回転系の計量(metric)
前記事の非慣性系である回転座標系についての考察を,通常の
一般相対性理論の見方で再検討してみます。
静止している座標系で円筒座標:(r',φ',z',t)を使うと,
その計量(metric)はds2=c2dt2-dr'2-r'2dφ'2-dz'2
です。
一方,回転系の円筒座標を(r,φ,z,t)として,回転軸zとz'が
一致していて回転の角速度がωであるとすると,
r'=r,φ'=φ+ωt,z'=zです。
これらを代入することで,回転系の計量が
ds2=(c2-r2ω2)dt2-2r2ωdφdt-dr2-r2dφ2-dz2
となることがわかります。
しかし,回転系を基準とする座標系はc/ω以下の距離に対してしか
使用できません。
実際,r>c/ωでは,g00が負になりますが,これは許されない
ことです。
(※回転の角速度ωが一定で半径が大きくなると,
回転の速さが光速cを超えます。rω>cです。※)
この半径r=c/ωの円筒面は,謂わゆる「事象の地平面」
(Event Horizon)とも呼ばれる曲面です。
(※ブラックホールの話で出てくるSchwartzschild半径の
球面も「事象の地平面」と呼ばれていますね。
この面を境界として,時空多様体の記述が不連続になります。※)
ここで,一般相対性理論において,単なる物理的ラベルに過ぎない
時間間隔:dt=dx0/cから真の時間間隔dτを求めてみます。
そのため,空間の同一点で生じた限りなく近い2つの事象を考えます。
この2つの事象間の世界間隔dsはcdτに他なりません。
ds2=gμνdxμdyνにおいて,dx1=dx2=dx3=0 とおけば,
ds2=g00(dx0)2により,dτ=(g001/2/c)dx0となります。
そこで,回転系ではg00=(1-r2ω2/c2)によって,
dτ=(1-r2ω2/c2)1/2dtとなります。
それ故,前記事での円板に関して,t=T/(1-r2ω2/c2)1/2
と書いたときの慣性系Iでの標準時計の不変時間である
T=t(1-r2ω2/c2)1/2が,"真の時間=固有時間"である
という意味が再現されました。
一方,真の空間距離の要素dσを求めてみます。
特殊相対論では,dσを同一時刻に生じた無限小隔たった2つの事象
の間の世界間隔と定義することができますが,一般相対性理論では
そのようなやり方は通常は不可能です。
すなわち,dsにおいて単にdx0=0 と置くだけでdσを求める
ということは不可能なのです。
このことは重力場の中では固有時間τの座標:x0=ctへの依存
の仕方が空間内の異なる点では違っている,という事情に
関係しています。
dσを求めるには次のようにします。
光の信号が空間の点B(座標xi+dxi)から,それに限りなく近い
点A(座標xi)へ向けて発射され,次いで同じ道を逆進すると仮定
します。
同じ点Bに戻ってくるまでに要した時間をBで測って,
その真の固有時間にcを掛ければ,2つの点の間の空間距離
の2倍を与えるはずです。
ここで,空間座標と時間座標を分離して世界間隔を書き直すと,
ds2=gijdxidxj+2g0idx0dxi+g00(dx0)2
となります。
ところで,光自身は全く歳を取らないので,その運動に沿っての
光自身の世界間隔はゼロですから,
1つの点から光の信号が発射されることと,それがもう1つ
の点に到着することを表わす2つの事象の間の世界間隔は
ゼロです。
そこで,方程式ds2=0 をdx0 について解くと,AとBの間を
互いに逆向きに信号が伝わることに対する2つの根:
dx0(1)=(1/g00)[-g0idx0dxj
-{(g0ig0j-gijg00)dxidxj}1/2],および,
dx0(2)=(1/g00)[-g0idx0dxi
+{(g0ig0j-gijg00)dxidxj}1/2]
が得られます。
Bからの信号がAに到達する時刻をx0とすると,
それがBを発する時刻とBに戻ってくる時刻は,それぞれ,
x0+dx0(1),x0+dx0(2)です。
そこで,この座標時間の間隔は,明らかに,(dx0(2)-dx0(1))/c
=(2/g00){(g0ig0j―gijg00)dxidxj}1/2/c
となります。
これに対応する真の時間間隔は,これにg001/2を掛けたものですから,
結局真の空間距離は,これを掛けた上にさらに(c/2)を掛ければ得ら
れることになります。
その結果は,dσ2=γijdxjdxj,ただしγij≡(g0ig0j/g00-gij)
となります。
このγijを空間の計量と呼ぶことがあります。
したがって,回転系でこれを計算するとg00=(1-r2ω2/c2),
g11=g33=-1,g22=-r2,g02=g20=-(r2ω/c)で,
これ以外の計量はゼロなので"真の不変空間距離=固有距離"dσ
の表式は,
dσ2=(r4ω2/c2)/(1-r2ω2/c2)dφ2+dr2+r2dφ2+dz2,
すなわちdσ2=dr2+dz2+r2dφ2/(1-r2ω2/c2)
となります。
そこで,これも前記事での円板,すなわち,dz=0 のときのφを
θで置き換えた標準物指での不変距離の表現である,
dσ2=dr2+r2dθ2/(1-r2ω2/c2)と確かに一致します。
参考文献;ランダウ=リフシッツ(Landau,Lifshitz)著「場の古典論」(東京図書)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)
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コメント
https://himajinnohimana.blog.fc2.com/blog-entry-24.html
を見てください。
投稿: 暇人 | 2021年6月 5日 (土) 19時05分
↓は、回転体の中心部から周辺部を見ると、時間の進み方が等しいという事を表しているはずです。
これが正しいとすれば、相対的に直線運動をすると時間が遅れて進行方向に対してローレンツ収縮するけれども、相対的に回転運動をすると、時間は遅れなくて進行方向に対してローレンツ収縮しない事を表しているはずだから、証明の方向性としては正しい可能性が有ると思います。
投稿: 凡人 | 2020年8月14日 (金) 13時36分
↓は証明としては全く不十分だったようなので、考え直したいと思います。
投稿: 凡人 | 2020年8月12日 (水) 18時39分
http://mb2.jp/
が閉鎖された為、私のエーレンフェストのパラドックスの解決法案の結論だけ書きますので、
誤りが有れば指摘してください。
ネット情報によると、回転系の計量は東海岸方式に変換すると、
ds^2=-c^2(1-r^2ω^2/c^2)dt^2+2r^2ωdφdt- dr^2+r^2dφ^2+dz^2となりますが、
rが固定された回転体の立場から見ると、dr=dφ=dz=0なので、
ds^2=-c^2(1- r^2ω^2/c^2)dt^2となりますが、rω=vなので、
ds^2=-c^2(1-c^2/v^2)dt^2となります。
回転の中心部の計量をds'とすると、回転体を原点として回転部の中心を(r,0)とした場合、
dx'=dz'=0と見做せるので、ds'^2=- c^2dt'^2+dy'^2となり、v=dy'/dt'=rωとなりますが、
両者を比較すると、-c^2(1-v^2/c^2)dt^2=-c^2dt'^2+dy'^2 =>
(1-v^2/c^2)dt^2=dt'^2-dy'^2/c^2 => (1-v^2/c^2)dt^2/dt'^2=
dt'^2/dt'^2-dy'^2/(c^2dt'^2)となりますが、 右辺は1-v^2/c^2なので、
dt=dt'となる事が分かります。
投稿: 凡人 | 2020年8月12日 (水) 17時47分
回転系の計量を使用して計算しなおしてみましたので、
http://mb2.jp/_grn/2250.html-18
宜しければご覧ください。
投稿: 凡人 | 2019年3月 7日 (木) 15時29分
http://mb2.jp/_grn/2250.html-17
で説明を補足しました。
投稿: 凡人 | 2019年3月 6日 (水) 00時33分
>光をテスト粒子として採用した場合、
についてですが、光ドップラー効果を加味する必要がある事を忘れていた為、
>光をテスト粒子として採用した場合、観測者の側に近づいてくる加速系は固有時は速くなる方向に増加するので、こちらの考え方で間違いないのではないかと思います。
については、済みませんが一旦撤回させていただきます。
投稿: 凡人 | 2019年2月15日 (金) 03時57分
お久しぶりです。
エーレンフェストのパラドックスの解決法を思いついて、
http://mb2.jp/_grn/2250.html-11-14
に書いてみましたので、ご意見を頂けると助かります。
尚、「場の古典論」で記されている計量と私が最初した計量は食い違いますが、光をテスト粒子として採用した場合、観測者の側に近づいてくる加速系は固有時は速くなる方向に増加するので、こちらの考え方で間違いないのではないかと思います。
投稿: 凡人 | 2019年2月15日 (金) 03時01分