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2007年5月 5日 (土)

ガウスと超幾何微分方程式

長くなったので,この話題も一応切りのいいところで中断したいと思い,

Gaussのアプローチに関する残りの部分を一気に書いて

一区切りにします。

  

前回までで,"k2+k'21なら,1/M(1,k')=p2(τ),

k'(τ)=q2(τ)/p2(τ)=k'である。"

という明確な結果が得られました。

  

(τ)はImτ>0 に零点を持たないので,k'2(τ)=q4(τ)/p4(τ)

は,その領域では正則関数です。

 

そして,(2)からk'2(τ)は基本領域:Fの内部では1つの値を

唯1回しかとらないので,k'2とτの対応はFにおいては1対1

です。

 

よって,k'2(τ)の逆関数τ(k'2)はτがFに属するような分枝を選べばk'2の正則な関数であり,それ故k21-k'2の正則な関数です。

 

そこで,1/M(1,k')=p2(τ)もk2の正則な関数です。

 

一方,既に 0<k21の範囲では1/M(1+k,1-k)=1/M(1,k')

=(2/π)∫0π/2dφ/(1-k2sin2Φ)1/2という関係式が成り立つ

ことを知っています。

  

ところが,この式の右辺の積分はあきらかに2の解析関数です。

 

したがって,τ(k'2)がFに属する分枝では両辺がk2の解析関数であり,

結局はτを含まない上の等式は一致の定理によって,その定義域全体で

成立します。(例えばk=i,k'=√2でも成り立ちます。)

 

これをもって,やっと完全に,1/M(1,k')=p2(τ)=(2K)/π,

K=∫01dx/[(1-x2)(1-k22)]1/2,k'2(τ)=q2(τ)/p2(τ)

kが複素数の場合も含めて証明されたことになります。

  

そして,kとk'を入れ替えることにより,1/M(1,k)=p2(τ')

=(2K')/π,K'=∫01dx/[(1-x2)(1-k'22)]1/2,

2(τ')=q2(τ')/p2(τ')も成立することがわかります。

 

ここでτの意味を考えてみます。

 

そのため,k'(τ)=q2(τ)/2(τ)を満たすτに対して,

2(τ')=1-k'2(τ)で与えられるk(τ')が,(τ')=

2(τ')/2(τ')を満たすτ'の値を決定します。

 

天下り的ですが,

2(-1/τ)/p2(-1/τ)=-iτr2(τ)/[-iτp2(τ)]

=r2(τ)/p2(τ) ですから,

  

[q2(-1/τ)/p2(-1/τ)]2k'2

[r4(τ)/p4(τ)]+[q4(τ)/p4(τ)]

=[r4(τ)+q4(τ)]/p4(τ) です。

 

一方,p4(τ)-q4(τ)=4p2(2τ)r2(2τ)という等式が既に得られて

います。

 

そして無限積表示を用いると,r4(τ)=16qΠ1(1-q2n)4(1+q2n)8

16qΠ1(1-q4n)4(1+q2n)4であり,同様な操作によって,

2(2τ)r2(2τ)=4qΠ1(1-q4n)4(1+q2n)4も得られます。

 

それ故,4(τ)-q4(τ)=4p2(2τ)r2(2τ)=r4(τ)です。

 

したがって,[q2(-1/τ)/p2(-1/τ)]2k'2

[r4(τ)+q4(τ)]/p4(τ)=1です。

 

これは,すなわち,[q2(-1/τ)/p2(-1/τ)]2=k2

⇔ q2(-1/τ)/p2(-1/τ)=±k となることを

示しています。

 

そこで,(τ')=q2(τ')/2(τ')を満たすτ'の値としては,

τ'=-1/τか,あるいはk[τ/(2τ+1)]=-k(τ)という性質から

τ'=(-1/τ)/(-2/τ+1)=-1/(τ-2)のいずれかです。

 

まず,τ'=-1/τならば,K'/K=M(1,k')/M(1,k)

=p2(τ')/p2(τ)=p2(-1/τ)/p2(τ)ですが,

2(-1/τ)=-iτp2(τ)ですから,

 

K'/K=-iτ,すなわちτ'=iK'/Kです。

 

一方,τ'=-1/(τ-2)ならK'/K=p2[-1/(τ-2)]/p2(τ)

=-i(τ-2)p2(τ-2)/p2(τ)より,K'/K=-i(τ-2),

すなわちτ=i(K'/K)+2です。

 

ところで,∫0dx/[(1-x2)(1-k22)]1/2=uの逆関数:

x=snuの周期が4Kと2iK'ですから,これでパラメータτに

楕円関数の周期の比という具体的意味が付与されたことに

なります。

 

,k'は,それぞれsnuのモジュラス,補モジュラスと呼ばれます。

 

k(τ),k'(τ)はモジュラス,補モジュラスの周期の比との関係を表わす

関数であり,楕円モジュラー関数と呼ばれています。

 

そしてk(τ),k'(τ)はΓ2(4)/{±}に関する保形関数(保型関数)であり,

2(τ),k'2(τ)はΓ(2)/{±}に関する保形関数です。

 

こうして数学の歴史の中で初めて周期関数以外の保形関数が登場した

わけです。

 

なお,Γ2(4)/{±},Γ(2)/{±}は共にFuchs群です。

 

(つまり,実軸を実軸に上半平面を上半平面に写す真性不連続群です。

真性不連続群である,という意味はTτ=(ατ+β)/(γτ+δ)のα,β,γ,δが(整数の集合)の元なので,集積点を持たないという

ことです。)

 

それ故,k(τ),k'(τ),k2(τ),k'2(τ)は全てFuchs関数です。

 

ところで,既に|k2|<1なら 1/M(1+k,1-k)=1/M(1,k')

=Σ0[1・3・5・...・(2n-1)/(2n・n!)]22n が成り立つ

ことを知っています。

 

これを超幾何級数;

(α,β,γ;z)≡1+Σk=1{(α)k(β)k/{k!(γ)k}]k,

(ただし.(α)k≡α(α+1)(α+2)...(α+k-1) )と比較してみると

 

,1/M(1,k')=F(1/2,1/2,1;k2)となることがわかりますが,

この等式でkとk'を入れ替えると,1/M(1,k)=F(1/2,1/2,1;k'2)

=F(1/2,1/2,1;1-k2)となります。

 

ところが,このF(α,β,γ;z)は超幾何微分方程式と呼ばれる

2階線形常微分方程式:

z(z-1)(d2/dz2)+[(1+α+β)z-γ](dy/dz)+αβy=0 の解であることが,既にEulerによって発見されていました。

 

よって,k2に関する超幾何級数:F(1/2,1/2,1;k2)において,

2をzと置けば,1/M(1,k')=F(1/2,1/2,1;k2)=F(1/2,1/2,1;z)

は微分方程式:z(z-1)(d2/dz2)+(2z-1)(dy/dz)+(1/4)y

=0 の1つの解です。

 

ところが,この微分方程式はz→ (1-z)という変数変換に対して

不変ですから,F(1/2,1/2,1;1-z)=1/M(1,k)も,やはり,この

方程式の解です。

 

故に,τ=iK'/K=iM(1,k')/M(1,k)

=iF(1/2,1/2,1;1-z)/F(1/2,1/2,1;z)は2階線形微分方程式:

z(z-1)(d2/dz2)+(2z-1)(dy/dz)+(1/4)y=0 の

2つの解の比です。

 

そして,その逆関数­z=k2(τ)がFuchs群:Γ(2)/{±}に関するFuchs関数

でしたから,結局,これは2階線形微分方程式の解の比の逆関数として

Fuchs関数が得られる最初の例となっています。

 

正にこのことが,既にGaussによって見出されていたわけです。

 

Gaussは次の段階として超幾何級数の研究にとりかかります。

 

すなわち,GaussはF(α,β,γ;z)と3つの隣接超幾何級数;

F(α±1,β,γ;z),F(α,β±1,γ;z),F(α,β,γ±1;z)

の間に成り立つ1次関係を15個作っています。

 

こうした1次関係については,後にRiemannがより一般的な形で完全な理論を作っているので,Riemannの項目で説明する予定です。

 

Gaussは,次にF(α,βγ;1)=limz→1(α,β,γ;z)を求めることを

考えました。

  

そのために,まず階乗関数:

Π(z)≡limk→∞!kz/[(z+1)(z+2)...(z+k)](kは正の整数)

を定義します。

  

右辺の極限は,Rez≧0 なら存在してΠ(z)=Γ(z+1)です。

  

これを証明するために,まずStirlingの公式:

n!=√2πnn+1/2-nε(n),limn→∞ε(n)=0 が任意の自然数n

に対して成り立つことを示します。

 

すなわち,任意の微分可能,かつ積分可能な関数:f(x)に対して

ab(x)dx≡[{f(a)+f(b)}/2](b-a)+εとおけば,

ε=(1/2)∫ab(x-a)(x-b)f"(x)dxですから,

これにf(x)=logxを代入し(logx)"=-1/x2を用います。

 

νν+1logxdx≡(1/2)[logν+log(ν+1)]+ενにおいて,

εν(-1/2)∫νν+1{(x-ν)(x-ν-1)/x2}dxです。

 

一方, 0≦-(x-ν)(x-ν-1)≦1/4 によって,

0<εν[1/(8ν)-1/{8(ν+1)}]です。

 

そこで,nlogn-n+1=∫1nlogxdx

=Σν=1n-1νν+1logxdx

=(1/2)Σν=1n-1[logν+log(ν+1)]+Σ1n-1ενより,

 

Σν=2nlogν=(n+1/2)logn-n+(1-Σ1n-1εν)が成立します。

 

0<Σν=1εν1/8ですから,C≡1-Σν=1εν,ε(n)≡Σν=nεν

とおくことによって,Σν=2nlogν=log(n!)

=C+(n+1/2)logn-n+ε(n)となります。

 

ε(n)<1/(8n)なので,ε(n)→ 0 (as n→∞),

すなわちn!=eCn+1/2-nε(n) (limn→∞ε(n)=0) です。

 

さらに,これをWallisの公式:√π=limn→∞[22n(n!)2]/[n1/2(2n)!]

に代入して,eC=√2πが得られ,結局スStirlingの公式が

求まりました。

 

次にφn(z)≡[(z+1)(z+2)...(z+n)]/(n!nz)とおけば,

φn(z)Γ(z+1)=Γ(z+n+1)/(n!nz)=[1/(n!nz)]

0-tz+ndtと書けます。

 

「一致の定理」によって 0<Rez<1のzだけを考えることができて,

n(z)Γ(z+1)|<(1/n!)∫0n-tndt

[1/(n!n)]∫n-tn+1dt

(1/n!)∫0-tndt+[1/(n!n)]∫n-tn+1dt

+e-nn/n! <1+1/n+e-nn/n! が成立します。

 

ここで,右辺の最後の項にStirlingの公式:

!=√2πnn+1/2-nε(n),(limn→∞ε(n)=0)を代入すると,

n(z)Γ(z+1)|<1+1/n+1/(2πn)1/2が得られます。

 

そして同様に,n(z)Γ(z+1)|>1-1/(2πn)1/2も得られます

ら,limn→∞φn(z)Γ(z+1)=1です。

 

それ故,結局,Π(z)=Γ(z+1)が示されたわけです。

 

Gaussは超幾何級数:F(α,β,γ;z)≡Σ0nnnの係数

n=α(α+1)..(α+n-1)β(β+1)..(β+n-1)/[(n!)γ(γ+1)..(γ+n-1)]を表現するのに,

 

もっぱらΠ(z)という関数を用いたのですが,我々は使い慣れている

ガンマ関数Γ(z)=Π(z-1)を使います。

 

Gaussの公式はΠ(z)の代わりにΓ(z)で表現すると,

limn→∞!nz-1/[z(z+1)(z+2)...(z+n-1)]=Γ(z)

と書けます。

 

これを用いると,lim n→∞n

limn→∞[Γ(γ)/{Γ(α)Γ(β)}]nα+β-γ-1

となることがわかりますから,

 

n→∞においてn~nα+β-γ-1=n(1+γ-α-β)です。

それ故,Re(γ-α-β)>0 のときはΣcnは収束します。

 

したがって,このときにはAbelの定理によって,

limz→1(α,β,γ;z)=F(α,β,γ;1)=Σcn

が成り立ちます。

 

次に,F(α,β,γ+1;z)のznの係数をcn+と書けば,

γ(γ-α-β)cn(γ-α)(γ-β)cn++γ[ncn(n+1)cn+1]

が成立します。

 

これから,

F(α,β,γ;1)=[(γ-α)(γ-β)/{γ(γ-α-β)}]

F(α,β,γ+1;1)となります。

 

これを繰り返すと,F(α,β,γ;1)

=[Γ(γ)Γ(γ-α-β)/{Γ(γ-α)Γ(γ-β)}]

{lim n→∞(α,β,γ+n;1)}

=Γ(γ)Γ(γ-α-β)/{Γ(γ-α)Γ(γ-β)}

が得られます。

 

そして,次にGaussはベキ展開を用いてEuler積分の公式:

0xλ-1(1-xμ)νdx=(xλ/λ)F(-ν,λ/μ,λ/μ+1;xμ)

を導きました。

 

これは左辺の被積分関数xλ-1(1-xμ)νをxμのベキ級数に展開

した後に,積分を実行すれば自明なので証明を省略します。

 

そして,x→1の極限を取ることから,等式∫01λ-1(1-xμ)νdx

=Γ(λ/μ+1)Γ(λ/μ)/[λΓ(λ/μ+ν+1)]が得られます。

 

特に,λ=a,μ=1,ν=b-1と置けば,ベータ関数(Beta function)

に関する有名な公式:∫01a-1(1-x)b-1dx=B(a,b)

=Γ(a)Γ(b)/Γ(a+b)になります。

 

Gaussはまた,BkBernoulli数とし(これは例えばx/(ex1)

=1-x/2+Σ1(-1)k+1k2k/(2k)!という恒等式で定義される。)

関数ψ(z)≡logz+1/(2z)-B1/(2z2)+B2/(4z4)-B3/(6z6)+..

を導入してStirlingの公式:n!~√2πnn+1/2-nを精密化した式を

めざしてψ(z)=d[log(Γ(z+1))]/dzを示しました。

 

しかし,実はψ(z)の厳密な定義式である右辺の無限級数は発散級数なので,右辺は現代的には漸近展開と解釈すべきです。

 

その後,やっと彼の研究の中に微分方程式,すなわち超幾何微分方程式が現われます。

  

y=F(α,β,γ;z)が超幾何微分方程式:

z(z-1)(d2/dz2)+[(1+α+β)z-γ](dy/dz)+αβy=0 の解で定数項をc01とおいたものです。

 

,この級数の収束半径は1なので|z|<1である限り,これはz=0 のまわりのこの方程式の正則解であることを示しました。

 

以下は,既に帝京大学病院で読み終えた稲見武夫著「常微分方程式」

(岩波書店)に基づいて,丁度3個の確定特異点を持つ

Fuchs型2階線形常微分方程式に関するFuchsの理論を紹介したときに

記述した内容と重複するので割愛します。

 

ただ,Gaussは単純に考察しただけではF(2α,2β,α+β+1/2;z)

=F(2α,2β,α+β+1/2;1-z)という矛盾した結論が得られる

ことに着目しました。

 

そして,こうしたパラドックスが生じたのは超幾何級数を全z平面に

解析接続した超幾何関数がz=1に分岐点を持つにも関わらず,

2つの異なる分枝を同一の関数値である,と見なしたことに起因

していることに気付きました。

 

つまり,彼はその頃はまだ確立していなかった複素関数論を考察して既に解析接続という発想に到達したわけです。

 

こうして線形微分方程式の解の多価性を探るMonodromyアプローチへの第1歩がガGaussによって踏み出されたわけですが,Gaussが到達したのはここまでであり,彼の超幾何関数論は未完成に終わりました。

 

そして,この重要な問題に部分的にでも解決を与えるには,CauchyやRiemannらによる複素関数論の確立を待たなければならなかったのです。

 

以上で,この項目に関しては一旦お休みとします。

 

しかし,まだ入院前の1998年頃に読んだ部分の復習段階で入院中に読んだ部分に入るのはまだまだです。

 

参考文献:斎藤利弥 著「線形微分方程式とフックス関数I(ポアンカレを読む)」(河合文化教育研究所)

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

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