クレローの微分方程式2(常微分方程式の解の存在定理の応用)
前回に続き,クレロー(A.C.Clairaut)の微分方程式:
y=xy'+φ(y')の解法です。
今日は解法2です。
※(解法2):
y'=pとオけば方程式y=xy'+φ(y')は,
y=xp+φ(p)と書けます。
一般に1階常微分方程式がy=f(x,y')なる形で与えられて
いるとき,y'=pと置けば,これはy=f(x,p)と書けます。
そこで,もしも方程式系:y'=p,y=f(x,p)を満足する
ようなxの関数p=p(x)が存在するなら,
y=f(x,p(x))の両辺は,もちろんxで微分可能なので,
dy=pdx,かつ,dy=df=(∂f/∂x)dx+(∂f/∂p)dp
が成立します。
(ここで,f(x,p)はその定義域で連続な偏導関数∂f/∂x,∂f/∂p
を持つと仮定しています。)
それ故,pdx=(∂f/∂x)dx+(∂f/∂p)dp
⇔ p=(∂f/∂x)+(∂f/∂p)(dp/dx)
が得られます。
∂f/∂x,∂f/∂pはxとpのみの関数ですから,
p=(∂f/∂x)+(∂f/∂p)(dp/dx)は,
xの関数pに対する微分方程式になっています。
特に,∂f/∂p≠0 の場合は,容易に正規形;
dp/dx=g(x,p)なる形式に変形できます。
逆に,p=(∂f/∂x)+(∂f/∂p)(dp/dx)を
満足するxの関数p=p(x)が存在するなら,
そのようなp(x)を代入して得られる関数:
y=f(x,p(x))は,確かにy=f(x,y')
の解です。
何故なら,y=f(x,p)に対しては,
y'=(∂f/∂x)+(∂f/∂p)(dp/dx),かつ
p=(∂f/∂x)+(∂f/∂p)(dp/dx)より,
y'=pが成立するので,明らかにy=f(x,p)=f(x,y')
となるからです。
(解法1)と同様な考察から,f(x,p)が連続で,∂f/∂p
もまた連続かつゼロでないような点(x,p)の十分近傍の
領域では,Φ(x,y,p)≡y-f(x,p)=0 は連続な
陰関数p=p(x,y)を持ちます。
このとき,∂Φ(x,y,p(x,y))/∂y=1-(∂f/∂p)(∂p/∂y)
=0 により,∂p/∂y=1/(∂f/∂p)です。
そして今の場合,∂f/∂pは∂f/∂p≠0 を満たし,かつ連続
と仮定しているので,∂p/∂yは点(x,p)の十分近傍の閉領域
で有界となり,y'=p(x,y)は存在と一意性に保証された
一般解のみを与えます。
すなわち,∂f/∂pが連続,かつゼロでないような場合のpに
対してはy=f(x,p(x))は一般解です。
このとき,p(x)=ψ(x,C)なる形でpに対する解も得られます。
一方,∂Φ/∂p=-∂f/∂p=0,∂Φ2/∂p2=-∂f2/∂p2≠0
でΦ(x,y,p)=y-f(x,p)=0 なる点(x0,y0,p0)が存在
すれば,∂Φ/∂y=1≠0 が常に成立することから,
x0 に十分近いxに対して,連続で1階導関数を持ち,
∂f/∂p=0 かつy=f(x,p)を満足する関数:
y=ψ(x),p=ω(x)が存在して,y0=ψ(x0),
p0=ω(x0)を満たします。
そこで,もしψ'(x)=ω(x)が成立するなら,y=ψ(x)は
y=f(x,y')の特異解となります。
それ故,∂2f/∂p2≠0 と仮定すれば,y=f(x,p),
かつy'=pなる式からpを消去して,y=f(x,y')
の特異解を求めることができます。
ところが,y=f(x,p),かつy'=pは,
y=f(x,p),かつp=(∂f/∂x)+(∂f/∂p)(dp/dx)
と同値です。
すなわち,y=f(x,y')の解の全ては,pに対する微分方程式:
p=(∂f/∂x)+(∂f/∂p)(dp/dx)から得られる
解p(x)をf(x,p)に代入して得られます。
"∂f/∂p=0,かつp=(∂f/∂x)+(∂f/∂p)(dp/dx)
⇔ ∂f/∂p=0 ,かつp=∂f/∂x"ですから,
もしこれらを同時に満足するp=ω(x)が存在すれば,
y=f(x,ω(x))は確かにy=f(x,y')の特異解
となります。
以上の考察から,Clairautの微分方程式については,
y=xp+φ(p)より,p=p+[x+φ'(p)]p',
すなわち[x+φ'(p)]p'=0 の解p=ω(x)を代入した
関数y=xω(x)+φ(ω(x))が解となることがわかります。
(1)Clairautの微分方程式では,f(x,p)=xp+φ(p)より,
∂f/∂p=x+φ'(p)ですからx+φ'(p)≠0 に対しては,
[x+φ'(p)]p'=0 はp'=0 を意味し,このとき,
y=xp+φ(p)は一般解です。
p'=0 よりp=C(Cは任意定数)が得られることから,
結局y=xC+φ(C)が一般解として得られます。
(2)f(x,p)=xp+φ(p)より,∂f/∂x=pですから,
p=∂f/∂xは如何なる関数p(x)に対しても成立するので,
∂f/∂p=x+φ'(p)=0 ,かつy=xp+φ(p)から
pを消去すれば,y=xy'+φ(y')の特異解が得られます。
あるいは実際に計算してx+φ'(p)=0 なるp=ω(x)を代入して
y=xω(x)+φ(ω(x))を作ると,
y'=ω(x)+[x+φ'(ω(x))]ω'(x)=ω(x)より,
確かにy=xω(x)+φ(ω(x))がy=xy'+φ(y')の解
であることがわかります。
(ただ特異解であるかどうかを厳密に判定するには,
やはり∂f/∂y'=∂f/∂p=0 となることを確
かめる必要があります。)
Clairautの微分方程式は
"接線が接線自身にのみ関係して接点には関係しないような
与えられた性質を持つ曲線を決定する。"
という幾何学的問題から導かれます。
すなわち,接線の方程式は,その流通座標を(X,Y)とするとき,
曲線上の任意の点(x,y)において,Y-y=y'(X-x)
⇔Y=y'X+(y-xy') と表わされます。
直線というのは,一般にその"勾配=傾き"とy切片を与えること
によって完全に決まりますから,接線の性質は全て(y-xy')
とy'の関係として,Φ(y-xy',y')=0 と表わされます。
これを(y-xy')について解けば,y-xy'=φ(y'),つまり,
Clairautの微分方程式:y=xy'+φ(y')が得られるわけです。
(以上,この項終わり)
http://fphys.nifty.com/(ニフティ「物理フォーラム」サブマネージャー) TOSHI
人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。)
http://homepage2.nifty.com/toshis-kaiga-auction/「健康商品の店 タクザイ」
← クリックして投票してください。(ブログ村科学ブログランキング)
物理学 |
| 固定リンク
「308. 微分方程式」カテゴリの記事
- 積分方程式(2)(2009.09.11)
- 積分方程式(1)(導入)(2009.08.30)
- 水の波(8)(有限振幅の波:非線形波3)(2009.07.24)
- 水の波(7)(有限振幅の波:非線形波2)(2009.07.17)
- 水の波(6)(有限振幅の波:非線形波1)(2009.07.15)
「304. 解析学」カテゴリの記事
- 指数関数,三角関数の構成的定義(2011.07.09)
- 三角関数を含むある関数の定積分(2008.08.14)
- 実数から複素数へ(2008.02.16)
- デデキントの切断(補遺)(2008.02.11)
- デデキントの切断(Dedekind cut)(2008.02.10)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント