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2007年4月25日 (水)

n階線形常微分方程式と確定特異点

 

前記事の続きです。

 

今日は,n階線形常微分方程式y(n)+p1(z)y(n-1)+..pn-1(z)'

+pn(z)y=0 を考察します。

 

これは(y,y',y",..,y(n-1))とおくと,同等なn元の連立1階線形常微分方程式に書きかえることができます。

 

つまり,y1≡y,y2≡y',y3≡y",..,yn≡y(n-1)とおくことによって,

同値なn元の連立1階線形常微分方程式:

i'=yi+1 (i=1,2,3,..,n-1),yn'=-Σj=1nn-j+1(z)

に変換できます。

 

この連立方程式を行列表示で'=A(z)と書けば,係数行列A(z)は

第1行目が(0,1,0,..,0),第2行目が(0,0,1,0,..,0),...,第(n-1)行目

が(0,0,..,0,1),そして,最後の

 

第n行目が(-pn(z),-pn-1(z),...,-p2(z),-p1(z))

 

n次の正方行列です。

 

したがって,正規形の常微分方程式'=f(z,)に対し,f(z,)が

z,に関して解析的な場合の"正則解の存在と一意性の定理"によって,

 

全ての係数pi(z)(i=0,1,2,..,n)が正則な領域Dで,

n階線形常微分方程式;(n)+p1(z)y(n-1)+..+pn-1(z)'

+pn(z)y=0 の正則解の存在と一意性が保証されます。

 

すなわち,全ての係数pi(z)が複素z平面のある領域Dで正則なら,

任意のα∈Dと任意のn次元複素定数ベクトルβ≡(β12,..,βn)

に対するn個の初期条件の組;φ(α)=β1,φ'(α)=β2,..,φ(n-1)(α)

=βnを満たす解:y=φ(z)がD全体で定義され,そこで正則となります。

 

このときz=αを正則点と呼ぶことができます。

 

1(z),y2(z),..,yn(z)を,y(n)+p1(z)y(n-1)+..pn-1(z)'

+pn(z)y=0, or '=A(z)の解:(y,y',..,y(n-1))

の基本系:,つまり,方程式のn個の1次独立な解であるとします。

 

このn個の1次独立な解を,連立方程式のベクトル形式で,

j(z)≡(yj(z),yj'(z),..,yj(n-1)(z))(j=1,2,3,..,n)

と書きます。

 

これの,n次の基本行列:W(z)を,

W(z)≡(1(z),2(z),..n(z))と定義すれば,det[W(z)]が,

1,y2,..,yn のロンスキアン(Wronskian)に等しいので,解の

1次独立性から確かにdet[W(z)]≠0 となります。

 

また,もちろん,W(z)'=A(z)W(z)も成立しています。

 

そして,前記事で述べたようにpi(z)(i=0,1,2,..,n)のうち

少なくとも1つがz­=αに極を持つ場合には,変換:z-α→z-α

exp(2πi)(z-α)に対してmonodromy行列と呼ばれる正則な複素

定数行列Mが存在してW(z)=W(z)Mが成立することになります。

 

Mがジョルダン(Jordan)標準形Jになるように基本行列W(z)を選び,

J=exp(2πiΛ)とおくと,W(z)=Φ(z)exp[Λlog(z-α)],

Φ(z)≡[φij(z)]と書けて,Φ(z)は点z­=αを除くz­=αの近傍の

領域Dで1価正則な行列になります。

 

そして,monodromy行列Jのnj重に縮退した固有値をαjとすると,

J=exp(2πiΛ)で定義されるn次の正方定数行列Λは,

2πiΛj=logαj+σ,σm=0 (m≧nj)を満たすnj次の小正方行列

Λjを対角線上に並べた形になります。

 

こうしたJの形によって次の2つの場合が想定できます。

 

①monodromy行列のジョルダン標準形が完全に対角形である場合:

  

monodromy行列のn個の固有値αj0 (j=0,1,2,..,n)が全て

異なる値となり全く縮退していない場合:

 

Λjはρj(logαj)/(2πi)を対角成分とする"1次の行列=数"となり,

n個の1次独立な解yj(z)はyj(z)=φ1j(z)(z-α)ρjと表わさ

れます。

 

②monodromy行列の固有値αi0 がni重に縮退している場合:

 

縮退していないαl0 (l≠i)の部分については上の①の考察が,

そのまま当てはまりますが,縮退したni次正方行列の部分については,

この固有値に対応するni個の独立な解を,

 

ki(z)=(z-α)ρiki(ni-1)(z,log(z-α))(ki1,2,..,ni)

と表わすことができます。

 

ただしPk(m)(z,u)はuのm次多項式で,その係数がすべてDで1価正則

なzの関数であるようなものです。

 

そして,yki(z)=(z-α)ρiki(ni-1)(z,log(z-α))において,

log(z-α)の多項式ki(ni-1)(z,log(z-α))のzの関数係数は

z=αに特異点を持つことがあります。

 

それらが全て高々極であるときにはz=αは確定特異点です。

 

一方,多項式の係数のうち少なくとも1つでz=αが真性特異点なら,

z=αは不確定特異点です。

 

さて,次に

 

"'=A(z)においてA(z)がz=αに持つ極が1位の極

であるならば,z=αはこの方程式の確定特異点である。"

 

という定理を証明します。

 

(証明):一般性を失うことがなくα=0 とします。

 

そして'=A(z)の1つの基本行列Y(z)として,

Y(z)=Φ(z)exp(Λlogz)を取ります。

 

もしも特異点z=0 がΦ(z)の真性特異点であるなら行列Φ(z)の

成分の1つ,例えばφij(z)がz=0 に真性特異点を持ちます。

 

このときには∀正の整数m>0 に対しzmφij(z)がz→ 0 の極限で

非有界です。

 

そこで,"A(z)の特異点z=0 が高々1位の極なら∀i,jに関して

十分大きい正整数Nに対してNφij(z)がz→ 0 の極限で有界に

留まる。"ということが証明されれば,

 

z=0 がA(z)の高々1位の極ならこれはΦ(z)の高々極であること,

つまりz=0 が方程式'=A(z)の確定特異点であることが示され

ることになります。

 

そして実際,Y(z)'=A(z)Y(z)より,領域Dでは,

Φ(z)'exp(Λlogz)+Φ(z)Λexp(Λlogz)/z

=A(z)Φ(z)exp(Λlogz),

 

つまり,Φ(z)'+Φ(z)Λ/z=A(z)Φ(z) ですから,

zΦ(z)'Φ(z)-1=zA(z)-Φ(z)ΛΦ(z)-1となります。

  

Φ(z)ΛΦ(z)-1Φ(z)が如何なる挙動を取ろうとΦ(z)-1によって

相殺されるためz→ 0 の極限でも有界ですから,

 

z=0 がA(z)の1位の極の場合にはz→ 0 の極限で

zΦ(z)'Φ(z)-1zA(z)-Φ(z)ΛΦ(z)-1→ K(定数行列)

となります。

 

そして微分方程式zΦ(z)'Φ(z)-1=Kを積分すると,Cを任意の

積分定数の行列として,Φ(z)=CzK=Cexp(Klogz)となります

から,z→ 0 の極限ではΦ(z)→ CzK=Cexp(Klogz)となります。

 

ここで行列Pのノルムを|P|で表わすと,zNΦ(z)のノルムは

N|Φ(z)|~zN|C||exp(Klogz)|=|C||exp[(NE+K)(logz)]|

です。

 

結局,N>|K|となるように十分大きいNを取れば,n次の定数行列;

(NE+K)は正値行列となり,z→ 0 に対して,

exp[(NE+K)(logz)]=z(NE+K)0 となるため,

確かにzN|Φ(z)|0 が成立します。(証明終わり)

 

ここで,1例として特殊な形のn階線形常微分方程式であるEuler型

の微分方程式:zn(n)+a1n-1(n-1)+..an-1zy'+any=0

を考えてみます。

 

これはpj(z)=aj-j(j=1,2,..,n)と表わされるのでpj(z)は

z=0 にj位の極を持つ例となっています。

 

この方程式はy=zρという形の解を持ちます。

 

これを示すための助けとして線形演算子L(y)を,

L(y)≡zn(n)+a1n-1(n-1)+..an-1zy'+an

で定義すれば,

 

Euler型の微分方程式:

n(n)+a1n-1(n-1)+..an-1zy'+any=0 は

L(y)=0 と書くことができます。

 

y=zρが実際にL(y)=0 の解であるとすれば,

(zρ)=[ρ(ρ-1)..(ρ-n+1)+a1ρ(ρ-1)..(ρ-n+2)+..

+an]ρ0 です。

 

ρ0 なので,これは,

φ(ρ)≡ρ(ρ-1)...(ρ-n+1)+a1ρ(ρ-1)...(ρ-n+2)+..

+an0 なる式の成立を意味します。

 

そこで,φ(ρ)=0 でρがこのn次代数方程式の根なら,

y=zρがL(y)=zn(n)+a1n-1(n-1)+..an-1zy'+any=0

の解になります。

 

仮にφ(ρ)=0 が全く重根を含まず,n個の根が全て異なるなら,

それらのρに対応するy=zρがL(y)=0 のn個の1次独立な解

を表わすことになります。

 

そこで,これらn個の独立解の1次結合によって,方程式L(y)=0 の

一般解の全てが尽くされることになって,方程式は完全に解けることに

なります。

 

しかし,一般にはすべての根が単根であるわけではなく,例えば

ρがm重根のときにはy=(logz)kρ(k=0,1,...,m-1)

もまたL(y)=0 の解となることがわかります。

 

なぜなら,L(zρ)=φ(ρ)zρの両辺をρで微分すると,左辺の微分

係数はdL(zρ)/dρ=limΔρ→0[L(zρ+Δρ)-L(zρ)]/Δρ

=limΔρ→0[(zρ+Δρ-zρ)/Δρ]=L(dzρ/dρ)

=L[(logz)zρ]で,

 

右辺の微分係数は,d[φ(ρ)zρ]/dz

=φ'(ρ)zρ+φ(ρ)(logz)zρですが,φ(ρ)=0 であり,

ρがそのm重根(m≧2)なのでφ'(ρ)=0 も成立します。

 

そのため,L[(logz)zρ]=[φ'(ρ)+φ(ρ)(logz)]zρ0 が

成り立ち,y=(logz)zρも,L(y)=0 の解となることがわかります。

 

結局,これのアナロジーで,全てのy=(logz)kρ(k=0,1,..,m-1)

がL(y)=0 の解となることがわかるからです。

 

すなわち,dk(zρ)/dρk=L(dkρ/dρk)=L[(logz)kρ]

=[φ(k)(ρ)+kφ(k-1)(ρ)(logz)+..+φ'(ρ)(logz)2

+φ(ρ)(logz)k]zρです。

 

この恒等式で,ρがφ(ρ)=0 のm重根(m≧2)なのでφ(ρ)=0,

φ'(ρ)=0,φ"(ρ)=0,..φ(m-1)(ρ)=0 が成立するため,

 

k=2,3,..,(m-1)のときにも,L[(logz)kρ]=0 となって,

y=(logz)kρ(k=0,1,..,m-1)が全てL(y)=0 の解となる

ことがわかるのです。

 

結局,ρがφ(ρ)=0 の単根である場合のy=zρと,ρがそのm重根

(m≧2)である場合のy=(logz)kρ(k=0,1,..,m-1)によって,

 

Euler型微分方程式:zn(n)+a1n-1(n-1)+...an-1zy'+any=0

のn個の1次独立な解の全てが尽くされることがわかりました。

 

したがって,ρが整数でないときにはz=0 は分岐点ですが,y=zρ

y=(logz)kρの係数であるΦ(z)は定数であり,全z平面で正則

なので,定義によってEuler型の微分方程式の特異点z=0 は確定特

異点であることになります。

 

今日は最後に次の定理の証明を試みることで,締めくくりにしたいと

思います。

 

(定理):n階線形常微分方程式(n)+p1(z)y(n-1)+..pn-1(z)'+

n(z)y=0 において係数1(z)≡z-11(z),p2(z)≡

-22(z),..,p(z)≡z-nn(z)とおき,領域D:0<|z|<r

においては全ての係数p1(z),p2(z),..,p(z)は正則であるする。

 

この微分方程式(n)+p1(z)y(n-1)+..pn-1(z)'+pn(z)y=0

z=0 を確定特異点とするn個の互いに1次独立な解を持つための必要十分条件は"z=0 でP1(z),P2(z),..,P(z)が全て正則であること(z→ 0 の極限でzjj(z)が有界であること)"である。

 

(証明):初めに,必要条件であることを示します。

 

z=0 が確定特異点であるとすると,その解は

φ(z)≡zρ(m)(z,logz)という形をしていて,logzのm次の多項式

(m)(z,logz)の全ての係数はz=0 で高々極を持ちますが,これらの

係数はz=0 で1価正則であるとしてもかまいません。

 

そこで,領域D:0<|z|<rの中でz=0 を正の向きに1周する経路に

沿ってφ(z)を解析接続して,zexp(2πi)zにおいてこれを

計算すると,

 

φ(z)=exp(2πiρ)zρ(m)(z,logz+2πi)となりますが,

これも元の微分方程式の解です。

 

係数:exp(2πiρ)を除いた,

φ(z)/exp(2πiρ)=zρ(m)(z,logz+2πi)も.

もちろん元の微分方程式の1つの解です。

  

 それらの解;φ(z)とφ(z)/exp(2πiρ)の1次結合:

ρ(m-1)(z,logz)≡zρ[P(m)(z,logz+2πi)-P(m)(z,logz)]

も解です。

 

ところが,Q(m-1)(z,logz)はlogzの(m-1)次の多項式となり,

その係数はz=0 で1価正則です。

 

この操作をQ(m-1)(z,logz)について繰り返すとlogzの(m-2)次の

多項式で係数がz=0 で1価正則な解R(m-2)(z,logz)が得られます。

 

こうしてlogzの多項式の次数をmから1つずつ減らしていくこと

により,結局z=0 で1価正則な関数ψ(z)によって,

φ(z)=zρψ(z)という形に書けるy=φ(z)という解を得る

ことができます。

 

この最終形の解φ(z)=zρψ(z)を用いれば,全てのPj(z)

(j=1,2,..,n)がz=0 で正則であることを示すことができます。

 

nが一般の場合にこれを示すことはもちろん可能ですが,それは非常に

煩雑なので,ここでは証明を省略しn=1(1階線形常微分方程式)

の場合に,これを示すことでお茶を濁しておきます。

 

すなわち,1階の方程式y'+[P1(z)/z]y=0 において,

y=φ(z)=zρψ(z)が解であるとすると,

 

φ'(z)=ρzρψ(z)+ρψ'(z)なので,

φ'/φ=ρ/z+ψ'/ψにより,元の方程式から,

1(z)=-ρ-zψ'/ψを得ます。

 

ところが,ψ(z)Σn=0nnψ(z)をベキ級数に展開すると,

limz→ 0(zψ'/ψ)=limz→ 0n=1ncnn)/n=0nn)となり,

右辺は分母 →c0,分子 → 0 ですから,c0≠0でもc0=0 でも,その

極限値は明らかに有限です。

 

したがって,1(z)=-ρ-zψ'がz=0 で正則であることが

証明されました。

 

次に十分条件の証明です。

k(z)≡zk-1(k-1)(k=1,2,..,n)とおいて,1階連立微分方程式

に変換すると,k=1,2,..,(n-1)については,

k'=(k-1)zk-2(k-1)+zk-1(k)=[(k-1)yk+yk+1]/z

です。

 

また,k=nについては,yk'=(n-1)zn-2(n-1)+zn-1(n)

=(n-1)y/z-zn-1[P1(z)y(n-1)/z+P2(z)y(n-2)/z2+..

+Pn(z)y/zn]

=[{(n-1)-P1(z)}y-P2(z)yn-1-P2(z)yn-1-..

-Pn(z)y1]/zとなります。

 

したがって,このように変換した1階連立微分方程式:

'=A(z)においては,係数行列A(z)は,Q(z)をz=0 と

その近傍Dを含んだ領域で1価正則なn次正方行列として,

A(z)=Q(z)/zと表現できます。

 

つまりA(z)はz=0 に高々1位の極を持つことになりますから,

先に証明した定理により,z=0 は線形方程式;'=A(z),

 

あるいは,n階線形常微分方程式:

(n)+p1(z)y(n-1)+..pn-1(z)'+pn(z)y=0 の

確定特異点であることが証明されました。(証明終わり?)

 

以上は帝京大病院で入院から五日目くらいまでに勉強して得られた

成果です。

 

参考文献:稲見武雄 著「常微分方程式」(岩波書店)

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