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2007年2月 8日 (木)

量子統計とグランドカノニカル分布

 今日は久しぶりに物理学の話題を取り上げます。

 

 量子統計の分布,すなわち,"F・D分布=Fermi-Dirac分布"

 と"B・E分布=Bose-Einstein分布"と,いわゆる古典統計

 の"グランド・カノニカル分布"の関係について述べてみます。

 

 まず孤立系は総粒子数Nと総エネルギーEが一定に保たれて

 いる系ですから,いわゆるミクロカノニカル集団の手法が適用

 できます。

 

 そして巨視的な個数N個の粒子をエネルギーのあまり違わない

 多くの量子状態を束ねた細胞:1,2,...へ分配する粒子の個数の

 分布D,すなわち,細胞iの粒子数Niを並べたもの:

 D=(N1,N2,...)で表現し各Dに対応する確率分布を求めて

 みます。

 

まず,Σii=Nです。

 

そして,εiを細胞iの状態にある粒子の持つエネルギーとすると

Σiiεi=Eです。

 

古典統計,つまり"M・B分布=Maxwell-Boltzmann分布"

と"量子統計(F・D,B・E分布)"が異なるのは微視状態の数

Dの数え方です。

 

N個の粒子の分配の仕方は古典統計ではN!/(N1!N2!...)です

が,この因子は量子統計では1です。

 

何故なら,古典論と違って量子論では同種粒子は区別できない

からです。

 

したがって,量子統計では分布:D=(N1,N2,...)に属する微視

状態の数は,各細胞に割り当てられた粒子が,その細胞の中の量子

状態を占める方法の数だけです。

 

第1に,電子や陽子のように"spinが半奇数の粒子=Fermion"

ばかりから成る系に対して成立するF・D統計では,Pauliの

排他原理(Pauli's exclusion principle)によって,同一の量子

状態を2つ以上の粒子が占めることはできません。

 

そこで,細胞iに含まれるGi個の量子状態のうちNi個を取り出し

これらに区別できない粒子を1個ずつ分配すれば,これが1つの

微視状態になります。

 

i番目の細胞ではGi!/{Ni!(Gi-Ni)!} だけの微視状態がある

ので分布Dでの微視状態の総数WDは,

D=Πii!/{Ni!(Gi-Ni)!}で与えられます。

 

一方,光子(photon)やπ中間子のように"spinが整数の粒子

(=Boson"ばかりから成る系に対して成立するB・E統計では,

区別できない粒子を各量子状態に重複を許していくつでも分配

できます。

 

今,i番目の細胞iに着目して,この中の粒子数がNiである

とします。

 

そして,これらを各量子状態に対応するGi個の小さく仕切られた

部屋に割り当てます。

 

これはNi個の粒子を1列に並べて(Gi1)個の仕切りで区切る

ことに相当しますから,その組み合わせの数は

(Ni+Gi1)!/{Ni!(Gi1)!}という謂わゆる重複組み合わせ

の個数に一致します。

 

したがって,この場合は微視状態の総数WDは,

D=Πi(Ni+Gi1)!/{Ni!(Gi1)!}です。

 

ここで,Giが巨視的な値であるという仮定によって,(i1)を

iで置き換えてもいいですから,D=Πi(Ni+Gi)!/(Ni!Gi!)

と書きます。

 

これらの結果に,巨視的なNに対する近似公式である

Stirlingの公式:log(N!)~NlogN-Nを適用すると,

 

F・D統計では,logWD ~Σi[GilogGi(i-Ni)log(i-Ni)

-NilogNi}であり,

 

B・E統計では,logWD ~Σi[-GilogGi(i+Ni)log(i+Ni)

-NilogNi} となります。

 

そして統計力学の基本原理である"等重率の原理"によれば,

求める確率分布は,Σii=Niiεi=Eなる拘束条件の

下で,logWDが最大になるような分布になります。

 

この分布を求めるためには,iをδiだけ変えたときのlogWD

の変分:δlogWDがゼロになる分布を探せばいいですね。

 

δlogWD=Σi{log(i-Ni)-logii(FD統計),

δlogWD=Σi{log(i+Ni)-logii(BE統計)

 

ですが,これらδlogWDが拘束条件下でゼロになる条件を求める

ためにLagrangeの未定乗数法を利用します。

 

すなわち,Σii=Nによる変分条件ΣiδNi0 に(-α)を

掛けたものと,Σiiεi=Eによる変分条件ΣiεiδNi0

に(-β)を掛けたものを,

 

Σi{log(i-Ni)-logii(F・D統計), 

Σi{log(i+Ni)-logii(B・E統計)

 

に加えて,これらの総和としての変分をゼロと置いた恒等式を

作り,左辺のδiの係数がゼロという条件から,求める熱平衡

の分布が求めます。

 

こうして,log(i-Ni)-logi-α-βεi0 (FD統計),

または,log(i+Ni)-logi-α-βεi0 (BE統計)なる

式により,(Ni/i)=1/{exp(α+βεi)±1} が得られます。

 

この+の方の式に従う分布をFermi-Dirac(F・D)分布,

-の方の式に従う分布をBose-Einstein(B・E)分布

と呼びます。

 

(Ni/i)は細胞iに含まれる量子状態の1つを占める平均粒子数

を表わしています。

 

量子状態のラベルをrに書き換えてrを占める平均粒子数

r≡(Nr/Gr)で表わすと,分布はnr1/{exp(α+βεr)±1}

になります。

 

この式でεrは全て正なので,expα>>1のとき,これらは

rexp(-α-βεr)と近似されます。

 

これは"M・B分布=Maxwell-Boltzmann分布",つまり古典分布

に他なりません。

 

そして,この古典分布における定数αとβの意味を,そのまま

量子分布に流用すれば,α=-μ/(kB),β=1/(kB)です。

 

そこで,得られたFermi-Dirac(F・D)分布とBose-Einstein

(B・E)分布の最終的な形は,

r1/[exp{(εr-μ)/(kB)}±1]となります。

 

このことから,上記の古典統計近似ができるための条件:

expα>>1は条件:exp{-μ/(kB)}>>1に相当すること

になります。

 

次に,孤立系ではなく熱の流出入があるためエネルギーは可変

ですが,温度Tと体積Vが一定で,粒子数も一定の系を考えます。

 

この場合,温度が一定なのは系が"大きな熱源=恒温槽の系"と

接触しているからです。 

 

そして,この巨大な恒温槽が,"元々考えていた系と全く同じ構造

の系の集まり=カノニカル集団"でできていると考えます。

 

これら集団(ensenble)に属する系の1つ1つを"巨大な分子"と

考え,それらの間にはエネルギーの交換が起こり得る程度のごく

弱い相互作用があるとすると"多数の巨大な分子から成る理想系

=孤立系"が形成されます。

 

"対象としている系=巨大な分子1個"がエネルギーErにある

確率は,これら巨視的個数の個々の"巨大分子"が区別できない

ミクロな分子ではなく,区別できる粒子であるため,量子統計の

ミクロカノニカル分布でなく,古典統計のM・B分布:

r/N=(1/Z)exp{-Er/(kB)}で与えられます。

 

ここに,Zは"分配関数=状態和"であり,今の場合

Z≡Σr exp{-Er/(kB)}で与えられます。

 

同じく,T,V,μが一定ですが,粒子数が一定ではない系を考える

と,これは"巨大な熱源=恒温槽"と"巨大な粒子槽"に接触している

とみなすことができます。

 

系を再び,多くの区別できる"巨大な分子のグランドカノニカル集団

からなる理想系=孤立系"と見なすことで,

 

系の粒子数がNでエネルギー準位がEr(N)に見出される確率は,

グランドカノニカル分布:

r(N)=(1/Ξ)exp[{Nμ-Er(N)}/(kB)]で与えられること

がわかります。

 

ただし,Ξ≡ΣNexp{Nμ/(kB)}ZN,

N≡Σr exp{-Er(N)/(kB)}です。

Ξを大きな状態和といいます。

 

ここで,便宜上λ≡exp{μ/(kB)}とおけば,

Ξ=ΣNλNn1+n2+…=N exp{-Σnsεs/(kB)}]ですが,

さらに,ys≡λexp{-εs/(kB)}とおけば,

Ξ=Σn1,n2,…1n12n2...となります。

 

F・D粒子系では,エネルギー準位がεsの状態sを占める粒子数

は,s0,またはns=1のケースしかないので

Σnssns=1+sです。

 

B・E粒子系では,粒子数に全く制限がないので,ns0 ~ ∞

より,Σnssns(1-s)-1となります。

 

したがって,F・D粒子,B・E粒子に応じて,

Ξ=Πs(1±s)±1 ですね。

 

そこで,εsを占める平均粒子数:<ns>は,

 

<ns>=(1/Ξ)[Σn1,n2,….s1n12n2...]

s{∂(logΞs)/∂s} (ただし,Ξs(1±s)±1)

 

の右辺の計算で得られます。

 

結局,<ns>=s/(1±s)です。

 

最後に,変数ss=λexp{-εs/(kB)},λ=exp{μ/(kB)}

なる表記に戻すと,<s>=1/[exp{(εr-μ)/(kB)}±1]

となって,既に得られている,Fermi-Dirac(F・D)分布,および,

Bose-Einstein(B・E)分布が再現されます。

 

ここで重要なのは,カノニカル分布やグランドカノニカル分布

では,系が"区別できる粒子"なので古典統計に従うのに対し,

 

量子論のミクロカノニカル分布では,"区別できない粒子"なので

量子統計分布に従うということです。

 

まあ,いずれの方法も対等なので結果は同一になります。

 

参考文献;中村 伝 著「統計力学」(岩波書店)

 

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                  TOSHI 

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