結合エネルギーが最大の元素(鉄)
重い原子核の結合エネルギーは質量公式:E(Z,N)=-c1A+c2Z2A-1/3+c3(N-Z)2/A+c4A2/3,c1=16MeV,c2=0.72MeV,c3=24MeV,c4=18MeVで近似的に表現できることを既に述べました。
そこで安定な原子核のZはAのどのような関数であるかを調べ,次に1核子当たりの結合エネルギーが最大の原子核の質量数AをN~Z~A/2の近似のもとで求めてみます。
安定な核は,条件式(∂E/∂Z)|A=0 から得られます。
N-Z=A-2Zなので,(∂E/∂Z)|A=2c2ZA-1/3-4c3(A-2Z)/A=0 であり,このZを境にして∂E/∂Zは正から負に変わりますから,このZでEは最小になります。
したがって,Z=2c3A/(c2A2/3+4c3)≒48A/(0.72A2/3+96)という式が安定な核の条件になります。そこでAがあまり大きくなければ,Z~A/2 で安定ですね。
また,N~Z~A/2という前提で1核子当たりの結合エネルギーが最大になるAを求めると,d{E(A/2,A/2)/A}/dA=d(-c1+c2A2/3/4+c4A-1/3)/dA=A-4/3(c2A/6-c4/3)なので,
A=2c4/c2≒36/0.72~ 50 となります。
A~ 50 付近の元素で,組成がZ~A/2に近いものは,バナジウム(V:A=51,Z=23),クロム(Cr:A=52,Z=24,マンガン(Mn:A=55,Z=25),鉄(Fe:A=56,Z=26)etc.があります。
しかし,これらは,丁度Z=A/2を満たすわけではありません。
むしろ,E(Z,N)に,Z=2c3A/(c2A2/3+4c3)≒48A/(0.72A2/3+96),およびN=2A-Zを代入した後,dE/dAがゼロとなるAを求めた方がいいかもしれません。これは,結構大変ですね。
鉄(Fe:A=56,Z=26)は,Z=2c3A/(c2A2/3+4c3)≒48A/(0.72A2/3+96)に組成がかなり近いようです。
そして,実在の元素では鉄(Fe)のときに結合エネルギー:E(Z,N)が最大になるようです。
したがって,星の熱核融合で重元素が創られていっても,最終的に鉄(Fe)に到達すると,それ以上反応は進まないで,そこで核融合は終わることになるようです。
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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