"1階常微分方程式dy/dx=f(x,y)の右辺が,
あるR1,R2より大きい関連収束半径を持ってベキ級数に展開できる,
つまりf(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)qと書けて,
右辺が|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2で絶対収束する
ものとする。
このとき,初期条件:y|x=x0=y0を満足し,x=x0の近傍で,
(x-x0)のベキ級数に展開可能な解が一意的に存在する。
以下に証明を与えます。
補助定理1により,dy/dx=Σapq(x-x0)p(y-y0)q
の右辺の級数は|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2において
絶対かつ一様に収束します。
したがって,補助定理2からf(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)qは
この閉領域でx,yに関し無限回項別偏微分可能であって,
apq={1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0
と表わされます。
そこで,仮にdy/dx=f(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)q
のベキ級数解でy|x=x0=y0 を満たすものが存在して,
ある正の数ρ≦R1に対して|x-x0|<ρで収束し,
その範囲で|y-y0|≦R2を満足するものとすると,
その解y(x)は広義一様収束するので,
xに関して無限回項別微分可能です。
したがって,そうしたy(x)が存在するなら,それは,
y"={∂f(x,y)/∂x}+{∂f(x,y)/∂y}y',
y(3)={∂2f(x,y)/∂x2}+2{∂2f(x,y)/(∂x∂y)}y'
+{∂2f(x,y)/∂y2}y'2+{∂f(x,y)/∂y}y",...
(|x-x0|<ρ)をも満足するはずです。
そこで,今一連の定数の組をy0'≡f(x0,y0),
y0"≡{∂f(x,y)/∂x}|x=x0,y=y0+{∂f(x,y)/∂y}|x=x0,y=y0y0',
y0(3)≡{∂2f(x,y)/∂x2}|x=x0,y=y0
+2{∂2f(x,y)/(∂x∂y)|x=x0,y=y0}y0'
+{∂2f(x,y)/∂y2}|x=x0,y=y0y0'2
+{∂f(x,y)/∂y}|x=x0,y=y0y0",...
と定義していきます。
y0',y0",...,y0(n-1)までが定義されれば,
y0(n)は∂i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0(0≦i,j≦n-1),
およびy0',y0",..y0(n-1)の多項式として定義できます。
次々とこうして定義していくとき,y(x)は
y(x0)=y0,y'(x)|x=x0=y0',..,y(n)(x)|x=x0
=dn-1f(x,y(x))/dxn-1|x=x0=y0(n)
を満足しなければなりません。
ところが,y(x)は|x-x0|<ρにおけるベキ級数の和で
与えられているので,ベキ級数展開の一意性定理から
y(x)=y0+y0'(x-x0)+y0"(x-x0)2/2!+...
+y0(n)(x-x0)n/n!+...
=Σn=0∞y0(n)(x-x0)n/n! (|x-x0|<ρ)
と展開されなければなりません。
すなわち,もしy|x=x0=y0を満たすベキ級数解が存在すれば,
それは一意的であり,y(x)=y0+y0'(x-x0)+y0"(x-x0)2/2!
+...y0(n)(x-x0)n/n!+...=Σn=0∞y0(n)(x-x0)n/n!
でなければならないことになります。
そこで,φ(x)≡Σn=0∞y0(n)(x-x0)n/n!と定義すれば,
これが実際にx0の近傍でdφ(x)/dx=f(x,φ(x))
を満足すること, を示しましょう。
級数:Σp,q=0∞apq(x-x0)p(y-y0)qは,
|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2でf(x,y)に
絶対収束するので,Σp,q=0∞apqR1pR2qはf(x0+R1,y0+R2)
に収束し,それ故,p,q → ∞ に対して
apqR1pR2q → 0 です。
したがって,R1,R2によって定まるある正の定数Mが存在して
|apq|R1pR2q≦M(p,q=0,1,2,...),
すなわち|apq|≦M/(R1pR2q)が成立します。
そこで,二重ベキ級数Σp,q=0∞apq(x-x0)p(y-y0)qの1つの
優級数Σp,q=0∞{M/(R1pR2q)}(x-x0)p(y-y0)qを考えると,
これは|x-x0|<R1,かつ|y-y0|<R2において,
和の順序によらず絶対収束し,
Σp,q=0∞{M/(R1pR2q)}(x-x0)p(y-y0)q
=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]
が成り立ちます。
そこで,g(x,y)≡Σp,q=0∞{M/(R1pR2q)}(x-x0)p(y-y0)q
=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]とおけば,
補助定理1から右辺のベキ級数は|x-x0|<R1かつ|y-y0|<R2
で広義一様収束し,故に補助定理2より無限回項別偏微分可能です。
したがって,さらにM/(R1pR2q)
={1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}g(x,y)|x=x0,y=y0が成立し,
これとapq={1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0,
および |apq|≦M/(R1pR2q)から,
|{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0|
≦{∂p+q/(∂xp∂yq)}g(x,y)|x=x0,y=y0
(p,q=0,1,2,...)を得ます。
一方,dy/dx=g(x,y)
=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]の
y|x=x0=y0を満たすベキ級数解が,x=x0の近傍で
存在すると仮定し,それをy=ψ(x)とおけば,
それは,dψ/dx=g(x,ψ(x))を満足します。
したがって,dy/dx=f(x,y)のベキ級数解y(x)と同様,
y^0'≡g(x0,y0),
y^0"≡{∂g(x,y)/∂x}|x=x0,y=y0
+{∂g(x,y)/∂y}|x=x0,y=y0y^0',
y^0(3)≡{∂2g(x,y)/∂x2}|x=x0,y=y0
+2{∂2g(x,y)/(∂x∂y)|x=x0,y=y0}y^0'
+{∂2g(x,y)/∂y2}|x=x0,y=y0y^0'2
+{∂g(x,y)/∂y}|x=x0,y=y0 y^0",...
と定義すれば,
y^0',y^0",...y^0(n-1)が与えられたとき,それらから
y^0(n)を定めることが可能となります。
そして,ψ(x)=y0+y^0'(x-x0)+y^0"(x-x0)2/2!
+..+y^0(n)(x-x0)n/n!+...
=Σn=0∞y^0(n)(x-x0)n/n! (y^0(n)≡y0)
なる等式が成立するはずです。
φ(x0)=y0=ψ(x0),|y0'|≦M=g(x0,y0)=y^0'
が成立していますが,
一般に,|y0(k)|=|φ(k)(x)|x=x0|≦y^0(k)
=ψ(k)(x)|x=x0が,k=0,1,2,..,n-1に対して
成立すると仮定すれば,
y0(n)=dn-1f(x,y)/dxn-1|x=x0,y=y0,および
y^0(n)=dn-1g(x,y)/dxn-1|x=x0,y=y0 の各々は,
それぞれ,∂i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0と,
y0(k)(0≦i,j,k≦n-1),および
∂i+jg(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0と,
y^0(k)(0≦i,j,k≦n-1)の多項式で
表わされます。
しかも,y0(n)の各項はy^0(n)の各項において,
∂i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0を
∂i+jg(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0に,
y0(k)をy^0(k)に置換したものに等しいので,
帰納法の仮定によって,|y0(n)|≦y^0(n)もまた成立する
ことがわかります。
以上から,数学的帰納法により,任意のnについて
|y0(n)|≦y^0(n)が成立することがわかりました。
このことは,微分方程式dy/dx=g(x,y)のy|x=x0=y0
を満たすベキ級数解がある区間で絶対収束すれば,
dy/dx=f(x,y)のy|x=x0=y0を満たすベキ級数解
φ(x)=Σn=0∞y0(n)(x-x0)n/n!もまた,同じ区間で絶対収束
することを示しています。
次に,実際にdy/dx=g(x,y)のy|x=x0=y0
を満たすベキ級数解が存在することを示しましょう。
dy/dx=g(x,y)
=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]
(|x-x0|≦R1,|y-y0|≦R2)を,
y|x=x0=y0の条件で解けば,
y=y0+R2-R2[1+2R1Mlog{1-(x-x0)/R1}/R2]1/2
(|x-x0|<R1)となります。
ところが,[1+2R1Mlog{1-(x-x0)/R1}/R2]1/2は,
|2R1Mlog{1-(x-x0)/R1}/R2|<1の条件下で,
2R1Mlog{1-(x-x0)/R1}/R2のベキで
二項展開されます。
しかも,log{1-(x-x0)/R1は,|x-x0|<R1の
全てのxに対して絶対収束するTaylor級数に展開されて,
log{1-(x-x0)/R1=-Σn=1∞{(x-x0)/R1}n/n
となります。
したがって,また,Σn=1∞|x-x0|n/R1n/n=|log{1-|x-x0|/R1|
となり,2R1M|log{1-|x-x0|/R1}|/R2<1であるような
xに対しては補助定理5の仮定が満たされ,
y=ψ(x)=y0+R2-R2[1+2R1Mlog{1-(x-x0)/R1}/R2]1/2
は,そのようなxに対して(x-x0)のベキ級数に展開され得ること
になります。
2R1M|log{1-|x-x0|/R1}|/R2<1 なることは,
|x-x0|<R1[1-exp{-R2(2R1M)}]と同値なので,
ρ≡R1[1-exp{-R2(2R1M)}]とおけば,
|x-x0|<ρで,y=ψ(x)は(x-x0)のベキ級数に
展開されます。
それ故,前の考察から,Σn=0∞y0(n)(x-x0)n/n!
もまた,|x-x0|<ρで絶対収束します。
φ(x)-y0 の各項の係数の絶対値は.ψ(x)-y0の対応する
各項の係数より大きくないことは先に述べた通りですから,
|x-x0|<ρで|φ(x)-y0|≦|ψ(x0+|x-x0|)-y0
が成立します。
0≦|ψ(x0+|x-x0|)-y0<R2 (|x-x0|<ρ)ですから,
|φ(x)-y0|<R2 (|x-x0|<ρ<R1)であり,
よってxの変域|x-x0|<ρにおいて,
f(x,φ(x))=Σp,q=0∞apq(x-x0)p(φ(x)-y0)q
は,定義されています。
f(x,y)は,|x-x0|≦R1,|y-y0|≦R2で無限回偏微分可能で,
φ(x)も明らかに|x-x0|<ρで無限回微分可能であり,
φ(n)(x)|x=x0=y0(n) (n=0,1,2,...),
ただし,φ(0)(x)|x=x0=φ(x0),y0(0)=y0ですから,
ω(x)≡f(x,φ(x))とおくと,
ω(x)は,|x-x0|<ρで無限回微分可能であり,
ω(n-1)(x)|x=x0=y0(n)(ω(0)(x)=ω(x),(n=1,2,..,)
となります。
φ(n)(x)=dφ(n-1)(x)/dxであり,dφ(x)/dxは,
φ(x)=Σn=0∞y0(n)(x-x0)n/n!の項別微分係数の和,
すなわちΣn=0∞y0(n+1)(x-x0)n/n!で与えられます。
以上から,dφ(x)/dx=Σn=0∞y0(n+1)(x-x0)n/n!
=Σn=0∞(ω(n)(x)|x=x0)(x-x0)n/n!
=Σn=0∞{f(n)(x,φ(x))|x=x0}(x-x0)n/n!
(|x-x0|<ρ)となることがわかります。
ところが,補助定理1の系に見られる絶対収束二重級数の性質から,
ω(x)=f(x,φ(x))=Σp,q=0∞apq(x-x0)p(φ(x)-y0)q
=Σp=0∞{Σq=s∞apq(x-x0)p(φ(x)-y0)q}
=Σp=0∞(x-x0)p[Σq=0∞apq{Σn=1∞y0(n)(x-x0)n/n!}q]
(|x-x0|<ρ)です。
しかも,Σn=1∞|y0(n)||x-x0|n/n!≦Σn=1∞y^0(n)|x-x0|n/n!
=ψ(x+|x-x0|)-y0<R2
(|x-x0|<ρ)ですから,
補助定理5より,Σq=0∞apq{Σn=1∞y0(n)(x-x0)n/n!}q
=Σr=0∞bpr(x-x0)r
(|x-x0|<ρ,bpr≡Σq=0∞apqy0(r)(q)/r!)が成立し,
Σr=0∞bpr(x-x0)rは,|x-x0|<ρで,
Σq=0∞apq{Σn=1∞y0(n)(x-x0)n/n!}q
に絶対収束します。
故に,ω(x)=f(x,φ(x))
=Σp=s∞(x-x0)p{Σr=0∞bpr(x-x0)r}
=Σp=0∞{Σr=0∞bpr(x-x0)p(x-x0)r}
(|x-x0|<ρ)となります。
ここで,|x-x0|<R1 ,Σn=0∞y0(n)(x-x0)n/n!<R2なので,
Σp,q=0∞|apq||x-x0|p{Σn=0∞|y0(n)||x-x0|n/n!}q
<+∞ (|x-x0|<ρ)です。
したがって,Σp,q=0∞|apq||x-x0|p{Σn=0∞|y0(n)||x-x0|n/n!}q
=Σp=0∞{Σr=0∞Bpr|x-x0|p+r}<+∞ (|x-x0|<ρ,
Bpr≡Σq=0∞|apq||y0(r)|(q)/r!)であり,
また,|bpr|≦Bpr ですから,Σp=0∞{Σr=0∞|bpr||x
-x0|p+r}<+∞ となります。
このことから,補助定理3によって,
ω(x)=f(x,φ(x))=Σp,r=0∞bpr(x-x0)p+r
(|x-x0|<ρ(収束は絶対収束))となり,
ω(x) =f(x,φ(x))=Σn=0∞cn(x-x0)n
(|x-x0|<ρ,cn≡Σp+r=n∞bpr)
が成立します。
ベキ級数展開の一意性から,cn=ω(n)(x)|x=x0/n!
=f(n)(x,φ(x))|x=x0/n!が成り立ち,
結局dφ(x)/dx=f(x,φ(x))(|x-x0|<ρ)
となることが示されました。
もし,y=φ(x)とは別にdy/dx=f(x,y)の解:
y=φ1(x)でφ1(x0)=y0なるものが,x=x0の近傍で
存在すると仮定すれば,
dφ1(x)/dx=f(x,φ1(x))であり,
f(x,y)は無限回偏微分可能ですから.f(x,φ1(x))も
xについて微分可能,
すなわち,dφ1(x)/dxも微分可能となり,
φ1(x)は二階微分可能であって,
φ1"(x)=∂f/∂x+(∂f/∂y)φ1'(x)
となることがわかります。
これを繰り返して,|φ1(x)-y0|≦R2となるような
全てのx0の近傍で,φ1(x)は無限回微分可能であり,
しかもφ1(n)(x)|x=x0=φ(n)(x)|x=x0=y0(n)
となります。
したがって,こうした右辺が二重ベキ級数に展開可能な常微分方程式:
dy/dx=f(x,y)に対しては,正則な解の一意性のみならず,
解の一意性が成り立つこと,
つまり,x=x0の近傍で常微分方程式dy/dx=f(x,y)
の条件:y|x=x0=y0を満たす解は,正則な解:φ(x)に限る
ことが証明されました。(以上証明終わり)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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