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2007年4月30日 (月)

フックス型微分方程式とガウスの微分方程式

前記事の続きとして,2階線形斉次(同次)常微分方程式:

"+(z)y'+q(z)y=0 の考察を続けます。

 

この形の方程式の中で特異点が全て確定特異点であるものをFuchs型微分方程式と呼びます。

z=∞を含めて特異点が全く存在しないという1番簡単なFuchs型(Fuchsian)は存在することができません。

 

なぜなら,その場合はもちろん|z|<∞におけるz平面においてp(z),q(z)は正則で,しかもこれらは有理関数と仮定されていますから,これらは実は多項式です。

 

そして,一方z=∞ も特異点ではないのでz=∞でzp(z)=2,かつz4(z)も正則でなければならないため,q(z)≡0 であり,p(z)は多項式なのでz=∞でzp(z)=2 となることは不可能だからです。

次に考えられる最も簡単なFuchs型は特異点が1つしかないものです。

 

その特異点をz=a≠∞ とすると,これが確定特異点であるための必要十分条件から(z-a)p(z)と(z-a)2(z)は|z|<∞で正則です。

 

つまり多項式です。

 

一方,z=∞ は正則点ですからz=∞ でzp(z)=2であり,

4(z)は正則でなければなりません。

 

というわけで,必然的にp(z)=2/(z-a),q(z)=0 です。

 

つまり,この形の方程式は"+ 2y'/(z-a)=0 に限られます。

一方,ただ1つの特異点がz=∞の場合はp(z),q(z)は多項式で

あって,しかもzp(z)とz2(z)はz=∞で正則ですから,

p(z)≡q(z)≡0です。

 

よって方程式は単純な"0 となります。

 

この方程式は,すぐに積分できて一般解はy=b+cz

(b,cは任意定数)で与えられます。

実は,"+ 2y'/(z-a)=0 は簡単な独立変数の変換によって,

"0 と結びついています。

 

実際,ζ≡1/(z-a)とおけば,d/dz=-ζ2(d/dζ),d2/dz2

{2ζ3(d/dζ)+ζ4(d2/dζ2)}なので,

 

"+ 2y'/(z-a)=0 はζ4(d2y/dζ2)=0 ,すなわち

2y/dζ20 となります。

 

そこで,"+ 2y'/(z-a)=0 の一般解は

y=b+cζ=b+c/(z-a) (b,cは任意定数)

となります。

次は特異点が2個の場合です。それらの確定特異点を

z=a,bとし,a,bのいずれも∞ではないとします。

 

p(z)は(z-a)(z-b)p(z)が|z|<∞で正則,

またz=∞でzp(z)=2という条件から決まります。

 

すなわち,p(z)はA,αをある定数として,p(z)

=(2z+A)/{(z-a)(z-b)}=(1+α)/(z-a)

+(1-α)/(z-b),A=-a-b+α(a-b)と表現

されますね。

(z)は(z-a)2(z-b)2(z)が|z|<∞で正則,

z=∞でz4(z)が正則という条件から決まります。

 

すなわち,βをある定数としてq(z)

=β/{(z-a)2(z-b)2}となります。

 

つまり,この場合の方程式は、

"+{(1+α)/(z-a)+(1-α)/(z-b)}y'

+βy/{(z-a)2(z-b)2}=0

と書くことができます。

ここで変数変換:ζ=(z-a)/(z-b)=1-(a-b)/(z-b)

を行います。

 

これは複素z平面から複素ζ平面への1次分数変換(Möbius変換)と呼ばれるものの一種です。

 

一般の1次分数変換(Möbius変換)は

ζ=(Az+B)/(Cz+D)(A,B,C,DはAD-BC≠0

を満たす任意の複素数)なる,zからζへの変換で定義される

ものです。

とにかく,ζ=(z-a)/(z-b)=1-(a-b)/(z-b)によって

 

y"{(1+α)/(z-a)+(1-α)/(z-b)}y'

+βy/{(z-a)2(z-b)2}=0 は,

2/dζ2{(1+α)/ζ}(dy/dζ)+βy/{(a-b)ζ2}

 

となります。

 

これはEulerの方程式ですが,特異点がz=a,bからζ=0,∞に移行

しています。

特異点が3個のFuchs型になって初めて,求積法では解けない場合が出現

します。

 

また,特異点が4個以上のFuchs型方程式については,大域的な意味で

解を作るという問題は未だ解決していない領域です。

以下では特異点が3個のFuchs型を詳しく調べます。

初めに,その3個がz=a,b,c(≠∞)であるとします。

 

このときにはp(z)=(多項式)/{(z-a)(z-b)(z-c)}

=α/(z-a)+αb/(z-b)+αc/(z-c)+(多項式)

と書くことができます。

 

ここでαb c はある定数です。

そして,z=∞では正則なのでz=∞でzp(z)=2ですが,

これはp(∞)=0 を意味するので,

 

p(z)=α/(z-a)+αb/(z-b)+αc/(z-c)+(多項式)

における(多項式)の部分は,実はゼロで,

 

結局,p(z)=α/(z-a)+αb/(z-b)+αc/(z-c),

α+αb+αc2と表わされます。

一方,q(z)についてはq~(z)≡(z-a)(z-b)(z-c)q(z)

とおくと,これはp(z)と同じくz=a,b,cだけに1位の極を

持ちます。

 

さらにz=∞ は正則点なので,zq~(z)はz=∞ 有限です。

 

それ故,q(z)=1/{(z-a)(z-b)(z-c)}{β/(z-a)+βb/(z-b)+βc/(z-c)}と書くことができます。

よって,特異点が3個のFuchs型2階方程式の一般形は,

 

"+/(z-a)+αb/(z-b)+αc/(z-c)}y'

+[1/{(z-a)(z-b)(z-c)}]{β/(z-a)+βb/(z-b)

+βc/(z-c)}y=0,α+αb+αc2

 

となります。

これの解は,一般には初等関数で表現することはできません。

 

そこで解をz=a,b,cのまわりのベキ級数として求めることを

考えます。それには前に述べたFrobeniusの方法を用います。

各特異点での決定方程式から決まる2つの根を,それぞれ

ρii'(i=a,b,c)と書きます。

 

p(z),q(z)の表式の中に現われる3つずつ,合わせて6つのパラメータα,βは結局この6つの根ρii'(i=a,b,c)を使えば全て表現できることを以下で示します。

まず,特異点z=aの周りでp(z),q(z)は,それぞれ

P(z)=(z-a)p(z)=αa+O(z-a),Q(z)=(z-a)2(z)

=βa/{(a-b)(a-c)}+O(z-a)と表わされるので,

0=αa,Q0=βa/{(a-b)(a-c)}です。

 

z=b,cについても同様の関係が得られます。

 

ここに,Pk,k(k=0,1,2,..)はP(z)=Σk=0k(z-a)k,

Q(z)=Σk=0k(z-a)kなるベキ級数展開の係数です。

すなわち,決定方程式:ρ2(P01)ρ+Q00 の

根と係数の関係によって,

 

   1-αa=ρa+ρa', βa(a-b)(a-c)ρaρa'

     1-αb=ρb+ρb', βb(b-a)(b-c)ρbρb'

     1-αc=ρc+ρc', βc(c-a)(c-b)ρcρc' 

 

が得られます。

 

ただし,ρa+ρa'+ρb+ρb'+ρc+ρc'=1 なる拘束があって,

全てが独立というわけではないです。

 次に特異点の1つが∞である場合,3つの特異点をz=a,b,∞

とします。

 

このときには微分方程式の一般形は,

 

"+/(z-a)+αb/(z-b)}y'

+[1/{(z-a)(z-b)}]{β/(z-a)+βb/(z-b)+β}=0

 

と書くことができます。

z=a,b,∞ における決定方程式の根を,それぞれρii'

(i=a,b,∞)とすると,

 

      1-αa=ρa+ρa', βa(a-b)ρaρa'

   1-αb=ρb+ρb', βb(b-a)ρbρb'

   β=ρρ',ρa+ρa'+ρb+ρb'+ρ+ρ'=1

 

です

 

 ここまでの考察から,結局丁度3つの確定特異点を持つ微分方程式

は,3つの極の位置a,b,cと3組の根ρii'(i=a,b)

与えることによって完全に1つに決まることがわかりました。

 

 それ故,その微分方程式の解全体も1つの関数族を決定しますが,こ

関数族もこれらのパラメータによっ完全に指定されることになり

そこで先に示した方程式の解全体のつくる関数族を3つの縦ベクトル:

(a,ρaa'),(b,ρbb'),(c,ρcc')を並

たものの関数としてP{,,,z},

 

あるいはcが ∞ のときは(∞,ρ')により

P{,,,z}という記号で表わされるもの,

 

で総称することにします。

 

これらの記号表示された微分方程式の解の作る関数族をRiemann関数(ペイカンスウ)(Riemann's P-function)と言います。

ここで独立変数zの1次分数関数ζ=(Az+B)/(Cz+D)(A,B,C,DはAD-BC≠0 を満たす任意の複素数)によるzからζへの変換,

 

すなわち,1次分数変換(=Möbius変換)を用いれば,異なる3つの特異点

z=a,b,cをζ平面の任意の3点へと写すことができます。

特別な変換としてζ=(b-c)(z-a)/{(b-a)(z-c)}

{(b-c)/(b-a)}{1-(a-c)/(z-c)}とすれば,

z=a,b,cをζ平面のζ= 0,1,∞ へと写せます。

これによって,"+/(z-a)+αb/(z-b)+αc/(z-c)}y'

+[1/{(z-a)(z-b)(z-c)}]{β/(z-a)+βb/(z-b)

+βc/(z-c)}=0 を独立変数がζの2階微分方程式に変換した結果は

 

2/dζ2/ζ+αb/(ζ-1)](dy/dζ)

+[y/{ζ(ζ-1)}][β/ζ+βb/(ζ-1)+β]=0

 

という形になります。

 

ここで変換後のパラメータ(α,β)は変換前の(α,β)とは異なる値を

表わしており,変換された値も,もちろん定数なので改めて標準の形

の定数の記号として表現したものです。

つまり,この変換で,結局 P{,,,z}=P{ 0,1,,ζ}

が成立することがわかったわけです。

そして上に得られたz= 0,1,∞ を確定特異点とする微分方程式,

"+/z+αb/(z-1)]y'+[y/{z(z-1)}][β/z

+βb/(z-1)+β]= 0 は以下のようにして標準形に直すこと

ができます。

すなわち,z=a,b,∞ を確定特異点とする方程式;

"+/(z-a)+αb/(z-b)}y'

+{y/{(z-a)(z-b)]/[β/(z-a)+βb/(z-b)+β]= 0

に対して,従属変数yをy(z)=(z-a)(z-b)(z)で

wに変換します。

 

これを実行した結果だけ述べると,新しい従属変数wに対する微分方程式

も同じ位置z=a,b,∞ に確定特異点を持ちますが,

 

yについての方程式に関しての決定方程式の根をρii'

(i=a,b,∞)とすると,wに対する根は,

 

ρ+λ'+λ,ρb+μb'+μ, ρ-λ-μ'-λ-μ

となります。

 

そこで,a=(a,ρaa'),b=(b,ρbb'),

(∞,ρ')に対して,

 

'(a,ρa+λa'+λ),'(b,ρb+μb'+μ),

'=(∞,ρ-λ-μ'-λ-μ)とおけば,

P{,,,z}=(z-a)(z-b){',b',',z}

となります。

そして,P{,,,z}=P{ 0,1,,ζ}と

P{,,,z}=(z-a)(z-b){',',',z}

とを合わせてP関数の変換公式と呼びます。

 

これら両方の変換公式を使えば,任意の3つの位置に確定特異点を持ち,

任意の決定方程式の根を持つ2階方程式は,全て確定特異点を

z=0,1,∞に持つガウスの微分方程式に帰着させることが

できます。

{ 0,1,,z}で,0=(0,0,1-γ),1=(1,0 ,γ-α-β),

(∞,α,β)であるような方程式が,Gaussの超幾何微分方程式

で,これはz(z-1)"+{(1+α+β)z-γ}y'+αβy=0

です。

 

そして,特異点z=0 の周りで,1-γが整数でなく,したがってlogz

の項のない場合にFrobeniusの方法で,これのベキ級数解を求めると

ρ=0 に対する解としては,y=y1=F(α,β,γ;z)

≡1+Σk=1(α)k(β)kk/[k!(γ)k]

 

(ただし(α)k≡α(α+1)(α+2)...(α+k-1))が得られます。

この級数を超幾何級数(hypergeometric series)といいます。

これの収束半径は1であり,上に求めた無限級数は|z|<1でのみ収束し,

そこで正則であるわけですが,解析接続により全z平面で定義することが

可能なので,

 

このz平面全体で定義される解析関数を記号的にF(α,β,γ;z)

と表わして超幾何関数(hypergeometric funvtion)と呼びます。

  

そしてこれと独立な z=0 における決定方程式の解ρ=1-γに対応する

解もFを用いて y=y21-γ(α-γ+1,β-γ+1,2-γ:z)と

表現されます。

かくして,確定特異点がちょうど3個のFuchs型方程式の解の全ての解析

は超幾何関数を調べることに帰着することがわかりました。

これで,稲見武雄 著「常微分方程式」(岩波書店)をすべて読み終わった

のですが,これは丁度,入院してから10日目帝京大病院から順天堂大

病院に転院する前日の早朝のことでした。

 

まあ1冊読み終わったといっても,1~5章は読む必要性を感じなかった

ので最後の6章と7章を読んだに過ぎないのですが,この本に関しては

それで十分でしょう。

  

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