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2007年3月10日 (土)

ベクトルと同値類

 今から40年くらい前になりますが,高校の数学や物理で初めてベクトル

というものを習った際,,

 

,「2つのベクトルが等しい,というのは,その大きさ(長さ)と向きが等しい(平行である)ということと同じである。」,

 

 と教えられ,空間的には離れている2つのものが等しいという概念に違和

感をおぼえたものでした。

 

 しかし,大学の初年級の専門数学での集合論で同値関係,同値類

という概念を学んだとき,"これだ!!"という風に

ビビッと来ました。

 

 すなわち,「大きさと向きが等しいという関係」を同値関係として,その1つ1つの同値類をベクトルと呼べばよいのである,

と考えたのです。

 

(もちろん,私の発想がオリジナルだなどと主張するものではなく,誰か他人の示唆によるものだったかも知れないし,今となっては記憶も定かではありません。

 

※:実際オリジナルどころか,誰でも知っている常識でした。※)

 

 そして通常,明示される有向線分という形の表式の個々のベクトルは,

その同値類の代表元の1つを示しているに過ぎないということです。

 

 では同値関係,同値類とはどういうものでしょうか?

 

まず,集合Aがあって,その任意の2つの元a,b∈Aの間にある関係:

~があるとき,a~bと書くことにします。

 

このとき関係:~が次の3つの基準を満たすとき,この関係を同値関係

と呼び,a~bならaとbは同値であるといいます。

 

3つの基準は,

 

 a,b,c∈Aのとき,

1.a~a (反射律),

2.a~bならb~a (対称律),

3.a~b,かつb~cならa~c (推移律)

  

です。

 

そして,集合:C(a)を,

C(a)≡{x∈A|x~a}と定義して,

これをaを代表元とする同値類と呼びます。

 

そして,a~bなることと,集合としてC(a)=C(b)であるということ

は,全く同一の意味になります。

 

同じことですが,a~bでないなら,C(a)∩C(b)=φ(空集合)

(つまりC(a)とC(b)は互いに素)となります。

 

もちろん,A=∪a∈A(a)ですから,AはA=Σa∈A(a)と

(a)の直和で書けることになります。

 

このようにAをC(a)の和に分解することを同値類別と呼びます。

 

こうした定義等については今は参考書探すのが面倒なので記憶に

頼って書いているのですが,何分40年近くも昔に習ったことであり,

さすがに記憶が曖昧なので誤認識があるやもしれませんが。。。。

 

そして物理や数学で普通に学ぶ空間のベクトルについて大きさと向き

が等しいという関係:~は明らかに同値関係です。

 

それ故,"2つのベクトルが等しい"というのは,実は同値類という

集合として等しいという意味に解釈できる,ということで,

 

私は昔,すっきりとした感覚を持ったことを最近,あるきっかけ

で思い出しました。

 

実は量子論でも状態ベクトルというのは係数やその位相が違うものも

同じ状態ベクトルであるとみなすという意味で,ある代表元を持った

射線(ray)と呼ばれる同値類であることがわかっています。

 

ベクトル演算の線形性,重ね合わせの原理など,すなわち,ベクトルは線形空間の元であるとか,線形写像による種々の変換性を持つとかいう代数的性格を無視して,

 

ベクトルが等しいという概念だけに着目すれば,自然に同値類,

同値関係という感覚に到達するはずです。

 

当時は,それから,物理学,特に力学の幾何学化,

 

すなわち,幾何学の1つとしての定式化を目指し,まずは運動学から着手して1つの空間の位置とベクトルの1対1対応:ユークリッド空間の座標

と位置ベクトルの対応から始めたものでした。

 

ところが,いつのまにやら興味は数学的定式化からより物理的なもの

へと移行してゆき,結局は中途挫折してしまいました。

 

アーノルド(V.I.Arnold)著の「古典力学の数学的方法」(岩波書店)とか,

数学の1分野である"力学系"の存在を知ること等により,当時の記憶が

よみがえったのは,それからずっと後のことです。

 

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随分むかしから持っているんですが、「ガロアの夢_群論と微分方程式」(久賀道郎著_日本評論社)を引っ張り出して読んでいます。適当に書いて行きましょう。 標題はこの本の第2週のものですが、TOSHIさんの「ベクトルと同値類」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/post_0502.html も参考になりました。... [続きを読む]

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