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2007年4月24日 (火)

線形常微分方程式の確定特異点と不確定特異点

 入院中に勉強した成果のノートから,いくらか抜書きしていこうと

 思います。

 

 y'≡dy/dx,y"≡d2/dx2として2階の斉次線形常微分方程式y"-3y'+2y=0 の一般解を求める問題は,通常の演算子法と同等な手法で簡単に解けます。

 

 これは特性方程式がλ2-3λ+2=0 であり,その根が1と2なので一般解はa,bを任意定数としてy=aexp(2x)+bexp(x)となります。

 

 簡単な線形常微分方程式すが,わざわざ,解がy=Σn=0nnとベキ級数展開できると仮定して,方程式にこれを代入すると,未定係数法により,

(n+1){(n+2)n+23cn+1}=(n+1)n+13cn (n=0.1,2,...)

なる漸化式が得られます。

 

 そして,これを満たす{n}がn=(2na+b)/n!で与えられることは

簡単にわかります。

 

 このnによるベキ級数表現:y=Σn=0nnの右辺が収束するなら,このyは与えられた常微分方程式の解となります。

 

 そして,今の場合これが確かに先に求めた一般解の表式:

y=aexp(2x)+bexp(x)と完全に一致します。

 

 こうして,求めた微分方程式のベキ級数解を形式解と呼びます。

 

 ある領域でこの級数が収束するときには,そこでは実際にこれがその微分方程式の解という意味を持ちます。

 

 上に例示したものではベキ級数の収束半径ρが∞なので,全てのxで意味を持ちます。

 

 さて,より一般的に扱うため,独立変数xを複素数と考えてzという文字で表記します。

 

 そして,n個の未知関数yiに対する1階連立微分方程式系を考察対象と

して,これを正規形で表現すると,i'=fi(z,yj)(i=1,2,...,n)と

なります。

 

 左辺のi'は,もちろん,dyi/dzを意味します。

 

 ここで,(z,)≡(z,y1,y2,...,n)∈Cn+1と数ベクトル表示すると,「Cauchy-Kovalevskaya(コーシー・コワレフスカヤ)の定理」により,

 

 "∀iについてiが点(α,β12,..,βn)で正則であるとすると,

i'=fi(z,)の解i=yi(z)(i=1,2,..,n)で,z=αにおいて

正則,かつ初期条件βi=yi(α)を満たすものがただ1つ存在する。

 

という"正則解=ベキ級数解の存在と一意性の定理"が成立します。

 

 この場合,"正則解=ベキ級数解"はyi(z)=Σn=0n(z-α)nなる形になり,この形は収束半径をρとすれば|z-α|<ρの領域にあるzに対してのみ意味を持ち,yi'(z)=fi(z,(z))が恒等的に成り立ちます。

 

 しかし,この範囲を超えてyi(z)とfi(z,(z))を同時に解析接続すると,αの近傍では両者は一致しているのですから,「一致の定理」によって,両者は解析接続可能な全領域で一致することになります。

 

 この正則解yi(z)をさらに繰り返し解析接続していけば,これ以上延長不可能な解まで延長されます。

 

 1階連立微分方程式系が1階線形連立微分方程式系である場合,n個の複素未知関数yi(z)(i=1,2,...,n)について方程式の形は,

i'=Σj=1nij(z)yj(z)+bi(z)であるはずです。

  

 もしもbi(z)≡0 (i=1,2,...,n)なら,この系は斉次方程式,さもなければ非斉次方程式と呼ばれます。

 

 ここで,(z)=t(y1(z),y2(z), ..,n(z)),

(z)=t(b1(z),b2(z),...,bn(z))のように,(z),(z)なる

縦ベクトル表示を採用し,微分方程式の右辺の係数を行列:

A(z)=[aij(z)]で表示すれば,与えられた連立方程式の系は

'=A(z)(z)と簡単な形になります。

 

 特に,(z)≡0斉次方程式なら'=A(z)ですね。

 

 ところで斉次方程式'=A(z)のn個の一次独立な解を,

1(z),2(z),...,n(z)とすれば,

その一般解は(z)≡Σj=1njj(z)と表わすことができます。

 

 つまり,斉次方程式の解全体の集合である解空間Vは,n次元複素線形空間となるわけです。

 

 そして,(z)を非斉次方程式'=A(z)(z)の1つの解と

すると,そのn個の任意定数を伴う一般解を

 y(z)+(z)=(z)+Σj=1njj(z)と表わすことができる

のは線形微分方程式の一般論からよく知られています。

 

 以下では斉次方程式'=A(z)のみを考察します。

 

 そして,

 

 "行列A(z)がz平面のある領域Dで1価正則なら,z=αをD内の1点

 としβを任意のn成分複素定数縦ベクトルとすると,

 

 初期条件βφ(α)を満たす斉次方程式'=A(z)の解:

 φ(z)はD全体で定義されそこで正則である。"

 

 という定理が成立することが既にわかっています。

 

 こうしたD内の点αは正則点といわれます。

 

 ところが,領域Dは領域というからには連結ですが,これが単連結でない

場合には,一般に解析接続は接続の経路に依存するため,D上で(z)が

多価関数になる可能性があります。

 

 ここで,再び斉次方程式'=A(z)のn個の一次独立な解を,

 w1(z),2(z),...,n(z)とし,n次正方行列W(z)を,

 W(z)≡(1(z),2(z),...,n(z))で定義すれば,

 

 方程式の一般解t(c1,2,...,cn)を任意の定数ベクトルと

して,(z)≡Σj=1njj(z)=W(z)と表現することができ

ます。

 

 このW(z)を'=A(z)基本行列と呼びます。

 

 これは,W(z)'=A(z)W(z)を満足します。

 

 逆にW(z)'=A(z)W(z),det[W(z)]≠0 を満足する任意の関数行列W(z)は'=A(z)基本行列になります。

 

 そこで,W(z)を1つの基本行列とし,Pをdet(P)≠0 を満たすn次複素定数行列とすると,Y(z)=W(z)Pも1つの基本行列となります。

 

 逆にP(z)≡W(z)-1(z)と置くと,dP(z)/dz=0 なのでP(z)はdet(P)≠0 なる定数行列Pとなります。

 

 つまりY(z)とW(z)が共に基本行列ならば,det(P)≠0 なる定数行列Pが存在してY(z)=W(z)Pと表わすことができます。

 

 A(z)がz=αで正則ならば'=A(z)の解はz=αで正則であることは既に述べた通りですが,

 

 A(z)がz=αに極を持つ場合はどうでしょうか?

 

 まず,一般性を失うことなくこの"特異点=極"の位置をz平面の原点,

つまりα=0 とすることができます。

 

 解析関数の極は常に孤立しているので,r>0 を十分小さく取れば,

領域D:0<|z|<rではA(z)が1価正則であるようにできます。

  

 しかしDは単連結ではないので,'=A(z)の解(z)は一般に

Dにおいて多価関数になります。

 

 つまり,(z)はz=0 に分岐点を持つ可能性がありますから,

単葉z平面の代わりに例えば正の実軸に沿ってz=0 からz=∞ まで

の切断を持つ複葉z平面から成るRiemann面を考える必要性が生じます。

 

 再び,W(z)を'=A(z)の1つの基本行列とします。

 

 そして,z=0 にA(z)が孤立した極を持つ領域Dにおいて,

exp(2πi)zとします。

 

 DにおいてW(z)'=A(z)W(z),det[W(z)]≠0 ですが,zも,

もちろんD内の点ですからW(z)'=A(z)W(z)と書くことが

できます。

 

 W(z)をzの関数とみなしてW(z)=W(z)と書けば,

A(z)は領域Dにおいて1価正則なので,A(z)=A(z)故,

(z)'=A(z)W(z)となります。

 

 したがって,W(z)=W(z)も'=A(z)1つの基本行列となるので,ある定数行列M(det(M)≠0)が存在してW(z)=W(z)Mと掛けます。この行列MをMonodromy(モノドロミー)行列と呼びます。

 

 もしも,W(z)でなくY(z)≡W(z)Pを基本行列とする場合には,相似変換によりMonodromy行列はP-1MPとなります。

 

 そこで,はじめから相似変換によってMoodromy行列P-1MPが,ジョルダン標準形:JとなるようにY(z)を選びます。

 

 つまりY(z)=Y(z)Jです。

 

 そして,J≡exp(2πiΛ)とおき,Monodromy行列:Jのnj重に縮退した固有値をαjとすると,n次の正方定数行列Λは,2πiΛj=logαj+σjjm=0 (m≧nj)が成り立つようなj次の正方行列Λjを対角線上に並べたものになります。

 

 そして,Y(z)≡Φ(z)exp(Λlogz)によってn次の正方行列Φ(z)を

定義し,zをzexp(2πi)zに置き換えると,

 

 (z)=Φ(z)exp(Λlogz)exp(2πiΛ)

 =Φ(z)exp(Λlogz)J

 

 となります。

 

 元々,Y(z)=Y(z)J=Φ(z)exp(Λlogz)JとなるようなY(z)

を考えているので,Φ(z)=Φ(z)を得ます。

 

 つまり,行列:Φ(z)は領域Dで1価正則です。

 

 ここで,極の位置を原点z=0 からz=αに戻し,Y(z)=Y(z)J

なるY(z)を改めてW(z)と書けば,

 

 結局,W(z)はDで1価正則なΦ(z)とn次の定数行列Λを用いて

W(z)=Φ(z)exp[Λlog(z-α)]と表わせることになります。

 

 そして,Φ(z)は一般にDに属さないz=αでは特異点を持つことが

あり得ます。

 

 しかし,Dで1価正則なのでそれは分岐点ではありません。

 

 そこでz=αがたかだかΦ(z)の極であるときには,それを確定特異点

であるといい,z=αがΦ(z)の真性特異点であるときには,それを

不確定特異点であるといいます。

 

そして,W(z)=Φ(z)exp[Λlog(z-α)]という形から,Wj(z),

Φj(z)をΛjに対応するnj次の正方行列とすれば,

 

ρj(logαj)/(2πi)とおくとき,j(z)

Φj(z)(z-α)ρjexp[σjlog(z-α)/(2πi)]

となります。

 

σjm0 (m≧nj)なので,係数exp[σjlog(z-α)/(2πi)]は,

log(z-α)の(j1)次多項式となります。

 

特に固有値αjが縮退していない場合には,Wj(z)=Φj(z)(z-α)ρj

であり,このときはj(z),Φj(z)は行列ではなくてn個の独立解の

1つを表わしています。

 

以上が帝京大病院での入院初期時に勉強して得られた成果です。

 

参考文献:稲見武雄 著「常微分方程式」(岩波書店)

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