« 超幾何微分方程式の代数関数解(シュワルツ)(4) | トップページ | 有限なモノドロミー群と代数関数解 »

2007年5月31日 (木)

超幾何微分方程式の代数関数解(シュワルツ)(5)

前記事の続きです。

 

次に∪T∈GTz(Π)の構造を少し詳しく調べてみます。

(x)の1つの分枝を定め,それによるxの上半平面:Π+の像をx=0,1,∞ が頂点A,B,Cに対応する円弧三角形ABCとします。

 

z(x)をxの下半平面:Π-に解析接続するには,

  

 "(ⅰ)区間(-∞,0)を横切る経路に沿って接続する。(ⅱ)区間(0,1)を横切る経路に沿って接続する。(ⅲ)区間(1,∞)を横切る経路に沿って接続する。"

 

という3通りの方法があります。

 既に前記事で述べた通り,(ⅱ)を行なって得られるz(x)の分枝によって,下半平面Π-を写像するならば,その像は弧ABに関して円弧三角形ABCを反転した円弧三角形ABC'になります。

 全く同様に(ⅰ)によって接続すると下半平面Π-は円弧三角形ABCを弧ACに関して反転した円弧三角形AB'Cになり,(ⅲ)によるなら弧BCに関して反転した円弧三角形A'BCになります。

 以下,同様に各辺に関する反転を繰り返すことにより,z(x)のいろいろな分枝による上半平面Π+,下半平面Π-の像の円弧三角形の連鎖が得られ,各円弧三角形はその円弧でできた3辺の全てを他の3個の円弧三角形の1辺と共有し,全体として単連結な領域をなします。

 

 こうして作られた反転領域の全体がx(z)の定義域∪T∈GTz(Π)です。

 隣接した上半平面Π+の像,下半平面Π-の像を合わせたものを1組選ぶと,それはz(x)のある分枝によるx平面全体Πの像です。

 

 これを群Gによる保型関数x(z)の基本領域と呼びます。

 基本領域はGに関する1次分数変換Tによって,他の基本領域に移ります。なぜなら,1つおきに隣接したΠ+の像である円弧三角形は反転を2回行なうことで互いに移ることができるし,同じことはΠ-の像についてもいえます。

 

 そして,既に述べたように,偶数回の反転の合成は,それぞれが1つの1次分数変換になるからです。

 領域∪T∈GTz(Π)が如何なるものか?をさらに調べるために、シュワルツにしたがって次の分類を行ないます。

  

 (ⅰ)λ+μ+ν> 1,(ⅱ)λ+μ+ν= 1,(ⅲλ+μ+ν< 1 の3つの場合に分けて考察します。

(ⅰ)の場合:s関数z(x)として特に上半平面Π+の像である円弧三角形ABCで2辺AB,ACが共に直線分でBCが円弧となるものを取ってみます。

 

 そのようなs関数z(x)が存在し得ることは,既に見た通りです。この三角形の頂角は,それぞれλπ,μπ,νπなので,この場合には三角形の内角の和(λ+μ+ν)πはπより大きいわけです。

 

 したがってこの⊿ABCは凸三角形であり,円弧BCの中心OはBCを境にしてAと同じ側にありAは円Oの内部にあります。

 

 図を描けないので詳細を省いて結果だけ述べます。

 

 OAと垂直な円Oの弦を直径としAを中心としてB,Cを通る円Γを赤道とするような球面Σを作り,その北極点Nから立体射影によって⊿ABCを球面Σの上に射影したものを⊿A111とすると3つの弧A11,A11,B11はΣの大円の一部になります。

 ところで,一般に次のことが知られています。

 

 "γをz平面上の円として,それのΣ上への立体射影γ1がΣの大円であるとする。

 

 このときPをz平面上のある点で,P'をそれのγに関する反転とし,P,P'のΣ上への立体射影をP1,P1'とすると,P1とP1'とは大円γ1が定める平面に関して互いに対称である。"

 

という性質が成り立つことです。

 これによると,z平面上で⊿ABCをその1辺に関して反転した図形のΣ上への射影は,弧A11,A11,B11はΣの大円の一部なので⊿A111を対応する辺に関して球面上で折り返したものとなります。

 

 したがって,それは球面三角形として⊿A111と合同な三角形であり,その3辺はやはりΣの大円の弧になっています。

 z平面上で⊿ABCから出発して辺に関する反転を次々に繰り返し,それをΣ上に射影するとΣは合同な球面三角形群に覆われます。

 

 しかしΣの全面積は有限であり,異なる球面三角形は辺を除いて重なる部分を全く持たないのですから,そうした球面三角形は有限個しかΣの上に載ることはできません。

 

 このことはGが有限群であることを示しており,それ故x(z)の定義域は有限個の基本領域の和で成立していることを意味します。

 Σ上の全ての点を,立体射影の逆写像でz平面上に引き戻すと,それはz平面全体ですから,結局z平面全体を有限個の基本領域が覆っていることになります。

 ところで,λ+μ+ν=1/m+1/n+1/p>1 となるような(m,n,p)の組み合わせは,実は次に挙げるものだけです。

 

 すなわち,(2,2,k),(2,3,3),(2,3,4),(2,3,5)だけです。

 

 これらに対応する群Gは多面体群と呼ばれる既知の群です。

 既述したように,αを任意の複素数とするとき,x(z)=αとなるzの値は各基本領域の中に1つずつしかありません。

 

 ところが,今の場合はGは有限群であり,基本領域の総数が有限なのでz平面全体でx(z)=αとなるzの個数,任意の複素数αに対して方程式x(z)-α=0 の解の個数は有限です。

 

 このような1価関数x(z)は有理関数でしか有り得ない,と結論されます。

(ⅱ)の場合:λ+μ+ν=1/m+1/n+1/p=1 となる正整数(m,n,p)の組み合わせは(3,3,3),(2,4,4),(2,3,6)だけです。

 s関数z(x)として上半平面Π+の像である円弧三角形の1つABCの2辺AB,ACが共に直線分となるように選ばれているとします。

 

 三角形の内角の和が(λ+μ+ν)π=πなので,円弧BCも実は直線分です。すなわち,⊿ABCは直線三角形でなければなりません。

 そして⊿ABCは,(m,n,p)=(3,3,3)のとき正三角形,(m,n,p)=(2,4,4)のとき直角二等辺三角形,(m,n,p)=(2,3,6)のとき,他の2角が60度,30度の直角三角形となります。

 

辺は全て直線分なので反転は対称な折り返しです。

 このとき基本領域は平行四辺形になり,基本領域をいくつか合わせた平行四辺形の各辺に対応する平行移動Gに属することになります。

 

 その平行四辺形の集合から成る定義域∪T∈GTz(Π)の上で,x(z)はこの平行移動に対して不変に保たれます。

 

 つまり,x(z)はトポロジー的には,この平行四辺形を周期平行四辺形とするトーラス,あるいは周期平行四辺形とする楕円関数です。

 楕円関数は超越関数ですから,(ⅱ)の場合には超幾何微分方程式の解は必ず超越関数を含み,したがって解が全て代数関数であるという場合ではありません。

(ⅲ)の場合:この場合もs関数z(x)として特に上半平面Π+の像である円弧三角形ABCで2辺AB,ACが共に直線分でBCが円弧となるものを取ります。

 

 (ⅰ)の場合とは逆に三角形の内角の和(λ+μ+ν)πはπより小さいので,⊿ABCの円弧BCの中心OはBCを境にしてAとは反対側にありAは円Oの外部にあります。

 

 Aから円Oに接線を引き,Aを中心としてAと接点を結ぶ線分を半径とする円を描けば,その円Γは明らかに直線AB,ACおよび円Oと直交します。

 すなわち⊿ABCの全ての辺と直交する円Γが存在します。

 

 そこで,この円Γを実軸に移す1次分数変換をTとして新しいs関数Tz(x)を考察します。

 

 この新しい関数Tz(x)を改めてz(x)と書けば1次分数変換は等角写像なのでΠ+のz(x)による像である円弧三角形の各辺は実軸と直交します。それ故,各辺はそれぞれ実軸上に中心を持つ円の弧です。

 このような円弧三角形を⊿ABCとし,例えば弧BCに関してこれを反転したものを⊿A'BCとします。

 

 弧BCの中心Oは実軸上にあり,その円の半径をrとすればPが実軸上の任意の点であるとき,OP・OP'=r2を満たす直線OP上の点P'はもちろん実軸上にあります。

 

 実軸の反転は元の実軸です。反転は角度を不変に保つので⊿A'BCの3辺もやはり実軸と直交する円弧,つまり,実軸上に中心を持つ円の円弧です。

 したがって,z平面上で⊿ABCから出発して辺に関する反転を次々に繰り返して得られる三角形の各辺は全て実軸と直交する円であり,実軸は実軸に移されます。

 Gに属する1次分数変換Tは全てこのような反転を偶数回合成すれば得られるので,∀T∈Gも実軸を実軸に移します。したがってこのようにz(x)を選んだ場合にはGの要素は全て実係数の1次分数変換で表わせるはずです。

 今,s関数z(x)の分枝の選び方によって⊿ABCがz平面の上半部にあったとします。

 

 全ての反転が実軸上に中心を持つ円に関して行なわれるので,反転をいくら繰り返しても作られる三角形は全てzの上半平面に含まれる故,Gの基本領域は全てzの上半平面に属することになります。

 基本領域全ての和集合をDとすれば,それがx(z)の定義域です。Dについては次のことが成り立ちます。

 

 (1) Dは無数の基本領域から成る。

 

 (2) Dは上半平面から実軸を除いた部分:{z|Imz>0}である。

 

 という命題が成立するように見えます。

 シュワルツは上記の命題を証明抜きで主張していましたが,これは決して自明なことではありません。

 

 特に,(2)を厳密に証明するには,シュワルツよりも後にポアンカレによって考案されたポアンカレ計量と呼ばれる1種の距離を上半平面に導入しなければなりません。

 

 この巧妙なテクニックについては,いずれポアンカレの項目で紹介する予定なのでここでは (2)を証明なしで認めておきます。

 これに対して(1)の方は次のようにして証明できます。すなわち,P∈Dとします。Dは基本領域で埋め尽くされており,各基本領域は2つの円弧三角形から成っています。

 

 故にPはある円弧三角形Δの内部にあるかその辺上にあるかのいずれかです。

 もしPがΔの内部にあればPはもちろんDの内点)です。一方PがΔの辺上にあってしかも頂点でないなら,Δをその辺に関して反転したものをΔ1とするとΔ∪Δ1は1つの基本領域であって,この場合も明らかにPはDの内点です。

 さらにPがΔの頂点ならPはいくつかの円弧三角形Δ, Δ12..Δnによって囲まれてしまうのでこのときもPはDの内点です。

 以上からDの点は全てDの内点であることになり,それ故,Dは開集合です。

 

 ところが基本領域は明らかに閉集合であり有限個の閉集合の和集合は閉集合なので,Dは無限個の基本領域の和である必要があります。

 

 故に(1)が成り立つことになります。

 したがってDが無限個の基本領域から成るので,x(z)は無数の異なるzに対して同一の値を取ります。

 

 故に逆関数z(x)はxの無限多価関数で,それ故,超越関数です。

 

 すなわち(ⅲ)の場合にも超幾何微分方程式の解は必ず超越関数を含み,したがって解が全て代数関数であるという場合ではありません。

 これで超幾何微分方程式の解が全て代数関数となるのは(ⅰ)の場合,すなわち,m,n,pが存在してλ=|1-γ|=1/m,μ=|γ-α-β|=1/n,ν=|α-β|=1/p, 1/m+1/n+1/p>1 である場合に限ることがわかりました。

 シュワルツはさらにλ,μ,νが整数となる場合も考察しています。

 

 これについては省略しますが,ただこの場合には例外的な場合を除いて超幾何微分方程式の解は対数関数を含むので代数関数にはなりません。

 また,λ,μ,νの中にゼロになるものがあると,それに対応する円弧三角形の頂角はゼロになりますが,そのときその頂点は実軸の上に乗っていなければなりません。

 ここで例としてλ=μ=ν=0 の特別な場合を挙げておきます。このときはα=β=1/2,γ=1ですから,ガウスの項で扱った例です。

 すなわち,そこでは「α=β=1/2,γ=1に対する超幾何微分方程式はx(x-1)(d2y/dx2)+(2x-1)(dy/dx)+(1/4)y= 0 で,そのx=k2 における解は1/M(1,k')=F(1/2,1/2,1;k2),1/M(1,k)=F(1/2, 1/2,1;k'2)=F(1/2, 1/2,1;1-k2)です。

 

 それら解の比は,τ=iK'/K=iM(1,k')/M(1,k)=iF(1/2,1/2,1;1-k2)/F(1/2,1/2,1;k2)で与えられました。

 そして,その逆関数x=k2(τ)はフックス群:Γ(2)/{±}に関するフックス関数でした。

 

 また楕円関数∫0xdx/{(1-x2)(1-k22)}1/2=uの逆関数:x=snuの周期は4Kと2iK'なので,τには楕円関数の周期の比という意味があります。

 

 k,k'はそれぞれsnuのモジュラス,補モジュラスと呼ばれ,k(τ),k'(τ)は楕円モジュラー関数と呼ばれる。という内容でした。

 シュワルツの研究での記号と比較すると,z=τ,x(z)=k2(τ)となります。すなわち,x(z)はモジュラー関数であってz平面上の基本領域については既にガウスの項で述べた通りです。

 シュワルツは超幾何方程式の解が代数関数となるための条件を決定することを目的としていたので,彼にとっては,場合(ⅰ)λ+μ+ν>1 が重要な意味を持っているのでしょうが,われわれにとっては.むしろ場合(ⅲ)λ+μ+ν<1 において現われる楕円関数とも異なる無限多価超越関数=フックス関数のx(z)の方に興味があります。

 

 これによってガウスによるモジュラー関数以外のフックス関数がはじめて発見されたわけです。(以上,シュワルツの項終わり)

 以上で,ポアンカレ以前の状況の説明を全て終わります。

  

 ここまでの部分は退院3日前の4月19日午前8時頃='朝飯前'に読了しました。

参考文献:斎藤利弥 著「線形微分方程式とフックス関数I(ポアンカレを読む)」(河合文化教育研究所) 

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。)

http://homepage2.nifty.com/toshis-kaiga-auction/「健康商品の店 タクザイ」

にほんブログ村 科学ブログへクリックして投票してください。(ブログ村科学ブログランキング)

にほんブログ村 トラコミュ 物理学へ
    物理学

|

« 超幾何微分方程式の代数関数解(シュワルツ)(4) | トップページ | 有限なモノドロミー群と代数関数解 »

308. 微分方程式」カテゴリの記事

305. 複素数・複素関数論」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 超幾何微分方程式の代数関数解(シュワルツ)(5):

« 超幾何微分方程式の代数関数解(シュワルツ)(4) | トップページ | 有限なモノドロミー群と代数関数解 »