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2007年5月27日 (日)

代数的数と超越数

 前の記事で,代数関数,および超越関数に関連したことを記述したことがきっかけで,急にこれに関連した代数的数,および超越数の記事を書きたいという欲求が起きました。

そこで,今日はコーヒー・ブレイクとして代数的数と超越数の定義や性質について少し記述してみようと思います。 

 

まず,これらの定義は,

 

"a0,a1,..,an-1,anを任意の整数(nは任意の自然数でa00)とするとき,複素数αがa0,a1,..,an-1,an を係数とする代数方程式a0n+a1n-1+..+an-1x+an0 の解の1つならαを代数的数と呼ぶ。

 

一方,複素数αが如何なる整数係数の代数方程式の解にも成り得ない場合には,このαを超越数と呼ぶ。"

 

というものです。

 

まず,複素数αが代数的数であり係数a0,a1,..,an-1,anが全て整数環の元の代数方程式a0n+a1n-1+..+an-1x+an0 の解である場合には,整数は有理数ですから,係数a0,a1,..,an-1,anが全て有理数体の元であるような代数方程式の特別な場合です。

 

それ故,代数的数αはいつでも有理数係数の代数方程式の解であることは明らかです。

 

その逆,つまり複素数αが有理数係数の代数方程式の解であるならば,それはいつでも"整数係数の代数方程式の解=代数的数"であるということをも示すことができます。

 

すなわち,a0n+a1n-1+..+an-1x+an0 を,その係数:a0,a1,..,an-1,an が全て"有理数=有理数体の元"の代数方程式とすると,a0,a1,..,an-1,anを全て既約分数で表わしたときのn個の分母の整数の最小公倍数を方程式の両辺に掛けて得られる代数方程式は係数が全て整数の代数方程式です。

 

これは方程式としては,元の有理係数のそれと全く同じですから,解はこの操作の前後で全く不変です。

 

したがって,複素数体の中で整数係数の代数方程式の解と有理数係数の代数方程式の解は全く同じもので,共に代数的数を定義するものとなっています。

 

次に上に定義した,全ての代数的数の集合をΩとします。そして,まずΩの濃度=Card(Ω)が可算であること,つまり,Card(Ω)=\aleph_0 (alef-0:アレフ・ゼロ)であることを示しましょう。

 

「代数学の基本定理」によれば,n次代数方程式f(x)=0 は複素数体の中に少なくとも1つの解を持ちます。

 

(※PS:上述の「代数学の基本定理」については,本ブログの2007年8/17の記事「 代数学の基本定理」を参照)

 

(x)=0 の解(=多項式f(x)の零点)の1つをα∈とすれば,多項式f(x)は(x-α)で割り切れて,f(x)=(x-α)g(x)(g(x)は多項式)と表わすことができます。

 

そして,g(x)=0 も,(n-1)次代数方程式ですから,それは複素数体の中に少なくとも1つの解を持ちます。

 

これを繰り返せば,結局n次代数方程式は複素数体の中に高々n個の異なる解を持つ,ということがいえます。

 

nを固定したときのn次代数方程式の(n+1)個の係数の組はそれを(0,a1,..,an-1,an)と(n+1)次元ベクトルの形式で表わしたとき,その座標成分が全て整数で与えられる(n+1)次元空間を形成しますから,その全ての係数集合の濃度は\aleph_0n+1\aleph_0 を超えません。

 

係数の組の個数は明らかに有限ではありませんから,その(n+1)次元空間の濃度は丁度 \aleph_0 (可算個)に等しいことになります。

 

そして,たった今示したことから,各々の(0,a1,..,an-1,an)に対してそれを係数とするn次代数方程式の異なる解の個数は高々n個ですから,nを固定したときのn次代数方程式の解の集合の濃度は高々(n×\aleph_0)であり,結局\aleph_0(可算)であるということになります。

 

そして,代数的数の集合Ωの濃度:Card(Ω)はnを固定したときのn次代数方程式の解の集合をn=1,2,..について全て総和したもので与えられますから,Card(Ω)=Σn=1\aleph_0\aleph_0×\aleph_0\aleph_0です。

 

こうして,代数的数の集合Ωの濃度は\aleph_0であること,つまり,整数係数(有理数係数)の代数方程式の解になることが可能な複素数の個数は可算個であることが示されました。

 

元々複素数全体の濃度は可算ではなく,連続無限ですから代数的数Ωの個数に比べて"超越数=Ω"の個数の方がはるかに多い,ということがわかりました。

 

次に,より本質的な性質であると思われる,"Ωは体をなす"という命題を証明することにします。

 

それには集合Ωが加法について群をなすこと,および集合Ω×Ω{0}が乗法について群をなすこと,の両方を示せば十分です。

 

Ω,Ω×が,それぞれ,加法,乗法について閉じていれば,結合法則,α,β,γ∈Ωなら,(α+β)+γ=α+(β+γ),およびα,β,γΩ×なら(αβ)γ=α(βγ)が成立することは明らかです。

 

また,0と1は明らかに代数的数ですから,0が加法群Ωの,1が乗法群Ω×の単位元であることも明らかです。

 

さらに,α∈Ωであってf(α)=0αn+a1αn-1+..+an-1α+an0 (a0,a1,..,an-1,an)が成立するとします。

 

このとき,{(-1)n0}(-α)n{(-1)n-11}(-α)n-1+..+(-an-1)(-α)+an0 が成立するので,(-α)Ωです。

  

特にα≠0なるときは,n(1/α)n+an-1(1/α)n-1+..+a1(1/α)α+a00 が成立するので,(1/α)=α-1Ω×となることもいえます。

 

そこで,加法と乗法について,共に単位元と逆元が存在することも自明です。 

 

ところが,Ωが加法について閉じていること,つまりα,β∈Ωなら(α+β)∈Ωとなること,およびΩ×が乗法について閉じていること,つまりα,β∈Ω×ならαβ∈Ω×となることを具体的に示すのは少々やっかいです。

 

証明のために,まずαがf(α)=0αn+a1αn-1+..+an-1α+an0 (a0,a1,..,an-1,an∈Z)を,βがg(β)=b0βm+b1βm-1+..+bm-1β+bm0 (b0,b1,..,bm-1,bm∈Z)を満足するとします。

 

ここで,一般性を失うことなくn≧mと仮定してよいので,そのように仮定します。

 

x=α+βとおくと,α=x-βより(α)=f(x-β)=0 ですから,φ(x)≡f(x-β)=c0n+c1n-1+..+cn-1x+cnと定義すれば,φ(x)はxのn次多項式でφ(α+β)=0 です。

 

一方,x=αβとおくとα=x/βより(α)=f(x/β)=0 ですから,ψ(x)≡f(x/β)=d0n+d1n-1+..+dn-1x+dnと定義すればψ(x)はxのn次多項式でψ(αβ)=0 が成立します。

 

ところが,c0,c1,..,cn-1,cn ;d0,d1,..,dn-1,dn は一般に整数あるいは有理数ではありませんから,x=α+βやx=αβは確かに代数方程式φ(x)=0 やψ(x)=0 の解ですが,それが代数的数であるとはいえません。

 

あるいは,f(x)=(x-α)f1(x),g(x)=(x-β)g1(x)より,y≡2xとしてχ(y)≡fg1+f1g={y-(α+β)}f1(y/2)g1(y/2)と定義すれば,これは確かにy=α+βを解とします。

 

しかしχ(y)はyの多項式ではありますが,その係数は整数または有理数ではありません。

 

有理数係数の多項式を微分しても導関数はやはり有理数係数の多項式ですから,これらの操作や性質を用いることも試行しましたが,私の力不足かα+βやαβを解とする具体的な整数あるいは有理数係数の代数方程式を求めようとする方法ではうまくいきません。

 

そこで抽象的な方法を利用することにし,代数的整数論の知識を借りて,α,β∈Ωなら(α+β)∈Ω,かつαβ∈Ωとなることを示します。

 

有理数体をで表わすとき,α∈Ωを仮定して"αの上の最小多項式=αを根とする有理数係数のモニック(最高次の係数が1の多項式)でその次数が最小のもの"をf(x)とします。

 

αの上の最小多項式f(x)の表現をf(x)=xn+a1n-1+..+an-1x+an (a1,..,an-1,an):f(α)=αn+a1αn-1+..+an-1α+an0 とします。

 

同様に,β∈Ωとして,βの上の最小多項式をg(x)とします。(x)=xm+b1m-1+..+bm-1x+bm (b1,..,bm-1,bm):(β)=βm+b1βm-1+..+bm-1β+bm0 です。

 

そして,の部分環であって,α,βを含む最小の環,つまり有理数体にαとβを添加してできる環を[α,β]とします。

 

このとき,αの最小多項式f(x)の性質:f(α)=0 から,αn=-a1αn-1-..-an-1α-anが成立しますから,αの全ての次数の量は1,α,..,αn-1の元を係数とする1次結合で表わすことができることがわかります。

 

同様に,βの全ての次数の量は,1,β,..,βm-1の元を係数とする1次結合で表わせます。

 

 それ故,[α,β]の全ての元は(nm)個の(αiβj)(i=0,1,..,n-1;j=0,1,..,m-1)の1次結合で表わすことができます。

 

 (nm)個の(αiβj)を,改めてθk(k=1,2,..,nm)と書きます。

 

 このとき,∀γ∈[α,β]に対してγθk(k=1,2,..,nm)も全て[α,β]の元ですから,これらの各々はγθk=Σj=1nmkjθj(bkj)とθj(j=1,2,..,nm)の1次結合で表わすことができます。

 

 そこで,θk(k=1,2,..,nm)の集合をθt12,..,θnm)と列ベクトルの形で再定義し,Bをの元bijを成分とするnm次の正方行列とすれば,γθ=Bθ,つまり(γE-B)θ=0 と表現できます。

 

 そして,θ≠0 なので,det(γE-B)=0 が成立します。

 

 (detAはAの行列式(determinant)を意味します。)

 

 det(γE-B)=0 はγを根とする係数が有理数のnm次の代数方程式です。それ故,γ∈Ωとなります。

 

 したがって,[α,β]⊂Ωであることが示されたわけです。

 そこで特にα+β,αβ∈Ωです。

 

 以上で,代数的数全体の集合Ωは体をなす,すなわち,複素数体の可算な部分体である,という命題が証明されました。 

 

まだ,eやπが超越数であることを示すという魅力的な話題も残っています。

 

eやπが無理数であることや超越数であることの証明は,ちょっと興味が湧いて1年くらい前に買った本に詳ししく載っています。

 

しかし,本の内容をただ写してブログ記事にする。というのはやりたくないので,書名を紹介するに留めて,今日はこのくらいにします。

 

その書名は塩川宇賢 著「無理数と超越数」(森北出版)です。

そのまんまですね。

 

参考文献:石田 信 著「代数的整数論」(森北出版)

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャー

 

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303. 代数学・数論」カテゴリの記事

コメント

こんにちは、hirotaさん、TOSHIです。いつもコメントありがとうございます。

 いやあ、すごいですね。hirotaさんって何者なんだろうって思っちゃいますね。

 最初、何気に読んでいても意味がわからなかったのでコメントできなかったのですが、少し考えると本文で参考書を参照して行列式で表わした内容の証明とほぼ同じ内容に相当する証明であると理解しました。こうした答えをひねり出すとは感服しました。

 どうも、ありがとうございます。

              TOSHI

投稿: TOSHI | 2007年8月23日 (木) 17時31分

記事を読んで α+β, αβ が代数的数になることを直接示せないかと考えてみましたが、対称式くらいしか考え付きませんでした。
つまり、α,βが代数的数ならαを根とする整式 P(x) の因数分解を P(x) = Π( x - α_i ) として α_1 ~ α_n の対称式を考えれば、その値は有理数で P(x) の係数は基本対称式。
同様に β_1 ~ β_m の対称式も有理数。
すると α_i , β_j の整式 f( α_i , β_j ) を考えて、f( α_i , β_j ) 全部から作った対称式は α_i の対称式と β_j の対称式から構成されますから、これも有理数。
従って、Q(x) = Π( x - f( α_i , β_j ) ) は有理係数多項式、すなわち f( α_i , β_j ) は代数的数。
てな所です。( 細かい穴をふさぐ必要はあるだろうが )

投稿: hirota | 2007年8月22日 (水) 13時05分

 はじめまして単因子さん、TOSHIと申します。コメントありがとうございます。

 なるほど2007年1月14日,15日の記事「ガロア理論(1)」「ガロア理論(2)」の内容そのまんまですね。単純にこれを利用すればよかったのでしたか。。どうも代数的数の集合Ωが体になることを証明するのに、体の性質を使うというのは、コロンブスの卵で私はまるで気づきませんでした。

 確かに有理数体をQとして、αがQ上代数的:α∈ΩならQ(α)⊂Ω、すなわちαやαのベキ乗とQの元との線型和とか積がまた代数的数になることを証明できたとしたら、α,β∈ΩならQ(α)⊂ΩかつQ(β)⊂ΩでQ(α,β)はQ(α)またはQ(β)の有限次拡大ですからQ(α,β)⊂Ωで、Q(α+β)はQ(α,β)の部分集合ですからQ(α+β)⊂Ωになりますね。だからもちろん(α+β)∈Ωですね。

 ただ、私はそのときには本文に示した方法で証明したα,β∈Ωならα+β∈Ω,αβ∈Ωetcという泥臭い方法の他に簡単にα∈ΩならQ(α)⊂Ωとなることが証明できることに気がつきませんでした。

 たしかにα∈Ωならp(x)をαの最小多項式としてQ[x]/(p(x))とQ(α)は同型ですがそれでどうしてQ(α)⊂Ωとなることがわかるのでしょうか?

 確かに泥臭い方法ではα∈Ωでp(x)をαの最小多項式とするとp(α)=0なので、任意のc∈Qに対してγ=c+αとおけばp(γーc)=0 となりp(x-c)もQの多項式だしγ=cαとするとp(γ/c)=0 でp(x/c)もQの多項式ですね。

 さらにp(x)の次数がnであるとすると、α^n以上はすべて1,α,α^2,...α^n-1のQの上での線型結合で表現できるのですが、α^2,...α^n-1∈Ωとなることの証明があまりよくわかりませんね。

 γ=α^2ならp(√γ)=0 です。これは奇数次項と偶数次項を両辺に分けると√γf(γ)=g(γ)という形になるので、両辺を2乗すればルートは消えてγf(γ)^2=g(γ)^2 であり、明らかにxf(x)^2-g(x)^2は1つのQの多項式なのでα^2∈Ωが示せます。あとのα^3...α^n-1∈Ωの証明は帰納法でも使えばできそうですね。。。

 とにかく貴重なご指摘ありがとうございました

                    TOSHI      

投稿: TOSHI | 2007年8月22日 (水) 06時35分

Kを体としLをその拡大体とします。このときLの要素αがK上代数的である条件は K[α]がK上有限次元であることは容易に分かります。さらにK上αの最小多項式をf(X)とすると K[α]=K[X]/(f(X)) です。f(X)はK上既約で、K[X}は単項イデアル聖域である考慮すると (f(X)) は K[X} の極大イデアルとなり、従ってk[α]=K(α)が成り立ちます。
従ってLの要素α,βがK上代数的であればK[α+β]はK[α][β]の部分集合で双方とも体なのでK[α+β]はK上有限次元。従ってα+βはK上代数的となります。

投稿: 単因子 | 2007年8月22日 (水) 04時04分

 どうもEROICAさん、TOSHIです。

 コメントありがとうございます。

 代数的数が体をつくるというのはその1部の証明などは結構、大学の数学での演習問題にもありますね。まあ、普通の有理数係数の代数方程式の根を考えるだけなら、複素数体全体を考えるのは大げさであって必要ではなく、そのごく小さい部分体で十分だということが示されたわけです。証明については本で勉強しただけでほめられるほどではないです。
 
 これの部分体は「代数体」と呼ばれて「代数的数論」などでは研究対象であるらしいです。


 超越数の話ですがπはeが超越数だとわかっているなら有名なオイラーの公式 exp(iπ)=-1 という式を用いて証明しているようです。天下り的に単に証明そのものを読んでそういうものか、と思ったのでそれほどの感激はなかったですね。

               TOSHI

投稿: TOSHI | 2007年5月28日 (月) 13時36分

 TOSHIさん。こんばんわ。EROICAです。
 代数的数の全体が体を作るということは、知りませんでした。それを、一般論から示してあるところがすごいですね。
 eやπの超越性は、私は、イアン・スチュアート著「ガロアの理論」 という本で証明を知りました。私のブログでも、その紹介記事を書きかけたのですが、積分記号を書きにくくて挫折しました。
 「博士の愛した数式」を読んだ直後に、せっかくだから、パイの超越性を証明して見せようと思ったのでした。
 あの証明は、見事ですね。私は浪人していたとき初めて理解できて、感動したのを覚えています。
 また、私のブログで、あの続きをちゃんと紹介しようかな?

投稿: EROICA | 2007年5月28日 (月) 02時43分

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