クレローの微分方程式1(解の存在定理の応用)
y=xy'+φ(y')の形の微分方程式をクレロー(Clairaut)の微分方程式(Alexis Claude Clairaut's equation)といいます。
今日は,これの解法を与えてみます。
ただし,もちろん,y'はdy/dxを意味します。
この方程式には代表的な2つの解法が知られていますが,これらを解法1,解法2と呼び,今日は解法1を紹介します。
※(解法1):
方程式:y=xy'+φ(y')にy'の代わりに,任意定数Cを
代入すると,"方程式の等傾曲線族,つまり傾きがすべて定数Cである
曲線族"として直線族:y=xC+φ(C)が得られます。
この等傾曲線族は,その傾き:y'=dy/dxが各点で.
この"曲線族=直線"の傾きと一致するので,任意のCに対して
確かに元の微分方程式の解になっています。
今,φ(y')がy'に関して微分可能であると仮定し,
Φ(x,y,y')≡xy'+φ(y')-yとおけば,
∂Φ/∂y'=x+dφ(y')/dy'≠0 ,
かつ,Φ(x,y,y')=xy'+φ(y')-y=0 を満足するような
点(x0,y0,y0')が存在するとき,
y'は(x0,y0)に十分近い全ての点(x,y)に対して,
y'=f(x,y)なる陰関数という形で得られます。
ここで,f(x,y)は,もちろんy0'=f(x0,y0)を満足し,
(x0,y0)の近傍で連続です。
偏導関数;∂f/∂y=-(∂Φ/∂y)/(∂Φ/∂y')は∂Φ/∂y'≠0
である限り,(x0,y0)の近傍で存在します。
もちろん,∂Φ/∂y,∂Φ/∂y'は,点(x,y,f(x,y))に
対するものです。
ここで,∂Φ/∂y,∂Φ/∂y'もΦ(x,y,y')と同様,
それらの点で連続と仮定すると,∂f/∂yもまた,
それらの点で連続となります。
したがって,∂Φ/∂y'≠0 であるような点(x0,y0)の近傍の
任意の閉領域では,|∂f/∂y|<kなるk>0 が存在し,
その領域では「解の存在と一意性の定理」により,領域内の
任意の点を通る解の全てが一意的に存在して唯一の任意定数を
持つ一般解が得られることがわかります。
Clairautの微分方程式:Φ(x,y,y')≡xy'+φ(y')-y=0
の場合には,∂Φ/∂y'=x+dφ(y')/dy',∂Φ/∂y=-1
です。
そこで,xy'+φ(y')-y=0 を満足しx+dφ(y')/dy'≠0
であるような点(x0,y0,y0')が存在するとき,点(x0,y0)の近傍で,
一般解y=ψ(x,C)が存在して,しかも一意的であることがわか
ります。
一方,Φ(x,y,C)=xC+φ(C)-y=0 ,
つまり,y=xC+φ(C)を考えると,
これが全てのCに対してΦ(x,y,y')≡xy'+φ(y')-y=0
の解となることは既に述べましたが,
これが一般解であるかどうかは示していません。
しかし,ある(x0,y0)が存在して,
Φ(x0,y0,C0)=x0C0+φ(C0)-y0=0 が成立するような
C0が存在し∂Φ/∂y'=∂Φ/∂C0=x0+dφ(C0)/dC0≠0
が成立する限り,
前と同様,(x0,y0)の近傍の全ての点で
Φ(x,y,C)=xC+φ(C)-y=0 となるようなC
が存在することがわかります。
ただし,もちろん∂Φ/∂Cは(x,y,C)に対する
(x0,y0,C0)の近傍で連続なので,
∂f/∂y=1/(∂Φ/∂y')も連続であり,(x0,y0)の近傍での
Φ(x,y,y')=0 の一般解の存在領域と,
Φ(x,y,C)=0 なるCの存在領域は
全く一致します。
しかも解は1つの点(x,y)に対しては1価ですから,
結局Φ(x,y,C)=0,またはy=xC+φ(C)が,
その存在領域に対応する一般解であることがわか
ります。
そして,実際にΦ(x0,y0,C0)=x0C0+φ(C0)-y0=0
を満足する点(x0,y0,C0)は必ず存在します。
何故なら,φ(C)の定義域の任意の値C=bを取れば点
(1,b+φ(b),b)は確かにΦ(x,y,C)=0 上の点で
あるからです。
したがって,[x+dφ(C)/dC]x=1,C=b
=1+[dφ(C)/dC]C=b≠0 である限り,(1,b+φ(b))
の近傍で,y=C+φ(C)は一般解となります。
(Cはbに十分近い値でdφ/dCはC=bで連続であるとします。)
一般には,∂Φ/∂y'=0,かつΦ(x,y,y')=0 の近傍でも
y'=f(x,y),Φ(x,y,f(x,y))=0 ,|∂f/∂y|<kなる,
その点を通る関数f(x,y)が存在する場合も多々あります。
しかし,この場合は∂Φ/∂y'=x+dφ/dy'=0 なので,
Φ(x,y,f(x,y))=0 なる,その点を通るf(x,y)が存在しても,
両辺をyで偏微分したとき,
恒等的に∂Φ/∂y+(∂Φ/∂y')(∂f/∂y)=0 です。
これから,-1+0・(∂f/∂y)=0 となり,これを満たす
有界な(∂f/∂y)は存在しません。
よって,∂Φ/∂y≠0 .かつ∂Φ/∂y'=0 なる点を初期値とする
ようなΦ(x,y,y')=0 の解は存在と一意性の定理の仮定によって
保証された解ではない,と考えてよいでしょう。
しかし,もしそのような∂Φ/∂y'=0,∂Φ/∂y≠ 0 なる点
を通る解上のその近傍の点に対して∂Φ/∂y'≠0 で,
しかも∂Φ/∂y',∂Φ/∂yが連続であれば,
その解はやはりΦ(x,y,y')=0 の一般解であって
∂Φ/∂y'=0 なる点を通るものであると考えられます。
そこで,∂Φ/∂y'=0 が常に満足され,Φ(x,y,y')=0
も満足されるような解(ただし少なくとも,その上の1点では
∂Φ/∂y'≠0)を特異解として取るべきであると考えられます。
∂Φ/∂y'=0,∂Φ/∂y≠0,Φ(x,y,y')=0 なる
1点を(x0,y0,y0')とすると,∂2Φ/∂y'2≠0 であり
さえすれば,
(∂Φ/∂y)(∂2Φ/∂y'2)-(∂Φ/∂y')[∂2Φ/(∂y'∂y)]
=(∂Φ/∂y)(∂2Φ/∂y'2)≠0 です。
そこで,Φ(x,y,y')と∂Φ/∂y',および,それらの全ての
偏導関数が点(x0,y0,y0')とその近傍で連続である限り,
x0に十分近いxに対してΦ(x,y,y')=0,∂Φ/∂y'=0
を満足し,連続で1階導関数を持ち(x0,y0),および(x0,y0')
を通る関数y=ψ(x),およびy'=ω(x)が存在することが
わかります。
このとき,x=x0とその近傍でψ'(x)=ω(x)が恒等的に
成立すれば,確かにy=ψ(x)はΦ(x,ψ(x),ψ'(x))=0,
かつ [∂Φ(x,y,y')/∂y']y=ψ(x),y'=ψ'(x)=0 を満足する
ので特異解となります。
今のClaieautの微分方程式の場合は,
Φ(x,y,y')=xy'+φ(y')-y,
∂Φ/∂y'=x+dφ(y')/dy'なので,
全ての点で∂Φ/∂y=-1≠0 です。
したがって,∂2Φ/∂y'2=∂2φ/∂y'2が存在して,
しかもゼロではないような点の近傍で,それが連続なら
y=ψ(x),y'=ω(x)なるΦ(x,y,y')= 0,∂Φ/∂y'=0
を同時に満たす陰関数が必ず存在します。
次に,このy=ψ(x)が確かに微分方程式Φ(x,y,y')=0
の解となることを示しましょう。
y,y'をxの連続な関数と考えると, 0=dΦ/dx
=∂Φ/∂x+(∂Φ/∂y)(dy/dx)+(∂Φ/∂y')(dy'/dx)
です。
ここでy'=ω(x)は∂Φ/∂y'=0 を満足し,y=ψ(x),
y'=ω(x)は確かに有界な導関数を持ちますから,
これらと∂Φ/∂x=y'=ω(x),∂Φ/∂y=-1を代入すると,
0=ω(x)-dψ(x)/dxとなります。
結局,dψ(x)/dx=ω(x)ですから,
y=ψ(x)は確かに微分方程式Φ(x,y,y')=0 の解です。
以上から,y=xy'+φ(y'),x+dφ(y')/dy'=0 から
y'を消去して得られる解y=ψ(x)が存在すれば,
それはClauraurの微分方程式:y=xy'+φ(y')の特異解
であることが示されました。
今日はここまでとし,解法2については次回に書きます。
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