超幾何微分方程式とクンマー,リーマン,フックス
5月5日の「ガウスと超幾何微分方程式」という記事を境にして一旦中断していた線形常微分方程式とフックス関数の話を再開し,それに続く記事を書こうと思います。
Poincare'(ポアンカレ)が登場する以前でGauss(ガウス)より後の時代の線形常微分方程式とフックス関数に関わる数学者として.歴史の順にKummer(クンマー),Riemann(リ^マン),Fuchs(フックス),そして最後にSchwarz(シュワルツ)がいました。
そして,実はこの項目に関する"読書=勉強"は1998年にKummerに関する項を読み終えた後に中断していたのですが,今回,友人に病室まで書物を届けてもらって順天堂大病院での心臓手術(4/10)の数日前,2007年4月6日に読書を再開したわけです。
そして,それまでは転院前日の4月3日に帝京大病院で稲見武雄 著
の「常微分方程式」(岩波書店)を読み終えていたことを4月30日の
ブログ記事で書きました。
さてKummerですが,彼は丁度3つの確定特異点を持つ2階 Fuchs型
線形常微分方程式の全てに同等でそれらを代表するものであると考
えられる 0,1,∞ に確定特異点を持つ超幾何微分方程式の解の間に
成立する関係式を求めました。
すなわち,"超幾何微分方程式の解として,特異点 0,1,∞ のまわり
のベキ級数の形で与えられる超幾何級数:F(α,β,γ;z)=
超幾何関数"の特異点 0,1,∞ に応じてFrobeniusの方法に基づく
ベキ級数解として,z=x,1-x,1/xとしたものが考えられます。
それぞれのベキ級数は特異点の近傍での2階方程式の独立な2つの解
を表現しているので,トータルとして解は6種類が考えらます。
それらを複素z平面上の独立変数zに対する解であると考えた場合
には,解は特異点 0,1,∞ を除く全z平面で解析的であるはずです。
それ故,特異点の近傍だけで定義された超幾何級数としてではなく
"特異点を除く全z平面に解析接続された解析関数=超幾何関数"と
考えたときには,全てが独立というわけではなく2階微分方程式
の解なので独立なのものは2個だけのはずです。
それ故,z=x,1-x,1/xのそれぞれでα,β,γの異なる6種類の解
F(α,β,γ;z)の間に"種々の関係式=恒等式"が成立すると考えら
れます。
実際,Kummerは上述の考察から24種類の解を求め,それらの間に成立
する関数等式を具体的に求めました。
しかし,彼のやったことはそれだけで,それ以上の進展はありませんで
した。というのも,彼は元々変数zを実変数xの範囲に限ったものし
か対象としていなかったからです。
そこで,複素平面で解析接続する際 Gaussガウスにおいて生じたよう
なデリケートな問題は全くなかった反面,内容として浅薄でした。
Kummerの考えたのは,超幾何微分方程式:
(x-1)(d2y/dx2)+[(α+β+1)x-γ](dy/dx)+αβy=0
の解を,y=w(x)v,独立変数をz=z(x)に変換して,vをzの
関数と見なしたとき.z(x),w(x)はどのような関数でなければ
ならないか? という問題でした。
彼は複雑な計算の末に,α,β,γが独立なパラメータの場合は実独立
変数:z(x)として可能なのは特異点 0,1,∞ を互いに入れ換える1
次分数変換:x,1-x,1/x,1/(1-x),x/(x-1),(x-1)/xの6つ
に限ること,そしてこの各々に対してw(x)が4つずつ存在すること
を示しました。
変換の結果として得られる微分方程式は
z/(z-1)(d2v/dz2)+[(α'+β'+1)z-γ'](dv/dz)
+α'β'v=0 です。
ここで,α',β',γ'は,それぞれ,定数:α,β,γの関数として与え
られる定数です。
そして,この方程式は,F(α',β',γ';z)を解に持ちますから,
元の超幾何微分方程式の方は,y=w(x)F(α',β',γ';z(x))
を解に持つわけです。
こうしてKummerは24個の解を求め,これらのうち4つずつがそれぞれ
等しいことを示して,解が6つのグループに分けられることを示しま
した。
これが有名なKummerの関数等式(Kummer's functional equations)
です。
そして,この6つに絞られた解は,実はどの3つも独立ではなく,
その間には定数係数の1次関係が成立します。
この1次関係を求めるのが彼の次の目的でした。
ところが,Kummerの実変数の範囲に限った議論では,
収束域が|1-x|<1であるものと,|1-x|>1であるものとでは
共通の定義域がないので,それらの間には1次関係を作ることが
できません。
これがKummerの弱点でした。
しかし,彼自身は,これでかまわないと考えていたらしく,それ以上の
進展はなかったのです。
そして,GaussやKummerの求めた超幾何関数間のさまざまな関数等式
も,結局は後のRiemannのP関数(ペイ関数)によって表現された超幾
何関数の間に成り立つRiemannの変換公式に集約されます。
Riemannは超幾何関数の多価性の解析に正面から取り組み,現在
Monodromy群とよばれているものを初めて考えました。
彼にとっては,解析接続の手段はCauchy-Riemannの微分方程式を
満たす解を求めることでした。
この微分方程式を満たすことは,現在では複素関数が正則関数である
ための必要十分条件として有名です。
RiemannのP関数の話については,4月30日の記事
「フックス型微分方程式とガウスの微分方程式」において
かなり詳細に述べているので,重複を避けてここでは述べ
ません。
Riemannのこの分野での業績については,Monodromy群の考察と関連
したP関数によるRiemannの変換公式が主要なものです。
これに続くFuchsによって確立された一般的な線形常微分方程式と
確定特異点の理論については,既に,
4月24日の「線形常微分方程式の確定特異点と不確定特異点」,
4月25日の「n階線形常微分方程式と確定特異点」,4月26日の
4月28日の「2階線形常微分方程式と確定特異点 」,そして
4月30日の「フックス型微分方程式とガウスの微分方程式 」
において詳細を述べました。
ここで改めて読んだFuchsについての内容は,全て前に書いたことと
重複するため,
丁度3つの確定特異点を持つ2階Fuchs型線形常微分方程式は,
全て適当な変数変換で 0,1,∞ に確定特異点を持つ超幾何微分
方程式に帰着するという結論が得られたことを述べて,
Fuchsの項目については終わりにします。
後はSchwarzだけです。
彼は有理関数を係数とするFuchs型微分方程式が代数関数を解に
持つ条件を求める研究をしました。
しかし,彼の仕事について述べる前に超幾何微分方程式の解に
ついて,さらなる考察が必要です。
すなわち,先に述べたように形としては3つの特異点の近傍での解
として6種類ありますが,それらを実際に超幾何級数として全部求
め,その後,任意の3つを解析接続で結びつけることによって具体的
に1次関係を書き下す,という問題に言及する必要があります。
しかし,一応手術前に終わったのはFuchsまでで,それ以降の話は手術
が終わって3日後に読書を再開してからの話なので,
今日はここまでにしておきます。
参考文献:斎藤利弥 著「線形微分方程式とフックス関数I(ポアンカレを読む)」(河合文化教育研究所)
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