シュヴァルツシルト時空内の測地線(惑星の公転軌道)
Newton力学では,太陽と1つの惑星だけの2体問題を想定して惑星の近似的な公転軌道を求めるという昔から有名な問題があります。
すなわち,
"太陽は1点に固定されて対象とする惑星よりもはるかに大きい質量を持つ不動点であり,一方惑星は質点であるという近似の下で,太陽と惑星の間には万有引力と呼ばれる重力のみが働く"
という想定でNewtonの運動方程式の解としての公転軌道を求める問題
ですね。
この解は,太陽に近いという通常の初期条件の下では,鶴わゆるKepler(ケプラー)の法則に従う楕円軌道になりますが,こうした計算問題は,通常は大学初年級での力学の演習で学ぶと思われます。
しかし,最近ニフティ(@nifty)から移動して新装開店したfolomy「物理フォーラム」の「相対論の部屋」で次のような質問を受けました。
"ケプラー運動を一般相対論で計算したいのですが,どうすればいいの
でしょうか?"という内容の質問でした。
私は「これは大げさだな。」とは思いましたが,
"取り合えず,太陽中心を中心と考えて,球対称で静的な解であるSchwarzlzschild解(シュヴァルツシルト解.またはシュワルツシルト解)
を採用して,その計量で,
対象がSchwarzschild半径より外側の点である,という初期条件の下で,
質点の測地線を計算することによって軌道を求めたらどうか?"
と答えたのですが,その後,まったく音信不通でした。
そこで,Christoffelの記号の計算など,かなり面倒だとは思いましたが,
それは普通,重力場のSchwarzschild解を求める際,得られるものなので,
こうしたChristoffelの記号などについては,相対論の参考書をフルに参照しながら,微分方程式を導き,これを自分で解いてみよう,と思います。
そもそも重力が弱いとき,Newtonの万有引力の法則に近似的に一致するSchwarzschild時空の計量(metric)を実際に書き下すと,
ds2=gμνdxμdxν
=(1-2m/r)c2dt2-dr2/(1-2m/r)-r2(dθ2+sin2θdφ2)
となります。
ここで,xμ=(x0,x1,x2,x3)≡(ct,r,θ,φ)ですが,これは極座標で表わした時空の座標です。
また,2m=2GM/c2はSchwarzschild半径を示しています。
Gは万有引力定数でcは光速,Mは今の場合は太陽の質量です。
そして,重力場の中での自由粒子の運動を表わす測地線の方程式は,λを任意パラメータとして,
d2xμ/dλ2+Γρνμ(dxρ/dλ)(dxν/dλ)=0
で与えられます。
ただし,ΓρνμはChristoffelの記号です。
これは,Γρνμ≡(1/2)gμσ(gσρ,ν+gσν,ρ-gρν,σ) です。
ここで,gρν,σ≡∂gρν/∂xσ etc.です。
光の運動が対象の場合はds2=0 ですが,質量を持つ質点の運動の場合
はτを固有時としてds2=c2dτ2と書けます。
そこで,今の惑星を質点近似する場合なら,λ≡τと置いて測地線の方程式をd2xμ/dτ2+Γρνμ(dxρ/dτ)(dxν/dτ)=0 と書いてよいことになります。
そして,計量によりc2=gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)という拘束があります。
Schwarzschild時空ではゼロでない計量成分は対角成分だけであり,
それはg00=(1-2m/r),g11=-1/(1-2m/r),g22=-r2,
g33=-r2sin2θです。
また,ゼロでないChristoffelの記号は,
Γ010=Γ100=(m/r2)/(1-2m/r)=m/[r(r-2m)],
Γ001={m/r2)(1-2m/r)=m(r-2m)/r3,
Γ111=(-m/r2)/(1-2m/r)=-m/[r(r-2m)],
Γ221=-r(1-2m/r)=-(r-2m),Γ331=-rsin2θ(1-2m/r)
=-(r-2m)sin2θ,Γ122=Γ212=1/r,Γ332=-sinθcosθ,
Γ133=Γ313=1/r,Γ233=Γ323=cosθ/sinθ
だけになります。
故に,測地線の方程式は,
(1)d2t/dτ2+[2m/{r(r-2m)}](dt/dτ)(dr/dτ)=0
(2)d2r/dτ2+[c2m(r-2m)/r3](dt/dτ)2
-[m/{r(r-2m)}](dr/dτ)2-(r-2m)(dθ/dτ)2
-(r-2m)sin2θ(dφ/dτ)2=0
(3)d2θ/dτ2+(2/r)(dr/dτ)(dθ/dτ)
-sinθcosθ(dr/dτ)(dφ/dτ)=0
(4)d2φ/dτ2+(2/r)(dr/dτ)(dφ/dτ)
+(2cosθ/sinθ)(dθ/dτ)(dφ/dτ)=0
となります。
また,拘束条件は,
c2=[c2(r-2m)/r](dt/dτ)2-[r/(r-2m)](dr/dτ)2
-r2(dθ/dτ)2-sin2θ(dφ/dτ)2 です。
これは単に計量の式:
ds2=c2dτ2=(1-2m/r)c2dt2-dr2/(1-2m/r)
-r2(dθ2+sin2θdφ2)
を書き直しただけなので,方程式を解く際には積分定数
を決めるのに役立つだけです。
まず,(3)のd2θ/dτ2+(2/r)(dr/dτ)(dθ/dτ)
-sinθcosθ(dr/dτ)(dφ/dτ)=0 は,あるτにおいて,
θ=π/2,dθ/dτ=0 という初期条件で解くと,d2θ/dτ2=0
となります。
結局,解は常にdθ/dτ=0 (一定)であり,この座標系選択では
θ=π/2(一定)となります。
すなわち,このような初期条件では"質点=惑星"の運動は常に,
赤道面;θ=π/2という特別な平面内に束縛された運動になります。
そして,θ=π/2 (一定)を,
(4)d2φ/dτ2+(2/r)(dr/dτ)(dφ/dτ)
+(2cosθ/sinθ)(dθ/dτ)(dφ/dτ)=0
に代入すると,
d2φ/dτ2+(2/r)(dr/dτ)(dφ/dτ)=0 ,
つまり[d(r2dφ/dτ)/dτ]/r2=0
が得られます。
すなわち,d(r2dφ/dτ)/dτ=0 なので,r2dφ/dτ=h(一定)
となります。
これは「角運動量の保存則」,または「面積速度一定の法則」
を示しています。後者は,Keplerの法則の1つです。
一方,(1)d2t/dτ2+[2m/{r(r-2m)}](dt/dτ)(dr/dτ)=0 に(dt/dτ)を掛けると,
(1/2)d(dt/dτ)2/dτ+[2m/{r(r-2m)}](dt/dτ)2
(dr/dτ)=0
となります。
そこで,A≡(dt/dτ)2とおけば,
dA/dτ=-[4mA/{r(r-2m)}](dr/dτ) です。
dA/A=-[4m/{r(r-2m)}]dr=2[dr/r-dr/(r-2m)]
より,lnA=2ln[r/(r-2m)]+const.となります。
つまり,(B/c)2を適当な積分定数として,
(dt/dτ)2=[B2r2/{c2(r-2m)2}]=(B2/c2)/(1-2m/r)2
あるいは,dt/dτ=±[Br/{c(r-2m)}]=±(B/c)/(1-2m/r)
を得ます。
最後に,これらを全て,
(2)d2r/dτ2+[c2m(r-2m)/r3](dt/dτ)2-[m/{r(r-2m)}](dr/dτ)2-(r-2m)(dθ/dτ)2-(r-2m)sin2θ(dφ/dτ)2=0 に代入すると,
d2r/dτ2+mB2/{r(r-2m)}-[m/{r(r-2m)}](dr/dτ)2
-h2(r-2m)/r4=0 が得られます。
さらに,この全体に[2/(1-2m/r)](dr/dτ)を掛け,
C≡(dr/dτ)2/(1-2m/r)]とおけば,
(d/dτ)[C-B2/(1-2m/r)+h2/r2]=0 です。
したがって,C-B2/(1-2m/r)+h2/r2≡-ε(一定),
すなわち,[(dr/dτ)2-B2]/(1-2m/r)+h2/r2=-ε(一定)
となります。
そこで,(dr/dτ)2/(1-2m/r)=-ε-h2/r2+B2/(1-2m/r)
により,dr/dτ=±[{(-(ε+h2/r2)(1-2m/r)+B2}1/2
=±[B2-ε+2mε/r-h2/r2+2mh2/r3]1/2
を得ます。
定数εを決定するために,計量の拘束式:ds2=c2dτ2
=(1-2m/r)c2dt2-dr2/(1-2m/r)-r2(dθ2+sin2θdφ2)に,θ=π/2=一定とdθ=0 ,そしてdφ/dτ=h2/r2,(dt/dτ)2
=B2/[c2(1-2m/r)2]を代入します。
すると,c2=[-(dr/dτ)2+B2]/(1-2m/r)-h2/r2となるので,
結局ε=c2であることがわかります。
したがって,2m=2GM/c2を使用するとdr/dτ=±[B2-c2+2GM/r-h2/r2+2GMh2/(c2r3)]1/2が得られます。
あるいは,運動エネルギーを表わす式と考え,
(dr/dτ)2/2=(B2-c2)/2+GM/r-h2/(2r2)+GMh2/(c2r3)
と書くこともできます。
ここで,軌道を求めることを優先するのであれば,dr/dτの表式の両辺
をdφ/dτ=h/r2で割ることにより,
dr/dφ=±[(B2-c2)r4/h2+2GMr3/h2-r2+2GMr/c2]1/2
が得られるので,これを積分すると,
±∫dr/[(B2-c2)/h2)r4+(2GM/h2)r3-r2+(2GM/c2)r]1/2 =φ+αとなります。
便宜上,r≡1/sと変数変換すればdr=-ds/s2であり,
±∫ds/[(B2-c2)/h2) +(2GM/h2)s-s2+(2GM/c2)s3]1/2
=-(φ+α)となります。
ここで,(2GM/c2)s3,あるいは,dr/dτ
=±[B2-c2+2GM/r-h2/r2+2GMh2/(c2r3)]1/2における
2GMh2/(c2r3)は分母のc2のせいで,rが十分大きいときには
他の項と比較してごく小さいという意味で無視します。
そうすれば,±∫ds/[(B2-c2)/h2+(2GM/h2)s-s2]1/2
=-(φ+α)となるため,±∫ds/[(B2h2-c2h2+G2M2)/h4
-(s―GM/h2)2]1/2=-(φ+α)と近似されます。
さらに,s-GM/h2≡[(B2h2-c2h2+G2M2)1/2/h2]cosuとおくことにより,±∫du=φ+αときわめて簡単になります。
そこで例えば左辺で+符号を取って惑星が正の向き(反時計周り)に回転すると仮定すれば,u=φ+α となります。
s-GM/h2=1/r-GM/h2
=[(B2h2-c2h2+G2M2)1/2/h2]cos(φ+α),つまり
r=(h2/GM)/[1+{(B2-c2)h2+G2M2}1/2/(GM)]cos(φ+α)]
が得られます。
ここで,ℓ≡h2/(GM),e≡{(B2-c2)h2+G2M2}1/2/(GM)
≡{1-ℓ(c2-B2)/(GM)}1/2とおけば,この軌道はNewton力学で
得られる円錐曲線の式:r=ℓ/[1+ecos(φ+α)]と完全に一致します。
この曲線は離心率eの値によって楕円,放物線,双曲線になりますが,
一般に太陽系の惑星軌道はB2<c2であって,離心率eが 0≦e<1を
満たす場合に相当します。
そこで,この2体近似では惑星の軌道は一方の焦点に太陽が位置する
楕円を表わします。
特にeがゼロのときは2つの焦点が一致して完全な円を表わしますが,
実際の太陽系の惑星の軌道の離心率eはかなりゼロに近く軌道が円に
近いものが多いようです。
これらの結果はKeplerの法則を示しているので,
dr/dτ=[B2-c2+2GM/r-h2/r2+2GMh2/(c2r3)]1/2
において2GMh2/(c2r3)を無視する近似は,丁度Newton理論に対応
している,と考えることができます。
Newton力学は相対論的力学での計算結果において光速cが無限大の
極限を取れば得られると予想されるので,2GMh2/(c2r3)→ 0
という近似がこれに対応するのでしょうね。
また,時間についてのNewton近似はdτ→ dtなので,これは
(dt/dτ)2=(B2/c2)/(1-2m/r)2=(B2/c2)/{1-2GM/(c2r)}2 → 1 に相当します。
それ故,c2→∞ と同時にB2→∞ となるべきことが示唆されます。そして,この極限で(B2-c2)は有限に留まると予想されます。
そこでさらに進めて,恐らく初等的に積分することは不可能と思われま
すが,dr/dτの中に項 2GMh2/(c2r3)を含む正しい式を考え,
この項がごく小さいことを考慮して何らかの摂動展開により高次の
近似計算を行なえば,惑星の近日点の移動なども計算できるだろう
と予測されます。
しかし,今日のところは相対論での球対称なSchwarzschild計量の時空の
測地線を求めるという見地から,Newton理論で得られるKeplerの法則に
従う惑星の楕円軌道を再現できたことに満足して,
ひとまず終わりにします。
精確な相対論に基づく高次の計算については,機会があれば,
また別の日にやってみようと思います。
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