2階線形常微分方程式と確定特異点
線形常微分方程式に関連する話題の続きです。
まず,複素数zを独立変数とする2階線形斉次常微分方程式を
y"+p(z)y'+q(z)y=0 と書きます。
ただし,p(z),q(z)はzの有理関数であると仮定します。
※(注):有理関数とはzの多項式を分子,分母とするような,zの多項式の四
則演算のみから得られる関数のことです。
これに対して,zの有理関数のルートやベキ根をとるような関数はzの
無理関数といわれます。(注終わり)※
そして,p(z),q(z)のいずれか,または両方がz=αに1つの極を持つとします。
このとき,先に述べた定理のn=2のケースに相当して,次の定理が
成立します。
"2階線形斉次常微分方程式:y"+p(z)y'+q(z)y=0 で係数
p(z),q(z)は領域D={z∈C|0<|z-α|<r}で正則とする。
このとき,この微分方程式がz=αを確定特異点とする異なる2つの
独立な解を持つための必要十分条件は,p(z)とq(z)がz=αに
それぞれ高々1位と高々2位の極を持つことである。
すなわち,p(z)≡P(z)/(z-α),q(z)≡Q(z)/(z-α)2とおけば
P(z),Q(z)がz=αで正則なることが必要十分条件である。
つまり,上記の必要十分条件はP(z),Q(z)が|z-α|<rで正則
でΣn=0∞an(z-α)nとベキ級数展開可能なことである。"
という定理ですね。
そして,y"+p(z)y'+q(z)y=0 の解の解析性を完全に理解するためには,p(z),q(z)が無限遠点z=∞を極とする場合,つまり解がz=∞ に特異点を取る場合も考慮しなければなりません。
すなわち,対象とする領域は全複素z平面Cだけではなく複素関数論で通常考察される全z平面であるところのC∪{∞}とします。
ここで,y"+p(z)y'+q(z)y=0 においてz=∞ が正則点である,
または特異点であるとは,この方程式をz≡1/uによってuの2階方程式
に変換したとき,その方程式において,それぞれu=0 が正則点である,
または特異点であることである。と定義します。
まあ,これは全く妥当な(well-definedな)定義です。
z≡1/uとおけばdz=-du/u2より,d/dz=-u2(d/du)
です。
それ故,d2/dz2=u2(d/du){u2(d/du)}
=2u3(d/du)+u4(d2/du2) となります。
結局,y"+p(z)y'+q(z)y=0 は,
(d2y/du2)+[2/u-(1/u2)p(1/u)](dy/du)+(1/u4)q(1/u)
=0 と変換されます。
したがって,無限遠点z=∞ に対しては,上述の定理は,
"z=∞ がy"+p(z)y'+q(z)y=0 の正則点であるための条件は
z{2-zp(z)}とz4q(z)がz=∞ で正則であることである。
特に前者はlimz→∞zp(z)=2 が必要条件なることを意味する。
そしてz=∞が確定特異点であるための必要十分条件はzp(z)とz2q(z)がz=∞ で正則(有限)であることである。"
となります。
例えば,y"-{2z/(1-z)}y'+{2/(1-z2)}y=0 ではz=∞ は確定特異点ですが,Besselの微分方程式z2y"-zy'+(z2-ν2)y=0 ではz=0 は確定特異点ですが,z=∞ は不確定特異点です。
次に,y"+p(z)y'+q(z)y=0 の確定特異点z=αの近傍における解は,y(z)=(z-α){f(z)+g(z)log(z-α)}(f(z),g(z)はz=αで正則な関数)という一般式で与えられますから,
Frobenius(フロベニウス)の方法に基づき,確定特異点z=αの近傍においてf(z),g(z)が(z-α)の正ベキの級数に展開できることを用いて微分方程式を具体的に解くことを試みます。
一般性を失うことなく,特異点はz=0 であるとします。
先の定理によって,zp(z)とz2q(z)はz=0 で正則であるはずです
から,P(z)≡zp(z),Q(z)≡z2q(z)として,これらをzのベキ
級数で展開したものを,P(z)≡Σk=0∞Pkzk,Q(z)≡Σk=0∞Qkzkと
表現しておきます。
また,元の方程式をL(y)≡z2y"+zP(z)y'+ Q(z)y=0 と書き直しておきます。
このとき,L(zρ)=ρ(ρ-1)zρ+ρP(z)zρ+Q(z)zρ
=φ(z,ρ)zρ,ただしφ(z,ρ)≡ρ(ρ-1)+ρP(z)+Q(z)
であり,これはφ(z,ρ)=φ0(ρ)+φ1(ρ)z+φ2(ρ)z2+..と
展開できるはずです。
未定係数法が適用できるとして,両辺のzの各ベキの係数を比較することにより,φ0(ρ)=ρ(ρ-1)+ρP0+Q0,φk(ρ)=ρPk+Qk
(k=1,2,...)なる等式群が得られます。
まず,y"+p(z)y'+q(z)y=0 の解でlogzに関わる項が現われ
ない場合を想定してy(z)≡zρΣk=0∞akzkと置きます。
ここでρはy(z)のz=0 における指数と呼ばれます。
y(z)≡zρΣk=0∞akzkという形式解をL(y)≡z2y"+zP(z)y'
+ Q(z)y=0 に代入すると,
L(y)=Σk=0∞akL(zρ+k)
=zρΣk=0∞ak[φ0(ρ+k)+φ1(ρ+k)z+φ2(ρ+k)z2+..]zk
=0 となります。
したがって,再び未定係数法を適用してa0φ0(ρ)=0,
a1φ0(ρ+1)+a0φ1(ρ)=0...+akφ0(ρ+k)+a0φ1(ρ+k-1)+...+a0φk(ρ)=0 が得られます。
まず,a0φ0(ρ)=0 においてa0=任意の定数≠0 なのでφ0(ρ)
=ρ(ρ-1)+ρP0+Q0=0 が成立します。
これはρに関する2次方程式であり,ρの決定方程式と呼ばれます。
そして,その2根をρ=ρ1,ρ2とするとき,ρ1-ρ2が整数であるかどうかによって方程式の解き方が異なります。
① ρ1-ρ2≠(整数)のとき
ρ=ρi (i=1,2)とします。
L(y)=0 のベキzρ+kについての未定係数法による第2式:a1φ0(ρi+1)+a0φ1(ρi)=0 から,a1=-a0φ1(ρi)/φ0(ρi+1) となり,a0=任意の定数≠0 を与えることによりa1も決まります。
これはρ1-ρ2≠(整数)なので,φ0(ρi)=0 なら確実にφ0(ρi+1)≠0 がいえるからです。
同様に,第3,4,..式から漸化式により順にa2,a3,..が決まります。
今の場合ρ1-ρ2≠(整数)なので,akφ0(ρi+k)+ak-1φ1(ρi+k-1)+..+a0φk(ρi)=0 (k=1,2,..)においてakの係数φ0(ρi+k)が決して 0 にはならないので,a0=任意の定数≠0 を与えれば原理的には全てのakが決まります。
そこで,ρ=ρ1,ρ2 のそれぞれに対してakの列:{a(1)k},{a(2)k}が得ら
れるので,これに対応して,y1=zρ1Σk=0∞a(1)kzk,
y2=zρ2Σk=0∞a(2)kzk が得られます。
これら2つの解は明らかに互いに1次独立なので,
y"+p(z)y'+q(z)y=0 の1組の基本解です。
②ρ1-ρ2=(整数)のとき
決定方程式の根をρ=ρ1,ρ2,ただし,ρ2=ρ1-m (mは 0 ,または
正の整数)とします。
ρ1についてはρ1≧ρ2ですから,k=1,2,..に対してφ0(ρ1+k)=0
となることはないので,
上の①の方法に従ってy1=zρ1Σk=0∞a(1)k zkが求まります。
一方ρ=ρ2に対しては,φ0(ρ2+m)=0 となるので,
akφ0(ρ2+k)+ak-1φ1(ρ2+k-1)+..+a0φk(ρ2)=0 において,
k=mとしたときにamが決まりません。
それ故,k≧mの全てのkに対しakを求めることができません。
そこで,a0φ0(ρ)=0 ,a1φ0(ρ+1)+a0φ1(ρ)=0 ,..,
akφ0(ρ+k)+ak-1φ1(ρ+k-1)+..+a0φk(ρ)=0 において,
ρ=ρ2 としないで,ρはa0φ0(ρ)≠0 の未知パラメータのまま残して
おきます。
そして,元々a0はゼロでなければ何でもいいわけですから,a0をρの関数としてa0=a0(ρ)≡φ0(ρ+m)としておきます。
a0φ0(ρ)≠0 ではありますが,とりあえずa0=a0(ρ)≡φ0(ρ+m)は与えられていますから,第2式以下,a1φ0(ρ+1)+a0φ1(ρ)=0,...,akφ0(ρ+k)+ak-1φ1(ρ+k-1)+...+a0φk(ρ)=0 は普通に成立するとします。
これから,a1(ρ)=-a0(ρ)φ1(ρ)/φ0(ρi+1),...以下,ak(ρ)を全て決めることができて,これらによるベキ級数:u(z,ρ)をu(z,ρ)≡zρΣk=0∞ak(ρ)zkで定義します。
これを微分方程式の左辺に代入することによって,L[u(z,ρ)]=a0(ρ)φ0(ρ)zρ=φ0(ρ+m)φ0(ρ)zρが成立します。
この等式で両辺をρで偏微分し,その後でρ=ρ1-m=ρ2と置くことにします。
φ0(ρi)=0 (i=1,2)なので,L[∂u(z,ρ)/∂ρ|ρ=ρ2]=[φ0'(ρ1)φ0(ρ2)+φ0(ρ1)φ0'(ρ2)+φ0(ρ1)φ0(ρ2)logz]=0 が成立します。すなわちy=∂u(z,ρ)/∂ρ|ρ=ρ2 はL(y)≡z2y"+zP(z)y'+ Q(z)y=0 の解であることがわかりました。
u(z,ρ)=zρΣk=0∞ak(ρ)zkなので,y=∂u(z,ρ)/∂ρ|ρ=ρ2=zρ2Σk=0∞[ak(ρ)'|ρ=ρ2+ak(ρ2)logz]zkですが,a0(ρ2)=φ0(ρ1)=0 です。
明らかにak(ρ2)∝a0(ρ2)ですから,ak(ρ2)=0 (k=0,1,2,..,m-1)であり,そこで[ ]の中の第2項に関わる項はzρ2Σk=m∞ak(ρ2)zklogz=zρ1Σk=0∞am+k(ρ2)zklogzとなります。
ところで,実はa0(ρ2)=φ0(ρ1)=0,ak(ρ2)=0 (k=0,1,2,..m-1)を用いた後で,am+k(ρ2)=am+k(ρ1-m) (k=0,1,2,..,m-1)を求める漸化式はak(ρ1)を求める式と完全に一致します。
そこで,am+k(ρ2)=cak(ρ1)となり,結局第2項はzρ2Σk=m∞ak(ρ2)zklogz=zρ1Σk=0∞am+k(ρ2)zklogz=cy1(z)logzとなることがわかりました。
以上の結果をまとめると,結局ρ=ρ1,ρ2=ρ1,ρ1-m(mは0または正の整数の場合には,y"+p(z)y'+q(z)y=0 の2つの独立な解はy1(z)=zρ1Σk=0∞a1k zk,y2(z)=zρ2Σk=0∞ak(ρ)'|ρ=ρ2zk+cy1(z)logzで与えられることが示されました。
以上が決定方程式から指数ρを定めてzρとzρlogzの係数であるzの正則関数をzの正のベキ級数に展開してその係数を未定係数法によって決定するFrobeniusの方法です。
今日はここまでとします。これらについては帝京大病院で入院から1週間くらいまでに勉強して得られた成果の一部です。
参考文献:稲見武雄 著「常微分方程式」(岩波書店)
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