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2007年2月13日 (火)

ベキ級数解の存在(コワレフスカヤの優級数)(3)

 補助定理の証明がすべて終わったので,いよいよ"正則解=ベキ級数解"の存在定理を証明します。

 まず,定理の再掲です。 

 "1階常微分方程式dy/dx=f(x,y)の右辺が,

 あるR1,R2より大きい関連収束半径を持ってベキ級数に展開できる,

 

 つまりf(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)qと書けて,

 右辺が|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2で絶対収束する

 ものとする。

 

 このとき,初期条件:y|x=x00を満足し,x=x0の近傍で,

 (x-x0)のベキ級数に展開可能な解が一意的に存在する。

   

 以下に証明を与えます。

 

 補助定理1により,dy/dx=Σapq(x-x0)p(y-y0)q

 の右辺の級数は|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2において

 絶対かつ一様に収束します。

 

 したがって,補助定理2から(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)q

 この閉領域でx,yに関し無限回項別偏微分可能であって,

 pq{1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0

 と表わされます。

 

 そこで,仮にdy/dx=(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)q

 のベキ級数解でy|x=x00 を満たすものが存在して,

 ある正の数ρ≦R1に対して|x-x0|<ρで収束し,

 その範囲で|y-y0|≦R2を満足するものとすると,

 

 その解y(x)は広義一様収束するので,

 xに関して無限回項別微分可能です。

 

 したがって,そうしたy(x)が存在するなら,それは,

 

 y"={∂f(x,y)/∂x}+{∂f(x,y)/∂y}y',

 

 y(3)={∂2f(x,y)/∂x2}+2{∂2f(x,y)/(∂x∂y)}y'

 +{∂2f(x,y)/∂y2}y'2+{∂f(x,y)/∂y}y",...

 

 (|x-x0|<ρ)をも満足するはずです。

 

 そこで,今一連の定数の組をy0'≡f(x0,y0),

 y0"≡{∂f(x,y)/∂x}|x=x0,y=y0+{∂f(x,y)/∂y}|x=x0,y=y00',

 

 y0(3)≡{∂2f(x,y)/∂x2}|x=x0,y=y0

 +2{∂2f(x,y)/(∂x∂y)|x=x0,y=y0}y0'

 +{∂2f(x,y)/∂y2}|x=x0,y=y00'2

 +{∂f(x,y)/∂y}|x=x0,y=y00",...

 

 と定義していきます。

 

 y0',y0",...,y0(n-1)までが定義されれば,

 y0(n)は∂i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0(0≦i,j≦n-1),

 およびy0',y0",..y0(n-1)の多項式として定義できます。

 

 次々とこうして定義していくとき,y(x)は

 y(0)=y0,y'()|x=x0=y0',..,y(n)(x)|x=x0

 =dn-1f(x,y(x))/dxn-1|x=x0=y0(n)

 を満足しなければなりません。

 

 ところが,y(x)は|x-x0|<ρにおけるベキ級数の和で

 与えられているので,ベキ級数展開の一意性定理から

 y(x)=y0+y0'(x-x0)+0"(x-x0)2/2!+...

 +y0(n)(x-x0)n/n!+...

 

 =Σn=00(n)(x-x0)n/n! (|x-x0|<ρ)

 と展開されなければなりません。

 

 すなわち,もしy|x=x00を満たすベキ級数解が存在すれば,

 それは一意的であり,y(x)=y0+y0'(x-x0)+0"(x-x0)2/2!

 +...y0(n)(x-x0)n/n!+...=Σn=00(n)(x-x0)n/n!

 でなければならないことになります。

 

そこで,φ(x)≡Σn=00(n)(x-x0)n/n!と定義すれば,

これが実際にx0の近傍でdφ(x)/dx=f(x,φ(x))

を満足すること, を示しましょう。

 

級数:Σp,q=0pq(x-x0)p(y-y0)qは,

|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2でf(x,y)に

絶対収束するので,Σp,q=0pq1p2qはf(x01,y02)

に収束し,それ故,p,q → ∞ に対して

pq1p2q → 0 です。

 

したがって,1,2によって定まるある正の定数Mが存在して

|pq|R1p2q≦M(p,q=0,1,2,...),

 

すなわち|pq|≦M/(1p2q)が成立します。

 

そこで,二重ベキ級数Σp,q=0pq(x-x0)p(y-y0)q1つの

優級数Σp,q=0{M/(1p2q)}(x-x0)p(y-y0)qを考えると,

これは|x-x0|<R1,かつ|y-y0|<R2において,

 

和の順序によらず絶対収束し,

Σp,q=0{M/(1p2q)}(x-x0)p(y-y0)q

=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]

が成り立ちます。

 

そこで,g(x,y)≡Σp,q=0{M/(1p2q)}(x-x0)p(y-y0)q

=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]とおけば,

 

補助定理1から右辺のベキ級数は|x-x0|<R1かつ|y-y0|<R2

広義一様収束し,故に補助定理2より無限回項別偏微分可能です。

 

したがって,さらにM/(1p2q)

={1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}g(x,y)|x=x0,y=y0が成立し,

 

これとpq{1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0,

および |pq|≦M/(1p2q)から,

  

|{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0|

≦{∂p+q/(∂xp∂yq)}g(x,y)|x=x0,y=y0

(p,q=0,1,2,...)を得ます。

 

 一方,dy/dx=g(x,y)

 =1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]の

 y|x=x00を満たすベキ級数解が,x=0の近傍で

 存在すると仮定し,それをy=ψ(x)とおけば,

  

 それは,dψ/dx=g(x,ψ(x))を満足します。

  

 したがって,dy/dx=f(x,y)のベキ級数解y(x)と同様,

 

 ^0'≡g(x0,y0), 

 y^0"≡{∂g(x,y)/∂x}|x=x0,y=y0

      +{∂g(x,y)/∂y}|x=x0,y=y0y^0',

  

 y^0(3)≡{∂2g(x,y)/∂x2}|x=x0,y=y0

      2{∂2g(x,y)/(∂x∂y)|x=x0,y=y0}y^0'

    +{∂2g(x,y)/∂y2}|x=x0,y=y0y^0'2

         +{∂g(x,y)/∂y}|x=x0,y=y0 y^0",...

 

 と定義すれば,

 

 y^0',y^0",...y^0(n-1)が与えられたとき,それらから

 y^0(n)を定めることが可能となります。

 

 そして,ψ(x)=y0+y^0'(x-x0)+^0"(x-x0)2/2!

         +..+y^0(n)(x-x0)n/n!+...

       =Σn=0y^0(n)(x-x0)n/n! (y^0(n)0)

 

 なる等式が成立するはずです。

 

 φ(x0)=y0=ψ(x0),|y0'|≦M=g(x0,y0)=y^0'

 が成立していますが,

 

 一般に,|y0(k)|=|φ(k)(x)|x=x0|≦y^0(k)

 =ψ(k)(x)|x=x0が,k=0,1,2,..,n-1に対して

 成立すると仮定すれば,

  

0(n)=dn-1f(x,y)/dxn-1|x=x0,y=y0,および

y^0(n)=dn-1g(x,y)/dxn-1|x=x0,y=y0 の各々は,

 

それぞれ,∂i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0と,

0(k)(0≦i,j,k≦n-1),および

 

i+jg(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0と,

y^0(k)(0≦i,j,k≦n-1)の多項式で

表わされます。

 

しかも,y0(n)の各項はy^0(n)の各項において,

i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0

i+jg(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0に,

0(k)をy^0(k)に置換したものに等しいので,

 

帰納法の仮定によって,|y0(n)|≦y^0(n)もまた成立する

ことがわかります。

 

以上から,数学的帰納法により,任意のnについて

|y0(n)|≦y^0(n)が成立することがわかりました。

 

このことは,微分方程式dy/dx=g(x,y)の|x=x00

を満たすベキ級数解がある区間で絶対収束すれば,

 

dy/dx=f(x,y)の|x=x00を満たすベキ級数解

φ(x)=Σn=00(n)(x-x0)n/n!もまた,同じ区間で絶対収束

することを示しています。

  

次に,実際にdy/dx=g(x,y)の|x=x00

を満たすベキ級数解が存在することを示しましょう。

  

dy/dx=g(x,y)

=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]

(|x-x0|≦R1,|y-y0|≦R2)を,

y|x=x00の条件で解けば,

 

y=0+R22[1+21log{1-(x-x0)/R1}/2]1/2

(|x-x0|<R1)となります。

 

ところが,[1+21log{1-(x-x0)/R1}/2]1/2は,

|21log{1-(x-x0)/R1}/2|<1の条件下で,

21log{1-(x-x0)/R1}/2のベキで

二項展開されます。

 

しかも,log{1-(x-x0)/R1は,|x-x0|<R1

全てのxに対して絶対収束するTaylor級数に展開されて,

 

log{1-(x-x0)/R1=-Σn=1{(x-x0)/R1}n/n 

となります。

 

したがって,また,Σn=1|x-x0|n/R1n/n=|log{1-|x-x0|/R1|

となり,21|log{1-|x-x0|/R1}|/21であるような

xに対しては補助定理5の仮定が満たされ,

 

y=ψ(x)=0+R22[1+21log{1-(x-x0)/R1}/2]1/2

は,そのようなxに対して(x-0)のベキ級数に展開され得ること

になります。

 

21|log{1-|x-x0|/R1}|/21 なることは,

|x-x0|<R1[1-exp{-2(21)}]と同値なので,

 

ρ≡1[1-exp{-2(21)}]とおけば,

|x-x0|<ρで,y=ψ(x)は(x-0)のベキ級数に

展開されます。

 

それ故,前の考察から,Σn=00(n)(x-x0)n/n!

もまた,|x-x0|<ρで絶対収束します。

 

φ(x)-0 の各項の係数の絶対値は.ψ(x)-0の対応する

各項の係数より大きくないことは先に述べた通りですから,

 

|x-x0|<ρで|φ(x)-0|≦|ψ(x0+|x-x0|)-0

が成立します。

 

0≦|ψ(x0+|x-x0|)-02 (|x-x0|<ρ)ですから,

|φ(x)-0|<2 (|x-x0|<ρ<R1)であり,

 

よってxの変域|x-x0|<ρにおいて,

 

f(x,φ(x))=Σp,q=0pq(x-x0)p(φ(x)-y0)q

は,定義されています。

 

(x,y)は,|x-x0|≦R1,|y-y0|≦R2で無限回偏微分可能で,

φ(x)も明らかに|x-x0|<ρで無限回微分可能であり,

 

φ(n)(x)|x=x0=y0(n) (n=0,1,2,...),

 

ただし,φ(0)(x)|x=x0=φ(x0),y0(0)=y0ですから,

ω(x)≡f(x,φ(x))とおくと,

 

ω(x)は,|x-x0|<ρで無限回微分可能であり,

ω(n-1)(x)|x=x0=y0(n)(0)(x)=ω(x),(n=1,2,..,)

となります。

 

φ(n)(x)=dφ(n-1)(x)/dxであり,dφ(x)/dxは,

φ(x)=Σn=00(n)(x-x0)n/n!の項別微分係数の和,

 

すなわちΣn=00(n+1)(x-x0)n/n!で与えられます。

 

以上から,dφ(x)/dx=Σn=00(n+1)(x-x0)n/n!

=Σn=0(n)(x)|x=x0)(x-x0)n/n!

=Σn=0{f(n)(x,φ(x))|x=x0}(x-x0)n/n!

 

(|x-x0|<ρ)となることがわかります。

 

ところが,補助定理1の系に見られる絶対収束二重級数の性質から,

ω(x)=f(x,φ(x))=Σp,q=0pq(x-x0)p(φ(x)-y0)q

=Σp=0{Σq=spq(x-x0)p(φ(x)-y0)q}

=Σp=0(x-x0)p[Σq=0pq{Σn=10(n)(x-x0)n/n!}q]

 

(|x-x0|<ρ)です。

 

しかも,Σn=1|y0(n)||x-x0|n/n!≦Σn=1y^0(n)|x-x0|n/n!

ψ(x+|x-x0|)-02

 

(|x-x0|<ρ)ですから,

 

補助定理5より,Σq=0pq{Σn=10(n)(x-x0)n/n!}q

=Σr=0pr(x-x0)r

(|x-x0|<ρ,bpr≡Σq=0pq0(r)(q)/r!)が成立し,

  

Σr=0pr(x-x0)rは,|x-x0|<ρで, 

Σq=0pq{Σn=10(n)(x-x0)n/n!}q 

に絶対収束します。

 

故に,ω(x)=f(x,φ(x))

=Σp=s(x-x0)p{Σr=0pr(x-x0)r}

=Σp=0{Σr=0pr(x-x0)p(x-x0)r} 

(|x-x0|<ρ)となります。

 

ここで,|x-x0|<R1n=00(n)(x-x0)n/n!<R2なので,

Σp,q=0|apq||x-x0|pn=0|y0(n)||x-x0|n/n!}q

<+∞  (|x-x0|<ρ)です。

 

したがって,Σp,q=0|apq||x-x0|pn=0|y0(n)||x-x0|n/n!}q

=Σp=0{Σr=0pr|x-x0|p+r}<+∞ (|x-x0|<ρ,

pr≡Σq=0|apq||y0(r)|(q)/r!)であり, 

 

また,|bpr|≦pr ですから,Σp=0{Σr=0|bpr||x

-x0|p+r}<+∞ となります。

 

このことから,補助定理3によって,

ω(x)=f(x,φ(x))=Σp,r=0pr(x-x0)p+r 

(|x-x0|<ρ(収束は絶対収束))となり,

 

ω(x) =f(x,φ(x))=Σn=0n(x-x0)n

(|x-x0|<ρ,cn≡Σp+r=npr)

が成立します。

 

ベキ級数展開の一意性から,n=ω(n)(x)|x=x0/n!

=f(n)(x,φ(x))|x=x0/n!が成り立ち,

 

結局dφ(x)/dx=f(x,φ(x))(|x-x0|<ρ)

となることが示されました。

 

もし,y=φ(x)とは別にdy/dx=f(x,y)の解:

y=φ1(x)でφ1(x0)=y0なるものが,x=x0の近傍で

存在すると仮定すれば,

 

dφ1(x)/dx=f(x,φ1(x))であり,

 

f(x,y)は無限回偏微分可能ですから.f(x,φ1(x))も

xについて微分可能,

 

すなわち,dφ1(x)/dxも微分可能となり,

φ1(x)は二階微分可能であって,

 

φ1"(x)=∂f/∂x+(∂f/∂y)φ1'(x)

 

となることがわかります。

 

これを繰り返して,1(x)-y0|≦R2となるような

全てのx0の近傍で,φ1(x)は無限回微分可能であり,

 

しかもφ1(n)(x)|x=x0=φ(n)(x)|x=x0=y0(n)

となります。

  

したがって,こうした右辺が二重ベキ級数に展開可能な常微分方程式:

dy/dx=f(x,y)に対しては,正則な解の一意性のみならず, 

解の一意性が成り立つこと,

 

つまり,x=x0の近傍で常微分方程式dy/dx=f(x,y)

の条件:y|x=x00を満たす解は,正則な解:φ(x)に限る

 

ことが証明されました。(以上証明終わり)

 

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