結晶点群の1性質
理想的な無限に大きいブラベー格子(Bravais lattice)の結晶が有する並進対称性,つまり空間のある方向にある単位で結晶全体を平行移動しても何の変化も生じないという事実は,
3個の1次独立な基本周期ベクトル]t1,t2,t3 を与えること
で表現されます。
この結晶格子は,それを不変にする任意の平行移動のベクトルtが,
t1,t2,t3の3つによって,t=n1t1+n2t2+n3t3と
表現されることで特徴付けられます。
ただし,n1.n2,n3は全て整数です。
このtを基本並進ベクトルと呼びます。
このとき,この結晶内の任意の格子点を示す位置ベクトルも,
結晶内のある1つの格子点を原点に指定すれば,
全て基本並進ベクトルで表わされます。
さて,結晶を不変にする変換には,一般にこの平行移動の他に,
回転,反転,鏡映があります。
後者の作る変換群を点群と呼び,平行移動をも加えた変換全体を
空間群と呼びます。
このうち,ある格子点を通る軸のまわりの角度Cn≡(2π/n)
の回転の下で結晶が不変であるとき,可能なnの値は,
n=1,2,3,4,6 に限られることがわかっています。
今日は,結晶点群の1性質として,何故,回転角Cn≡(2π/n)が,
n=1,2,3,4,6 に限られるのか?ということの理由を
明確に与えることを目的として記事を書こう,
と思いました。
まず,ブラベー格子から成る結晶のある格子点を通る軸を取り,
その上の1つの格子点を原点に取ります。
そして,その軸上にない,ある格子点を表わす位置ベクトルを
t(0)とします。
さらに,これに軸のまわりの回転操作Cnを次々に施行して
得られる位置ベクトルをt(1),t(2),...t(n)とします。
このとき,t(n)はt(0)にCn回転をn回行って丁度2π回転して
元に戻ったベクトルなので,t(0)=t(n)です。
また,t(1),t(2),...,t(n)はベクトルt(0)を空間回転しただけ
のものですから,それらの長さは全てt(0)と同じです。
結晶全体がこの回転で不変であると仮定すると,
これら,t(i)(i=1,2,...,n-1)も全てどこかの格子点
の位置ベクトルです。
したがって,それらの差(t(i)-t(j)) (i≠j)も全て
基本並進ベクトルであると考えられます。
さらに,総和:t(1)+t(2)+...+t(n)も,もちろん基本並進ベクトル
ですが,対称性から考えてこれの表わす方向は明らかに回転軸と同じ
であると考えられます。
そして,t≡|t(0)|>0 とすると,スカラー積が
t(i)(t(1)+t(2)+...+t(n))=t2{Σk=1n cos(2kπ/n)}
(i=1.2,...n)となります。
これから,(t(i)-t(j))(t(1)+t(2)+..+t(n))=0
です。
それ故,基本並進ベクトル(t(i)-t(j))(i≠j)は全て
回転軸に垂直なベクトルであるということになります。
回転軸に垂直な基本並進ベクトルは,少なくとも1つは存在します。
それらのうち,最も長さの小さいものをtとします。
これに,CnとCn-1をそれぞれ作用させたものを考えると,
これらも共に基本並進ベクトルですから,その和:
Cnt+Cn-1tも1つの基本並進ベクトルです。
これは明らかにtと同じ向きを持ち,長さはtの長さの
2cos(2π/n)倍ですから,Cnt+Cn-1t=2tcos(2π/n)
と表現されます。
そして,これも回転軸に垂直な基本並進ベクトルです。
これとtの整数倍,例えばtのm倍の基本並進ベクトルとの差
で表わされる基本並進ベクトルを想定すると,
これもやはり回転軸に垂直であって,その長さは
|m-2cos(2π/n)|です。
そこで,もしも2cos(2π/n)が整数でないとしたら,
整数mを変えていくと,値|m-2cos(2π/n)|の中に,
必ず1より小さいものが含まれますから,
これはtが回転軸に垂直な基本並進ベクトルのうちで
最も長さの小さいものである,という仮定に矛盾します。
それ故,
"結晶を不変にする回転操作Cnは,2cos(2π/n)=(整数)
を満たすnに対応する回転に限られる。"
ということがわかります。
以上から,n=1,2,3,4,6 に対応する点群の回転操作のみが
結晶を不変に保つことを可能とする回転であること,
が示されました。
参考文献;佐藤 光 著「群と物理」(丸善)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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