超幾何微分方程式の代数関数解(シュワルツ)(4)
Fuchs型微分方程式(超幾何微分方程式)についてのSchwarz(シュワルツ)の理論の続きです。
今までの議論ではz(x)の1つの分枝だけを考え,それによるx→zの写像を考えてきましたが,x(z)の性質を完全に調べるには,これだけでは不十分です。
z(x)が1つの分枝から他の分枝へ移るとき,x→zによるx平面の像{z(x)}がどのように変わるか?を詳細に調べる必要があります。
y1,y2を超幾何微分方程式の1次独立な解として,s関数:
z(x)=y1/y2を考えます。
そして,C-≡C-{0}∪{1}とおいてC-の中に点x0を取りC-の基本群=π1(C-,x0)を考えます。
ここで,C-の基本群=π1(C-,x0)とは何か?ということを説明しておきます。
まず,
"x0∈C-から出発してx0に戻る有向閉曲線の集合をΓ0とするときγ1,γ2∈Γ0に対して,γ1,γ2がhomoiopic(ホモトピックまたはホモトープ)であるとき,γ1~γ2である。"
と定めることによって1つの同値関係: ~を定義します。
それによって作られる"同値類=homotopy類(homotopy^class)"において,γ∈Γ0を代表元とするものをγ~で表わします。
※(注):ここで,2つの有向曲線:α,βが互いにhomotopicであるとは,
"これらの曲線が定義されている平面上で,αを移動させてβに重ねることができる連続写像(homotopy)が存在する。"
ことを意味します。
(有向曲線:α,βは閉曲線とは限りませんが互いの始点同士,終点同士は一致しています。)
故に,もしも移動:α→β,またはα←βの際に,移動する有向曲線が掃く平面領域:Sに特異点があるなら,この移動(homotopy写像)は連続写像とは見なされず,両者はhomotopicではない,ことになります。
(注終わり※)
そして,∀γ1,γ2∈Γ0に対して,x0∈C-から出発して,まずγ1を1周し,続いてγ2を1周することによって得られる閉曲線をγ1とγ2の積:γ2γ1∈Γ0であると定義します。
これによって,,Homotopy類における乗法(or 積):(γ2γ1)~≡γ2~γ1~を定義します。
このhomotopy類の全体から成る集合は,乗法に関して群をなすので,これをC-の基本群と呼びπ1(C-,x0)という記号で表わします。
次に,γ~∈π1(C-,x0)とするときy1,y2を基底として得られる,
γ~に対応するMonodromy行列:M(γ~)を,(y1(γ~x0),y2(γ~x0))
≡(y1(x0),y2(x0))M(γ~)によって定義します。
yj(γ~x0)はyj(x0)をx0から出発してγ~に属するγに沿って解析接続し,1周して元のx0まで戻ったときに得られた関数です。
ここで,特別なx0∈C-ではなく任意のx∈C-を考え,複素x平面から[-∞,0]∪[1,∞]を除いた範囲内で,xとx0を結ぶ任意の経路をCxとします。
xからCxに沿ってx0まで行き,そこからγ~に属するγに沿って1周してx0まで戻り,最後にCxを逆向きにたどってxに戻る経路も1つの有向閉曲線です。これをCx-1γCxと書くことにします。
yj(x) (j=1,2)の1つの分枝を取り,それをこの経路Cx-1γCxに沿って解析接続してxに戻ったときに得られる分枝をyj(Cx-1γCxx)と書けば,
(y1(Cx-1γCxx),y2(Cx-1γCxx))=(y1(x),y2(x))M(γ~)
となるのは明らかです。
これは,Cxが[-∞,0]∪[1,∞]を横切らなければ,経路Cxには依存しません。
それ故,改めてCx-1γCx(for γ∈γ~)の全体をγ~とし,上の関係を(y1(γ~x),y2(γ~x))=(y1(x),y2(x))M(γ~)と書くことに決めます。
こうして,π1(C-,x0)は,実は特別な点x0∈C-には依らないということが示されました。
ここで,2×2行列M(γ~)の成分をM(γ~)≡(mij(γ~))i,j=1,2とすれば,y1(γ~x)=m11(γ~)y1(x)+m21(γ~)y2(x),y2(γ~x)=m12(γ~)y1(x)+m22(γ~)y2(x)です。
z(γ~x)=y1(γ~x)/y2(γ~x)により,
z(γ~x)=[m11(γ~)z(x)+m21(γ~)]/[m12(γ~)z(x)
+m22(γ~)]と書けます。
したがって,γ~によって定まる1次分数変換:T(γ~)を,
T(γ~)z≡[m11(γ~)z+m21(γ~)]/[m12(γ~)z+m22(γ~)]
で定義すれば,
x平面上の点が経路γ~を1周することで生じるs関数z(x)の解析接続は,z(x)→T(γ~)z(x)で与えられます。
T(γ2~γ1~))=T(γ2~)T(γ1~)となるのは明らかですから,
対応:M(γ~)→T(γ~)によって,
Monodromy行列:M(γ~)全体の作る群であるMOnodromy群は,
T(γ~)全体の作る集合の上に準同型に写像されます。
そこで,Gが上記のT(γ~)全体の集合を表わすとすると,Gも1つの群となります。
ところで,z(x)→T(γ~)z(x)は,xがγ~を1周して元のxに戻ったときにzがT(γ~)zに移ることを示す式なので,逆に,xをzの関数と考えればx(T(γ~)z)=x(z)の成立を意味します。
あるs関数の1分枝をz(x)で表わせば,その他の分枝はGに属する1次分数変換Tを用いて,Tz(x)と表わされます。
z(x)によるx平面全体Πの像をz(Π)とすると,z(x)の他の分枝によるΠの像はTz(Π) (T∈G)です。
前の記事で述べたように,Tz(Π)もやはりz(Π)同様,z平面上での1つの円弧四辺形で与えられます。
そしてx(z)はzの1価関数であるとしているので,2つの異なるxの値と1つのzが対応することはありません。
そこで,仮にz(Π)∩Tz(Π)≠φであるとすれば,
z1∈z(Π)∩Tz(Π)なるz1が存在して適当なx1,x2∈Πに対して
z1=z(x1)=Tz(x2)が成立します。
ところが,Tが恒等変換でないならz(x1)≠Tz(x1)ですから,
z(x1)=Tz(x2)というのはx1≠x2を意味します。
したがって,x1=x(z1),x2=x(T-1z1)=x(z1),かつ
x1≠x2となり,これはx(z)の1価性に反します。
それ故,T≠1ならz(Π)∩Tz(Π)=φでなければなりません。
つまり,2つの円弧四辺形z(Π)とTz(Π)が重なることは,全く然ないわけです。
それ故,円弧四辺形の総和:∪T∈GTz(Π)はz平面のある領域を重複することなく覆うことになります。
この領域がz(x)の逆関数x(z)の定義域となります。
これまでの考察をまとめると,
"s関数z(x)の逆関数x(z)がzの1価関数となる条件は,m,n,pを正整数としてλ=1/m,μ=1/n,ν=1/pと書けることである。
このとき,z(x)の1分枝によるz平面Πの像:z(Π)を∀T∈Gで移したものの全体は互いに重なり合わない円弧四辺形によって覆われる領域であって,
x(z)はこの上で定義された次の2つの性質を持つ関数である。"
と要約されます。
そして,x(z)が満たす2つの性質とは,
"(1) 1つ1つの円弧四辺形の上ではx(z)は 0,1 以外の全ての複素数をただ1回ずつ取る。
(2) ∀T∈Gに対してx(Tz)=x(z),すなわちx(z)は群Gに関する保型関数である。"
というものです。
今日はここまでにします。
ここまで書いたところで,その昔,完全には理解できないながらも読了した覚えのある久賀道郎 著「ガロアの夢(群論と微分方程式)」(日本評論社)という本についての記憶がよみがえりました。
"上述の話は,その本の内容の一部によく似ているな。"という感覚を覚えました。
もっとも,こっちの本の方はガロア群に関する話とか,より高度な内容を含んでいるようですが。。。。
最近,T_NAKAさんも,そのブログの「同値類別について」という記事の中でこの書物に触れられていましたが,私にとってもこの本は未だに興味深いテキストだと思います。
参考文献:斎藤利弥 著「線形微分方程式とフックス関数I(ポアンカレを読む)」(河合文化教育研究所)
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