ベキ級数解の存在(コワレフスカヤの優級数)(1)
常微分方程式の一般解の存在定理のシリーズの続きとして,Kovalevskaya の優級数の方法に基づいて常微分方程式の実解析解の存在定理について,論及たいと思います。
"1階常微分方程式dy/dx=f(x,y)の右辺の関数が,あるR1,R2より大きい関連収束半径を持ってベキ級数に展開できる,
つまりf(x,y)=Σapq(x-x0)p(y-y0)qと書けて,右辺の級数が,
|x-x0|≦R1,かつ|y-y0|≦R2で絶対収束するものとする。
このとき,初期条件:y|x=x0=y0を満足し,x=x0 の近傍において,
(x-x0)のベキ級数に展開可能なdy/dx=f(x,y)の解が一意的に存在する。"
という定理です。
複素解析解,つまり,正則解であれば,方程式dy/dx=f(x,y)の右辺が正則であれば解も正則であることはほぼ自明なので,わざわざ実関数について証明する必要はないのでしょうが,
その昔,Kovalevskayaの優級数の方法自体に興味を持ったので,やってみたのでした。
"実解析解の存在定理"の証明のためには,二重ベキ級数の性質を調べることが必要なので,まずそれに関連した補助定理をいくつか提示して証明しておきたいと思います。
まず,補助定理1です。
"二重ベキ級数:Σapqxpyq が,x=α,y=βに対して,ある項の順序で収束するなら,|x|<|α|,|y|<|β|において,Σapqxpyq は絶対かつ広義一様収束する。"
ではこれの証明です。
Σapqαpβq が,ある項の順序で収束するので,p,q→ ∞ に対し,
apqαpβq → 0 であり,そこで,ある正の数Mが存在して全てのp,qに対して|apqαpβq|≦M が成立します。
したがって,|x|<|α|,|y|<|β|なるx,yに対して,
|apqxpyq|=|apqαpβq||(x/α)|p|(y/β)|p
≦M|(x/α)|p|(y/β)|p と書けます。
η=|(x/α)|,ξ=|(y/β)|とおけば,0≦η<1,0≦ξ<1ですが,
このとき,正項二重級数:Σηpξq は項の順序に関係なく収束して,
Σηpξq=1/{(1-η)(1-ξ)}となります。
故に,部分和としてのm,nの二重数列:Smn(x,y)
≡Σp,q=0m,n|apqxpyq|は単調増加で,かつ上に有界なので,
m,n→∞に対して収束します。
そこで,通常の級数と同じくΣapqxpyq は絶対収束します。
次に,0<∀ε1≦|α|,0<∀ε2≦|β|に対して,|x|≦|α|-ε1,|y|<|β|-ε2なら,|apqxpyq|≦|apq(|α|-ε1)p(|β|-ε2)q|≦M|{(|α|-ε1)/α}|p|{(|β|-ε2)/β}|qが成立します。
そこで,∀ε>0 に対してx,yに依存しないある自然数Nが存在して,
m>N,n>Nなら,Nより大きいあらゆる自然数r,sに対してΣp=m+1rΣq=n+1sM|{(|α|-ε1)/α}|p|{(|β|-ε2)/β}|q<εが成り立ち,|Σp=m+1rΣq=n+1sapqxpyq|<εが成立します。
以上から,Σapqxpyq は絶対,かつ広義一様に収束することが証明されました。
これの系として,Σapqxpyq は|x|<|α|,|y|<|β|において順序に関係なく収束し,Σapqxpyq =Σp=0∞(Σq=0∞apqyq)xp=Σq=0∞(Σp=0∞apqxp)yq が成立する。
ことになります。
証明は部分和にして扱えば,順序に関係ないという性質からほぼ自明なので省略します。
この定理から2つの正の数R1,R2に対して,級数:Σapqxpyq が|x|<R1,|y|<R2では絶対収束し,|x|>R1,|y|>R2では発散するという性質のR1,R2の組が存在することがわかったので,
この(R1,R2)を関連収束半径と呼びます。
関連という言葉通り関連収束半径の組は一意的には決まりません。
次に補助定理2です。
"(R1,R2)をΣapqxpyq の関連収束半径とするとき,|x|<R1,|y|<R2に対してΣapqxpyq=f(x,y)と表わすことにする。
このときf(x,y)は|x|<R1,|y|<R2で項別に無限回偏微分可能,かつ無限回積分可能であり,さらにapq={1/(p!q!)}{∂p+q/(∂xp∂yq)}f(x,y)|x=0,y=0と一意的に表わされる。"
これの証明は以下の通りです。
|y|<R2を満たすyを任意のある値に固定しておけば,Σapqxpyq は通常のxに関する定数係数のベキ級数となり,|x|<R1において広義一様にf(x,y)に収束します。
そこで,通常の1変数xの関数についての定理により|x|<R1においてはf(x,y)はxについて項別に無限回微積分可能です。同様なことはyについてもいえます。
そうして,任意のr≧1に対して,(∂r/∂xr)f(x,y)=Σp=r∞p(p-1)...(p-r+1)apqxp-ryqもまた,|x|<R1,|y|<R2で広義一様に収束するので,yについて項別に無限回微分可能となり,x,yに関して任意回数の項別偏微分が可能であることがわかります。
同様なことは,積分についてもいえます。
さらに,{∂r+s/(∂xr∂ys)}f(x,y),および{∂s+r/(∂ys∂xr)}f(x,y)は一様収束するベキ級数の和で表わされるので明らかに連続です。
それ故,{∂r+s/(∂xr∂ys)}f(x,y)={∂s+r/(∂ys∂xr)}f(x,y)
が任意のr,sについて成立します。
そこで,{∂r+s/(∂xr∂ys)}f(x,y)=Σp=r,q=s∞p(p-1)...(p-r+1)q(q-1)...(q-s+1)apqxp-ryq-s となります。
両辺でx=0 ,y=0 とおけば,ars={1/(r!s!)}{∂r+s /(∂xr∂ys)}f(x,y)|x=0,y=0と一意的に表わされることがわかります。
(以上証明終わり)
次に補助定理3ですが,この定理は次のようなものです。
"Σμ=1∞(Σν=1∞|aμν|),Σν=1∞(Σμ=1∞|aμν|)の少なくとも一方が有限なら,Σμ,ν=1∞aμνは絶対収束して,
Σμ=1∞(Σν=1∞|aμν|)=Σν=1∞(Σμ=1∞|aμν|)=Σμ,ν=1∞|aμν|,および,Σμ=1∞(Σν=1∞aμν)=Σν=1∞(Σμ=1∞aμν)=Σμ,ν=1∞aμν
が成り立つ。"
では証明です。
一般性を失うことなく,Σμ=1∞(Σν=1∞|aμν|)<+∞とします。
すると,任意の自然数m,nに対し,Σμ,ν=1m,n|aμν|≦Σμ=1m(Σν=1∞|aμν|)≦Σμ=1∞(Σν=1∞|aμν|)<+∞が成立します。
故に,Σμ,ν=1m,n|aμν|は有界であり,したがって収束します。
このことからΣμ,ν=1∞aμνは絶対収束します。
このとき,明らかにΣμ=1∞(Σν=1∞|aμν|)=Σν=1∞(Σμ=1∞|aμν|)=Σμ,ν=1∞|aμν|,およびΣμ=1∞(Σν=1∞aμν)=Σν=1∞(Σμ=1∞aμν)=Σμ,ν=1∞aμνが成り立ちます。(以上証明終わり)
さらに補助定理4です。
"Σn=0∞anxn は|x|<Rで絶対収束するとする。
mを正の整数として(Σanxn)mを形式的に展開して得られるベキ級数をΣn=0∞an(m)xnとおくと,それは|x|<Rにおいて絶対収束して,
等式:(Σn=0∞anxn)m=Σn=0∞an(m)xn (|x|<R)が成り立つ。"
ここで(Σanxn)mを形式的に展開して得られるベキ級数:Σn=0∞an(m)xn
とは,xnの係数an(m)がm=1ではan(1)=an,
m≧2 に対してはan(m)≡an(m-1)a0+an-1(m-1)a1+...+a0(m-1)an
(n=0,1,2,..)で与えられるベキ級数のことです。
以下,証明です。
証明は数学的帰納法に依ります。
まず,m=1のときはan(1)=anですから,Σn=0∞an(m)xn=Σn=0∞anxn=(Σn=0∞anxn)mは明らかに成立します。
そこで,m=kのとき,|x|<RでΣn=0∞an(m)xn が絶対収束して,その極限値について,|x|<Rで(Σn=0∞anxn)k=Σn=0∞an(k)xnが成立するものと仮定します。
このとき,Σn=0∞an(k)xn とΣn=0∞anxn は共に|x|<Rで絶対収束するので,Cauchyによる絶対収束級数の積に対する定理によって,
Σn=0∞(an(k)a0+an-1(k)a1+...+a0(k)an)xn
=(Σn=0∞an(k)xn)(Σn=0∞an(k)xn)が成立し,
左辺の級数は右辺の値に絶対収束します。
ところが,明らかに左辺の項のxnの係数はan(k+1)に一致します。
帰納法の仮定によりΣn=0∞an(k)xn=(Σn=0∞anxn)kですから,
結局Σn=0∞an(k+1)xn も|x|<Rで絶対収束して
Σn=0∞an(k+1)xn =(Σn=0∞anxn)k+1 となります。
以上から帰納法によって,定理の成立することが示されました。
今日はここまでとします。
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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