一般相対性理論の基礎と回転系
今日は,回転系と一般相対性理論の基礎について述べます。
一般相対性理論を創設した,Einstein(アインシュタイン)は,
加速運動をしている系を準拠系と考えたときに現われる遠心力などの
仮想的な力も通常の力と同じである,と見なして,
"運動の基礎方程式は両種の準拠系で全く同じであるべきである。"
と考えた,と聞いています。
この着想が,「一般相対性原理」と呼ばれるものですね。
そして,"仮想的な力も通常の力と同じである。"という見方を
「等価原理」といいます。
(※昔,ニフティのパソコン通信時代に,
"「見かけ(仮想)の!重力」「"真の"重力」は計量()metric)の
Riemann曲率がゼロかどうかが違うという議論をウンザリするほど
聞 かされましたが,,
違うという面(それが本質?)も大切ですが,同じ(等価)という面に着目した
のが初期の本質的着想だと思います。)
(※等価原理には,その他,慣性質量と重力質量は同じであるとか,
局所的には計量をMinkowski計量に取れる座標系が存在するとか,
様々な表現があるようですが。。※)
さて,今,変形せず一様に回転している系という簡単な加速座標系
について考察します。
もっとも,"力を受けても変形しないという物体=剛体"が存在すれば
その弾性係数は無限大なので,それを媒質として伝わる"弾性波の速さ
=音速"は無限大になります。
ところが,相対論によれば(最初から光速cより速く光速以下になれない
とされる未発見の幻の粒子=タキオンを除いて)光速cを超える速さ
の物体の存在は許されないので,
"力を受けても変形しないという物体=剛体"は存在し得ない.こと
になっており,実は"変形しない系"というのは許されないので,
ここでは理想化をしています。
まず,全ての質量やエネルギーから十分離れていて,重力の影響が全て
無視できるような場所に着目し,ここでの慣性系の1つをIで表わし,
通常の方法で設定された時空座標をX,Y,Z,Tとします。
もちろん,物理空間内の1点を示すのに,直交デカルチ座標の代わりに
一般曲線座標を用いてもいいです。
例えば,XY面内の事象だけを扱うのであれば,X=RcosΘ,
Y=RsinΘによって極座標(R,Θ)を導入することができます。
一方,一定角速度ωで一様に回転する座標系Sに固定され付随する
空間デカルト座標を(x,y)とし,x=rcosθ,y=rsinθとすれば,
変換式は,r=R,θ=Θ-ωT で定義されます。
(x,y) or (r,θ)が一定の点は回転系Sに固定されている点ですが,
これらの点は全て慣性系Iに対して一定の角速度ωで円運動をして
います。
そしてT= 0 では両系の座標は一致しています。
したがって,r=R<c/ωを満たす全ての点に対しては,一様に
回転している実際の物質で作った円板をこの回転座標系として
用いてもいいでしょう。
この回転する円板上の2定点の距離を測るのに,慣性系で用いた
標準物指と同じものを使うことにしますが,このときには標準物指
は回転円板に対して静止しています。
ここで,
"円板に固定している物指の慣性系Iでのある時刻の長さは
円板に固定されたこの物指とその時刻に同じ速度を持つ慣性系I0
内にある標準物指の長さと正確に同じである。"
と仮定します。
さらに一般化して,加速系内の標準物指は慣性系I内の物指に比べて,Lorentz変換を受けていることだけが異なっています。
つまり,
"この物指の長さはIに対する加速度には無関係である。"
と仮定します。
したがって,この円板上の標準物指で円板上の2点の(r,θ)と
(r+dr,θ)との間の距離を測れば,Iに対する物指の速度は
物指に直交していてLorentz収縮は起こらないので,Iから見た
その距離dσはdσ=drです。
ところが,標準物指で(r,θ)と(r,θ+dθ)との間の距離を測れば
物指はIに対してrωの速度を持っているので,その距離は
dσ=rdθ/(1-r2ω2/c2)1/2 となるはずです。
つまり,Iから回転系Sに固定された物指を見ると,それは
"Lorentz収縮"しています。
その物指で測った場合,距離は逆に伸張して測定されます。
rdθはSでの座標そのものです。
SはIから見て変形しない円板の固定した系と仮定したので,
rdθは確定値です。
いいかえると,既に"Lorebtz収縮"したものがrdθです。
(Iから見て,T=0 からT=Tまでの点(r,θ)と点(r,θ+dθ)
の描く軌道=世界線は同じなので,その距離rdθは同じです。)
また,dσはIで見た慣性系での値に相当する不変量です。
それ故,(r,θ)と(r+dr,θ+dθ)との間の不変距離は,
dσ2=dr2+r2dθ2/(1-r2ω2/c2)という関係式
になります。
これは慣性系Iからながめていて,
"円板は収縮しないし変形もしないが,物指は回転しているので
収縮する。"
と見ているわけです。
つまり,Iでの測定をIから見ると弧の長さは
rdθなのに,Sでの測定をIから見ると,
その長さは,dσ=rdθ/(1-r2ω2/c2)1/2
になるということです。
r=一定,で与えられる曲線は,半径rの円を表わしていますが,
その円周の長さを計算すると,∫02π[rdθ/(1-r2ω2/c2)1/2]
=2πr/(1-r2ω2/c2)1/2となるので,
円周と半径の比,すなわち,円周率×2は,
2πr/(1-r2ω2/c2)1/2>2π となります。
このように,円板に対して静止している標準物指で測った結果を用いて
得られる3次元空間の幾何学は,特殊相対論においてさえ正しかった
3次元空間のユークリッド幾何学とも,一般には食い違っている,こと
がわかります。
同様に「一般相対性原理」は時間の概念にも新たな変革を要求します。
例えば,回転座標系における時間として,この系の各点に標準時計
を固定しておき,慣性系I内の時計が時刻ゼロを刻む瞬間に丁度
この時計と重なっている回転座標系の時計の時刻をゼロに合わせ
るようにしたらどうでしょうか?
このとき,T=0 なら回転系の時刻もゼロです。
ところが回転円板上の1点(r,θ)に置かれた標準時計はIに対して
速度r ωを持っているので,Iに置いた時計に比べて遅れることに
なりますから,T= 0 以降の時刻tについては,
t=T/(1-r2ω2/c2)1/2 となります。
つまり,時計が遅れるので時刻は進むのです。
この場合も標準時計の進み方はIに対する速度だけが影響し加速度
の影響はないことを予測しています。
空間距離において,剛体とは成り得ない物指の変形を無視したのと
同様,現実の時計には起こり得る加速度の影響はやはり無視して
理想化しています。
しかし,ここで定義されたt=T/(1-r2ω2/c2)1/2を時間変数t
として回転系の時刻を記述することは,確かに原理的には許されて
いますがきわめて非実用的です。
例えば,(r,θ)で記述される点Aに光源が置かれ,固有振動数ν0の光を放射しているとすると,この場合t=0 からt=1 までの間に放出される波の数はν0ですが,
Iでの時刻T=0 からT=1までの間に放出される波の数は,
ν0{1-r2ω2/c2}1/2となりますから,中心r=0 にはこれと
同じ数の波が到着します。
ところが,r=0 ではt=Tとなり,t=0 からt=1までの間
にも,やはり同じ数:ν0(1-r2ω2/c2)1/2の波が到達すること
になります。
このように定義したtのスケールでは単位時間に,点Aから放出される
波の数は単位時間に中心Oに到達する波の数よりも多い,ことになって
しまいます。
つまり波の伝播などの記述は,このtでは非常に複雑になります。
かくして,加速系では,むしろ進み方の違う時計,例えば標準時計
よりも(1-r2ω2/c2)-1/2倍速く進む座標時計を用いた方が
便利であることになります。
こうすれば,時間パラメータがI系のTに一致するからです。
そこで,t=T/(1-r2ω2/c2)1/2の代わりにt≡Tとします。
加速系の準拠座標系では,時間座標や空間座標は物理的意味を失い,
勝手なものではありますが,不定性のない方法で物理的事象に付け
られた単なるラベルとか番号に過ぎません。
(※老婆心ながら一言;
理論的な関心がないなら,加速運動を論じるのに,
わざわざそれに固定した加速座標系を想定し,それを準拠系として
考察する必要はなく,準拠座標系を慣性座標系として,特殊相対性
理論とその力学に基づいて考察するのが普通です。
「加速度運動は一般相対性理論を考えなければ記述できない,説明で
きない。」という誤解があると聞いたこともありましたが,
特殊相対性理論は,Newton力学を修正したものです。そして普通の
力学で対象とする物体の運動は,そのほとんどは加速運動です。
そもそも,それらを記述できないような無力な理論ならNewton力学
に取って代わるなどは決してできませんよね。※)
参考文献;メラー「相対性理論」(みすず書房)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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