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2007年5月 6日 (日)

スピンと統計の関係(微視的因果律)

数学,それもPoincare'のトポロジーへの入門とはいえ,解析学的な話題

ばかり続いたので,ここで物理学に戻って量子論の軽い話題にでも触

れておきたい思います。

  

そこで,今日は特にスピンがゼロのBosonとスピンが1/2 のFermion

に対するスピンと統計の間に成立すべき関係を,いくらか詳細に論

じてみます。

 

Lorentz共変性の要請を満たす,唯1つの"基底状態(ground-state)

=真空(Vacuum)"を持つ局所的理論において,

 

"もしも,微視的因果律(microscopic causality)の成立条件を満たす

べきことを要請するなら,

 

整数スピンの場は"Bose場=Bose統計に従う場"として, 

半奇数スピンの場は"Fermi場=Fermi統計に従う場"として, 

量子化されなければならない。" 

 

という命題を証明します。

 

"ここで,微視的因果律の成立条件を満たす。"というのは, 

「観測可能な作用素(演算子)Oの局所密度をρ(x)=ρ(,t),

つまり,O≡∫d3ρ(,t)とするとき,

 

xとyが空間的(space-like)に離れている場合には,

ρ(x)とρ(y)は干渉することが不可能であり,それ故,

交換すること が要求されること」を意味します。

 

つまり,"(x-y)2<0 なら[ρ(x),ρ(y)]=0 "

なることが微視的因果律の成立条件です。

 

空間的に離れている:(x-y)2<0 "というのは,

ct=|x0-y0|と書けば,||>ctなることを

意味します。

 

これは,2つの事象の空間的距離の差が||,時間座標の差

がtなので,3次元の空間内の2点,の一方の点から他方の

点まで,相対論で限界速さとされている光速cの信号でも到達

不可能な場合です。

 

微視的因果律とは「超光速信号が存在しない限り一方が原因で

他方が結果とは成り得ない場合には,両者の観測可能量が作用素

として交換する(=無関係である)べきこと」を主張します。

 

ここでは,任意の2つの作用素A,Bに対して交換子を,

[A,B]≡AB-BAで,反交換子を[A,B]≡AB+BA

で定義します。

 

粒子場に,この微視的因果律の要請を課せば,それは特に

 

スピンがゼロKlein-Gordon場の反交換子による量子化,および

スピンが1/2のDirac場の交換子による量子化とは相容れない。」

 

ということを以下で示そうと思います。

 

電荷密度ρ(,t)や電流密度jμ(,t)のような理論における

観測可能量の密度は,場を表わす作用素(場の演算子)の2次形式

(または双1次形式)で構成されています。

 

すなわち,粒子場の成分を場の作用素(演算子)としてφa(x)etc.

で表現すれば,観測可能量の密度ρ(x)は,

ρ(x)≡φa(x)φ(x),または,これらの代数和

で与えられます。

 

そして,これらが空間的に離れた2点x,yでは交換すること

を要請すると,これは(x-y)20 なら,

[ρ(x),ρ(y)]=[φa(x)φ(x),φa(y)φ(y)]=0

を意味します。

 

[ρ(x),ρ(y)]の場の演算子の交換子による表現は,

 

a(x)φ(x),φa(y)φ(y)]

φa(x)[φ(x),φa(y)]φ(y)

+φa(x)φa(y)[φb(x),φ(y)]

+[φa(x),φa(y)]φb(x)φ(y)

+φa(y)[φ(x),φa(y)]φ(x)

 

となります。

 

一方,同じ[ρ(x),ρ(y)]の場の反交換子による表現は,

 

[ρ(x),ρ(y)]=φa(x)[φ(x),φa(y)]φ(y)

-φa(x)φa(y)[φb(x),φ(y)]

+[φa(x),φa(y)]φb(x)φ(y)

-φa(y)[φ(x),φa(y)]φ(x)

 

です。

 

ここで,φr(x),φs(y)をKlein-Gordon場のφ,φ*の組み合わせ,

または,Dirac場のψやψ+γ0の異なるスピノル成分の組み合わせ

とします。

 

すると,上述の[ρ(x),ρ(y)]の表現式から,

空間的に離れた(x-y)20 を満足する2点x,yに対して,

 

r(x),φs(y)]=0 (Bose条件),または

r(x),φs(y)]=0 (Fermi条件)が成立することは,

 

[ρ(x),ρ(y)]=0 が成立するための十分条件になって

いることがわかります。

 

もちろん,十分条件ですが,必要十分条件ではないので,これらの

交換関係に基づく統計性の他にも,謂わゆるパラ統計などが成立

する可能性もありますが,

 

ここでは上記の交換子,あるいは反交換子による定式化の2つ

だけに限定して考えます。

 

特に,(x-y)20 なら,あるLorentz系ではx0=y0,

することができるので,同時刻で(反)交換関係がゼロであるとい

う条件は,

 

(x-y)20 を満たす任意のx,yに対し(反)交換関係がゼロ

であるという条件と同等です。

 

そして,Klein-Gordon場に対しては,通常はLorentz不変性と

同時刻正準交換関係に基づいて正準量子化が実行され,相互作用

が存在するときでも

 

(x-y)20 の2点x,yに対して,[φr(x),φs(y)]=0

のBose条件が満足されるとします。

 

しかし,もしもKlein-Gordon場をFermi場のような反交換子を

基にして定式化しようと試みるなら,

 

場の反交換子の真空期待値:

Δ1'(x-y)δrs=<0|[φr(x),φs(y)]|0>を考える

ことによって,微視的因果律と矛盾することが示されます。

 

すなわち,この定式化では相互作用のある自由ではない

Klein-Gordon場の不変デルタ関数(反交換子の真空期待値):

Δ1'(x-y)は,

 

自由場の不変デルタ関数(反交換子の真空期待値):

Δ1(x-y)=∫d3[1/{(2π)3(2ωk)}]{e-ik(x-y)+eik(x-y)}

でスペクトル表示できます。

 

これは,Δ1'(x-y)=ZΔ1(x-y)

+∫2dσ2ρ21(x-y,σ2) す。

 

ただし,Zはくりこみ定数の1つです。

  

また,右辺のΔ1(x-y,σ2)は,平方質量がσ2のときの

自由反交換子の期待値:Δ1(x-y)を意味します。

 

そして,Δ1(x-y,σ2)(またはΔ1(x-y))は,もちろん自由場

のKlein-Gordon方程式に従います。

 

(x-y)20 のとき,通常の交換子による定式化での不変デルタ

関数(交換子の真空期待値):

iΔ(x-y)=∫d3[1/{(2π)3(2ωk)}{e-ik(x-y)ik(x-y)}

が確かにゼロになるのに反し,Δ1(x-y)はゼロとはならない

ことを示すことができます。

 

具体的表現はΔ1(x)=∫d3[1/{(2π)3(2ωk)}](e-ikx+eikx)

=[-1/(2π2||)](∂/∂||)[∫0(cos(kx)/(k2+m2)1/2)

cos{(k2+m2)1/2}dk]です。

 

そして,x2<0 のときのΔ1(x)はLorentz不変性により,t=0

を仮定して計算しても同じです。

 

t=0 のときには,||=(-x2)1/2=(||2-t2)1/2なので,

これを一般化して||→(-x2)1/2とおくことにします。

 

一方,通常の交換子による定式化でのΔ(x)は,Δ1(x)の

cos{(k2+m2)1/2}なる因子がsin{(k2+m2)1/2}に

変わるだけなので,t=0 のLorentz系を取れば,これは確かに

ゼロになることがわかります。

 

ところが,Δ1(x)の方は,0(z)を第2種の変形Bessel関数

とすると,

Δ1(x)=[-1/{2π2(-x2)1/2|]{∂/∂(-x2)1/2}

0[m(-x2)1/2]

=[m/{2π2(-x2)1/2|]K0'[m(-x2)1/2] と表現されます。

 

0(z)は大きいzに対しては,

0(z)~{π/(2z)}1/2exp(-z)と

漸近近似されます。

 

したがって,その微分係数の漸近近似は

0'(z)~(π/2)1/2(-z-3/2/2--1/2)exp(-z)

となります。

 

それ故,-x21/m2のような大きく離れた空間的距離

では,Δ1(x)=Δ1(,t,m2)~[m1/2/(2π)3/2}

xp[-m(||2-t2)1/2]/(||2-t2)3/4となり,

 

大きい||に対して

Δ1'(,0)

~Ze-m||/||3/2+∫2dσ2ρ2)e-σ||/||3/2

となります。

 

そこで,(x-y)2<0 となる空間的なx,yに対し,

Δ1'(x-y)≡<0|[φr(x),φs(y)]|0>がゼロには

なりません。

 

これは,この定式化での微視的因果律成立の条件である,

(x-y)2< 0 でr(x),φs(y)]=0 になるという

ことに矛盾するため,正当な定式化とは成り得ません。

 

一方,スピンが1/2のFermi場を通常の反交換子によって定式化

すると,考察すべきLorentz不変な関数

(=場の反交換子の真空期待値)は,

 

αβ'(x-y)=<0|[ψα(x),(ψ+γ0)β(y)]|0>ですが,

これは,∫0dM21(M2)(iγμμ)+ρ2(M2)}αβ

×Δ(x-y;M)なるスペクトル表示で表現されます。

 

しかし,もしもスピンが 1/2 のFermi場を交換子で表現しよう

するなら,その定式化で考察すべき場の交換子の真空期待値

表現は,

  

上に与えた場の反交換子の真空期待値の表式で

反交換子:α(x),(ψ+γ0)β(y)]交換子:

α(x),(ψ+γ0)β(y)]に置き換える必要があります。

 

これによって,スペクトル表示はΔ(x-y;M)を

Δ1(x-y;M)

に変えた表式に変更されます。

 

それ故,微視的因果律成立の条件である,(x-y)2< 0 なる

x,yに対して α(x),(ψ+γ0)β(y)]=0 となるべき

ことに矛盾するという結果が得られます。

 

スピンが1/2より大きい粒子場は,全てスピン1/2の粒子場の直積

で表わされ,こうしたスピンの大きい自由粒子は,いわゆる

Berdman-Wignerの方程式に従う場で記述されます。

 

このうち,スピンが整数の場合は,この方程式はFieltz-Pauli

の方程式というKlein-Gordon方程式を高次元に一般化したもの

にゲージ条件を加えたものへと変換されます。

 

一方,スピンが半奇数の場合は,Dirac方程式を高次元に一般化

して,ガンマ行列による拘束条件を付加した謂わゆるスピンが

(n+1/2)のRarita-Schwingerの方程式に従う場となります。

 

いずれにしても,場の交換子,反交換子の真空期待値を表わす

不変デルタ関数は,スピンが整数の場合に反交換子で定式化したり

スピンが半奇数の場合に交換子で定式化すると微視的因果律に

矛盾する結果となります。

 

それ故,微視的因果律の要請を認める局所場の理論では,粒子の

統計を表わす同時刻の正準関係が交換子,または反交換子のみで

表現される,というような二者択一的な定式化に従うことを前提

とする場合,

 

粒子のスピンが整数の場合にはBose統計に,粒子のスピンが半奇数

の場合にはFermi統計に従うものしか観測可能量を表現する物理的

粒子として存在できない,という結論が得られます。

 

理論が局所的対称性(つまり大域的だけではなく位置座標に依存

る対称性)を持つために,ゲージ不変性を有する場合には,共変

的量子化を行うためにゲージを共変ゲージに固定する必要があり

ます。

 

このときは,通常要求されるFPゴースト(Fadeev-Popov Ghost)

を記述する粒子はスピンが1/2なのにBose統計に従うものがあり

ます。

 

それ故,これらゴースト粒子は微視的因果律の要請を満たしません

が,ゴーストは補助場として理論に関係するのみで現実の観測可能

量を記述する際には埋没してしまう非物理的粒子なので,これらは

矛盾の種にはなり得ません。

 

参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell 「Relativistic Quantum Fields」 (McGraw-Hill) 大貫義郎 著「ポアンカレ群と波動方程式」(岩波書店)

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」

サブマネージャーです。

 

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