« カルツァ・クラインの5次元統一場理論(2) | トップページ | 頭の体操(円周率:大学入試問題) »

2007年3月 8日 (木)

カルツァ・クラインの5次元統一場理論(3)

 さて,前回は5次元時空の線素dσ2が電磁場Aμと重力場

 gμνによって,dσ2=ds2(dx4+αAμdxμ)2

 と書けるらしい,というところまで論じました。

 

 ただし,ds2=gμνdxμdxνは4次元時空の線素です。

  

 そこで,この線素に基づく測地線(geodesic)の方程式;

 質点の運動方程式が現実の物理的軌道を示すものであるか

 どうか?を検証してみます。

 

 そのため,dσ2≡K2dτ2によって5次元の固有時τを導入し,

 一般相対性理論をまねて,作用積分:

 

 I≡∫dσ

 =∫|γij{x(τ)}(dxi/dτ)(dxj/dτ)|1/2dτ

 を与えます。

 

 さらに,Hamiltonの変分原理を適用すると,測地線の方程式:

 (d/dτ)(dxi/dτ)25Γimn(dxm/dτ)(dxn/dτ)=0

 が得られます。

 

 これは通常の4次元の一般相対性理論の運動学と同じです。

 

  ただし,変分に際して,

 |γij(x)(dxi/dτ)(dxj/dτ)|=定数≡K2という,

 τの定義が保持されるとしています。

 

 この測地線の方程式に前回最後に計算した接続係数5Γimn

 表現代入して書き換えると5次元の測地線の物理的意味が

 明らかになる,と予想されますが,

 

 これはかなり面倒なので,作用積分そのものにおいて,

 先に第4成分を分離しておき.変分原理を適用してみます。

 

 すなわち,作用積分を,

 

 I≡∫dσ

 =∫|gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)+{(dx4/dτ)

 +αAμ(dxμ/dτ)}2|1/2dτと書き,

 

 x4 やxμ の変分に対して,Iの変分がゼロとなる条件を

 求めます。

 

 この変分原理を解く微分方程式は,

 もちろん,Euler-Lagrange方程式で与えられます。

 

 x4 の変分に対する方程式は,

 ij(x)(dxi/dτ)(dxj/dτ)|=定数≡K2

 を用いて,{(dx4/dτ)+αAμ(dxμ/dτ)}/K=定数

 で与えられます。

 

  この右辺の定数をβ/K,つまり,

 {(dx4/dτ)+αAμ(dxμ/dτ)}=βと置けば,

 K2=|gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)+β2|

 となります。

 ,

 そこでτを一般相対論における固有時と一致させるために,

 c2=gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)=-β2±K2と置きます。

 

 右辺の正負の符号のいずれを採用するかは後で決めます。

 

 一方,xμ の変分に対するEuler-Lagrange方程式は,

 このβを用いて,

 d2μ/dτ2+Γμαβ(dxα/dτ)(dxβ/dτ)

 =αβfμν(dxν/dτ)という形で得られます。

 

 ここで,質点の質量mと電荷eを用いてαβ=e/mと取れば

 求めるスタイルの通常の"重力場を受けながら電磁場の内部

 を運動する荷電粒子の運動方程式"である,ところの

 d2μ/dτ2+Γμαβ(dxα/dτ)(dxβ/dτ)

 =(e/m)fμν(dxν/dτ) が導かれます。

 

 なお,c2=gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)=-β2±K2

 という要請が,これと矛盾しないことは明らかです。

 

 また,ξi≡δi4を用いれば,

 β=γ44(dx4/dτ)+γ(dxμ/dτ)

 =ξiγij(dxj/dτ) と書けます。

 

 そこで,この理論では荷電粒子の速度ベクトル(dxi/dτ)

 の大きさは,軌道に沿って一定値Kを取り,その方向はx4

 に対して常に一定の角度を保っているという描像になって

 います。

 

 次に場の従う方程式を求めます。

 

 そのためには,5次元空間の曲率テンソル:

 5ijmn≡∂m5Γinj-∂n5Γimj5Γimk5Γknj5-Γink5Γkmj,

 および,5mn5nm5imni,5R≡γmn 5mn

 を,4次元空間の曲率テンソルやfμνを用いて表わす

 ことが必要となります。

 

 この面倒な計算については,結果だけ書くと,

 

 5μν=Rμν2/2)(Aμλλν+Aνλλμ)

 +(α2/2)fμλλν-(α2/4)Aμνρσρσ,

 

 5=(α/2)∇λλμ-(α2/4)Aμρσρσ,

 544=-(α2/4)fρσρσ,

 5R=R+(α2/4)fρσρσ です。

 

 ここで,∇λは,もちろん4次元空間における共変微分です。

 

 場の方程式は,作用積分:

 I5≡-[1/(2κc)]∫[(-γ)1/2 5R]d5x+∫M5

 にHamiltonの変分原理を適用すれば得られるはずです。

 

 ここで重力場以外の物質場をφΛ(x)(Λ=1,2,.,N)とし,

 これから作られる物質場のLagranfianをMで表わしています。

 

 なお,γ≡det(γij)=gγ44=gです。

 

 

 γ441という条件付き変分原理とするため,Lagrangeの未定

 乗数法を適用して,-[1/(2κc)]∫λ(γ44-1)d5xという

 項を付加しておきます。

 

 そしてγmnに関する変分をとると, 

 [1/(2κc)][(-γ)1/2{5mn-(1/2)γmn5R}-λδm4δn4]

 -[1/(2c)] 5I mn=0 となります。

 

 ただし,5I mn≡-2c(δM/δγmn)です。

 

 また,λで変分をとれば,γ44-1=0 が得られます。

 

 これらは15個の方程式ですが,未知関数は15個のγij(x)に

 λ(x)を加えた16個です。

 

 しかし,γ44=1 なので,実際には15個であり,その中でm=n=4

 という式はλ(x)の定義式です。

 

 残りの14個のうち,10個は重力場の方程式,4個はMaxwellの方程式

 であるはずです。

 

 しかし,これをこのままで調べるのははなはだ面倒です。

 

 出発点の5次元作用積分を4次元量で書き直した方がわかり

 やすいということで,そうします。

 

 結果は,I5=∫I4dx4,

 I4≡-[1/(2κc)]∫[(-g)1/2{R+(α2/4)fρσρσ}]d4

 +∫M4xとなって,

 I4の各項は,全てx4に無関係な量で与えられます。

 

 このI4から,gμν,AμとφΛについて変分を取れば,

 求める場の方程式が導かれるはずです。

 

 ここで,特にα22κ/μ00 は真空の透磁率)とおくと,

 I4は一般相対論に出てくる作用積分と完全に一致します。

 

 δI4/δgμν=0 からは,(-g)1/2{Rμν-(1/2)gμνR}

 =κ[{(-g)1/20}(-fμανα+gμνρσρσ)+μν],

 μν≡-2c(δM/δgμν)=5I μν

 

 が得られます。

 

 また,δI4/δAμ=0 からは,∂{(-g)1/2μν}=μ0μ

 なる方程式が導かれます。

 

 μ/cは物質場の作る4次元電流密度です。

 

 これは,煩雑なので明示しませんが,重力場とは無関係に

 電流の保存法則:∂μμ=0 を満足します。

 

ところで未定であった定数α,βに対してαβとα2が明示的に与えら

れたので,β2=e2/(m2α2)=e2μ04/(16πGm2),

 

すなわち,2β2/c2~(1/137)(λc/a)です。

 

(1/137)は,謂わゆる無単位の微細構造常数の近似値であり,

λcとaはそれぞれ粒子のCompton波長とSchwarzschildの

重力半径を示しています。

 

例えば,荷電粒子が電子であれば,β2/c2 ~ 1045という大きな数

になります。

 

この場合は,c2=β2±K2の±はc2=β2-K2 とする必要があると

考えられます。

 

以上のようにKaluza-Kleinの理論は全ての点で電磁場と重力場

を時空の幾何学(geometry of space-time)として統一的に表現

することに一見成功しているように見えます。

 

しかし,実は電磁場が存在する場合の粒子の運動方程式:

2μ/dτ2+Γμαβ(dxα/dτ)(dxβ/dτ)

=αβfμν(dxν/dτ)は,

 

φΛとAμの結合に関して具体的知識がなくても,

Mがスカラー密度でありさえすれば必ず得られる方程式

なので,理論からこの運動方程式が導かれたとしても直ちに

理論がφΛとAμの正しい結合を表現しているとは言えません。

 

 この理論は量子論ではなくて古典論にすぎず,また,強い相互作用

弱い相互作用をも包摂して記述するには5次元では次元が小さ過ぎ

るとも言えます。

 

 重力場と電磁場のポテンシャルを計量テンソルを用いて統一的

記述できたとしても,それだけでは単に重力場と電磁場をまとめて

便利な形に書き表わしたというに過ぎないという見方もできます。

 

 例えばこうした統一的記述のおかげで,素電荷eの存在理由とか,

Gとeの間の未知であった新しい関係などが発見されるようなこと,

 

が少なくとも1つは表現されて,はじめて統一理論が真に実現され

たというべきだ,という批判もあろうと思われます。

(この項終わり)

 

参考文献:内山龍雄 著「一般ゲージ場論序説」(岩波書店) 

 

http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー)                                  TOSHI 

人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。)

にほんブログ村 科学ブログへクリックして投票してください。(ブログ村科学ブログランキング)

にほんブログ村 トラコミュ 物理学へ
 物理学

 

|

« カルツァ・クラインの5次元統一場理論(2) | トップページ | 頭の体操(円周率:大学入試問題) »

115. 素粒子論」カテゴリの記事

105. 相対性理論」カテゴリの記事

103. 電磁気学・光学」カテゴリの記事

コメント

 ども、T.NAKAさん、ご無沙汰しています。TOSHIです。

 ブログはときどき拝見しています。確かに、時期的にややかぶっているようですね。竹内薫さんの「次元の秘密」に解説があるのですか。。。あいにく読んでいませんが。。

 確かに「弦理論」でも4次元以外の「余剰次元」は現時点では「コンパクト化されている」とか「丸まっている」とか表現されていてビッグバン初期の「宇宙開闢時」にのみ対等な次元として存在していたとされていますね。

             TOSHI

投稿: TOSHI | 2007年3月16日 (金) 00時28分

ご無沙汰しております。

カルツァ-クライン理論については、私のブログでも最近触れましたが、啓蒙書にある表現『5次元目は目に見えないのであるから、小さく縮まっているに違いない』が何だか受け入れ難いという話題に終始していました。

TOSHIさんのご説明で、少し納得がいきました。どうもありがとうございます。
5次元目の平行移動で物理現象が変わらないということから、出てくることなんですね。
(これも素人の誤解という可能性もありますが、、)
しかし、1次元加えることでゲージ変換式が導出されるのは感心しました。
後半の議論は私の学力では捕捉できない部分もありましたが、、

投稿: T_NAKA | 2007年3月15日 (木) 22時15分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: カルツァ・クラインの5次元統一場理論(3):

« カルツァ・クラインの5次元統一場理論(2) | トップページ | 頭の体操(円周率:大学入試問題) »