カルツァ・クラインの5次元統一場理論(3)
さて,前回は5次元時空の線素dσ2が電磁場Aμと重力場
gμνによって,dσ2=ds2+(dx4+αAμdxμ)2
と書けるらしい,というところまで論じました。
ただし,ds2=gμνdxμdxνは4次元時空の線素です。
そこで,この線素に基づく測地線(geodesic)の方程式;
質点の運動方程式が現実の物理的軌道を示すものであるか
どうか?を検証してみます。
そのため,dσ2≡K2dτ2によって5次元の固有時τを導入し,
一般相対性理論をまねて,作用積分:
I≡∫dσ
=∫|γij{x(τ)}(dxi/dτ)(dxj/dτ)|1/2dτ
を与えます。
さらに,Hamiltonの変分原理を適用すると,測地線の方程式:
(d/dτ)(dxi/dτ)2+5Γimn(dxm/dτ)(dxn/dτ)=0
が得られます。
これは通常の4次元の一般相対性理論の運動学と同じです。
ただし,変分に際して,
|γij(x)(dxi/dτ)(dxj/dτ)|=定数≡K2という,
τの定義が保持されるとしています。
この測地線の方程式に前回最後に計算した接続係数5Γimnの
表現を代入して書き換えると5次元の測地線の物理的意味が
明らかになる,と予想されますが,
これはかなり面倒なので,作用積分そのものにおいて,
先に第4成分を分離しておき.変分原理を適用してみます。
すなわち,作用積分を,
I≡∫dσ
=∫|gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)+{(dx4/dτ)
+αAμ(dxμ/dτ)}2|1/2dτと書き,
x4 やxμ の変分に対して,Iの変分がゼロとなる条件を
求めます。
この変分原理を解く微分方程式は,
もちろん,Euler-Lagrange方程式で与えられます。
x4 の変分に対する方程式は,
|γij(x)(dxi/dτ)(dxj/dτ)|=定数≡K2
を用いて,{(dx4/dτ)+αAμ(dxμ/dτ)}/K=定数
で与えられます。
この右辺の定数をβ/K,つまり,
{(dx4/dτ)+αAμ(dxμ/dτ)}=βと置けば,
K2=|gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)+β2|
となります。
,
そこでτを一般相対論における固有時と一致させるために,
c2=gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)=-β2±K2と置きます。
右辺の正負の符号のいずれを採用するかは後で決めます。
一方,xμ の変分に対するEuler-Lagrange方程式は,
このβを用いて,
d2xμ/dτ2+Γμαβ(dxα/dτ)(dxβ/dτ)
=αβfμν(dxν/dτ)という形で得られます。
ここで,質点の質量mと電荷eを用いてαβ=e/mと取れば
求めるスタイルの通常の"重力場を受けながら電磁場の内部
を運動する荷電粒子の運動方程式"である,ところの
d2xμ/dτ2+Γμαβ(dxα/dτ)(dxβ/dτ)
=(e/m)fμν(dxν/dτ) が導かれます。
なお,c2=gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)=-β2±K2
という要請が,これと矛盾しないことは明らかです。
また,ξi≡δi4を用いれば,
β=γ44(dx4/dτ)+γ4μ(dxμ/dτ)
=ξiγij(dxj/dτ) と書けます。
そこで,この理論では荷電粒子の速度ベクトル(dxi/dτ)
の大きさは,軌道に沿って一定値Kを取り,その方向はx4 軸
に対して常に一定の角度を保っているという描像になって
います。
次に場の従う方程式を求めます。
そのためには,5次元空間の曲率テンソル:
5Rijmn≡∂m5Γinj-∂n5Γimj+5Γimk5Γknj5-Γink5Γkmj,
および,5Rmn=5Rnm≡5Rimni,5R≡γmn 5Rmn
を,4次元空間の曲率テンソルやfμνを用いて表わす
ことが必要となります。
この面倒な計算については,結果だけ書くと,
5Rμν=Rμν+(α2/2)(Aμ∇λfλν+Aν∇λfλμ)
+(α2/2)fμλfλν-(α2/4)AμAνfρσfρσ,
5R4μ=(α/2)∇λfλμ-(α2/4)Aμfρσfρσ,
5R44=-(α2/4)fρσfρσ,
5R=R+(α2/4)fρσfρσ です。
ここで,∇λは,もちろん4次元空間における共変微分です。
場の方程式は,作用積分:
I5≡-[1/(2κc)]∫[(-γ)1/2 5R]d5x+∫LMd5x
にHamiltonの変分原理を適用すれば得られるはずです。
ここで重力場以外の物質場をφΛ(x)(Λ=1,2,.,N)とし,
これから作られる物質場のLagranfianをLMで表わしています。
なお,γ≡det(γij)=gγ44=gです。
γ44=1という条件付き変分原理とするため,Lagrangeの未定
乗数法を適用して,-[1/(2κc)]∫λ(γ44-1)d5xという
項を付加しておきます。
そしてγmnに関する変分をとると,
[1/(2κc)][(-γ)1/2{5Rmn-(1/2)γmn・5R}-λδm4δn4]
-[1/(2c)] 5I mn=0 となります。
ただし,5I mn≡-2c(δLM/δγmn)です。
また,λで変分をとれば,γ44-1=0 が得られます。
これらは15個の方程式ですが,未知関数は15個のγij(x)に
λ(x)を加えた16個です。
しかし,γ44=1 なので,実際には15個であり,その中でm=n=4
という式はλ(x)の定義式です。
残りの14個のうち,10個は重力場の方程式,4個はMaxwellの方程式
であるはずです。
しかし,これをこのままで調べるのははなはだ面倒です。
出発点の5次元作用積分を4次元量で書き直した方がわかり
やすいということで,そうします。
結果は,I5=∫I4dx4,
I4≡-[1/(2κc)]∫[(-g)1/2{R+(α2/4)fρσfρσ}]d4x
+∫LMd4xとなって,
I4の各項は,全てx4に無関係な量で与えられます。
このI4から,gμν,AμとφΛについて変分を取れば,
求める場の方程式が導かれるはずです。
ここで,特にα2≡2κ/μ0 (μ0 は真空の透磁率)とおくと,
I4は一般相対論に出てくる作用積分と完全に一致します。
δI4/δgμν=0 からは,(-g)1/2{Rμν-(1/2)gμνR}
=κ[{(-g)1/2/μ0}(-fμαfνα+gμνfρσfρσ)+Mμν],
Mμν≡-2c(δLM/δgμν)=5I μν
が得られます。
また,δI4/δAμ=0 からは,∂{(-g)1/2fμν}=μ0Jμ
なる方程式が導かれます。
Jμ/cは物質場の作る4次元電流密度です。
これは,煩雑なので明示しませんが,重力場とは無関係に
電流の保存法則:∂μJμ=0 を満足します。
ところで未定であった定数α,βに対してαβとα2が明示的に与えら
れたので,β2=e2/(m2α2)=e2μ0c4/(16πGm2),
すなわち,2β2/c2~(1/137)(λc/a)です。
(1/137)は,謂わゆる無単位の微細構造常数の近似値であり,
λcとaはそれぞれ粒子のCompton波長とSchwarzschildの
重力半径を示しています。
例えば,荷電粒子が電子であれば,β2/c2 ~ 1045という大きな数
になります。
この場合は,c2=β2±K2の±はc2=β2-K2 とする必要があると
考えられます。
以上のようにKaluza-Kleinの理論は全ての点で電磁場と重力場
を時空の幾何学(geometry of space-time)として統一的に表現
することに一見成功しているように見えます。
しかし,実は電磁場が存在する場合の粒子の運動方程式:
d2xμ/dτ2+Γμαβ(dxα/dτ)(dxβ/dτ)
=αβfμν(dxν/dτ)は,
φΛとAμの結合に関して具体的知識がなくても,
LMがスカラー密度でありさえすれば必ず得られる方程式
なので,理論からこの運動方程式が導かれたとしても直ちに
理論がφΛとAμの正しい結合を表現しているとは言えません。
この理論は量子論ではなくて古典論にすぎず,また,強い相互作用
や弱い相互作用をも包摂して記述するには5次元では次元が小さ過ぎ
るとも言えます。
重力場と電磁場のポテンシャルを計量テンソルを用いて統一的
に記述できたとしても,それだけでは単に重力場と電磁場をまとめて
便利な形に書き表わしたというに過ぎないという見方もできます。
例えばこうした統一的記述のおかげで,素電荷eの存在理由とか,
Gとeの間の未知であった新しい関係などが発見されるようなこと,
が少なくとも1つは表現されて,はじめて統一理論が真に実現され
たというべきだ,という批判もあろうと思われます。
(この項終わり)
参考文献:内山龍雄 著「一般ゲージ場論序説」(岩波書店)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
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コメント
ども、T.NAKAさん、ご無沙汰しています。TOSHIです。
ブログはときどき拝見しています。確かに、時期的にややかぶっているようですね。竹内薫さんの「次元の秘密」に解説があるのですか。。。あいにく読んでいませんが。。
確かに「弦理論」でも4次元以外の「余剰次元」は現時点では「コンパクト化されている」とか「丸まっている」とか表現されていてビッグバン初期の「宇宙開闢時」にのみ対等な次元として存在していたとされていますね。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年3月16日 (金) 00時28分
ご無沙汰しております。
カルツァ-クライン理論については、私のブログでも最近触れましたが、啓蒙書にある表現『5次元目は目に見えないのであるから、小さく縮まっているに違いない』が何だか受け入れ難いという話題に終始していました。
TOSHIさんのご説明で、少し納得がいきました。どうもありがとうございます。
5次元目の平行移動で物理現象が変わらないということから、出てくることなんですね。
(これも素人の誤解という可能性もありますが、、)
しかし、1次元加えることでゲージ変換式が導出されるのは感心しました。
後半の議論は私の学力では捕捉できない部分もありましたが、、
投稿: T_NAKA | 2007年3月15日 (木) 22時15分