再掲「算術幾何平均と楕円積分」
確か,4月4日の午後だったと記憶していますが,心臓の外科手術のために帝京大病院から順天堂大病院に転院しました。
それから4月10日に実際に手術を受けるまでは数日間あって,その間,既に帝京大病院で稲見武雄 著「常微分方程式」(岩波書店)を読み終えていたため,内容的にそれの続きとなるような専門書を是非読みたいと渇望していました。
そこで,電話でN目(ヌノメ)ちゃんという友人を呼び出し,自宅の鍵を預けて必要な本を持ってきてくれるように頼みました。その1冊の本が「2006年10月12日の私のブログ記事「算術幾何平均と楕円積分」の種本であった斉藤利弥 著「線形微分方程式とフックス関数(ポアンカレを読む)」(河合文化教育研究所)です。
これが届いてから1日くらいは,昔読んでノートにまとめた内容を読み返すのに費やしたので,順番に従うなら,この2006年10月12日に既に記述した内容についても,改めて前置きとして記述しておく必要があると考えます。
そこでちょっと手抜きではありますがその記事を再掲しておきます。
以下は全文が2006年10/12の記事の再掲記事です。
※今日はちょっとマニアックですが算術幾何平均と楕円積分との関係について述べてみたいと思います。
まず,算術幾何平均とは何か?という定義から始めるとa>0,b>0 の場合には次のように定義されます。
すなわち,a0=a,b0=b,an+1=(an+bn)/2,bn+1=(anbn)1/2によって算術平均と幾何平均の交互の数列{an},{bn}をつくります。
すると,仮にa≧bならbn≦bn+1≦an+1≦anであり,b≧aならan≦bn+1≦an+1≦bnなので,2つの数列は共に上下に有界です。しかも単調増加,または単調減少なので共に収束します。
{an},{bn}のn→ ∞での極限値をそれぞれα,βとすると,α=(α+β)/2,β=(αβ)1/2より,α=βとなります。この極限値α=βをaとbの算術幾何平均と定義し,これをM(a,b)と書くことにします。
一方,第1種の楕円積分をF(φ,k)≡∫0φdφ/(1-k2sin2φ)1/2で定義します。
ここで,x=sinφとおくと,dx=cosφdφ,すなわち
dφ=dx/(1-x2)1/2ですから,
F(φ,k)=∫0xdx/{(1-x2)(1-k2x2)}1/2とも書けます。
この積分をu(x)とおくと,ksinφがφ=2π=(π/2)×4の周期を
持つことに対応して,u(x)の逆関数x(u)は,2つの定積分:
K=∫01dx/{(1-x2)(1-k2x2)}1/2,
K'=∫01dx/{(1-x2)(1-k'2x2)}1/2
から決まる周期:4Kと2iK'を持つことを確かめることができます。
ただし,k'2=1-k2です。
本記事での目的は,1/M(1,k')=2K/π,かつ 1/M(1,k)=2K'/π
を示すことです。
結果としてk=√2,k'=iを代入したとき,
ω≡F(π/2,i)=∫0π/2dφ/(1+sin2φ)1/2
=∫01dx/(1-x4)1/2とおけば,ω=(π/2)/M(1,√2)
が示されます。
つまり,lemniscare(レムニスケート)積分:∫0π/2dφ/(1+sin2φ)1/2
=∫01dx/(1-x4)1/2の値が1と√2の算術幾何平均に等しいことが
わかります。
もっとも,1/M(1,k')=2K/π,k'=i によって,(π/2)/M(1,i)=F(π/2,√2)=∫0π/2dφ/(1-2sin2φ)1/2=∫01dx/{(1-x2)(1-2x2)}1/2の方を示すのには,算術幾何平均を正の実数だけでなく複素数の範囲まで拡張する必要があるので,ここでは割愛します。
さて,(π/2)/M(1,√2)=ω≡F(π/2,i)に対して,Gaussの2つの証明
を紹介しましょう。
まず,1つ目の証明は,M(λa,λb)=λM(a,b)=λM(an,bn)なる
性質から,等式:M[1+2t/(1+t2),1-2t/(1+t2)]
=M[(1+t)2,(1-t)2]/(1+t2)=M(1+t2,1-t2)/(1+t2)
が得られることから出発します。
一方,M(b,a)=M(a,b)より,M(1+k,1-k)はkの偶関数なので,1/M(1+k,1-k)=1+a1k2+a2k4+...と展開可能とします。
k=2t/(1+t2)とすると,M[1+2t/(1+t2),1-2t/(1+t2)]
=M(1+t2,1-t2)/(1+t2)から,
1+a1[2t/(1+t2)]2+a2[2t/(1+t2)]4+...
=(1+t2)(1+a1t4+a2t8+...)
です。
両辺を(1+t2)で割って2tを掛けると,
2t/(1+t2)+a1[2t/(1+t2)]3+a2[2t/(1+t2)]5+...
= 2t(1+a1t4+a2t8+..)が得られます。
左辺をtのベキ級数に展開するため,
1/(1+t2)=1-t2+t4-t6+...,そして(1+t2)-3
=∑m=1∞[(-1)(-3-1)..(1-3-m+1)t2m/m!] etc.
を用います。
そして,上の恒等式の両辺のtのベキの係数を比較すると,
0 =1-4a1=9a1-16a2=25a2-36a3=...
=(2n-1)2an-1-(2n)2an が得られます。
よって,an=[1・3・5・...(2n-1)/{2・4・6・...(2n)}]2
=[1・3・5・...(2n-1)/(2nn!)]2 です。
この結果をまとめると,1/M(1+k,1-k)
=∑n=1∞[1・3・5・...(2n-1)/(2nn!)]2k2nとなります。
一方,1/(1-k2sin2φ)1/2
=1+(1/2)k2sin2φ+(1/2)2(1・3)k4sin4φ/2!
+(1/2)3(1・3・5)k6sin6φ/3!+...と展開できます。
そして,∫0π/2sin2nφdφ=[1・3・5・...(2n-1)/ (2nn!)](π/2)
ですから,結局(2/π)K=∑n=1∞[[1・3・5・...(2n-1)/(2nn!)]2k2n
となることがわかります。
以上から,1/M(1+k,1-k)=(2/π)Kですが,
M(1+k,1-k)=M[1,(1―k2)1/2]=M(1,k')ですから,
1/M(1,k')=(2/π)Kです。
kをk'=(1―k2)1/2で置き換えれば,1/M(1,k)=(2/π)K'も得られ
,結局(π/2)/M(1,√2)=ω≡F(π/2,i)=∫dφ/(1+sin2φ)1/2
=∫dx/(1-x4)1/2が示されたことになるように見えます。
しかし,実は上に求めた級数の収束半径は1なので,lemniscate積分には
適用できません。
そこで,Gaussの与えたもう一つの証明を見てみましょう。
まず,次の積分I(a,b)をI(a,b)
≡∫0π/2[dφ/(a2cos2φ+b2sin2φ)1/2で定義します。
この積分において,sinφ=2asinφ'/{a+b+(a-b)sin2φ'}
によって変数変換をして置換積分をすると,
I(a,b)≡∫0π/2dφ/(a2cos2φ+b2sin2φ)1/2
=∫0π/2dφ'/(a12cos2φ'+b12sin2φ')1/2
=I(a1,b1)となります。
もちろん,a1=(a+b)/2,b1=(ab)1/2です。
I(a,b)=I(a1,b1)=I(a2,b2)=...=I(an,bn)
=...ですから,n → ∞ に対して,I(an,bn) → I(a,b)
です。
ところが,an → M(a,b),bn → M(a,b)より,
I(a,b)=I(M(a,b),M(a,b))
=1/M(a,b)]∫0π/2dφ/(cos2φ+sin2φ)1/2
=π/[2M(a,b)]
が得られます。
この結果から,a=1,b=kにより,やはり1/M(1.k)=(2/π)K'が
得られます。
上に証明された結論に基づき,
ω≡ F(π/2,i)=∫0π/2dφ/(1+sin2φ)1/2=∫01dx/(1-x4)1/2
を計算する代わりに,実際にエクセル(Excel)を使って算術幾何平均を
計算することによって(π/2)/M(1,√2)を求めました。
これは,10回程度の繰り返し計算でほぼ収束して,
ω=1.311028777146なる値になることがわかりました。
話は変わりますが,こうしたことに興味を抱いたのは斉藤利弥 著の「線形微分方程式とフックス関数(ポアンカレ)を読む)」(河合文化教育研究所)に興味を持ったためです。
zの1価解析関数F(z)があるとき,これが変換群Gに属する任意の変換
:Tに対してF(Tz)=F(z)を満たすなら,この関数FをGに対する
保型関数と呼びます。
そして,特に群Gがメビウス(Mödbiys)変換=1次分数変換:
T=(az+b)/(cz+d)の集合u,これがある条件を満足するとき
に構成されるFuchs(フックス)群であるときにはGに対する保型関数をFuchs関数と言います。
特に,2階線形常微分方程式d2y/dx2 =Q(x)yの2つの独立な解f(x)とφ(x)の比をz(x)=f(x)/φ(x)とします。
複素平面上の1点xからxに戻る有向閉曲線で作られる
ホモトピークラスの作る群である基本群から派生する変換に対して
閉曲線1回転でxに戻ったとき,t(f(x),φ(x))が変換される
1次変換の2行2列の行列をMonodromy行列といいます。
この行列の作るMonodromy群の行列で,z(x)=f(x)/φ(x)が
Mödbiys変換を受けても,xの方は1回転で単に元に戻ることから,
z(x)の逆関数x(z)が1価ならMödbiys変換群の保型関数になる
ことがわかります。
こうしたFuchsの発想から,係数に確定特異点のある線形常微分方程式の解の多価性と関連してFuchs関数を分析することで,壮大なPoincare'の世界が広がります。
これの第1歩として,今日のトピックである算術幾何平均と楕円関数の話題があるわけです。私はまだ端緒に付いたにすぎません。
参考文献;斉藤利弥著「線形微分方程式とフックス関数(ポアンカレを読む)」(河合文化教育研究所), J.J.グレイ著「線形微分方程式と群論」(シュプリンガーフェアラーク東京), 久賀道郎著「ガロアの夢」(日本評論社), 高木貞治著「近世数学史談」(共立出版)※
以上が2006年10月12日に既述した記事です。
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