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2007年2月

2007年2月27日 (火)

5次以上の代数方程式の解法

 5次以上の任意の代数方程式の解について方程式の係数から,

ベキ根を取ることによって得られる解の公式を求めることは

19世紀にAbelとGaloisによって,不可能であることが

証明されました。

 

(これについては,2007年1/14から2007年1/29までの「ガロア理論(1)」,

ガロア理論(2)」,「ガロア理論(3)」,ガロア理論(4)」,

ガロア理論(5)」,「ガロア理論(5)補遺」,

 

ガロア理論(6)や,

 

 2007年2/24,2/25の関連記事,

 

1のベキ乗根はベキ根で解けるか?(円分多項式の根)」,

円分多項式のガロア群」もありますから,

 

 よかったら参照してください。)

 

 しかしながら,ベキ根による解法が存在しなくても,

代数学の基本定理」によれば,

 

 複素数体の中にその"代数方程式の解=零点"が必ず存在する,

ことはわかっています。

 

 "解が存在する。"ことと,"解法が存在する。"ことは,

全く別のことなのですね。

 

 ところで,5次以上の任意の代数方程式の解について,ベキ根による

解法は存在しなくても,それ以外の方法で解を求める一般的な解法

というものは存在しないのでしょうか? 

 

 例えば,1のn乗根,すなわちxn1= 0 の解は,既に述べたように

その全てをベキ根で表現することが可能ですが,それを具体的に示す

ことはかなり面倒な課題です。

 

 しかし,ルートを取るという操作と四則演算のみに頼るという狭い

方法にこだわることなく,指数関数や三角関数を用いてよいなら,

 

 n個のxn1= 0 の解であるn乗根をζk(k=0,1,2,...n-1)

とおくとき,ζk=e2πki/ncos(2πki/n)+isin(2πki/n)

という形書くことができて,かなり,すっきりした簡明な形

で表現できることは,もっと昔から知られていました。

 

 実は,一般の5次の代数方程式の解も,ベキ根に頼るのではなくて,

楕円関数を用いる方法によって,その解の公式を与えることが可能

であることがわかっていて,テータ関数を用いてその公式を与える

実際の表式が得られています。

 

 これを厳密に説明することは,私の現時点での容量の限界を超えて

いるので,その手順の概略のみを紹介してみます。 

 

 一般の5次の代数方程式を,

 x5+a14+a23+a32+a4x+a50 と書くと,

 y=x+a1/5 とおくことによって,a1 0 の場合に

帰着させることができますが,

 

 この変換を一般化して,Tschirnhausen(チルンハウゼン)変換

呼ばれる変換:y=α0+α1x+α22+α33+α44

考えます。

 

 ここでαiはある複素数です。

 

 このとき,複素数biが存在して,先のxに対する5次の代数方程式

がyに対する方程式5+b14+b23+b32+b4y+b50

に変換されるとします。

 

 もしも,1≦i≦4を満たす4つのiについて.

i(α01234)=0 を満たす複素数の組:

α01234を見つけることができれば,

 

 そうしたαiに対してはyの5次方程式はy5+b5 0 となり,

この解は根号によって,y=(-b5)1/5と書けますから,

結局,元のxに対する5次方程式の解が求まることになります。

 

 ところが,i01234)=0 (1≦i≦4)を満足する解

01234)≠0 を求めるには,残念ながら,

24次の代数方程式を解かなければならず,

 

 5次の代数方程式x5+a14+a23+a32+a4x+a50

に対して,この24次の方程式を解くことは不可能なこと

がわかっています。

 

 しかし,4つ全部のiではなく,1≦i≦3を満たす3つだけについて,

i01234)=0 を満足する(α01234)≠0

を求めるには高々4次の代数方程式を解けばいいので,

 

 結局,,Tschirnhausen変換により,ベキ根のみの方法により

与えられた方程式をy5+y+b=0 という形にまで簡略化

できます。

 この簡略形は,この方法を始めて行った人の名を取って,

Bring-Jerrardの標準形と呼ばれています。

 

 そして,このy5+y+b=0 の一般解を求めることは,

べき根によるのでは不可能ですが,楕円関数の世界では,

この解の公式を具体的に表わすことができるらしいのです。

 

 6次以上の代数方程式についても,楕円関数を

さらに超越積分∫[1/√f(x)]dxに置き換えることで,

解の公式を作ることができるらしいですね。

 

参考文献;梅村 浩 著「楕円関数論」(東京大学出版会) 

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2007年2月25日 (日)

円分多項式のガロア群

前記事で1のベキ乗根がベキ根で表わせることの証明をGalois理論

によって行った際に,その主要なエッセンスとして,

 

"円分多項式のGalois群::Gal(Q(ζp)/Q)は(Z/pZ)×に同型なので

Abel群であり,それゆえ可解群です。"とさらりと書いて,詳細な説明

や証明を与えませんでしたが,それは既に過去の記事

 

ガロア理論(5)」において,かなり詳細に説明しており証明

しているからです。

 

そこでは,"pの倍数の集合:pZ=(p)によって作られる

剰余類の集合=商環:(Z/pZ)"をpと表記していますが,

pが素数の場合には明らかに1つの体になります。

 

また,"Zp=(Z/pZ)から零元を除いた乗法群=位数が

(p-1)の巡回群"を上記では慣例にしたがって(Z/pZ)×

と表記していますが,

 

前述の記事「ガロア理論(5)」においては,nの単元の乗法群

をU(Zn)≡{[i]∈Zn|(i,n)=1}と表記しています。

 

pが素数の場合,[0]と異なる[i] (i=1,2,...,p-1 )

は,すべて単元なのでU(Zp)と(Z/pZ)×=Zp×

は一致します。

 

また,「ガロア理論(5)」での結論は,

"Gal(E/F)は乗法群U(Zn)の部分群と同型になる。"

というものでした。

 

pが素数なら,U(Zp)=(Z/pZ)×の部分群は,

"自明なもの=1"と(Z/pZ)×自身",しか存在しません。

 

円分多項式のGalois群:Gal(E/F)=Gal(Q(ζp)/Q)は,

もちろん1と同型ではないので,Gal(Q(ζp)/Q)から

(Z/pZ)×への準同型写像は全射であり,

 

れ故,位数が(p-1)の巡回群(Z/pZ)×と同型です。

 

したがって,Gal(Q(ζp)/Q)も巡回群ということになるので,

もちろん,Abel群であり,それゆえ可解群です。

 

ブログ記事「ガロア理論(5)」での関連部分を再掲しておきます。

 

"Fが体であって,1の原始n乗根ωに対してE=F(ω)とすれば,

Gal(E/F)はZnの単元の乗法群U(Zn)≡{ [i]∈Zn|(i,n)=1}

の部分群と同型になり,それ故,Gal(E/F)はAbel群になる。"

 

ことを証明します。

 

すなわち,E=F(ω)なので,∀σ∈Gal(E/F)は,

ωにおけるσの値によって完全に決まります。

  

すなわちσ(ω)=ωiなるiが(mod n)で一意に決まります。

 

このσをσiとし,0≦i≦(n-1)と仮定します。

 

ωが1の原始n乗根になることと,(i,n)=1であること

が同値であることは巡回群のよく知られた性質です。

 

またσの巡回群:<ω>への制限は,巡回群<ω>の自己同型です。

 

したがってψ:σi[i]は写像ψ:Gal(E/F)→U(Zn)を定めます。

 

そして,σjσi(ω)=σji)=(ωi)j=ωij=ωji

なので,ψ(σjσi)=[ji]=ψ(σj)ψ(σi)より,

ψは準同型になります。

 

したがって,Gal(E/F)はU(Zn)の部分群に同型であり,

それ故,Abel群になります。

 

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2007年2月24日 (土)

1のベキ乗根はベキ根で解けるか?(円分多項式の根)

 今日はガロア理論の解説の際には暗黙のうちに当然視していたところの

 

 ""一般の1のベキ乗根=円分(円周等分)多項式の根は,全てベキ根として

 表わすことができる,あるいは,1のベキ乗根を添加した拡大体は

 ベキ根拡大である。"

 

 という命題を再確認してみたい,と思います。

 

  一般の1のベキ乗根,例えば,

 

  131=(x-1)(x12+x11+...+x+1)=0 の根である

 1の13乗根:ζ=e2πki/13cos(2πki/13)+isin(2πki/13)

 (k=0,1,2,...,12)を単に131とか,11/13と書いただけでは,

 

 x131=0 をベキ根で解いた,あるいは,

 円分多項式:12+x11+...+x+1=0 の根を

 ベキ根で解いたことにはならない,

 

 と思われます。

 

 例えば,自明でない1の3乗根の1つ:ωを,31とか,11/3

 表わしても31=0,あるいはx2+x+1=0 の根をベキ根

 で解いた,とは思わないでしょう。

 

 ω=(-1±√-3)/2=(-1±i√3)/2と表わすことができて初めて,

 これらの方程式がベキ根で解けた,と考えるのが

 妥当だと思います。

 

 では,Abel(アーベル)やGalois(ガロア)のいうベキ根で解ける,

 あるいは同等な意味ですが体の拡大:L/Kがベキ根拡大である,

 とはどのように定義されるべきものなのでしょうか?

 

 こうした言葉の厳密な真の意味について,ここで振り返って

 確認しておくことは,決して無駄なことではなく,Galois理論

 などの理解において,重要な意味を持つと思われます。

 

ベキ根拡大:L/Kの厳密な数学的定義として,従来から提示されて

いるものは,いくつかあるようですが,ここでは次のような定義

を採用することにします。

 

"体の拡大:L/Kは,次の2つの条件を満たすときに,

(高さ1の)ベキ根拡大である。" と定義します。

 

条件とは,

 

"(1)u∈Lと素数pがあって,Lは体Kにuを添加して得られた

高さ1の拡大体:L=K(u)であり,up∈Kが成り立つ。

 

(2)up は,いかなるKの元のp乗にもならない。

すなわち,upはKpの元ではない,特にuはKの元ではない。"

 

という2つです。

 

この定義を採用すると,1の原始p乗根の1つをζとしてQを有理数体

とすれば,確かにζp1=1p ∈Qですが,1p1で1∈Qですから,

 

u≡ζと選ぶ限り,条件(2)によって,Q(u)/Qがベキ根拡大である

と直ちにはいえません。

 

つまり,有理数体Qにp1とか,11/pとか書いたものを添加して,

Qを(p1)と書いただけでは,p1=0 がベキ根で解けた,

 

とか,Q(p1)/Qがベキ根拡大である

 

と直接に明言することはできない,のですね。

 

したがって,p=3の1の3乗根の1つをωとして,Q(ω)/Qとしても,

これがベキ根拡大であるかどうかは,これだけでは不明で,

 

Q(ω)/QをQ(√-3)/Qと書くことができて初めて,

この拡大が,"ベキ根拡大"であるといえるわけです。

 

ここでベキ根拡大の定義において,何故ことさらに素数のベキ根

のみを取り上げるのかというと,それは次のような理由からです。

  

nが素数ではなくて,n=stと1より大きい2つの整数sとtの

積で表わされるなら,円分方程式xn1=0 は可約です。

 

すなわち,"1とその他の全ての根=1の全てのn乗根"は,

1のs乗根{ξ12,...ξs}と,1のt乗根{η12,...ηt}

によって,{ξiηj1/s |i=1,2,...,s;j=1,2,...,t}

と表わすことができます。

 

そこで,1のs乗根と1のt乗根が既にベキ根で解けることが

わかっているなら,1のn乗根もベキ根で解けることになる

からです。

 

実際,これらのx=ξiηj1/sのそれぞれについてxn1 が成り立つ

ことは明らかですし,ξiηj1/sξkηl1/s ((i,j)≠(k,l))と

仮定すれば,両辺をs乗してηjηlとなるので,

 

j≠lなら矛盾を生じ,j=lならばξiξkとなって, 

i≠kならやはり矛盾を生じますから,これらはすべて異なり,

1のn=st個のn乗根の全てを尽くしています。

 

それ故,nを素因数分解して素数の積にしたとき,それらの因子

であるそれぞれの素数pについてのp乗根が全てベキ根で解ける

なら,1のn乗根もベキ根で解けることになります。

 

さて,p=2,3のとき1のp乗根がベキ根で解けることは自明です。

 

またp=5のときは円分方程式は,x4+x3+x2+x+1=0,p=7

のときのそれは,x6+x5+x4+x3+x2+x+1=0 となります。

 

そこで,y≡x+1/xとおけば,これらはそれぞれyの2次方程式:

2+y-1= 0, 3次方程式y3+y2-2y-1=0 に帰着し,

 

また,y=x+1/xはxについての2次方程式:x2-yx+1=0

になります。

 

これらは,いずれもベキ根として解ける一般的な根の公式が存在しますから,結局,初めの4つの素数:p=2,3,5,7については1のp乗根は

ベキ根で解けることがわかります。

 

そして,Gauss(ガウス)によって,p=13のときは次のようにして

ベキ根で解けることが示されています。

 

すなわち,p-1=12=3・4であり,ζを1つの1の原始13乗根

として,m≡8,η1≡ζ+ζm+ζm2+ζm3とおけば,

4=84≡1(mod p)です。

 

ζ13=1なので,η1≡ζ+ζ8+ζ12+ζ5となりますが,

ここでζ→ζ2という写像で変換すれば,η1

η2≡ζ2+ζ3+ζ11+ζ10となり,

 

η1においてζ→ζ4という写像で変換すれば,η1

η3≡ζ4+ζ6+ζ9+ζ7となり,円分方程式によって

η1+η2+η3=-1 となります。

 

さらにη1η2+η2η3+η3η1=-4,η1η2η3=-1が導けるので

η123は3次方程式x3+x2-4x+1=0 の3つの根ですから,

もちろんベキ根で解けます。

 

そして,η1=ζ+ζ8+ζ12+ζ5は1の13乗根のうち自明な根1

を除く12個のうちの4つの根の和ですが,

 

ζ・ζ8+ζ・ζ12+ζ8・ζ12+ζ8・ζ5+ζ12・ζ5+ζ5・ζ

=η3+2,ζ・ζ8・ζ12+ζ・ζ8・ζ5+ζ8・ζ12・ζ5+ζ5・ζ・ζ12

=η1,ζ・ζ8・ζ12・ζ5=1なので,ζ,

 

ζ8125は4次方程式:x4-η13+(η3+2)x2-η1x+1=0

の4つの根です。

 

どれか,1つは原始根ζですから,この4次方程式からζを求めると,

1の全ての13乗根:{1,ζ, ζ2,...,ζ12}をベキ根解として求めるこ

とができるわけです。

 

また,ξ1≡ζ+ζ3+ζ9とおき,これから,ζ→ζ2,ζ→ζ4,ζ→ζ8

によりξ2≡ζ2+ζ6+ζ53≡ζ4+ζ12+ζ10,

ξ4≡ζ8+ζ11+ζ7を作ると,

 

ξ1+ξ2+ξ3+ξ4=-1,

 

ξ1ξ2+ξ1ξ3+ξ1ξ4+ξ2ξ3+ξ2ξ4+ξ3ξ4+ξ4ξ1

=2,ξ1ξ2ξ3++ξ1ξ2ξ4+ξ2ξ3ξ4+ξ3ξ4ξ1

=4,ξ1ξ2ξ3ξ4=3なので,

 

ξ1234は4次方程式:x4+x3+2x2-4x+3=0

の4つの根になりますから,もちろんベキ根で解けます。

 

ξ1≡ζ+ζ3+ζ9 に着目すると,ζ,ζ39は,

3-ξ12+ξ3x-1=0 の3つの根です。

 

そこで,この3次方程式から原始根ζを求めると,

1の全ての13乗根:{1,ζ, ζ2,...,ζ12}をベキ根解

として求めることができます。

 

今のp=13の場合は3次方程式の根も4次方程式の根も

一般的公式から代数的にベキ根として求めることが可能で

あったので,1のp乗根を求める方法が2通りもありました。

 

それでは,p=11ではどうでしょうか?

 

この場合はp-1=2・5です。

 

しかし,2次方程式はともかく5次以上の代数方程式は

一般にベキ根で解ける公式はないことがAbelとGalois

によって示されていますから,p=13のときの方法は

使えません。

 

そこで,結局はGaussの証明した泥臭い方法は,私にとっては

尻切れトンボになって不明だったので,Galois理論を用いた

数学的帰納法に頼ることにしました。

 

一般に1の原始n乗根の1つをζnで記述することにします。

 

そして帰納法の仮定として,問題としている素数pに対し,

m≦(p-1)の1の原始m乗根はすべてベキ根で解ける

と仮定します。

 

また,ζp は1の原始p乗根の1つですから,

(p-1)次の円分方程式を満足します。

 

この円分方程式は,pが素数なのでQを有理数体としてQで

既約ですから,Qにζpを添加した拡大体Q(ζp)については,

次数は[Q(ζp):Q]=p-1です。

 

そしてこの円分方程式のGalois群:Gal(Q(ζp)/Q)は(Z/pZ)×

に同型なので,Abel群であり,それ故,可解群です。

 

Q'≡Q(ζp-1)とおきQp)にζp-1を添加した拡大体Q'(ζp)

を考えると「ガロアの推進定理」によって

,Gal(Q'(ζp)/Q')~ Gal(Q(ζp)/Q)が成立するので,

 

Gal(Q'(ζp)/Q')も可解群であり,しかもQ'にはm≦(p-1)

の1の原始m乗根が全て含まれていることになります

 

それ故,「 ガロア理論(3)」で与えた「ガロアの偉大な定理」

によってQ'(ζp)/Q'もベキ根による拡大になります。

 

したがって,Q'(ζp)の元ζpはQ'の上でベキ根で解けるはずですが,

Q'=Q(ζp-1)におけるζp-1自身も帰納法の仮定によって

Qの上でベキ根で表わせるのですから,

 

結局のところζpはQの上でベキ根で解けることが示された

ことになります。

 

Galois理論を理解するために,1のベキ乗根をベキ根で表わせることを証明したいと思って,Gaussの証明を参照したかったのですが,

 

肝心のところに関する参考文献が,当面のところ不明だったので,

結局,Galois理論を用いてしまったわけで我ながらいささか

本末転倒の感があります。

  

(ひょっとすると同義語反復という意味のトートロジーかも?) 

  

参考文献:原田耕一郎 著「群の発見」(岩波書店),足立恒雄 著「ガロア理論講義」(日本評論社)

   

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2007年2月21日 (水)

遠心力,コリオリ力の相対性(マッハ原理?)

μを時空の局所座標とし,Xμをその点における「等価原理」に

基づいて重力が消去された局所慣性系の時空座標とすると,

 

この重力場の中での自由粒子の運動方程式は,d2μ/dλ2=0

で与えられます。

 

ここでλは任意のパラメータです。

 

これは重力場内での自由落下の方程式でもあります。

 

この方程式に基づく粒子の軌道を測地線(geodesic)といい,

この方程式を測地線の方程式といいます。

 

測地線の方程式のxμに対する表現は,固有時間τ≡s/cを

パラメータとして導入し,両端を固定した一般的な変分原理:

 

δ∫τ1τ2ds=δ∫τ1τ2c{gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)}1/2dτ

=0

 

から導くこともできます。

 

そして測地線の方程式をこの変分原理の解としてのオEulerの方程式

の形で求めると,

 

(d/dτ){gμν(dxμ/dτ)}

=(1/2)(∂gλσ/∂xμ)(dxλ/dτ)(dxσ/dτ)

 

なる表現が得られます。

 

ただし,τ≡s/cより,gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)=c2

なる条件があります。

 

もっとも,質量のない光線の場合は,c2dτ2=ds20 という条件

が加わるのでτを独立変数パラメータとして採るのは不可能です。

 

測地線の方程式は,τの代わりにλを任意パラメータとして,

 

(d/dλ){gμν(dxμ/dλ)}

=(1/2)(∂gρσ/∂xμ)(dxρ/dλ)(dxσ/dλ),

ただしgμν(dxμ/dλ)(dxν/dλ)=0

 

という一般形式に変わります。

 

測地線の方程式はChristoffellの記号:Γを用いた馴染み深い形

で表現すると,d2μ/dλ2+Γμρσ(dxρ/dλ)(dxσ/dλ)=0

と書けます。

 

この方程式において,ある瞬間に静止している粒子:(dxi/dτ=0)

について,μ=i=1,2,3とおけば,

 

ij(d2j/dτ2)+d{gi0(dx0/dτ)}/dτ

=(1/2)(∂g00/∂xi)(dx0/dτ)2

 

となります。

 

一方,勝手な運動をしている粒子については,

前記事で定義したようにγij(g0i0j/g00-gij),

dσ2=γijdxidxjですが,γi≡gi0/g001/2とおけば,

 

γij=-gij+γiγjです。

 

そして,

 

2dτ2=ds2=gijdxidxj+2g0idx0dxi+g00(dx0)2

=-γijdxidxj+(g0idxi+g00dx0)2/g00

=-dσ2+g00(dx0)2{1+γii/(cg001/2)}2

 

です。

 

ただし,ui≡dxi/dt=c(dxi/dx0)(粒子の速度成分)

です。

 

これを,(dx0)2で割ると,c2(dτ/dx0)2

=-u2/c2+g00{1+γii/(cg001/2)}2

(ただし,u≡dσ/dt=c(dσ/dx0) )

です。

 

これを解くと,gi0(dx0/dτ)=

cγi[{1+γkk/(cg001/2)}2-g002/c2]-1/2

となります。

 

そこで,瞬間的に静止している粒子に対しては,

両辺をτで微分した後に,uk=0 (k=1,2,3),u=0 とおくと,

 

(d/dτ){gi0(dx0/dτ)}

=(1/g001/2){c2(∂γi/∂x0)-γiγk(d2k/dt2)/g001/2},

およびd2k/dτ2=(1/g00)(d2k/dt2)

 

を得ます。

 

この式と,先に求めたgi0(dx0/dτ)

=cγi[{1+γkk/(cg001/2)}2-g002/c2]-1/2において,

 

k=0 (k=1,2,3),u=0 としたものを,

ij(d2j/dτ2)+d{gi0(dx0/dτ)}/dτ

=(1/2)(∂g00/∂xi)(dx0/dτ)2に代入すると,

 

結局,γij(d2j/dt2)

=-(∂/∂xi)(c200/2)+cg001/2(∂γi/∂t)

なる式が得られます。

 

ここで,最後の式の左辺:ai≡γij(d2j/dt2)は,

この重力場がこの粒子に与える加速度を,われわれの準拠系で

の共変成分として表現したものに他なりません。

 

したがって,この重力場の力学的な働きは関数g00とγiとで

記述されることになります。

 

さらに,g00≡1+2φ/c2とおけば,

i=-∂φ/∂xi+c(1+2φ/c2)1/2(∂γi/∂t)

が得られます。

 

この式と荷電粒子に作用する電気力をポテンシャルで表わした式

との類推から,φおよびγiは,それぞれ,

 

重力場のスカラー・ポテンシャル,およびベクトル・ポテンシャル

と呼ばれるべきものに相当していると考えられます。

 

そしてg00は,スカラー・ポテンシャルφがゼロのときに1に一致する

ように規格化されています。

 

また,特にγiに陽な時間依存性がないなら

i=-∂φ/∂xiとなります。

 

さて,宇宙項がない場合のEinsteinの重力場の方程式は,

μν-gμν/2=-κTμν,あるいは

μν=-κ(Tμν-gμνT/2)

で与えられます。

 

ただし,RμνはRiemann-Christoffellの曲率テンソルを縮約したRicciテンソルであり,またR≡Rμμです。

 

μνはエネルギー運動量テンソルと呼ばれる量でT≡Tμμです。

 

重力場が弱く時間に依存しない静的なときには,

重力場の方程式は近似的にNewtonの万有引力の法則を表わす

Poissonの方程式:∇2φ=-4πGρに近づくはずです。

 

ここで,φは重力のポテンシャル,Gは万有引力定数,

ρは空間における質量の密度です。

 

慣性系の計量をημν (ただし,η00=1,η11=η22=η33=-1,

ηi0= 0,ηij= 0 (i≠j) )とおき,gμν≡ημν+hμν

とおくと,

 

重力場が弱い場合にはhμνとその微分は小さくて,

それらの2次以上の微小量は無視できます。

 

Christoffellの記号:Γλμνはgμνの微分ですから,

μνの微分でもあります。

 

そこで,曲率テンソルにおいては,Γの積を含む項は

無視できます。

 

それ故,Rμν~ ∂νΓλμλ-∂λΓλμν

λσ/2)(∂λσμν)+(1/2){(∂μνh)

-(∂λνμλ)-(∂λσλν)}

と近似されます。

 

ここで,hμλ≡ηλσμσ,hλν≡ηλσσν,h≡hλλ

と同定できます。

 

μνやTμνが時間tに依存しない静的な場合には,

00についてR00=(ηλσ/2)(∂λσ00)=∇2φ/c2

を得ます。

 

そして,静止した物質中で応力エネルギーがエネルギー運動量テンソル

に与える小さな寄与を無視すると,第1近似では,

μν=δμ0δν0ρc2です。

 

そこで,Rμν=-κ(Tμν-gμνT/2)においてμ=ν=0

とおいた式から,確かにPoissonの方程式:∇2φ=-κρc4/2

を得ます。

 

実際,重力の弱い静的な状況では重力場も物質エネルギーも00成分のみ

が支配的なので,これはNewtonの万有引力の法則を表わしている

と見なすことができます。

 

これを,Newtonの引力を与える方程式:∇2φ=-4πGρと

比較すれば,κc2=8πG/c2と同定されます。

 

議論を少し元に戻すと,Rμνλσ/2)(∂λσμν)

+(1/2){(∂μνh)-(∂λνμλ)-(∂λσλν)}

=(1/2){□hμν-(∂μλχλν)-(∂νλχμλ)}

です。

 

ただし,χμλ≡hμλ-δμλh,χμν

≡hμν-ημνhです。

 

ここで,ゲージ(gauge)変換を行なって∂λχμλ=0 とすることが

可能なので,重力が弱いときの重力場の方程式は,

□χμν=-2κTμνと比較的簡単な形で表わすことが

できます。

 

電磁ポテンシャルとのアナロジーから,これを解いて,

μν(xi,t)={κ/(2π)}∫[(T'μν-T'/2)/r]dV'

なる具体的表式を得ます。

 

ただし,r≡{Σ(x'i-xi,)2}1/2でT'μν,および

T'はdV'のある場所rで時刻(t-r/c)における値を

採ることを意味しています。

 

静的な物質分布Tμν=δμ0δν0ρc2の場合には,

00={κc2/(4π)}∫[(ρ(x',y',z')/|

'|]dV',hi0= 0 ,hij=δij00

となります。

 

静的なので,ρはtを含まず,そこで重力ポテンシャルも,

普通のNewtonの重力ポテンシャル;φ=-c200/2

=-G∫[(ρ(x',y',z')/|'|]dV'

で与えられます。

 

そして,計量(metric)は,ds2(1+2φ/c2)c2dt2

-(1-2φ/c2)(dx2+dy2+dz2)となります。

 

特に,ある1箇所に質点M0だけがあるときには,これは,

r≡||として,ds2={1+2GM0/(c2r)}c2dt2

-{1-2GM0/(c2r)}(dx2+dy2+dz2)

となります。

 

全く同様にして,物質の流れが定常的に分布する場合も,

Einsteinの近似式:hμν{κ/(2π)}∫[(T'μν-T'/2)/r]dV'

で扱うことができます。

 

例えば,Thirring-Lense(ティリングとレンズ)は,

 

"中心原点にある天体の自転が重力場に及ぼす影響,あるいはこの影響

の結果がさらに衛星の運動に及ぼす影響"を計算しましたが,

 

そうした影響は観測にはかからないほど小さいものでした。

 

しかし,この種の計算が重要な意味を持つ場合が存在します。

 

それは,回転系自体を準拠系とした場合に現われる遠心力やCoriolis力

の本性や起源についての観点を与えることです。

 

一般相対性理論は"あらゆる座標系が対等である"という,Mach(マッハ)原理に必ずしも従うものではない,ことは既にわかっています。

 

例えば数理論理学(数学基礎論)の不完全性定理,完全性定理で有名な

数学者:Gödel(ゲーデル)による,一般相対性理論に基づく

「ゲーデル宇宙」ではマッハ原理が成立しない,らしいです。

 

しかし,より一般的な宇宙でMach原理が成立するか否かは,

未だに未解決な問題です。

 

例えば,自転する地球が実は自転していなくて,

逆に周りの宇宙全体が同じ角速度で逆向きに回転している,

 

という回転座標系も慣性系と対等である,というような

Mach原理が成立すると仮定してみます。

 

上記の,地球が自転してないという回転系をも慣性系と対等な基準系

として採用することもできるわけです。

 

これを準拠系とすると,地球上で我々が受ける遠心力やCoriolis力

というような重力'の源を,地球からはるか遠方で回転している星

たちに求めることになります。

 

これら,遠方にある天体の質量の効果を,直接,弱い場に対する近似解

を用いて評価することは許されませんが,

 

一様な密度を持つ球殻が回転しているとするとき,

球殻の内部には遠方の天体の質量の回転と同様な効果が現われる

であろうと考えられます。

 

そして,こうした定常的な一様球殻の回転を仮定したモデルに

ついては,弱い場に対するのと同じ近似解を適用してもいい

と思われます。

 

この球殻が回転せず静止しているときには,

 

φ=-G∫[(ρ(x',y',z')/|'|]dV'

で与えられるφは球殻内で一定で,

 

φ=-GM0/Rまたは,2φ/c2=-{κc2/(4π))(M0/R)

です。

 

ここに,M0は球殻の全質量,Rはその半径で,

φの値は球殻の厚さには無関係です。

 

計量:ds2(1+2φ/c2)c2dt2-(1-2φ/c2)(dx2+dy2+dz2)

には,(1+2φ/c2)や(1-2φ/c2)という係数があっても,

 

これらは単なる定数なので空間や時間のスケールを変えるだけで,

これらの係数は除去できます。

 

そこで,この場合は線素は特殊相対論と同じです。

 

また,球殻が等速直線運動をしていても,Lorentz変換で静止の場合

に帰するので,特殊相対論の場合と同じですから,

 

遠方の天体質量が一様直線運動をしていても慣性系内に

重力場を作ることはないでしょう。

 

ところが,ThirringとLenseは,球殻状の物質が回転している場合

には,□χμν=-2κTμνから計算された球殻内の重力場が,

回転している座標系内の力場に似ていて,

 

普通の遠心力やCoriolis力に似た重力場が作られるという

興味深い結果を発見しました。

 

ここでは,少し簡略化した場合について考えてみます。

 

それは静止質量がM0,半径がRの環状物質が,xy面内で時計回り

に角速度ωで回転しているという場合です。

 

環状の1点の座標を(x',y',0)とすれば,

 

2=x'2+y'2,ij=Tij=ρ0ij/(1-R2ω2/c2),

i0=T0i=-Ti0=-ρ0ic/(1-R2ω2/c2), 

00=ρ02/(1-R2ω2/c2),T=T00-Tii=ρ02

 

となります。

 

密度ρ0は,物体が瞬間的に静止しているときの密度ですが,

運動系での微小体積ΔVは,静止系での同じ微小体積をΔV0

とすると,運動系ではΔV=ΔV0(1-u2/c2)1/2ですから,

 

ρΔV=ρ0ΔV0より,ρ=ρ0/(1-u2/c2)1/2

となります。

 

それ故,M0=∫ρdV=(1-R2ω2/c2)-1/2∫ρ0dV

です。

 

これらから計算した結果のうち,力学的ポテンシャルを

決めるのに必要な成分:gμ0=ημ0+hμ0

だけを書き下します。

 

Rに対して"原点=実は自転している地球のような天体の中心"から

の距離が小さい点の座標を(x,y,z)とし,x/R,y/R,z/R

の3次以上を無視しすれば,

 

10={Mκc2/(4πR)}(ωy/c),

20={Mκc2/(4πR)}(-ωx/c),g30= 0,

 

00=1-{Mκc2/(4πR)}{1+(x2+y2-2z2)/(4R2)+R2ω2/c2}

-{Mκω2/(16πR)}(x2+y2-2z2)

 

となります。

 

ただし,Mは,M=M0/(1-R2ω2/c2)1/2で与えられる

環状物質の相対論的質量です。

 

これらの式はRω/c<1を満たすあらゆるωについて成立します。

 

環が回転している場合に,あまり重要ではない定数項を別にすれば,

力学ポテンシャルは,γi={Mκc2/(4πR)}(ω/c)(y,-x,0),

φ=-{Mκc2/(16πR)}(ω2/2)(x2+y2-2z2)となります。

 

ところで,回転円筒系の計量は,

 

ds2(1-r2ω2/c2)c2dt2-2ω(-ydx+xdy)dt-dx2

-dy2-dz2より,

 

γi=(ω/c)(y,-x,0),φ=-(ω2/2)(x2+y2),

2≡x2+y2です。

 

もしも,宇宙の全質量Mと天体の質量分布の平均半径Rが,

{Mκc2/(4πR)}~1を満足する程度であれば,

 

回転する環の中の重力場と角速度の関係が,

回転円筒系内の重力場と全く同じになることは

興味深いことです。

 

そして,この環の中でCoriolis力を与えると思われる

ベクトル・ポテンシャルの形も回転系のそれと一致

しています。

 

ただ,スカラー・ポテンシャルφは(x2+y2)による普通

の遠心力に類似した項の他に,z2 による項を含んでいます。

 

この項は,遠心力に軸方向の成分を与えることになり,

物体を回転する環の平面の方に引き戻す働きを与えます。

 

こうした予期しない力が現われたのは,質量分布が特殊であるため

と考えることもできますが,Thirringによれば回転する一様球殻

の場合にも同様な項が現われるので,近似式が適切でないのかも

しれません。

 

まあ,いずれにしても遠心力やColiolis力に"Mach原理"が適用できる

と考えるのは,私見ですが少々無理であろう,と思います。

 

一般相対性理論では,座標系は全く対等であるとはいうものの,

この宇宙は1つの4次元の時空多様体であることはほぼ真実

なのですから,

 

その幾何学を否定するような座標系には疑問を感じますね。

 

参考文献;メラー「相対性理論」(みすず書房) 

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2007年2月19日 (月)

回転系の計量(metric)

前記事の非慣性系である回転座標系についての考察を,通常の

一般相対性理論の見方で再検討してみます。

 

静止している座標系で円筒座標:(r',φ',z',t)を使うと,

その計量(metric)はds2=c2dt2-dr'2-r'2dφ'2-dz'2

です。

  

一方,回転系の円筒座標を(r,φ,z,t)として,回転軸zとz'が

一致していて回転の角速度がωであるとすると,

r'=r,φ'=φ+ωt,z'=zです。

  

これらを代入することで,回転系の計量が

ds2=(c2-r2ω2)dt2-2r2ωdφdt-dr2-r2dφ2-dz2

となることがわかります。

 

しかし,回転系を基準とする座標系はc/ω以下の距離に対してしか

使用できません。

 

実際,r>c/ωでは,g00が負になりますが,これは許されない

ことです。

 

(※回転の角速度ωが一定で半径が大きくなると,

回転の速さが光速cを超えます。rω>cです。※)

  

この半径r=c/ωの円筒面は,謂わゆる「事象の地平面」

(Event Horizon)とも呼ばれる曲面です。

   

(※ブラックホールの話で出てくるSchwartzschild半径の

球面も「事象の地平面」と呼ばれていますね。

 

この面を境界として,時空多様体の記述が不連続になります。※)

  

ここで,一般相対性理論において,単なる物理的ラベルに過ぎない

時間間隔:dt=dx0/cから真の時間間隔dτを求めてみます。

 

そのため,空間の同一点で生じた限りなく近い2つの事象を考えます。

 

この2つの事象間の世界間隔dsはcdτに他なりません。

  

ds2=gμνdxμdyνにおいて,dx1=dx2=dx3=0 とおけば,

ds2=g00(dx0)2により,dτ=(g001/2/c)dx0となります。

 

そこで,回転系ではg00(1-r2ω2/c2)によって,

dτ=(1-r2ω2/c2)1/2dtとなります。

 

それ故,前記事での円板に関して,t=T/(1-r2ω2/c2)1/2

と書いたときの慣性系Iでの標準時計の不変時間である

T=t(1-r2ω2/c2)1/2が,"真の時間=固有時間"である

という意味が再現されました。

 

一方,真の空間距離の要素dσを求めてみます。

 

特殊相対論では,dσを同一時刻に生じた無限小隔たった2つの事象

の間の世界間隔と定義することができますが,一般相対性理論では

そのようなやり方は通常は不可能です。

 

すなわち,dsにおいて単にdx00 と置くだけでdσを求める

ということは不可能なのです。

 

このことは重力場の中では固有時間τの座標:x0=ctへの依存

の仕方が空間内の異なる点では違っている,という事情に

関係しています。

 

dσを求めるには次のようにします。

 

光の信号が空間の点B(座標xi+dxi)から,それに限りなく近い

点A(座標xi)へ向けて発射され,次いで同じ道を逆進すると仮定

します。

 

同じ点Bに戻ってくるまでに要した時間をBで測って,

その真の固有時間にcを掛ければ,2つの点の間の空間距離

の2倍を与えるはずです。

 

ここで,空間座標と時間座標を分離して世界間隔を書き直すと,

ds2=gijdxidxj2g0idx0dxi+g00(dx0)2

となります。

 

ところで,光自身は全く歳を取らないので,その運動に沿っての

光自身の世界間隔はゼロですから,

 

1つの点から光の信号が発射されることと,それがもう1つ

の点に到着することを表わす2つの事象の間の世界間隔は

ゼロです。

 

そこで,方程式ds2=0 をdx0 について解くと,AとBの間を

互いに逆向きに信号が伝わることに対する2つの根:

 

dx0(1)=(1/g00)[-g0idx0dx

-{(g0i0j-gij00)dxidxj}1/2],および,

dx0(2)=(1/g00)[-g0idx0dxi

+{(g0i0j-gij00)dxidxj}1/2]

 

が得られます。

 

Bからの信号がAに到達する時刻をx0とすると,

それがBを発する時刻とBに戻ってくる時刻は,それぞれ,

0+dx0(1),x0+dx0(2)です。

 

そこで,この座標時間の間隔は,明らかに,(dx0(2)-dx0(1))/c

=(2/g00){(g0i0j―gij00)dxidxj}1/2/c

となります。

 

これに対応する真の時間間隔は,これにg001/2を掛けたものですから,

結局真の空間距離は,これを掛けた上にさらに(c/2)を掛ければ得ら

れることになります。

 

その結果は,dσ2=γijdxdxj,ただしγij≡(g0i0j/g00-gij)

となります。

 

このγijを空間の計量と呼ぶことがあります。

 

したがって,回転系でこれを計算するとg00(1-r2ω2/c2),

11=g33=-1,g22=-r2,g02=g20=-(r2ω/c)で,

これ以外の計量はゼロなので"真の不変空間距離=固有距離"dσ

の表式は,

 

dσ2=(r4ω2/c2)/(1-r2ω2/c2)dφ2+dr2+r2dφ2+dz2,

すなわちdσ2=dr2+dz2+r2dφ2/(1-r2ω2/c2)

となります。

 

そこで,これも前記事での円板,すなわち,dz=0 のときのφを

θで置き換えた標準物指での不変距離の表現である,

dσ2=dr2+r2dθ2/(1-r2ω2/c2)と確かに一致します。

 

参考文献;ランダウ=リフシッツ(Landau,Lifshitz)著「場の古典論」(東京図書)  

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2007年2月18日 (日)

一般相対性理論の基礎と回転系

  今日は,回転系と一般相対性理論の基礎について述べます。

 

  一般相対性理論を創設した,Einstein(アインシュタイン)は,

 

 加速運動をしているを準拠系と考えたときに現われる遠心力などの

 仮想的な力も通常の力と同じである,と見なして,

 

 "運動の基礎方程式は両種の準拠系で全く同じであるべきである。"

 

 と考えた,と聞いています。

 

 この着想が,「一般相対性原理」と呼ばれるものですね。

 

 そして,"仮想的な力も通常の力と同じである。"という見方を

 「等価原理」といいます。

 

(※昔,ニフティのパソコン通信時代に,

 

"「見かけ(仮想)の!重力」「"真の"重力」は計量()metric)の

 Riemann曲率がゼロかどうかが違うという議論をウンザリするほど

 聞 かされましたが,,

 

 違うという面(それが本質?)も大切ですが,同じ(等価)という面に着目した

 のが初期の本質的着想だと思います。)

  

(※等価原理には,その他,慣性質量と重力質量は同じであるとか,

局所的には計量をMinkowski計量に取れる座標系が存在するとか,

様々な表現があるようですが。。※)

 

 さて,今,変形せず一様に回転している系という簡単な加速座標系

 について考察します。

 

 もっとも,"力を受けても変形しないという物体=剛体"が存在すれば

 その弾性係数は無限大なので,それを媒質として伝わる"弾性波の速さ

 =音速"は無限大になります。

 

 ところが,相対論によれば(最初から光速cより速く光速以下になれない

 とされる未発見の幻の粒子=タキオンを除いて)光速cを超える速さ

 の物体の存在は許されないので,

 

 "力を受けても変形しないという物体=剛体"は存在し得ない.こと

 になっており,実は"変形しない系"というのは許されないので,

 ここでは理想化をしています。

 

 まず,全ての質量やエネルギーから十分離れていて,重力の影響が全て

 無視できるような場所に着目し,ここでの慣性系の1つをIで表わし,

 通常の方法で設定された時空座標をX,Y,Z,Tとします。

 

 もちろん,物理空間内の1点を示すのに,直交デカルチ座標の代わりに

 一般曲線座標を用いてもいいです。

 

 例えば,XY面内の事象だけを扱うのであれば,X=RcosΘ,

 Y=RsinΘによって極座標(R,Θ)を導入することができます。

 

 一方,一定角速度ωで一様に回転する座標系Sに固定され付随する

 空間デカルト座標(x,y)とし,x=rcosθ,y=rsinθとすれば,

 変換式は,r=R,θ=Θ-ωT  で定義されます。

 

 (x,y) or (r,θ)が一定の点は回転系Sに固定されている点ですが,

 これらの点は全て慣性系Iに対して一定の角速度ωで円運動をして

 います。

 

 そしてT= 0 では両系の座標は一致しています。

 

 したがって,r=R<c/ωを満たす全ての点に対しては,一様に

 回転している実際の物質で作った円板をこの回転座標系として

 用いてもいいでしょう。

 

 この回転する円板上の2定点の距離を測るのに,慣性系で用いた

 標準物指と同じものを使うことにしますが,このときには標準物指

 は回転円板に対して静止しています。

 

 ここで,

 

 "円板に固定している物指の慣性系Iでのある時刻の長さは

 円板に固定されたこの物指とその時刻に同じ速度を持つ慣性系I0

 内にある標準物指の長さと正確に同じである。"

 

 と仮定します。

 

 さらに一般化して,加速系内の標準物指は慣性系I内の物指に比べて,Lorentz変換を受けていることだけが異なっています。

 

 つまり,

 

 "この物指の長さはIに対する加速度には無関係である。"

 

 と仮定します。

 

 したがって,この円板上の標準物指で円板上の2点の(r,θ)と

 (r+dr,θ)との間の距離を測れば,Iに対する物指の速度は

 物指に直交していてLorentz収縮は起こらないので,Iから見た

 その距離dσはdσ=drです。

 

 ところが,標準物指で(r,θ)と(r,θ+dθ)との間の距離を測れば

 物指はIに対してrωの速度を持っているので,その距離は

 dσ=rdθ/(1-r2ω2/c2)1/2 となるはずです。

 

 つまり,Iから回転系Sに固定された物指を見ると,それは

"Lorentz収縮"しています。

 

その物指で測った場合,距離は逆に伸張して測定されます。

 

 rdθはSでの座標そのものです。

 

 SはIから見て変形しない円板の固定した系と仮定したので,

 rdθは確定値です。

 

 いいかえると,既に"Lorebtz収縮"したものがrdθです。

 

 (Iから見て,T=0 からT=Tまでの点(r,θ)と点(r,θ+dθ)

 の描く軌道=世界線は同じなので,その距離rdθは同じです。)

 

 また,dσはIで見た慣性系での値に相当する不変量です。

 

 それ故,(r,θ)と(r+dr,θ+dθ)との間の不変距離は,

 dσ2dr2+r2dθ2/(1-r2ω2/c2)という関係式

 になります。

 

これは慣性系Iからながめていて,

 

"円板は収縮しないし変形もしないが,物指は回転しているので

収縮する。"

 

と見ているわけです。

 

つまり,Iでの測定をIから見ると弧の長さは

rdθなのに,Sでの測定をIから見ると,

  

その長さは,dσ=rdθ/(1-r2ω2/c2)1/2

になるということです。

 

r=一定,で与えられる曲線は,半径rの円を表わしていますが,

その円周の長さを計算すると,∫0[rdθ/(1-r2ω2/c2)1/2]

=2πr/(1-r2ω2/c2)1/2となるので,

 

円周と半径の比,すなわち,円周率×2は,

2πr/(1-r2ω2/c2)1/2>2π となります。

 

このように,円板に対して静止している標準物指で測った結果を用いて

得られる3次元空間の幾何学は,特殊相対論においてさえ正しかった

3次元空間のユークリッド幾何学とも,一般には食い違っている,こと

がわかります。

 

同様に「一般相対性原理」は時間の概念にも新たな変革を要求します。

 

例えば,回転座標系における時間として,この系の各点に標準時計

を固定しておき,慣性系I内の時計が時刻ゼロを刻む瞬間に丁度

この時計と重なっている回転座標系の時計の時刻をゼロに合わせ

るようにしたらどうでしょうか?

 

このとき,T=0 なら回転系の時刻もゼロです。

 

ところが回転円板上の1点(r,θ)に置かれた標準時計はIに対して

速度r ωを持っているので,Iに置いた時計に比べて遅れることに

なりますから,T= 0 以降の時刻tについては,

 

t=T/(1-r2ω2/c2)1/2 となります。

 

つまり,時計が遅れるので時刻は進むのです。

 

この場合も標準時計の進み方はIに対する速度だけが影響し加速度

の影響はないことを予測しています。

 

空間距離において,剛体とは成り得ない物指の変形を無視したのと

同様,現実の時計には起こり得る加速度の影響はやはり無視して

理想化しています。

 

しかし,ここで定義されたt=T/(1-r2ω2/c2)1/2を時間変数t

として回転系の時刻を記述することは,確かに原理的には許されて

いますがきわめて非実用的です。

 

例えば,(r,θ)で記述される点Aに光源が置かれ,固有振動数ν0の光を放射しているとすると,この場合t=0 からt=1 までの間に放出される波の数はν0ですが,

 

Iでの時刻T=0 からT=1までの間に放出される波の数は,

ν0{1-r2ω2/c2}1/2となりますから,中心r=0 にはこれと

同じ数の波が到着します。

 

ところが,r=0 ではt=Tとなり,t=0 からt=1までの間

にも,やはり同じ数:ν0(1-r2ω2/c2)1/2の波が到達すること

になります。

 

このように定義したtのスケールでは単位時間に,点Aから放出される

波の数は単位時間に中心Oに到達する波の数よりも多い,ことになって

しまいます。

  

つまり波の伝播などの記述は,このtでは非常に複雑になります。

 

かくして,加速系では,むしろ進み方の違う時計,例えば標準時計

よりも(1-r2ω2/c2)-1/2倍速く進む座標時計を用いた方が

便利であることになります。

 

こうすれば,時間パラメータがI系のTに一致するからです。

 

そこで,t=T/(1-r2ω2/c2)1/2の代わりにt≡Tとします。

 

加速系の準拠座標系では,時間座標や空間座標は物理的意味を失い,

勝手なものではありますが,不定性のない方法で物理的事象に付け

られた単なるラベルとか番号に過ぎません。

 

(※老婆心ながら一言;

 

理論的な関心がないなら,加速運動を論じるのに,

 

わざわざそれに固定した加速座標系を想定し,それを準拠系として

考察する必要はなく,準拠座標系を慣性座標系として,特殊相対性

理論とその力学に基づいて考察するのが普通です。

 

「加速度運動は一般相対性理論を考えなければ記述できない,説明で

きない。」という誤解があると聞いたこともありましたが,

 

特殊相対性理論は,Newton力学を修正したものです。そして普通の

力学で対象とする物体の運動は,そのほとんどは加速運動です。

 

そもそも,それらを記述できないような無力な理論ならNewton力学

に取って代わるなどは決してできませんよね。※)

 

参考文献;メラー「相対性理論」(みすず書房)

 

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2007年2月16日 (金)

ベルの不等式(量子論と実在)

今日は「量子論と実在」の問題と関連したEPRのパラドックス

(Einstein- Podolski-Rosen's Paradox)と関わる1つの不等式

の話をします。

 

量子論の確率解釈に対して,それに反対したEinstein(アインシュタイン)

の有名な「神はサイコロ遊びをなさらない。」というセリフにある

ような, 実在性の問題="隠れた変数"と関わる問題は,

  

謂わゆるEPRのパラドックスを検証する方法が見つかれば解決する,

 

とされてきました。

 

 そして,こうした問題は,"実在(隠れた変数が存在する)"であれば

成立するはずのベルの不等式」という,論理学での2値論理に

基づく1つの不等式が,量子論においては成立しない,ということ

 

アスペ(Aspect)らの実験などにより実証された,という形で,

1980年代には解決しました。

 

では,この「ベル(Belll)の不等式」とは,一体どういう内容の不等式

なのでしょうか?

 

今日はデスパ-ニ(B.D'espagnat)の「量子論と実在」というレポート

に基づいて,これを説明しようと思います。

 

 さて,EPR実験と同様ですが,元の実験よりはるかに考えやすい,

 と思われる1つの仮想的な思考実験を与えます。

 

 いくつかの陽子対について,それらのスピンを測定する装置がある

 とします。

 

 初めに,2つの陽子は,ごく接近した位置にあるとします。その後,

 2つの陽子が運動して互いにある巨視的な距離の程度に離れたとき,

 ある種のテストを行なうものとします。

 

量子力学によれば,陽子のようなスピンが1/2の1つの粒子の

ある任意の軸方向のスピン角運動量ベクトルの成分は,

 

アップ(上向き:+1/2)とダウン(下向き:-1/2)の2つの値

しか取らない.,ことがわかっています。

 

以下では,この2つの値をアップ,および,ダウンの代わりに,それぞれ,

+(プラス),および,-(マイナス)で表わすことにします。

 

そして,それぞれの対をなす2個の陽子は一緒になって,

シングレット(Siglet:一重項状態)と呼ばれる量子力学的配置

を取っているとします。

 

(※↑ 一重項状態とは,陽子対全体ではスピンがゼロという意味です。)

 

このとき,それらのスピン成分は確実に負の相関を持っており,

両方の粒子について同じスピン成分を同時に測定すると,

 

1方の陽子のスピン成分がプラスなら,必ず他方の陽子のそれは

マイナスであり,逆の場合はその逆として観測されます。

 

そして運動の初期状態,すなわち,陽子対に対応する陽子達が比較的

接近していたと思われる状態では,実験対象の多数の全ての陽子対に

ついてこの相関は十分に確立されていた,とします。

 

量子論によれば,たとえ,どんな装置があろうと,一度に2つ以上の方向

のスピン成分は測れませんが,1つの装置で任意に選ばれた3つの軸の

どの1つの向きのスピン成分でも測れるように,調節可能なものを作る

ことはできます。

 

以下では,これらの3つの軸をA,B,Cで表わし,実験結果を

次のように書くことにします。

 

A軸方向のスピン成分がプラスであればA+と表示し,B軸方向の

スピン成分がマイナスであれば結果はB-で与えられる,等々です。

 

そこで,多くのシングレット状態にある陽子対を用意して,

これらの対の両方の陽子について,それぞれのスピンのA成分

を測る場合を考えます。

 

ある対のうちの1つの陽子ではA+であり,他の対の1つはA-である

ということがあるのは当然ですが,ある1つの対の1つのメンバーが

A+であるときにはいつでも,そのもう一方のメンバーはA-である

ということになります。

 

もしも,それとは別にB方向のB成分を測れば,1つの陽子がB+なら

それとシングレットを組んでいる相手はB-であり,

 

同様に,1つのC+陽子は必ず1つのC-陽子を伴っています。

 

そして,以上の結果は軸A,B,Cの空間内での向きに無関係に

成立します。

 

局所的実在論的理論では,量子論では否定され,現実にはあり得ない,

とされてうますが,現在の実験では測定できなくても実は隠れてた性質として存在しているに違いない,として,

 

単一の粒子のスピンの2つの成分を同時に測定する手段が何か存在する

と仮定してよい。とされます。

 

そこで,仮にそうした装置が存在するとして,それで測定した結果,

 

2つのスピン成分としてA+とB-を同時に持つと認められた陽子

の個数を,N(A+B-)と表記することにします。

 

このとき,通常の論理に従えば,陽子達のスピンのA,B,C3つの成分

は測定するしないに関係なく,元々確定していたと考えることができて,

その個数をN(A-B+C-),N(A+B+C-),etc.と表記できます。

 

そして,それらは,当然,N(A+B-)=N(A+B-C+)+N(A+B-C-)

という式を満足するはずです。

 

同様に,N(A+C-)=N(A+B+C-)+N(A+B-C-),

N(B-C+)=N(A+B-C+)+N(A-B-C+)

も成立するはずです。

 

それ故,N(A+C-)≧N(A+B-C-),N(B-C+)≧N(A+B-C+),

かつ,等式:N(A+B-)=N(A+B-C+)+N(A+B-C-)が成立する

はずですから,

 

これから,N(A+B-)≦{N(A+C-)+N(B-C+)}

なる不等式が得られます。

 

この不等式は,以上のように全く形式的に導き出されてはいますが,

 

ある単独の陽子の2つの成分を独立に同時測定できる装置が存在

しない以上,このままでは,これを実験によってテストすることは

できません。

 

しかし,個々の陽子ではなく,相関を持つたくさんの陽子対に対して

測定を行なう実験では,上述の不等式の成否を確かめるのに,

そうした不可能な測定を行なう必要はありません。 

 

すなわち,AかBかCかのどれか1つのスピン成分について,

それぞれの陽子をテストする,という実験を行います。

  

偶然の一致で1つの対の中の両方の陽子に対して,実験で同一の成分

を測ることがときどき起こることになるだろうと考えられますが,

この種の結果は新しい知識を提供しないので無視すると,

 

残った対では,AB,AC,BCで表示される異なる軸のスピンを

測った陽子対になります。

  

そして,こうした陽子対の個数をそれぞれn(A+B+),n(A-B+),

...etc.と表わすことにします。

 

(A+B+)とn(A+B+)の違いは,N(A+B+)が単独の陽子の

2つのスピン成分を持つ陽子の個数を示すのに対して,

 

n(A+B+)は2つの陽子の一方がA+,他方がB+の陽子対の個数

を示していることです。

 

(A+B-)というのは,ある1つの陽子が確実にA+かつB-を持つ

とされる陽子の個数なので,それと対をなす相手のメンバーの陽子

は確実にA-かつB+を持つと考えられますから,

 

そうした個数は,N(A-B+)=N(A+B-)を満たします。

 

そこで,多くの陽子対の同一のサンプルに対し,独立にA,B2つの方向

について測定された2つの実験では,統計的相関から近似的に

n(A+B+)はN(A+B-),またはN(A-B+)に比例(すると

考えてよいことになります。

 

同様にして,n(A+C+)はN(A+C-)に,n(B+C+)はN(B-C+)に

比例すると考えられ,これらの比例係数は共通であると予想されます。

 

したがって,不等式N(A+B-)≦{N(A+C-)+N(B-C+)}は,

不等式n(A+B+)≦{n(A+C+)+n(B+C+)}と変換される

ことになります。

 

これがベルの不等式の1つの形式です。

  

(※別の形式の不等式もありますが意味は大同小異です。)

 

これなら,現実の実施可能な実験によってテストすることが

可能なわけです。

 

そうして,この不等式(または別の形のそれ)がアスペの実験を始め,

多くの実験により"否定的な結果,

 

つまりこうしたベルの不等式は成立しないという結果"を得たため,

Einsteinらの実在論者は敗北し,「量子論の非局所性」が

正当化されるきっかけとなったのでした。 

 

参考文献;B.デスパニャ(Bernard D'espagnat)「量子論と実在」(The Quantum Theory and Reality.) (日経サイエンス1980年1月号から)

 

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2007年2月14日 (水)

結晶点群の1性質

 理想的な無限に大きいブラベー格子(Bravais lattice)の結晶が有する並進対称性,つまり空間のある方向にある単位で結晶全体を平行移動しても何の変化も生じないという事実は,

 

 3個の1次独立な基本周期ベクトル]1,2,3 を与えること

 で表現されます。

 

 この結晶格子は,それを不変にする任意の平行移動のベクトルが,

 1,2,3の3つによって,=n11+n22+n33

 表現されることで特徴付けられます。

 

 ただし,n1.n2,n3は全て整数です。

 

 このを基本並進ベクトルと呼びます。

 

 このとき,この結晶内の任意の格子点を示す位置ベクトルも,

 結晶内のある1つの格子点を原点に指定すれば,

 全て基本並進ベクトルで表わされます。

 

 さて,結晶を不変にする変換には,一般にこの平行移動の他に,

 回転,反転,鏡映があります。

 

 後者の作る変換群を点群と呼び,平行移動をも加えた変換全体を

 空間群と呼びます。 

 

 このうち,ある格子点を通る軸のまわりの角度Cn(2π/n)

 の回転の下で結晶が不変であるとき,可能なnの値は,

 n=1,2,3,4,6 に限られることがわかっています。

 

 今日は,結晶点群の1性質として,何故,回転角Cn(2π/n)が,

 n=1,2,3,4,6 に限られるのか?ということの理由を

 明確に与えることを目的として記事を書こう,

 

 と思いました。

まず,ブラベー格子から成る結晶のある格子点を通る軸を取り,

その上の1つの格子点を原点に取ります。

 

そして,その軸上にない,ある格子点を表わす位置ベクトルを

(0)とします。

 

さらに,これに軸のまわりの回転操作Cnを次々に施行して

得られる位置ベクトルを(1),(2),...(n)とします。

 

このとき,(n)(0)にCn回転をn回行って丁度2π回転して

元に戻ったベクトルなので,(0)(n)です。

 

また,(1),(2),...,(n)はベクトル(0)を空間回転しただけ

のものですから,それらの長さは全て(0)と同じです。

 

結晶全体がこの回転で不変であると仮定すると,

これら,(i)(i=1,2,...,n-1)も全てどこかの格子点

の位置ベクトルです。

 

したがって,それらの差((i)(j)) (i≠j)も全て

基本並進ベクトルであると考えられます。

 

さらに,総和:(1)(2)+...+(n)も,もちろん基本並進ベクトル

ですが,対称性から考えてこれの表わす方向は明らかに回転軸と同じ

であると考えられます。

 

そして,t≡|(0)|>0 とすると,スカラー積が

(i)((1)(2)+...+(n))=t2k=1n cos(2kπ/n)}

(i=1.2,...n)となります。

 

これから,((i)(j))((1)(2)+..+(n))=0

です。

 

それ故,基本並進ベクトル((i)(j))(i≠j)は全て

回転軸に垂直なベクトルであるということになります。

 

回転軸に垂直な基本並進ベクトルは,少なくとも1つは存在します。

それらのうち,最も長さの小さいものをとします。

 

これに,CnとCn-1をそれぞれ作用させたものを考えると,

これらも共に基本並進ベクトルですから,その和:

n+Cn-1も1つの基本並進ベクトルです。

 

これは明らかにと同じ向きを持ち,長さはの長さの

2cos(2π/n)倍ですから,Cn+Cn-1=2cos(2π/n)

と表現されます。

 

そして,これも回転軸に垂直な基本並進ベクトルです。

 

これとの整数倍,例えばのm倍の基本並進ベクトルとの差

で表わされる基本並進ベクトルを想定すると,

これもやはり回転軸に垂直であって,その長さは

|m-2cos(2π/n)|です。

 

そこで,もしも2cos(2π/n)が整数でないとしたら,

整数mを変えていくと,値|m-2cos(2π/n)|の中に,

必ず1より小さいものが含まれますから,

 

これはが回転軸に垂直な基本並進ベクトルのうちで

最も長さの小さいものである,という仮定に矛盾します。

 

それ故,

 

"結晶を不変にする回転操作Cnは,2cos(2π/n)=(整数)

を満たすnに対応する回転に限られる。"

ということがわかります。

 

以上から,n=1,2,3,4,6 に対応する点群の回転操作のみが

結晶を不変に保つことを可能とする回転であること,

 

が示されました。

 

参考文献;佐藤 光 著「群と物理」(丸善)

 

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2007年2月13日 (火)

ベキ級数解の存在(コワレフスカヤの優級数)(3)

 補助定理の証明がすべて終わったので,いよいよ"正則解=ベキ級数解"の存在定理を証明します。

 まず,定理の再掲です。 

 "1階常微分方程式dy/dx=f(x,y)の右辺が,

 あるR1,R2より大きい関連収束半径を持ってベキ級数に展開できる,

 

 つまりf(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)qと書けて,

 右辺が|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2で絶対収束する

 ものとする。

 

 このとき,初期条件:y|x=x00を満足し,x=x0の近傍で,

 (x-x0)のベキ級数に展開可能な解が一意的に存在する。

   

 以下に証明を与えます。

 

 補助定理1により,dy/dx=Σapq(x-x0)p(y-y0)q

 の右辺の級数は|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2において

 絶対かつ一様に収束します。

 

 したがって,補助定理2から(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)q

 この閉領域でx,yに関し無限回項別偏微分可能であって,

 pq{1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0

 と表わされます。

 

 そこで,仮にdy/dx=(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)q

 のベキ級数解でy|x=x00 を満たすものが存在して,

 ある正の数ρ≦R1に対して|x-x0|<ρで収束し,

 その範囲で|y-y0|≦R2を満足するものとすると,

 

 その解y(x)は広義一様収束するので,

 xに関して無限回項別微分可能です。

 

 したがって,そうしたy(x)が存在するなら,それは,

 

 y"={∂f(x,y)/∂x}+{∂f(x,y)/∂y}y',

 

 y(3)={∂2f(x,y)/∂x2}+2{∂2f(x,y)/(∂x∂y)}y'

 +{∂2f(x,y)/∂y2}y'2+{∂f(x,y)/∂y}y",...

 

 (|x-x0|<ρ)をも満足するはずです。

 

 そこで,今一連の定数の組をy0'≡f(x0,y0),

 y0"≡{∂f(x,y)/∂x}|x=x0,y=y0+{∂f(x,y)/∂y}|x=x0,y=y00',

 

 y0(3)≡{∂2f(x,y)/∂x2}|x=x0,y=y0

 +2{∂2f(x,y)/(∂x∂y)|x=x0,y=y0}y0'

 +{∂2f(x,y)/∂y2}|x=x0,y=y00'2

 +{∂f(x,y)/∂y}|x=x0,y=y00",...

 

 と定義していきます。

 

 y0',y0",...,y0(n-1)までが定義されれば,

 y0(n)は∂i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0(0≦i,j≦n-1),

 およびy0',y0",..y0(n-1)の多項式として定義できます。

 

 次々とこうして定義していくとき,y(x)は

 y(0)=y0,y'()|x=x0=y0',..,y(n)(x)|x=x0

 =dn-1f(x,y(x))/dxn-1|x=x0=y0(n)

 を満足しなければなりません。

 

 ところが,y(x)は|x-x0|<ρにおけるベキ級数の和で

 与えられているので,ベキ級数展開の一意性定理から

 y(x)=y0+y0'(x-x0)+0"(x-x0)2/2!+...

 +y0(n)(x-x0)n/n!+...

 

 =Σn=00(n)(x-x0)n/n! (|x-x0|<ρ)

 と展開されなければなりません。

 

 すなわち,もしy|x=x00を満たすベキ級数解が存在すれば,

 それは一意的であり,y(x)=y0+y0'(x-x0)+0"(x-x0)2/2!

 +...y0(n)(x-x0)n/n!+...=Σn=00(n)(x-x0)n/n!

 でなければならないことになります。

 

そこで,φ(x)≡Σn=00(n)(x-x0)n/n!と定義すれば,

これが実際にx0の近傍でdφ(x)/dx=f(x,φ(x))

を満足すること, を示しましょう。

 

級数:Σp,q=0pq(x-x0)p(y-y0)qは,

|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2でf(x,y)に

絶対収束するので,Σp,q=0pq1p2qはf(x01,y02)

に収束し,それ故,p,q → ∞ に対して

pq1p2q → 0 です。

 

したがって,1,2によって定まるある正の定数Mが存在して

|pq|R1p2q≦M(p,q=0,1,2,...),

 

すなわち|pq|≦M/(1p2q)が成立します。

 

そこで,二重ベキ級数Σp,q=0pq(x-x0)p(y-y0)q1つの

優級数Σp,q=0{M/(1p2q)}(x-x0)p(y-y0)qを考えると,

これは|x-x0|<R1,かつ|y-y0|<R2において,

 

和の順序によらず絶対収束し,

Σp,q=0{M/(1p2q)}(x-x0)p(y-y0)q

=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]

が成り立ちます。

 

そこで,g(x,y)≡Σp,q=0{M/(1p2q)}(x-x0)p(y-y0)q

=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]とおけば,

 

補助定理1から右辺のベキ級数は|x-x0|<R1かつ|y-y0|<R2

広義一様収束し,故に補助定理2より無限回項別偏微分可能です。

 

したがって,さらにM/(1p2q)

={1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}g(x,y)|x=x0,y=y0が成立し,

 

これとpq{1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0,

および |pq|≦M/(1p2q)から,

  

|{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=x0,y=y0|

≦{∂p+q/(∂xp∂yq)}g(x,y)|x=x0,y=y0

(p,q=0,1,2,...)を得ます。

 

 一方,dy/dx=g(x,y)

 =1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]の

 y|x=x00を満たすベキ級数解が,x=0の近傍で

 存在すると仮定し,それをy=ψ(x)とおけば,

  

 それは,dψ/dx=g(x,ψ(x))を満足します。

  

 したがって,dy/dx=f(x,y)のベキ級数解y(x)と同様,

 

 ^0'≡g(x0,y0), 

 y^0"≡{∂g(x,y)/∂x}|x=x0,y=y0

      +{∂g(x,y)/∂y}|x=x0,y=y0y^0',

  

 y^0(3)≡{∂2g(x,y)/∂x2}|x=x0,y=y0

      2{∂2g(x,y)/(∂x∂y)|x=x0,y=y0}y^0'

    +{∂2g(x,y)/∂y2}|x=x0,y=y0y^0'2

         +{∂g(x,y)/∂y}|x=x0,y=y0 y^0",...

 

 と定義すれば,

 

 y^0',y^0",...y^0(n-1)が与えられたとき,それらから

 y^0(n)を定めることが可能となります。

 

 そして,ψ(x)=y0+y^0'(x-x0)+^0"(x-x0)2/2!

         +..+y^0(n)(x-x0)n/n!+...

       =Σn=0y^0(n)(x-x0)n/n! (y^0(n)0)

 

 なる等式が成立するはずです。

 

 φ(x0)=y0=ψ(x0),|y0'|≦M=g(x0,y0)=y^0'

 が成立していますが,

 

 一般に,|y0(k)|=|φ(k)(x)|x=x0|≦y^0(k)

 =ψ(k)(x)|x=x0が,k=0,1,2,..,n-1に対して

 成立すると仮定すれば,

  

0(n)=dn-1f(x,y)/dxn-1|x=x0,y=y0,および

y^0(n)=dn-1g(x,y)/dxn-1|x=x0,y=y0 の各々は,

 

それぞれ,∂i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0と,

0(k)(0≦i,j,k≦n-1),および

 

i+jg(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0と,

y^0(k)(0≦i,j,k≦n-1)の多項式で

表わされます。

 

しかも,y0(n)の各項はy^0(n)の各項において,

i+jf(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0

i+jg(x,y)/(∂xi∂yj)}|x=x0,y=y0に,

0(k)をy^0(k)に置換したものに等しいので,

 

帰納法の仮定によって,|y0(n)|≦y^0(n)もまた成立する

ことがわかります。

 

以上から,数学的帰納法により,任意のnについて

|y0(n)|≦y^0(n)が成立することがわかりました。

 

このことは,微分方程式dy/dx=g(x,y)の|x=x00

を満たすベキ級数解がある区間で絶対収束すれば,

 

dy/dx=f(x,y)の|x=x00を満たすベキ級数解

φ(x)=Σn=00(n)(x-x0)n/n!もまた,同じ区間で絶対収束

することを示しています。

  

次に,実際にdy/dx=g(x,y)の|x=x00

を満たすベキ級数解が存在することを示しましょう。

  

dy/dx=g(x,y)

=1/[{1-(x-x0)/R1}{1-(y-y0)/R2}]

(|x-x0|≦R1,|y-y0|≦R2)を,

y|x=x00の条件で解けば,

 

y=0+R22[1+21log{1-(x-x0)/R1}/2]1/2

(|x-x0|<R1)となります。

 

ところが,[1+21log{1-(x-x0)/R1}/2]1/2は,

|21log{1-(x-x0)/R1}/2|<1の条件下で,

21log{1-(x-x0)/R1}/2のベキで

二項展開されます。

 

しかも,log{1-(x-x0)/R1は,|x-x0|<R1

全てのxに対して絶対収束するTaylor級数に展開されて,

 

log{1-(x-x0)/R1=-Σn=1{(x-x0)/R1}n/n 

となります。

 

したがって,また,Σn=1|x-x0|n/R1n/n=|log{1-|x-x0|/R1|

となり,21|log{1-|x-x0|/R1}|/21であるような

xに対しては補助定理5の仮定が満たされ,

 

y=ψ(x)=0+R22[1+21log{1-(x-x0)/R1}/2]1/2

は,そのようなxに対して(x-0)のベキ級数に展開され得ること

になります。

 

21|log{1-|x-x0|/R1}|/21 なることは,

|x-x0|<R1[1-exp{-2(21)}]と同値なので,

 

ρ≡1[1-exp{-2(21)}]とおけば,

|x-x0|<ρで,y=ψ(x)は(x-0)のベキ級数に

展開されます。

 

それ故,前の考察から,Σn=00(n)(x-x0)n/n!

もまた,|x-x0|<ρで絶対収束します。

 

φ(x)-0 の各項の係数の絶対値は.ψ(x)-0の対応する

各項の係数より大きくないことは先に述べた通りですから,

 

|x-x0|<ρで|φ(x)-0|≦|ψ(x0+|x-x0|)-0

が成立します。

 

0≦|ψ(x0+|x-x0|)-02 (|x-x0|<ρ)ですから,

|φ(x)-0|<2 (|x-x0|<ρ<R1)であり,

 

よってxの変域|x-x0|<ρにおいて,

 

f(x,φ(x))=Σp,q=0pq(x-x0)p(φ(x)-y0)q

は,定義されています。

 

(x,y)は,|x-x0|≦R1,|y-y0|≦R2で無限回偏微分可能で,

φ(x)も明らかに|x-x0|<ρで無限回微分可能であり,

 

φ(n)(x)|x=x0=y0(n) (n=0,1,2,...),

 

ただし,φ(0)(x)|x=x0=φ(x0),y0(0)=y0ですから,

ω(x)≡f(x,φ(x))とおくと,

 

ω(x)は,|x-x0|<ρで無限回微分可能であり,

ω(n-1)(x)|x=x0=y0(n)(0)(x)=ω(x),(n=1,2,..,)

となります。

 

φ(n)(x)=dφ(n-1)(x)/dxであり,dφ(x)/dxは,

φ(x)=Σn=00(n)(x-x0)n/n!の項別微分係数の和,

 

すなわちΣn=00(n+1)(x-x0)n/n!で与えられます。

 

以上から,dφ(x)/dx=Σn=00(n+1)(x-x0)n/n!

=Σn=0(n)(x)|x=x0)(x-x0)n/n!

=Σn=0{f(n)(x,φ(x))|x=x0}(x-x0)n/n!

 

(|x-x0|<ρ)となることがわかります。

 

ところが,補助定理1の系に見られる絶対収束二重級数の性質から,

ω(x)=f(x,φ(x))=Σp,q=0pq(x-x0)p(φ(x)-y0)q

=Σp=0{Σq=spq(x-x0)p(φ(x)-y0)q}

=Σp=0(x-x0)p[Σq=0pq{Σn=10(n)(x-x0)n/n!}q]

 

(|x-x0|<ρ)です。

 

しかも,Σn=1|y0(n)||x-x0|n/n!≦Σn=1y^0(n)|x-x0|n/n!

ψ(x+|x-x0|)-02

 

(|x-x0|<ρ)ですから,

 

補助定理5より,Σq=0pq{Σn=10(n)(x-x0)n/n!}q

=Σr=0pr(x-x0)r

(|x-x0|<ρ,bpr≡Σq=0pq0(r)(q)/r!)が成立し,

  

Σr=0pr(x-x0)rは,|x-x0|<ρで, 

Σq=0pq{Σn=10(n)(x-x0)n/n!}q 

に絶対収束します。

 

故に,ω(x)=f(x,φ(x))

=Σp=s(x-x0)p{Σr=0pr(x-x0)r}

=Σp=0{Σr=0pr(x-x0)p(x-x0)r} 

(|x-x0|<ρ)となります。

 

ここで,|x-x0|<R1n=00(n)(x-x0)n/n!<R2なので,

Σp,q=0|apq||x-x0|pn=0|y0(n)||x-x0|n/n!}q

<+∞  (|x-x0|<ρ)です。

 

したがって,Σp,q=0|apq||x-x0|pn=0|y0(n)||x-x0|n/n!}q

=Σp=0{Σr=0pr|x-x0|p+r}<+∞ (|x-x0|<ρ,

pr≡Σq=0|apq||y0(r)|(q)/r!)であり, 

 

また,|bpr|≦pr ですから,Σp=0{Σr=0|bpr||x

-x0|p+r}<+∞ となります。

 

このことから,補助定理3によって,

ω(x)=f(x,φ(x))=Σp,r=0pr(x-x0)p+r 

(|x-x0|<ρ(収束は絶対収束))となり,

 

ω(x) =f(x,φ(x))=Σn=0n(x-x0)n

(|x-x0|<ρ,cn≡Σp+r=npr)

が成立します。

 

ベキ級数展開の一意性から,n=ω(n)(x)|x=x0/n!

=f(n)(x,φ(x))|x=x0/n!が成り立ち,

 

結局dφ(x)/dx=f(x,φ(x))(|x-x0|<ρ)

となることが示されました。

 

もし,y=φ(x)とは別にdy/dx=f(x,y)の解:

y=φ1(x)でφ1(x0)=y0なるものが,x=x0の近傍で

存在すると仮定すれば,

 

dφ1(x)/dx=f(x,φ1(x))であり,

 

f(x,y)は無限回偏微分可能ですから.f(x,φ1(x))も

xについて微分可能,

 

すなわち,dφ1(x)/dxも微分可能となり,

φ1(x)は二階微分可能であって,

 

φ1"(x)=∂f/∂x+(∂f/∂y)φ1'(x)

 

となることがわかります。

 

これを繰り返して,1(x)-y0|≦R2となるような

全てのx0の近傍で,φ1(x)は無限回微分可能であり,

 

しかもφ1(n)(x)|x=x0=φ(n)(x)|x=x0=y0(n)

となります。

  

したがって,こうした右辺が二重ベキ級数に展開可能な常微分方程式:

dy/dx=f(x,y)に対しては,正則な解の一意性のみならず, 

解の一意性が成り立つこと,

 

つまり,x=x0の近傍で常微分方程式dy/dx=f(x,y)

の条件:y|x=x00を満たす解は,正則な解:φ(x)に限る

 

ことが証明されました。(以上証明終わり)

 

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2007年2月12日 (月)

ベキ級数解の存在(コワレフスカヤの優級数)(2)

 前記事の続きです。

 最後の補助定理として補助定理5を与えます。

 これは,ベキ級数の代入についての定理です。

 

"f(ζ)=Σn=0nζnの収束半径をR(>0)とするとき,

|x|<ρでg(x)=Σn=0nnが絶対収束し,かつ

Σn=0|bn||x|n<Rが成立するなら,

 

ζ≡Σn=0nnΣn=0nζnに代入して得られる

形式的ベキ級数:Σn=0nn(cn≡Σm=0mn(m),bn(0)≡1,

n(1)≡bn,bn(m)≡Σk=0n-k(m-1)k(m≧2))は,

|x|<ρで絶対収束する。

  

そこで,|cn|=|Σm=0mn(m)|<+∞ (n=0,1,2,...)であり,

形式的なベキ級数:Σn=0nnは実際のxのベキ級数となって

和は|x|<ρにおいてf(g(x))になる。

  

したがって,|x|<ρでf(g(x))=Σn=0nnが成立し

f(g(x))はxでベキ展開可能である。"

 

以下これを証明します。

 

v=v(x)≡Σn=0|bn||x|n(|x|<ρ)とおくと,

仮定により, 0 ≦v<Rなので正項級数Σm=0|am|vm

は収束します。

 

一方,|x|<ρでΣn=0nnn=0|bn||x|nが絶対収束するので

n(0)≡1,Bn(1)≡|bn|,Bn(m)≡Σk=0|bn-k(m-1)||bk|(m≧2)

とおけば,

 

補助定理4よりΣn=0n(m)n,とΣn=0n(m)|x|nは共に

|x|<ρで絶対収束して,(Σn=0nn)m=Σn=0n(m)n,

かつ(Σn=0|bn||x|n)m=Σn=0n(m)|x|n(m=0,1,2,..)

が成立します。

 

ここで,|bn(0)|=Bn(0)=1,|bn(1)|=|bn|=Bn(1),

|bn(m)|=|Σk=0n-k(m-1)k|≦Σk=0|bn-k(m-1)k|

=Bn(m)(m≧2)より,一般に|bn(m)|≦Bn(m)

(m=0,1,2,...)が成立します。

 

そして,|am|vm=|am|(Σn=0|bn||x|n)m

=|am|(Σn=0n(m)|x|n)=Σn=0|am|Bn(m)|x|n(|x|<ρ,

(m=0,1,2,...)です。

 

ところが,Σm=0|am|vmは,0≦v<Rで収束し|x|<ρに対して

Σn=0|bn||x|n<Rが成立するので,Σm=0|am|vm

=Σm=0n=0|am|Bn(m)|x|n)は|x|<ρに対して収束して

有限な極限値を持ちます。

 

したがって,補助定理3により,Σn=0m=0|am|Bn(m)|x|n)

=Σn=0m=0|am|Bn(m))|x|nも|x|<ρに対し収束して

極限値はΣm=0n=0|am|Bn(m)|x|n)=Σm=0|am|vm

等しいことになります。

 

このことから,m=0|am|Bn(m))|x|n<+∞ (|x|<ρ)であり,

したがってΣm=0|am|Bn(m)<+∞となります。

 

|bn(m)|≦Bn(m)より,あらゆる負でない整数rに対して,

m=0rmn(m)|≦Σm=0r|am|Bn(m)≦Σm=0|am|Bn(m)

が成立します。

 

そこで,|Σm=0mn(m)|≦Σm=0|am|Bn(m),

すなわち|cn|=|Σm=0mn(m)|≦Σm=0|am|Bn(m)<+∞

です。

 

よってΣm=0mn(m)は収束して,形式的に与えたcn

全て有限になります。

 

それ故,|cn||x|n≦Σm=0|am|Bn(m)|x|nであり,

またΣn=0m=0|am|Bn(m)|x|n)が|x|<ρで収束するので,

Σn=0|cn||x|nも|x|<ρで収束します。

 

このことからΣn=0nnも実際にベキ級数であって

|x|<ρで絶対収束することがわかりました。

 

Σn=0|bn||x|n<R (|x|<ρ)より,

n=0nn|<R (|x|<ρ)で,しかも補助定理4により

Σn=0n(m)n=(Σn=0nn)m (|x|<ρ,

(m=0,1,2,...)です。

 

そこで,Σm=0mζm=Σm=0mn=0n(m)n)<+∞であり,

したがって補助定理3によってΣm=0mn=0n(m)n)

=Σm=0n=0mn(m)n)=Σn=0m=0mn(m))xn­

=Σn=0nnが得られます。

 

以上から,f(g(x))=Σn=0nn(cn=Σm=0mn(m))が成立します。(以上,証明終わり)

 

これの系として

 

"g(x)=Σn=0nnにおいて|b0|=|g(0)|<Rなら,

十分小さいρ'(<ρ)に対して,補助定理5の条件である

Σn=0|bn||x|n<R が|x|<ρ'で満たされ,

したがって補助定理5の結論が|x|<ρ'で成立する。"

 

ということになります。

何故ならg1(x)≡Σn=0|bn||x|nとおくと,

右辺は|x|<ρで広義一様収束するので|x|<ρで連続であり,

したがってx=0 でも連続ですからg1(0)=|b0|<Rなら

十分小さいρ'>0 に対して|x|<ρ'のとき,

1(x)=Σn=0|bn||x|n<Rが成立するからです。

 

今日はここまでとします。

   

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2007年2月11日 (日)

ベキ級数解の存在(コワレフスカヤの優級数)(1)

 常微分方程式の一般解の存在定理のシリーズの続きとして,Kovalevskaya の優級数の方法に基づいて常微分方程式の実解析解の存在定理について,論及たいと思います。

 

 "1階常微分方程式dy/dx=f(x,y)の右辺の関数が,あるR1,R2より大きい関連収束半径を持ってベキ級数に展開できる,

 

 つまりf(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)qと書けて,右辺の級数が,

 |x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2で絶対収束するものとする。

 

 このとき,初期条件:y|x=x00を満足し,x=x0 の近傍において,

 (x-x0)のベキ級数に展開可能なdy/dx=f(x,y)の解が一意的に存在する。"

 

 という定理です。

 

 複素解析解,つまり,正則解であれば,方程式dy/dx=f(x,y)の右辺が正則であれば解も正則であることはほぼ自明なので,わざわざ実関数について証明する必要はないのでしょうが,

 

 その昔,Kovalevskayaの優級数の方法自体に興味を持ったので,やってみたのでした。

  

 "実解析解の存在定理"の証明のためには,二重ベキ級数の性質を調べることが必要なので,まずそれに関連した補助定理をいくつか提示して証明しておきたいと思います。

 

 まず,補助定理1です。

  

 "二重ベキ級数:Σapqpq が,x=α,y=βに対して,ある項の順序で収束するなら,|x|<|α|,|y|<|β|において,Σapqpq は絶対かつ広義一様収束する。"

 

 ではこれの証明です。

 

 Σapqαpβq が,ある項の順序で収束するので,p,q→ ∞ に対し,

 pqαpβq 0 であり,そこで,ある正の数Mが存在して全てのp,qに対して|pqαpβq|≦M が成立します。

 

 したがって,|x|<|α|,|y|<|β|なるx,yに対して,

 |pqpq|=|pqαpβq||(x/α)|p|(y/β)|p

  ≦M|(x/α)|p|(y/β)|p と書けます。

 

η=|(x/α)|,ξ=|(y/β)|とおけば,0≦η<1,0≦ξ<1ですが,

このとき,正項二重級数:Σηpξq は項の順序に関係なく収束して,

Σηpξq1/{(1-η)(1-ξ)}となります。

 

 故に,部分和としてのm,nの二重数列:Smn(x,y)

 ≡Σp,q=0m,n|pqpq|は単調増加で,かつ上に有界なので,

 m,n→∞に対して収束します。

 

 そこで,通常の級数と同じくΣpqpq は絶対収束します。

 

 次に,0<∀ε1≦|α|,0<∀ε2≦|β|に対して,|x|≦|α|-ε1,|y|<|β|-ε2なら,|pqpq|≦|pq(|α|-ε1)p(|β|-ε2)q|≦M|{(|α|-ε1)/α}|p|{(|β|-ε2)/β}|qが成立します。

 

 そこで,∀ε>0 に対してx,yに依存しないある自然数Nが存在して,

 m>N,n>Nなら,Nより大きいあらゆる自然数r,sに対してΣp=m+1rΣq=n+1sM|{(|α|-ε1)/α}|p|{(|β|-ε2)/β}|q<εが成り立ち,p=m+1rΣq=n+1spqpq|<εが成立します。

 

 以上から,Σapqpq は絶対,かつ広義一様に収束することが証明されました。

 

 これの系として,Σapqpq |x|<|α|,|y|<|β|において順序に関係なく収束し,Σapqpq =Σp=0q=0pqq)p=Σq=0p=0pqp)q が成立する。

 

 ことになります。

 

 証明は部分和にして扱えば,順序に関係ないという性質からほぼ自明なので省略します。

 

 この定理から2つの正の数1,R2に対して,級数:Σapqpq |x|<1,|y|<2では絶対収束し,|x|>1,|y|>2では発散するという性質のR1,R2の組が存在することがわかったので,

 

 この(R1,R2)を関連収束半径と呼びます。

 

 関連という言葉通り関連収束半径の組は一意的には決まりません。

 

 次に補助定理2です。

 

 "(R1,R2)をΣapqpq 関連収束半径とするとき,|x|<1,|y|<2に対してΣapqpq=f(x,y)と表わすことにする。

 

 このときf(x,y)は|x|<1,|y|<2で項別に無限回偏微分可能,かつ無限回積分可能であり,さらにapq{1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=0,y=0と一意的に表わされる。"

 

 これの証明は以下の通りです。

 

 |y|<2を満たすyを任意のある値に固定しておけば,Σapqpq は通常のxに関する定数係数のベキ級数となり,|x|<1において広義一様にf(x,y)に収束します。

 

 そこで,通常の1変数xの関数についての定理により|x|<1においてはf(x,y)はxについて項別に無限回微積分可能です。同様なことはyについてもいえます。

 

そうして,任意のr≧1に対して,(∂r/∂xr)f(x,y)=Σp=rp(p-1)...(p-r+1)pqp-rqもまた,|x|<1,|y|<2で広義一様に収束するので,yについて項別に無限回微分可能となり,,yに関して任意回数の項別偏微分が可能であることがわかります。

 

同様なことは,積分についてもいえます。

 

さらに,{∂r+s/(∂xr∂ys)}f(x,y),および{∂s+r/(∂ys∂xr)}f(x,y)は一様収束するベキ級数の和で表わされるので明らかに連続です。

 

それ故,{∂r+s/(∂xr∂ys)}f(x,y)={∂s+r/(∂ys∂xr)}f(x,y)

が任意のr,sについて成立します。

 

そこで,{∂r+s/(∂xr∂ys)}f(x,y)=Σp=r,q=sp(p-1)...(p-r+1)q(q-1)...(q-s+1)pqp-rq-s となります。

 

両辺でx=0 ,y=0 とおけば,ars={1/(r!s!)}{∂r+s /(∂xr∂ys)}f(x,y)|x=0,y=0と一意的に表わされることがわかります。

(以上証明終わり)

 

次に補助定理3ですが,この定理は次のようなものです。

 

μ=1ν=1|aμν|),Σν=1μ=1|aμν|)の少なくとも一方が有限なら,Σμ,ν=1μνは絶対収束して,

 

Σμ=1ν=1|aμν|)=Σν=1μ=1|aμν|)=Σμ,ν=1|aμν|,および,Σμ=1ν=1μν)=Σν=1μ=1μν)=Σμ,ν=1μν

が成り立つ。"

 

では証明です。

 

一般性を失うことなく,Σμ=1ν=1|aμν|)<+∞とします。

 

すると,任意の自然数m,nに対し,Σμ,ν=1,n|aμν|≦Σμ=1ν=1|aμν|)≦Σμ=1ν=1|aμν|)<+∞が成立します。

 

故に,Σμ,ν=1,n|aμν|は有界であり,したがって収束します。

 

このことからΣμ,ν=1μνは絶対収束します。

 

このとき,明らかにΣμ=1ν=1|aμν|)=Σν=1μ=1|aμν|)=Σμ,ν=1|aμν|,およびΣμ=1ν=1μν)=Σν=1μ=1μν)=Σμ,ν=1μνが成り立ちます。(以上証明終わり)

 

さらに補助定理4です。

 

n=0nn は|x|<Rで絶対収束するとする。

 

mを正の整数として(Σann)mを形式的に展開して得られるベキ級数をΣn=0n(m)nとおくと,それは|x|<Rにおいて絶対収束して,

 

等式:n=0nn)m=Σn=0n(m)n (|x|<R)が成り立つ。"

 

ここで(Σann)mを形式的に展開して得られるベキ級数:Σn=0n(m)n

とは,xnの係数an(m)がm=1ではan(1)=an,

m≧2 に対してはan(m)≡an(m-1)0+an-1(m-1)1+...+a0(m-1)n

(n=0,1,2,..)で与えられるベキ級数のことです。

 

以下,証明です。

 

証明は数学的帰納法に依ります。

 

まず,m=1のときはan(1)=anですから,Σn=0n(m)n=Σn=0nn=(Σn=0nn)mは明らかに成立します。

 

そこで,m=kのとき,|x|<RでΣn=0n(m)n が絶対収束して,その極限値について,|x|<Rで(Σn=0nn)k=Σn=0n(k)nが成立するものと仮定します。

 

このとき,Σn=0n(k)n とΣn=0nn は共に|x|<Rで絶対収束するので,Cauchyによる絶対収束級数の積に対する定理によって,

 

Σn=0(an(k)0+an-1(k)1+...+a0(k)n)xn

=(Σn=0n(k)n)(Σn=0n(k)n)が成立し,

左辺の級数は右辺の値に絶対収束します。

 

ところが,明らかに左辺の項のxnの係数はan(k+1)に一致します。

 

帰納法の仮定によりΣn=0n(k)n=(Σn=0nn)kですから,

結局Σn=0n(k+1)n も|x|<Rで絶対収束して

Σn=0n(k+1)n =(Σn=0nn)k+1 となります。

 

以上から帰納法によって,定理の成立することが示されました。

 

今日はここまでとします。

  

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ノートパソコンと格闘

 2004年8月に買った日本HPのノートパソコンを売りに出そうと思ってリカバリーに失敗し,この2日間格闘した結果やっと昨夜,リカバリーに成功しました。

 最初はリカバリーは相手にまかせてそのまま売るつもりでしたが,80GBの内蔵ハードディスクを「パーティション・マジック(Partition Magic)」を使って40GBずつのパーティションに分けていたのでこれだけは結合しておこうと思ったのが間違いのもとでした。

 「パーティション・マジック」によるパーティションの結合の際,バックアップを省略して実行した結果,HDDのクラスタがおかしくなり,Windows XP PROが起動しなくなり,PC-DOSでCHKDSK/Fをかけても修復できません。 

 仕方ないのでデータは不要でもあり,全部フォーマットすることにしました。

 NTFSで80GBのフォーマットは難なくできたので,いよいよリカバリーです。

 ところがリカバリー用のOSのCDが汚れているのか,あるいはマシンのDVD-CDドライブが不具合なのかわかりませんが,何回やっても,途中でそれぞれ異なるエラーメッセージが出て止まってしまいます。

 CDやそのドライブをクリーニングしながら,ひたすら気長にニ十数回も試行を繰り返しました。

 そのうち,ついうとうとして居眠りして起きたところ,なんとOSインストールのステップまで進んでいるではないですか。

 これはしめたと思い次々にENTERを押して,やっと初期状態を回復しました。

 いまさらながら昔よくやったOSのインストールの苦労を思い出しました。 

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2007年2月 8日 (木)

量子統計とグランドカノニカル分布

 今日は久しぶりに物理学の話題を取り上げます。

 

 量子統計の分布,すなわち,"F・D分布=Fermi-Dirac分布"

 と"B・E分布=Bose-Einstein分布"と,いわゆる古典統計

 の"グランド・カノニカル分布"の関係について述べてみます。

 

 まず孤立系は総粒子数Nと総エネルギーEが一定に保たれて

 いる系ですから,いわゆるミクロカノニカル集団の手法が適用

 できます。

 

 そして巨視的な個数N個の粒子をエネルギーのあまり違わない

 多くの量子状態を束ねた細胞:1,2,...へ分配する粒子の個数の

 分布D,すなわち,細胞iの粒子数Niを並べたもの:

 D=(N1,N2,...)で表現し各Dに対応する確率分布を求めて

 みます。

 

まず,Σii=Nです。

 

そして,εiを細胞iの状態にある粒子の持つエネルギーとすると

Σiiεi=Eです。

 

古典統計,つまり"M・B分布=Maxwell-Boltzmann分布"

と"量子統計(F・D,B・E分布)"が異なるのは微視状態の数

Dの数え方です。

 

N個の粒子の分配の仕方は古典統計ではN!/(N1!N2!...)です

が,この因子は量子統計では1です。

 

何故なら,古典論と違って量子論では同種粒子は区別できない

からです。

 

したがって,量子統計では分布:D=(N1,N2,...)に属する微視

状態の数は,各細胞に割り当てられた粒子が,その細胞の中の量子

状態を占める方法の数だけです。

 

第1に,電子や陽子のように"spinが半奇数の粒子=Fermion"

ばかりから成る系に対して成立するF・D統計では,Pauliの

排他原理(Pauli's exclusion principle)によって,同一の量子

状態を2つ以上の粒子が占めることはできません。

 

そこで,細胞iに含まれるGi個の量子状態のうちNi個を取り出し

これらに区別できない粒子を1個ずつ分配すれば,これが1つの

微視状態になります。

 

i番目の細胞ではGi!/{Ni!(Gi-Ni)!} だけの微視状態がある

ので分布Dでの微視状態の総数WDは,

D=Πii!/{Ni!(Gi-Ni)!}で与えられます。

 

一方,光子(photon)やπ中間子のように"spinが整数の粒子

(=Boson"ばかりから成る系に対して成立するB・E統計では,

区別できない粒子を各量子状態に重複を許していくつでも分配

できます。

 

今,i番目の細胞iに着目して,この中の粒子数がNiである

とします。

 

そして,これらを各量子状態に対応するGi個の小さく仕切られた

部屋に割り当てます。

 

これはNi個の粒子を1列に並べて(Gi1)個の仕切りで区切る

ことに相当しますから,その組み合わせの数は

(Ni+Gi1)!/{Ni!(Gi1)!}という謂わゆる重複組み合わせ

の個数に一致します。

 

したがって,この場合は微視状態の総数WDは,

D=Πi(Ni+Gi1)!/{Ni!(Gi1)!}です。

 

ここで,Giが巨視的な値であるという仮定によって,(i1)を

iで置き換えてもいいですから,D=Πi(Ni+Gi)!/(Ni!Gi!)

と書きます。

 

これらの結果に,巨視的なNに対する近似公式である

Stirlingの公式:log(N!)~NlogN-Nを適用すると,

 

F・D統計では,logWD ~Σi[GilogGi(i-Ni)log(i-Ni)

-NilogNi}であり,

 

B・E統計では,logWD ~Σi[-GilogGi(i+Ni)log(i+Ni)

-NilogNi} となります。

 

そして統計力学の基本原理である"等重率の原理"によれば,

求める確率分布は,Σii=Niiεi=Eなる拘束条件の

下で,logWDが最大になるような分布になります。

 

この分布を求めるためには,iをδiだけ変えたときのlogWD

の変分:δlogWDがゼロになる分布を探せばいいですね。

 

δlogWD=Σi{log(i-Ni)-logii(FD統計),

δlogWD=Σi{log(i+Ni)-logii(BE統計)

 

ですが,これらδlogWDが拘束条件下でゼロになる条件を求める

ためにLagrangeの未定乗数法を利用します。

 

すなわち,Σii=Nによる変分条件ΣiδNi0 に(-α)を

掛けたものと,Σiiεi=Eによる変分条件ΣiεiδNi0

に(-β)を掛けたものを,

 

Σi{log(i-Ni)-logii(F・D統計), 

Σi{log(i+Ni)-logii(B・E統計)

 

に加えて,これらの総和としての変分をゼロと置いた恒等式を

作り,左辺のδiの係数がゼロという条件から,求める熱平衡

の分布が求めます。

 

こうして,log(i-Ni)-logi-α-βεi0 (FD統計),

または,log(i+Ni)-logi-α-βεi0 (BE統計)なる

式により,(Ni/i)=1/{exp(α+βεi)±1} が得られます。

 

この+の方の式に従う分布をFermi-Dirac(F・D)分布,

-の方の式に従う分布をBose-Einstein(B・E)分布

と呼びます。

 

(Ni/i)は細胞iに含まれる量子状態の1つを占める平均粒子数

を表わしています。

 

量子状態のラベルをrに書き換えてrを占める平均粒子数

r≡(Nr/Gr)で表わすと,分布はnr1/{exp(α+βεr)±1}

になります。

 

この式でεrは全て正なので,expα>>1のとき,これらは

rexp(-α-βεr)と近似されます。

 

これは"M・B分布=Maxwell-Boltzmann分布",つまり古典分布

に他なりません。

 

そして,この古典分布における定数αとβの意味を,そのまま

量子分布に流用すれば,α=-μ/(kB),β=1/(kB)です。

 

そこで,得られたFermi-Dirac(F・D)分布とBose-Einstein

(B・E)分布の最終的な形は,

r1/[exp{(εr-μ)/(kB)}±1]となります。

 

このことから,上記の古典統計近似ができるための条件:

expα>>1は条件:exp{-μ/(kB)}>>1に相当すること

になります。

 

次に,孤立系ではなく熱の流出入があるためエネルギーは可変

ですが,温度Tと体積Vが一定で,粒子数も一定の系を考えます。

 

この場合,温度が一定なのは系が"大きな熱源=恒温槽の系"と

接触しているからです。 

 

そして,この巨大な恒温槽が,"元々考えていた系と全く同じ構造

の系の集まり=カノニカル集団"でできていると考えます。

 

これら集団(ensenble)に属する系の1つ1つを"巨大な分子"と

考え,それらの間にはエネルギーの交換が起こり得る程度のごく

弱い相互作用があるとすると"多数の巨大な分子から成る理想系

=孤立系"が形成されます。

 

"対象としている系=巨大な分子1個"がエネルギーErにある

確率は,これら巨視的個数の個々の"巨大分子"が区別できない

ミクロな分子ではなく,区別できる粒子であるため,量子統計の

ミクロカノニカル分布でなく,古典統計のM・B分布:

r/N=(1/Z)exp{-Er/(kB)}で与えられます。

 

ここに,Zは"分配関数=状態和"であり,今の場合

Z≡Σr exp{-Er/(kB)}で与えられます。

 

同じく,T,V,μが一定ですが,粒子数が一定ではない系を考える

と,これは"巨大な熱源=恒温槽"と"巨大な粒子槽"に接触している

とみなすことができます。

 

系を再び,多くの区別できる"巨大な分子のグランドカノニカル集団

からなる理想系=孤立系"と見なすことで,

 

系の粒子数がNでエネルギー準位がEr(N)に見出される確率は,

グランドカノニカル分布:

r(N)=(1/Ξ)exp[{Nμ-Er(N)}/(kB)]で与えられること

がわかります。

 

ただし,Ξ≡ΣNexp{Nμ/(kB)}ZN,

N≡Σr exp{-Er(N)/(kB)}です。

Ξを大きな状態和といいます。

 

ここで,便宜上λ≡exp{μ/(kB)}とおけば,

Ξ=ΣNλNn1+n2+…=N exp{-Σnsεs/(kB)}]ですが,

さらに,ys≡λexp{-εs/(kB)}とおけば,

Ξ=Σn1,n2,…1n12n2...となります。

 

F・D粒子系では,エネルギー準位がεsの状態sを占める粒子数

は,s0,またはns=1のケースしかないので

Σnssns=1+sです。

 

B・E粒子系では,粒子数に全く制限がないので,ns0 ~ ∞

より,Σnssns(1-s)-1となります。

 

したがって,F・D粒子,B・E粒子に応じて,

Ξ=Πs(1±s)±1 ですね。

 

そこで,εsを占める平均粒子数:<ns>は,

 

<ns>=(1/Ξ)[Σn1,n2,….s1n12n2...]

s{∂(logΞs)/∂s} (ただし,Ξs(1±s)±1)

 

の右辺の計算で得られます。

 

結局,<ns>=s/(1±s)です。

 

最後に,変数ss=λexp{-εs/(kB)},λ=exp{μ/(kB)}

なる表記に戻すと,<s>=1/[exp{(εr-μ)/(kB)}±1]

となって,既に得られている,Fermi-Dirac(F・D)分布,および,

Bose-Einstein(B・E)分布が再現されます。

 

ここで重要なのは,カノニカル分布やグランドカノニカル分布

では,系が"区別できる粒子"なので古典統計に従うのに対し,

 

量子論のミクロカノニカル分布では,"区別できない粒子"なので

量子統計分布に従うということです。

 

まあ,いずれの方法も対等なので結果は同一になります。

 

参考文献;中村 伝 著「統計力学」(岩波書店)

 

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