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2007年3月 5日 (月)

膨張宇宙における赤方偏移2(視角半径)

半径dの大きさの天体が遠方(r111)にあったとき,

r=0 の原点Oにいる観測者には,その天体の大きさは

どのように見えるでしょうか?

 

以下,これを 考えてみます。 

 

φ1=一定の面で"その天体の大きさ=視角直径"が 2Δθ1

見えたとします。

  

dが宇宙のスケール因子aに比べて小さいとすると,

その天体のθ方向の固有長さは天体から光が発せられた

時刻t=t1にはd=r1(t1)Δθ1です。

  

(※これは前記事のRobertson-Walker計量でds2=c2dt2-dσ2

して空間部分dσ2を分離し,

この空間計量dσ2についてdr=dφ=0 とした後,

 

a(t)にa(t1),rにr1を代入し,dθをΔθ1とおいて,

天体の半径dがdσで与えられるすれば得られます。※)

  

すなわち,観測者が天体像を認識するのは現在時刻t0に,

彼の目に到達する天体からの光によるものですが,

  

それで見る天体の姿は過去に光が天体上で発せられた時刻

t=t1におけるものです。

  

その光が観測者に届くまでの行路の長さはr1(t1)ですから,

該当観測者の見る半径がdの天体の視野角はd/r1(t1)で

与えられ,これを視角半径Δθ1と呼ぶのですね。

  

 現在時刻t0には,その天体までの距離はR=1(t0)ですが,

天体の半径dを現在の距離Rで評価すると,

  

 d=r1(t0)[a(t1)/a(t0)]Δθ1

 =R{a(t1)/a(t0)}Δθ1 となります。

  

 膨張係数を赤方偏移zで表わすと,a(t0)/a(t1)=1+zにより,

 Δθ1=d(1+z)/Rとなります。

  

 dはzによらず一定ですから,z<<1では天体までの現在距離R

が遠方になるに従って,Δθ1Rに反比例して減少します。

 

 これは静止宇宙(z=0)を想定したときの通常の視角半径の様子と

一致しています。

  

 しかし,zが大きくなるに従って,視角半径Δθ1は,必ずしもRが

大きくなったからといって単純な反比例の関係では

減少しなくなります。

  

 より詳細に検討してみましょう。

  

我々の想定した宇宙の計量(metric)でのrとaとの厳密な

関係式は∫0r1dr/(1-kr2)1/2=∫t1t0cdt/a(t)

=∫a(t1)a(t0)[c/a(t)](dt/da)da で与えられます。

ここで,膨張因子aの満足するEinstein方程式の1つは,

(da/dt)2=-kc2(8πGρa2/3)です。

 

そこで,k=0,-1の平坦な宇宙,または空間曲率が負の宇宙では

右辺が正となるので,最初に膨張しているという初期条件が

与えられれば常に(da/dt)>0 となり,このまま永久に

膨張を続けます。

 

一方,この宇宙がk=1の空間曲率が正の宇宙であるなら,

どこかのtで,(da/dt)=0 となる瞬間があるので,

そこで膨張から収縮に転じるはずです。

 

 3つのパラメータ,Hubble係数:H≡(da/dt)/a,

減速係数:q≡-(d2/dt2)/(aH2),密度係数:σ≡4πGρ/(3H2)

を導入します。

 

 もう1つのEinstein方程式は,

 2a(d2/dt2)+(da/dt)2+kc2=-(8πGPa2/c2)

ですが,これにおいて右辺の圧力PをP~ 0 と近似します。

  

 それに,先の第一の方程式(da/dt)2=-kc2(8πGρa2/3)

を代入すると,kc2/a24πGρ+(d2/dt2)/a-[(da/dt)/a]2

が得られます。

 

 kc2/a2=H2(3σ-q-1)であり,σ=qが成立しますから,

結局kc2/a2=H2(2q-1)を得ます。

 

 そして,これらのパラメータの我々の位置での現在時刻t0の値に

ついては特にq0=-(d2/dt2)0/(aH02)のように下添字の 0

をつけて表現すれば,kc2/a02=H02(2q01)です。

 

 それ故,平坦な宇宙(k= 0)なら,q01/2,負曲率(k=-1)なら

01/2,正曲率(k=+1)ならq01/2です。

 

 Einstein方程式の1つは[(da/dt)/a0]2+H02(2q01)

-(8πGρ02/3a02)=0 となり,

 

 さらに,[(da/dt)/a0]2=H02[1-2q02q0(a0/a)]

となります。

x≡a(t)/0と置けば,先に挙げた積分は

0r1dr/(1-kr2)1/2=∫a(t1)a(t0)[c/a(t)](dt/da)da

=[c/((t0)0)]∫1/(1+z)1[1-2q02q0(a/a0)2]-1/2-1dx

となります。

 

これを計算すると,k=0,±1 によらず,

R=r10=[0(q01){(2q0z+1)1/2-1}]c/[002(1+z)]

が得られます。

 

したがって,Δθ1=d(1+z)/R0/[cψ(z)],

ただしψ(z)[0(q01){(2q0z+1)1/2-1}]/[02(1+z)2]

となります。

 

この式によれば,z<<1では,ψ(z)~z/(1+z)2 ~zにより,

zが大きくなるとΔθ1は減少しますが,

 

z>>1ではψ(z)~1/(0)なのでΔθ1はzと共に

増大します。

  

そこで,あるz=zc(0)でΔθ1は最小値を取ることになります。

 

特に,平坦な宇宙q01/2ではc(0)=5/4です。

 

このようにある距離より遠方にある天体の視角が距離が大きくなる

につれて大きくなるという効果は,01/2の平坦空間の場合にも

同様に生じることからもわかるように,

 

3次元空間の曲率によるものではなく,膨張の影響によるものです。

 

遠方の物体から現在の我々に光が到達するには,宇宙が今より

収縮している遠い過去に光が出発していなければなりません。

 

すなわち,遠方の天体からのものは我々からの距離が近かった

過去に光が発射されたものですから,大きく見えるのはこの

近距離のせいであると考えられます。

 

このことを,平坦な宇宙:q01/2の場合により詳しく見てみます。

 

まず,k= 0 なので∫rr1dr=∫t1tcdt/a(t)です。

 

このとき,Einstein方程式は,(da/dt)/a0=-H0(a0/a)1/2で,

(t)=a(t0)(t/t0)2/3と解けますから,

 

1-r(t)=(3ct02/3/0)(t1/3-t11/3)

となります。

 

それ故,各時刻での距離;a(t)r(t)は,

a(t)r(t)=3ct2/301/33ct,d(ar)/dt

=ct-1/3(201/33t1/3)を満たします。

 

d(ar)/dt=0 となる時刻は,t=8t0/27ですから,

距離はt=8t0/27を境にして増加から減少に転じること

がわかります。

 

あるいは,時刻t=8t0/27には,a(t)/a(t0)=(t/t0)2/34/9

であり,これは1/(1+z)=(t)/a(t0)によって,

z=zc(1/2)=5/4に相当します。

 

そこで,z=5/4の時期以前では接近しつつある光の距離が大きく

なりつつあることになります。

 

この時期には,視角Δθ1はzの増加と共に増加しつつある時期

と一致しています。

 

すなわち,rが大きい遠方の天体でも大きく見えるというのは,

z>5/4の時期に出発した光は,実はその固有距離a(t)rが,

より小さいところにあったためである,と考えられます。

 

そういう場所(z>5/4)から出発して観測者に"接近しつつある光"は,

一旦は距離が大きくなって観測者から離れていき,一方z=5/4以後

(z<5/4)に出発した光では距離が小さくなることが"接近"となり,

通常の常識的状況に一致してきます。

 

1=R/a0=[0(q01){(2q0z+1)1/2-1}]c/[0002

(1+z)]でz→ ∞ とした場合の値は地平線と呼ばれます。

 

何故なら,現在までに観測できる一番遠方の地点だからです。

 

そのr1をrHと書けば,観測可能な最遠方(=最過去)の天体の

我々からの固有距離はrH0=(c/H00)となります。

 

参考文献;佐藤文隆、原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店) 

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