

 

このような星を白色矮星といいます。

 

こうした白色矮星の限界質量を考えてみます。

簡単のため,化学組成は一様とし,完全冷却して完全縮退したT=0 の場合を考えます。

 

この場合の状態方程式は, 

P=Kf(x),K={1/(3π2)}(me/h)3e26.0×1014J/m3,

f(x)=x(2x-3)(x2+1)1/2+3sinh-1(x),x≡F/(me)

で与えられます。

 

ここで,原子核による圧力は小さいので無視し,電子の縮退圧のみを考えています。また,cは光速,hはPlanck定数,eは電子質量です。

 

電子数密度neは,ne(8π/3)(me/h)33(1/3π2)(me/hc)33 (c≡h/(2π))であり,ρ=μeepです。

 

μeは原子1個当たりの電子数,mpは陽子質量です。

 

また,物質密度ρは,ρ=ρcrit3,ただしρcrit={mNμe/(3π2)}(me/h)39.7×108μe kg/m3(mNは核子の質量)で与えられます。

相対論的な場合を考えてρ>>ρc,x>>1とすると,

f(x)~ 2x4-3x2より,P={c/(12π2)}{3π2ρ/(Nμe)}4/3

となります。

 

これはポリトロープ指数N=3に相当しますから,質量はM=[Pc3/(4πG3ρc4)]1/2φN(N=3)で与えられます。

 

(Pc3c4)1/2={c/(12π2)}3/2{3π2/(Nμe)}2であり,Emdenの数値解によると,φ3=6.957ですから,

 

M={(2)1/2/16}φ3{(c/G)3/2/(Nμe)2}

=1.16×1031μe-2 kg=5.84μe-2太陽 が得られます。

 

これが電子の縮退圧で支えることのできる白色矮星の限界質量です。

 

これは,チャンドラセカール限界質量(Chandrasekhar limit)と呼ばれています。

 

このChandrasekhar質量:Mchは,μe2の場合が多いため,

ch=1.46(2/μe)2太陽と書かれることが多いです。

実際には,電子のFermiエネルギーが大きくなると,電子は陽子と反応して中性子をつくるようになるので電子の縮退圧で支えられる白色矮星という描像は意味を失って,さらに高密度の中性子星となり中性子の縮退圧で支えられるようになります。

 

ところで,Chandrasekharの名著"星の構造(Stellar structure)"の訳本の復刊を数年前から復刊ドットコムにリクエストしていますが,投票が100票に達しないと復刊交渉をしてもらえません。

 

洋書のリプリント版は持っていますが,ぜひ日本語で読みたいので,できましたら投票にご協力くださるようお願いします。

 

参考文献;佐藤文隆 原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)

 

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                  TOSHI

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