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2007年5月29日 (火)

超幾何微分方程式の代数関数解(シュワルツ)(3)

 前記事の続きです。

 これまでは独立変数をzとしてきましたが,以下では便宜上,zの代わりに独立変数として文字xを用いることにして,zはxの従属変数の文字として使用します。

 もちろん,変数名がxだからといって実数というわけではなく,ここでのxは一般に複素数を表わします。

(x)を超幾何微分方程式の1つのs関数とします。

 

このとき,s関数の定義によって超幾何微分方程式:

(x-1)(d2/dx2)+[(α+β+1)x-γ](dy/dx)+αβy=0 の1次独立な解1,y2を適当に選ぶとz(x)=y1/y2と書くことができます。

 

ここで,x0を 0,1,∞ 以外の複素数として,z0≡z(x0)とします。

 

このときz0=∞となることも有り得ますが,それはy2(x0)=0 のときに限ります。

 

z'=dz/dx=(y1'y2-y12')/y22であり,y1,y2は1次独立ですから,x=0,1,∞ 以外では,y1,y2のWronskian(ロンスキアン)はゼロにはなりません。

 

つまり,y1'(x0)y2(x0)-y1(x0)y2'(x0)≠ 0 です。

 

そこで,z0≠∞ ならy2(x0)≠0 なので,0<|z'(x0)|<∞ です。

 

また,z0=∞ならy2(x0)=0 ですが,このとき,もしy2'(x0)= 0 なら恒等的にy2(x)≡ 0 となりますから,1次独立性に矛盾します。

 

それ故,y2'(x0) ≠ 0 でなければなりませんから,x0は 1/z=y2/y1の1位の零点で,(1/z)'x=x0≠ 0 です。

 

以上から,複素x平面のC-[{0}∪{1}]を複素z平面のC∪{∞}に写す写像x→z(x)は全ての点において1対1です。

 

したがって,"複素平面上の各点における交角の角度を保存する写像=等角写像"です。

 

今後は,超幾何方程式のパラメータα,β,γは全て有理数である場合のみを考えます。

 

それは,今考えている対象は超幾何微分方程式の全ての解が代数関数である場合で,既に述べたようにこれが成り立つためには,解の分岐点が全て代数分岐点でなければならないため,α,β,γが全て有理数になることが必要だからです。

 

さらに,簡単のためにλ=|1-γ|,μ=|γ-α-β|,ν=|α-β|は整数ではないとしておきます。

 

全x平面をΠ,その上半部:Imx>0 をΠ+で表わします。

 

そしてΠ+をs関数z(x)によって,z平面に写像したらどうなるか?を考えます。

 

(x)はy1,y2がxの多価関数なので一般にxの多価関数です。

 

しかし,xがΠ+を動く限りでは,それは分岐点 0,1,∞ の周りを1周することができません。

 

そこで,予め分枝を1つ定めておけば,決して他の分枝に移ることはないので,Π+においてはz(x)は1価です。

 

また,z(x)はx= 0,1,∞ に特異点を持ちますが,

それらは超幾何微分方程式:

/(x-1)(d2/dx2)+[(α+β+1)x-γ](dy/dx)+αβy= 0 の確定特異点で,しかもλ,μ,νが有理数です。

  

(λ=|1-γ|,μ=|γ-α-β|,ν=|α-β|です。)

 

xがΠ+の中から実軸に向かって 0,1 に,あるいは∞ に近づくとき,

z(x)は確定した値(∞も含めます)に近づきます。

 

そこでこの極限値を0,1,∞ におけるz(x)の値であると定めます。

 

まず,実軸上の3つの区間(-∞,0],[0,1],[1,∞)のz(x)による像を定めます。

 

1=x1-γ(α-γ+1,β-γ+1,2-γ;x),y2=F(α,β,γ;x)とし,解の比z(x)としては,γ<1のときy1/y2,γ<1のときy2/y1を取ることにします。

 

ただし,F( , , :x)としては,|x|<1において超幾何級数で表わされる分枝を取ることにします。x1-γとしては,xが実数でx≧0 のときにはx|1-γ|≧0 となる分枝を選びます。

 

α,β,γは有理数であり,したがって実数なので,

F(α-γ+1,β-γ+1,2-γ;x),F(α,β,γ;x)はいずれも実係数の2階常微分方程式の解でx= 0 の近傍では,解とその1階導関数が実数値を取ります。

 

そこで,それを実軸に沿って解析接続していくと特異点x=1を超えない範囲-∞≦x≦1ではこれらは実数値を取ります。

 

したがって,γ<1のときz(x)=y1/y2,γ<1のとき,

z(x)=y2/y1よりs関数=解の比z(x)は,z(x)

=x|1-γ|P(x)=xλP(x)(-∞≦x≦1ではP(x)∈)

のような形を持ちます。

 

今,xが1から実軸に沿って-∞まで動くとき,z(x)はどのように変化するかを見てみます。

 

|1-γ|=xλはx≧0 のときに負にならない分枝を取っており,さらにF( , , :0)=1なのでxがゼロに近い正の値を取るとき,z(x)>0 でz(0)=0 です。

 

故に,実区間: 0≦x≦1はz平面の実軸上の線分:

0=z(0)≦z≦z(1)に移ります。

 

xがゼロを通過してx<0 の範囲に入ると,arg(x)はπだけ増加するのでxλはeπiλ|x|λに変化します。

 

P(x)は依然,実数値を取り続けるのでxの区間[0,-∞]はz(0)においてz平面の実軸と角度λπをなす線分z(0)→z(∞)に移ります。

 

このとき,もしλ>2であるとλπ>2πより,Π+の像がz平面上で重なり合いz平面の1部を2重に覆うようになります。

 

そこで,こうした場合は今後考えないことにして,λ=|1-γ|<2 を仮定しておきます。

 

今はz(x)として特別なs関数を選んだわけですが,他の一般のs関数z^(x)を選んだ場合には,

z^(x)=(az(x)+b)/(cz(x)+d) (ad-bc≠0 )

が成り立ちます。

 

z^(x)による-∞≦x≦1 の像は,今求めた図形:

(z(1)→z(0)→z(∞))に1次分数変換を施したもの

になります。

 

このとき,線分は一般に円弧に移るので求める図形:

(z^(1)→z^(0)→z^(∞))はz^(0)で交わる2つの円弧

になります。

 

そして,その交角は1次分数変換が等角写像なのでやはりλπです。

 

次には,y1(1-x)γ-α-βF(γ-β,γ-α,γ-α-β+1;1-x), y2=F(α,β,α+β-γ+1;1-x)とし解の比z(x)としては,γ-α-β<1のときy1/y2,γ-α-β<1のときy2/y1を取ることにします。

 

そして,0≦x≦∞ のz(x)による像を考えると,前と同様にして,これはz(1)において角度μπをなして交わる2つの線分になります。

 

同様にして,x=∞の周りで展開した2つの超幾何関数解の比:z(x)について考察して,

 

xの実区間[1, ∞]∪[-∞,0]のz(x)による像はz(∞)において角度νπをなして交わる2つの線分になることもわかります。

 

そしてz(1)において角度μπをなして交わる2つの線分とz(∞)において角度νπをなして交わる2つの線分も,他の一般のs関数z^(x)を選んだ場合には,それぞれz^(1)において角度μπで交わる2つの円弧とz^(∞)において角度νπで交わる2つの円弧になります。

 

以上からx平面の実軸全体のs関数による像はz^(0),z^(1),z^(∞)を頂点とする円弧三角形となることがわかりました。

 

そしてz^(0),z^(1),z^(∞)における頂角は,

それぞれ,λπ,μπ,νπです。

 

ここで次に挙げる複素関数論の定理を用います。

 

"複素x平面上の区分的に滑らかな曲線Cが単連結な領域Dを囲んでいるとする。

 

関数f(x)が与えられ,これはD∪Cから有限個の点a1,a2,..,amを除いたところで正則であり,ajにおいてはf(x)=f(aj)+(x-aj)λjφj(x),0<λj<2,φj(x)はajにおいて正則でφj(aj)≠0 のような形をしているとする。

 

このとき写像:x→z=f(x)によってCがz平面上の単純閉曲線:C~に1対1に写像されるならば,DはC~によって囲まれる領域D~に等角写像され,f(x)はDにおいて単葉である。つまりDとD~の対応は1対1である。" 

 

という定理です。

 

この定理については,ここでは証明せずに認めることにします。

 

そして上述の定理を用いることにより,結局,

 

+から実軸を除いた領域はs関数によってw平面の円弧三角形の内部に1対1に等角写像される。"

 

ということがわかります。

 

ただし,λ<2,μ<2,ν<2は常に仮定されているとしています。

 

次に,s関数によるΠ全体の像を考えます。 

 

まず,s関数を1価にするため,x平面上での実軸上の区間 [-∞,0],[1,∞]をΠから除きます。

 

こうすればs関数はこの範囲で1価正則です。

 

z(x)としては特にx平面実軸上の0≦x≦1において実数値を取るものを選んでみます。

 

そうすれば,Π+はw平面の実軸上の区間[z(0),z(1)]に対応する線分を1辺とし,2つの円弧を2辺とする三角形に写像されます。

 

z(x)はΠ+-([-∞,0]∪[1,∞])で正則で境界[0,1]で実数値をとるように定義されているので鏡像の原理によってz(x*)=z*(x)が成立します。

 

すなわちx平面の下半部のz(x)は,z(x)≡z*(x*)によって,上記Π+-([-∞,0]∪[1,∞])の円弧三角形を,実軸に関して対称な裏返しにした円弧三角形の内部に写像されます。

 

こうして,2つの互いに対称な円弧三角形を境界[z(0),z(1)]で連結させた円弧四角形がz(x)によるΠの像です。もちろん,Πとこの四角形の対応も1対1です。

 

そして,z(x)として,0≦x≦1において実数値を取るという特別なものではなく,一般のs関数を採用すると,それによるΠの像は先のz平面の特別な四角形を1次分数変換で移したものになります。

 

実軸に関する対称変換:z→z*を一般の円弧について一般化したものは反転という変換に対応します。

 

反転というのは,中心がOで半径がrの円または円弧があって,Pをその円の内側または外側にある任意の点とすると,その点PにOP・OP'=r2を満たすような半直線OP上の点P'を対応させる写像のことです。

 

なお,直線も半径が∞の円の1種であると考え,その際には単に直線に関する対称点をとる写像=対称変換を反転と定義します。

 

反転の主な性質は次の3つです。

 

(ⅰ)反転によって円は円に移る。ただし直線も円の1種とみなす。

 

(ⅱ)反転により角度は不変に保たれる。

 

(ⅲ)直線lに関する点Pの対称点をP'とし1次分数変換によって直線lが円Cに,P,P'がQ,Q'に移ったとすれば,QとQ'は互いに円Cに関する反転になっている。

 

ただし.a∈とし円Cが|z-a|2=r2で与えられているとすると,

wのCによる反転をz'とすれば,z'=a+r2/(z*-a*)

=(az*+r2-|a|2)/(z*-a*)なので,反転は1次分数変換ではありません。

 

しかしz'=a+r2/(z*-a*)という形から明らかなように,反転を2回合成したもの,それ故,偶数回合成したものは1次分数変換です。

 

Schwarzの目的はz(x)が代数関数になる条件を求めることですが,彼はここで関数z(x)そのものではなく,その逆関数x(z)を考えます。

 

そして代数関数の逆関数も代数関数ですから,x(z)が代数関数となる条件を求めても,その目的は達せられます。

  

彼は,ここでさらに問題を単純化して,x(z)がzの1価関数となる場合のみを考えます。

 

1価の代数関数は有理関数ですから,結局Schwarzはx(z)が有理関数となる条件を求めることによって,彼の問題に部分的な解決を与えたわけです。

 

そこで,x(z)がzの1価関数となる条件を求めます。

 

既に示したように,x=0,1,∞以外ではxとz(x)の対応は1対1なので,それらの点の近傍以外ではx(z)はzの1価関数です。

 

それ故,x=0,1,∞ の近傍におけるxとzの対応関係のみが問題となります。

 

z=0 の近傍での対応は既に述べたように,z(x)=xλP(x),λ=|1-γ|と書けて,P(x)はx=0 の近傍で正則かつP(0)≠0 です。

 

したがって,その逆関数はz=0 の近傍ではz1/λの正則関数となります。そこでx=0 の近傍に関する限り,x(z)がzの1価関数であるためには1/λが整数である。ということが必要十分です。

 

同様にx=1の近傍とx=∞ の近傍を考えることにより,

パラメータ:μ=|γ-α-β|,ν=|α-β|に関しては,

 

"x(z)がzの1価関数であるための条件は1/μ,1/νが整数となることである。"

 

という結論が得られます。

 

すなわち,x(z)がzの1価関数であるための条件は,正の整数m,n,pが存在してλ=1/m,μ=1/n,ν=1/pとなることである。ということが示されました。

 

今日はここまでにします。

 

参考文献:斎藤利弥 著「線形微分方程式とフックス関数I(ポアンカレを読む)」(河合文化教育研究所)

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャー

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