有限な1次元空間に限定された運動量演算子
表題の1次元空間での座標表示のSchroedinger表現の運動量演算子:
p=-ihcd/dx (hc≡h/(2π)はPlanck定数)に関する問題については,私は以前個人的に考察したことがあります。
これは,2001年頃に,岩波講座物理学[第2版]「量子力学Ⅱ」の第Ⅵ部の量子力学の構造において,物理量を表わす演算子の定義域とその自己共役性との関係に関わる問題として考察しました。
その際に,ノートに記述した覚え書きを抜粋して書いてみます。
まず,状態空間であるHilbert空間をHとします。
もしも状態ベクトルを波動関数で表わす空間という意味で用いる場合には,Hは2乗可積分な関数族の空間L2です。
そして,Hのベクトルに作用する線形演算子Aの定義域D(A)はHの部分空間であり,Hにおいて稠密であるとします。
また,D(A)に属する任意の状態ベクトル(or 波動関数)φ,ψに対して,<φ|A|ψ>=<Aφ|ψ>となる場合にはAをHermite演算子と呼びますが,その上さらにAの定義域D(A)がHで稠密な場合にはAは対称演算子である,といいます。
ついでに,D(A)に属する状態ベクトルの列{ψn}があって,"ノルム収束=強収束"の意味での極限lim n→∞ψn=φ,lim n→∞(Aψn)=χが共に存在するとき,必ずφ,χ∈D(A)となって,Aφ=χが常に成立するとき,Aは閉じているとか,Aは閉演算子であるといいます。
今,D(A)はHで稠密であるとします。
このとき,Hに属する状態ベクトルφの中には,∀ψ∈D(A)に対し,
<φ|A|ψ>=<χ|ψ>を満たすχ∈Hが存在することがあります。
このようなφの全体をD(A*)と記し,χ≡A*φによって,D(A*)を定義域とするAの共役と呼ばれる線形演算子A*を定義します。
Aが対称演算子のときには,∀φ∈D(A)に対してχ≡Aφとすることで,必ず<φ|A|ψ>=<χ|ψ>が成り立つので,D(A*)の方が集合としてD(A)より大きくなります。D(A)⊂D(A*)⊂Hです。
特にD(A*)=D(A)の場合には,A*=Aと書いてこの場合の演算子Aを自己共役演算子であるといいます。
Aが自己共役演算子であるときには,これは虚数固有値を持たないので観測量となる必要条件を満たしています。
以下では,Aが"物理的観測可能量=observable"であるということと,Aが自己共役演算子であるということを同一視します。
すなわち,Aが観測量であるための必要十分条件はAが自己共役演算子であることとします。
ところが,1次元剛体壁(x=0,x=a)の間の区間[0,a]を動く粒子についての運動量演算子pが定義できるとして,
これが区間(-∞,∞)において定義される通常のSchroedinger表示の運動量演算子と同じく,p=-ihcd/dxで与えられるとすると,これの[0,a]で定義された波動関数ψ(x)に対する作用はpψ=-ihc(dψ/dx)です。
そして,p=-ihcd/dxの定義域Dは,D={ψ(x):ψ(0)=ψ(a)=0,[0,a]で絶対連続で(dψ/dx)∈L2(0,a)}なる関数族で与えられます。
ここで,ψ(x)が[0,a]で絶対連続である,とは[0,a]でLebesgue積分可能な関数f(x)があって,∀x∈[0,a]に対してψ(x)=ψ(0)+∫0xf(x)dxと表現できることをいいます。
とにかく,このように定義したDはHilbert空間H=L2(0,a)で稠密であることがわかります。
そして証明はしませんが,pは対称演算子であり,かつ閉演算子でもあります。
しかしpは自己共役演算子ではありませんから,それは観測量であるための必要十分条件を満足しません。
すなわち,例えばφ(x)=exp(ikx)に対してχ(x)=hckexp(ikx)とすれば,<φ|p|ψ>=<χ|ψ>が全てのψ∈D(p)(演算子pの定義域)に対して成立するのに,φ(x)=exp(ikx)はDには属さない,(φ(0)=φ(a)=0 を満たさない)からです。
つまり,D(p)=Dが成り立ちませんから,Dを定義域とする
p=-ihcd/dxは,自己共役演算子の条件を満足しません。
実際,物理的に見ても剛体壁のため粒子は往復運動を続けるしかないので,この系では決して運動量が確定することはありません。
つまり,こうした状況では,そもそもpは観測量であるという要件を満たしていません。
ということで,そもそもこのDに属する境界条件を満たす
p=-ihcd/dxの固有状態は存在が不可能です。
したがって,通常,状態はDに属する波動関数で表現されるにも関わらず,これを展開できるような同じ境界条件を満足する固有関数さえもない,という不都合な状況になっています。
(もっとも自由空間(-∞,∞)での運動量:p=-ihcd/dxの固有関数も完全なので,束縛条件=境界条件に関わらずFourier展開という意味で展開することはできますが,それにどんな意味があるかは疑問です。)
そこで,pを拡大して,αを0≦α<2πのある定数として.L2(0,a)の部分空間:D[α]をD[α]≡{ψ(x):ψ(a)=exp(iα)ψ(0),[0,a]で絶対連続で,(dψ/dx)∈L2(0,a)}と定義し,その作用は前と同じく,
p=-ihcd/dxであるとします。
すると,<φ|p|ψ>=<χ|ψ>は∫0aφ*(-ihcdψ/dx)dx
=∫0a(χ*ψ)dx(∀ψ∈D[α])と表現されます。
これを満たすχ∈Hの存在を許すφの範囲D[α,p*]が,正しくD[α]に一致し,その他,対称性,稠密性も示せるので,結局こう定義すればpは自己共役演算子であるといえます。
そこで,この定義では全ての状態ψ∈Hにおける運動量:pの観測量としての確率解釈(<ψ|p|ψ>がpの期待値を与えるという解釈)を行うことができます。
つまり,この定義では,x軸を正の向きに走っていた粒子がx=aに達した途端にψ(0)=exp(-iα)ψ(a)によって,exp(-iα)の位相のずれを受ける程度で,反対の端x=0 に顔を出し,再び正の向きに走り続けることを表わしているからです。
数学的には,これはαの無数の選択に伴って運動量の演算子:pの自己共役演算子への拡大の仕方が無数にあること(pには多義性あること)を意味しています。
円のような周期運動ならα=0 としたいわゆる周期的境界条件ψ(a)=ψ(0)とするのが妥当ですが,そうでないケースにこれを取っても一般性を失わないと思います。
つまり,ψ(x)=Csin(knx) (kn=nπ/a)というように剛体境界条件にこだわる限り,
自由空間(-∞,∞)での自由粒子の状態ベクトルとしての固有状態の
波動関数:exp(ikx)が状態空間H==L2には属さない,という困難に
類似して,量子論でのpの物理的意味付け自体が結構むずかしいのでは
ないかと思います。
要約すると,1次元の剛体壁で囲まれた箱という物理系は,古典的描像では,粒子が往復運動をしているので,ある位置座標での運動量,または速度を観測するとき,
量子論における不確定性原理のようなものは存在しないので,確定値としてその,時刻時刻の逆向きの運動量,または速度を観測できます。
しかし,それを量子力学の対象と考える場合:
特に時間に無関係な定常状態=エネルギー一定のあるエネルギー固有状態だけの問題として捉える場合には,観測対象の物理量がその定常状態における保存量でないなら,私にはその物理量の確定値=固有値を観測しようという行為が何らかの意味を持つとは思えません。
この定常状態でも,人間の目視あるいは観測装置によって運動量,または速度を観測することは,もちろん可能ですが,それは定常状態での時間的平均値を観測するのではなく,その観測時刻における瞬時値の観測量であり定常状態の量ではありません。
この場合に瞬時値として観測される運動量,または速度は,箱の中の粒子の定常状態の範囲内で定義された運動量ではなく,(-∞,∞)で与えられた一般的なそれであり,位置座標xを同時に確定することはできず,xについてはΔxだけぼやけています。
もしも,これを1次元の剛体壁(x=0,x=a)で囲まれた箱の中の定常状態での量と見るなら,
それは無限回独立に繰り返し観測された(-∞,∞)で与えられた別の一般的定義による運動量,または速度の"期待値=平均値"とみるべきであり,そして位置の不確定さ:ΔxとしてはΔx=aと考えるべきです。
一般に,物理学での,ある物理系で物理量=観測量として定義され,名称を与えられているモノは,パラメータである位置座標や時刻を除けば,時間的に一定な保存量に対してのみである,と考えられます。
1次元の剛体壁という境界条件の下では,非定常状態として考えると,
壁にぶつかるまでの微小時間帯では,運動量,または速度は保存量ですが,この力学系を定常状態として,つまり時間というパラメータを度外視した時間を含まないSchroedinger方程式の解空間の範囲で考える限りは,これは保存量ではなく"物理量=観測量"とは考えられません。
そこで,そうした運動量の保存しない,"定常状態=エネルギー固有状態"のみを考えるという問題設定なら,私であれば,そもそも運動量を観測するという必要性を感じません。
ただ,1次元の箱の中の1粒子でも,量子論では無関係な全体にかかる位相を無視した定式化して,,粒子が往復運動をするという描像を忘れて運動量が保存量となり得るような境界条件を与えるなら,
(-∞,∞)領域での一般的な運動量と同様,,1つの物理量として定義可能であるように,運動量pの定義を拡張することはできます。
参考文献:岩波講座 現代物理学の基礎「第2版」4「量子力学Ⅱ」
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TOSHIさん
新しいことはありませんが他の掲示板での諸兄の議論も見て、これまでの考えをもう一度まとめてみました。ご笑納ください。
☆☆☆☆☆☆
ハミルトニアンの式が本文中に明記されていませんので
書いてみます。もしお考えのものと相違あればご教示ください。
Hamiltonian:
H=P^2/2m - θ(w/2-X)θ(w/2+X)*Depth
エネルギー固有状態の図示
~~~~~~~
~~~~~~~ non binding states E>0
~~~~~~~
****------**** the well top E=0
****~~~**** 1st bound state E<0
****~~~**** 2nd bound state
****~~~**** 3rd bound state
****~~~**** 4th bound state
.......
****~~~**** 4th excited state
****~~~**** 3rd excited state
****~~~**** 2nd excited state
****~~~**** 1st excited state
****~~~**** the ground state
************** the well bottom E=-Depth
X:-w/2 w/2
x:ψの外への染み出し具合
Depth:有限深さ井戸
~~~~~~~
~~~~~~~ non binding states E>0
~~~~~~~
*xxx------xxx* the well top E=0
*xxx~~~xxx* 1st bound state E<0
**xx~~~xx** 2nd bound state
**xx~~~xx** 3rd bound state
**xx~~~xx** 4th bound state 染み出す
.......
***x~~~x*** 4th excited state
***x~~~x*** 3rd excited state
***x~~~x*** 2nd excited state
***x~~~x*** 1st excited state
***x~~~x*** the ground state 染み出す
************** the well bottom E=-Depth
x:-w/2 w/2
x:ψの外への染み出し
Depth→+∞ 無限深さ井戸
~~~~~~~
~~~~~~~ non binding states E>0
~~~~~~~
*xxx------xxx* the well top E=0
*xxx~~~xxx* 1st bound state E<0
**xx~~~xx** 2nd bound state
**xx~~~xx** 3rd bound state
**xx~~~xx** 4th bound state 染み出す
.......
****~~~**** 4th excited state
****~~~**** 3rd excited state
****~~~**** 2nd excited state
****~~~**** 1st excited state
****~~~**** the ground state 染み出さない
************** the well bottom E=-Depth
ハミルトニアンHの固有ベクトルの一部の組{基底状態、第1励起状態、第2励起状態、...、第n励起状態}
を基底ベクトルとする、複素ヒルベルト空間における部分空間をDとする。
Depth →+∞、n→+∞、ただしDepthとnは (π/w)^2 hbar^2 / 2mD → 0 を保ち極限をとる。部分空間Dはこの極限で{ ψ(x)|井戸の中で任意。井戸の境界とその外では0}になる。
非束縛状態と井戸口からm番目(mは有限値に限らない)束縛状態までを基底とする部分空間をFとする。
D∩F=φ、複素ヒルベルト全空間=D∪Fです(きっと)。
以下引用のTOSHIさんの問題意識について。
>つまり,ψ(x)=Csin(knx) (kn=nπ/a)というように剛体境界条件にこだわる限り,
(中略)
>量子論(quantum theory)での物理的意味付け(physical meaning)自体が結構むずかしいので
>はないかと思います。
演算子Pを空間Dのベクトルに作用させると結果のベクトルはD内にとどまらず、Fに属する状態ベクトルの成分ももちます。
(蛇足1:Dの状態ベクトルからエネルギー準位のはしごを無限階昇りFに属する状態ベクトルへ遷移するわけですが、運動量のきっちりとした観測過程にはそのためのエネルギー注入が要るということでしょう。Dのベクトルの重ね合わせ波束で我慢する、誤差を許容した甘い観測ならより楽にできそうです。
蛇足2:たまたま演算子Xは空間Dのベクトルに作用させるとその結果のベクトルがまた空間Dにあります。)
したがって「ψ(x)=Csin(knx) (kn=nπ/a)というように剛体境界条件にこだわる」ことは物理の要
請ではありません。悩むのは、間違った設問に正しい解答を探す Finding a right answer to the wrong
question ことではないでしょうか。
☆☆☆☆☆☆
以上
PS 図を描きながら複素ヒルベルト空間の基底の数について疑問に思いました。
井戸の束縛状態の数は深いほどたかだか可算無限にふえます。
空間の基底の数はそもそも加算無限個だから可算無限個の変動はどうでもいい
と一応かんがえてみましたが、でも
調和振動子のエネルギー固有状態はいくら上にいっても可算無限のままで連続スペクトル
(非可算無限)にならないのに全空間を張ることができているのであろうことは
不思議です。
=甘泉法師=
投稿: 甘泉法師 | 2008年7月18日 (金) 17時40分
どもkafukaさん、TOSHIです。
ウォルボーンの実験ですが,まだ詳しく見ていません。観測関連は,はっきり言ってむずかしくて,興味がわくのは何年かごとです。
いずれにしろ,多世界に傾いていますが,よくわからず,ブログ記事もあまり書いていません。2006年5/4の「公開キー暗号」,「量子通信」,2006年6/3の「多世界解釈と超選択則」,2006年10/23の「観測の理論(デコヒーレンス)」,2007年2/16の「ベルの不等式(量子論と実在)」くらいでしょうか。。。。
後は「エネルギーと時間の不確定性関係」で,測定の不確定さに少しふれた程度の「小澤の不等式」ですがこれは本を読んだことがあるくらいです。
今は,その昔に誰かの「唯心論的量子力学」だったかを読んだときのような興味が失せているので,これに言及するのはまたの機会にしたいと思います。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2008年7月 9日 (水) 22時02分
>「=位置に関係しないという」というより|e^ikx|^2 = 1 とどの位置に見出す確率も同じになる
なるほど、そうですね。ありがとうございました。
>別途の場所・機会があれば議論しましょう
今、EMAN様のところで、「ウォルボーンの実験について」を議論しています。
http://hpcgi2.nifty.com/eman/bbs080321/yybbs.cgi?mode=by_date
それが、一段落したら、Folomyに、
「相対論的粒子の場合のψの収縮」とでもして、スレッドを立てるつもりです。
FolomyのマスタであるTOSHIさんのブログで、
MAN様のところのことを書いたら怒られると
思いますが、
ウォルボーンの実験に興味があれば、
コメを頂けると幸いです。
投稿: kafuka | 2008年7月 7日 (月) 08時49分
こんにちはkafukaさん Toshiさん
>僕も、やっと納得しました。
ご理解のお役に立つことができましたら幸いです。
有限井戸の計算結果で深さを無限大にすることで、非束縛状態の存在を担保しました。
>pの固有状態 は、、、で、無限障壁の外で0でない値を持つ。
>は、運動量と位置は交換しないので、
>「pの固有状態 は、位置(無限障壁の内外)のことは何も言えない=位置に関係しな
>い」
>のように考えて、納得していますが、、、
pの固有状態は波動関数でe^ikxと表現できて
「=位置に関係しないという」というより
|e^ikx|^2 = 1 とどの位置に見出す確率も同じになる
ということですね。
>一般に相対論的粒子は、光円錐が無限の壁になり、
>この外では、存在確率は、0 と言われる文献を見たことがあります。
光子の座標の概念は実体のないものです。相対論的に考えるといろいろ難しそうです。
ここはTOSHIさんのブログですので、別途の場所・機会があれば議論しましょう。
投稿: 甘泉法師 | 2008年7月 3日 (木) 16時01分
すいません。ちょっと訂正
ψ(x,t)=exp(±Kx±ωt) で、
t=T1 の時、
存在確率は、光円錐の内側が微少値Δなら、外側もΔ
に、訂正します。
投稿: kafuka | 2008年6月30日 (月) 11時32分
ずっと、ROMしてたのですが、
僕も、やっと納得しました。
ただ、
>pの固有状態 は、、、で、無限障壁の外で0でない値を持つ。
は、運動量と位置は交換しないので、
「pの固有状態 は、位置(無限障壁の内外)のことは何も言えない=位置に関係しない」
のように考えて、納得していますが、、、
箱の中とは、全然ちがいますが、
m=0でEが一定の相対論的、自由粒子は、
E^2ψ=c^p^2ψ
で、これから、速度cの波が出てきますが、
一般に相対論的粒子は、光円錐が無限の壁になり、
この外では、存在確率は、0 と言われる文献を見たことがあります。
でも、上式のψ(x)は
Exp±Kx で、存在確率は、光円錐の内側が微少値Δなら、外側もΔですね。
(Δは、∫∫∫dxdydzΔ=1で定義されます)
E^2ψ=c^p^2ψの場合を、例えばガウス分布の波束として、
ちゃんと計算すれば、外側は0になるのでしょうか
ちょっと、面白いと思ったので書きました。
投稿: kafuka | 2008年6月30日 (月) 11時24分
TOSHIさん ありがとうございます。ご意見その通りと存じます。
自分の頭の中にあることを整理して感想を述べて終わりにしたいと存じます。
-----------------------
1 その固有状態の重ね合わせで任意の状態が表現できる演算子を観測可能量(オブザーバブル)という。
2 無限障壁の系のハミルトニアンはH=p^2/2m + V(x)。 pの固有状態 はψ(x)=e^ipx/hbarで、無限障壁の外で0でない値を持つ。
3 pはHを構成する演算子であるからpの固有状態のことはお粗末にできない。
pの固有状態がHの固有状態の重ねあわせであらわせないなら、1.からHはオブザーバブルでない。
pの固有状態がHの固有状態の重ねあわせであらわせるなら、無限障壁の外で0で恒常的に0でない(無限障壁を乗り越える)エネルギー固有状態が存在する。
4 どちらにしても具合が悪い。解決策として障壁の外の空間を周期条件を満たすよう改変することも考えられるが 障壁上でψ=0の条件がある限りそれも適わない。
5 しょうがないので問題を変える。無限障壁でなく非常に高い V >> hbar^2 / 2m (π/L)^2 、有限障壁(壁の厚さが無限大なら有限井戸)を考える。そしてV→∞で諸量の極限値の振る舞いをみる。
-----------------------
空洞放射の計算の妥当性と実用性に疑義はありません。
ただもし上記のように運動量の観測にこだわれば問題は同根です。
kL >> 1 の高い励起状態では、井戸ポテンシャルのフーリエ変換でみたように運動量は±hbar k に分布の鋭いピークをもちます。
kL ~ 1 の低い励起状態になると ± k の状態でも運動量 p/hbar はぼやけて分布をもつようになります。
どちらの場合でも運動量の観測によって壁の外の波動関数が0でない状態が出現することになります。運動量の観測過程では、壁をこえる(かこわす?)ほどの大エネルギーを投入する必要がある、ということでしょう。
-----------------------
ご指導ありがとうございました。
=甘泉法師=
投稿: 甘泉法師 | 2008年6月26日 (木) 10時47分
ども甘泉法師さん、コメントありがとうございます。TOSHIです。
>無限井戸の場合、外の空間が存在しそこではさまざまなψがありうるのに、なぜそこでψ(x)=0である関数だけの組を考えねばならないか理由がわかりません。
無限井戸って閉じ込められているなら,井戸というより無限障壁の意味ですよね。
それなら定常波動方程式は{-h^2/(2m)}d^2ψ/dx^2+Vψ=Eψで境界にV=∞の障壁があるからψ=0でないならd^2ψ/dx^2が-∞で相殺して有限というのも考えにくいし普通は左辺の絶対値をとると無限大だろうから,おそらく固有値Eの大きさも無限大でなきゃいけないけど,固有値Eが無限大でもいいなら井戸の外の領域での波動関数に関する限り,あらゆる関数ψが解になるでしょう。
そして井戸の中でも同じ固有値E=∞で,V=0となるので,そこでは{-h^2/(2m)}d^2ψ/dx^2=Eψですが,2階導関数があるxの有限区間で常に-∞であるという関数でしかも規格化可能な関数というのは存在しないだろうし,そうしたものを意識するのは数学としてはともかく物理としてはかなり解釈がむずかしい話だと思いますよ。
シュレーディンガーの波動関数で示せる粒子ではなく,光子の話で例示しますが空洞輻射,あるいは黒体輻射の現象を解析するとき,普通は簡単のために光子=輻射電磁波が閉じ込められている空洞容器の形状を一辺がLの立方体にモデル化します。
それは,閉じ込められた容器の有限体積Vの値が本質的で,Vが有限値なら許されるな輻射波のモード数は離散的になり,波数がkとk+dkの間にある波の数密度は形には関係なくVだけで決まることがわっかているからです。
そして,実際k=|k|とするとkとk+dkの間にある波の個数は立方体形状を利用して考察すると(Vk^2dk/π^3)となることがわかり,これが形によらずVだけで決まることは昔から気になっていたことの1つだったので,かつて2006年7/22の記事「黒体輻射(空洞輻射)と空洞の形状」で詳細に考察しているのでよかったら参照してみてください。
そして,こうした容器に閉じ込められている問題を論じる際に,閉じ込められていることを意識した境界条件では波動関数が正弦関数や余弦関数になることが多く数学的扱いがが面倒なので,固体の格子空間のように物理系が実際に周期構造を持っているわけではない場合でも,閉じ込められているとするよりもフーリエ解析などが便利な周期的境界条件の方を採用することが多いです。
これも空洞輻射の空洞形状を立方体モデルと仮想して扱うのと同じく,そういうモデルで扱っても問題が等価であることがわかっているからです。 TOSHI
投稿: TOSHI | 2008年6月25日 (水) 01時44分
-------------
D={ψ(x):ψ(0)=ψ(a)=0,[0,a]で絶対連続(absolutely continuous)で(dψ/dx)∈L2(0,a)}で与えられます。
-------------
でしたね。誤解していました。
以上ご教示ありがとうございました。
PS
区間[0,a]に波動関数が閉じ込められることを、「定義」のように考えるのに違和感があります。
たとえばループの系でψが循環するのは、その外に空間があるわけではないので納得です。
しかし無限井戸の場合、外の空間が存在しそこではさまざまなψがありうるのに、なぜそこでψ(x)=0である関数だけの組を考えねばならないか理由がわかりません。おそらくハミルトニアンから、e^ikxなど外に広がる状態のエネルギー期待値が無限大になることが理由なのでしょうが
別にこちらがエネルギー供給の責任を負うわけでなし、かまわないのでないでしょうか。
井戸のエネルギーの基準レベルを井戸底から井戸端にかえて、「無限に高い井戸」から「無限に深い井戸」にかえれば、という話を folo:fphys/290/topic/14/34 にしました。
=甘泉法師=
投稿: 甘泉法師 | 2008年6月24日 (火) 20時38分
ども甘泉法師さん、TOSHIです。
>甘泉法師の考え:「Dを定義域とする」から問題が発生し、空間(-∞,∞)を定義域とするならpは自己共役演算子であり観測量であって、フーリエ変換は有限井戸の場合とかわらぬ意味を持つ。
まず,ここで誤解があります。Dというのはヒルベルト空間あるいは関数空間の部分集合であって座標空間ではありません。x空間については(-∞,∞)を定義域としているのは同じです。
後半は,私が「物理量=観測量として定義され名称を与えられているものは,パラメータである位置座標や時刻を除けば時間的な保存量に対してのみである」と述べているのは,もちろん別のある状況では運動量が保存量となる場合があるので物理量として運動量の名称が与えられているという意味ですが,今の箱の中の粒子のケースではこれは保存しませんから,おっしゃる通り「運動量が保存量となるような境界条件」は知らないが、運動量を保存量とするにはハミルトニアンをいじる必要はある。」ですね。
ここでは定常,非定常にかかわりなくある場合には時間的に保存量になり得る量が物理量である,という私自身の主観的認識とは関係なく,エネルギー一定の定常状態で保存量にならない場合でも演算子として自己共役条件を満たせば物理量としての意味を持つという一般的な物理屋のコンセンサスがある別の観点の話を述べています。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2008年6月24日 (火) 15時52分
TOSHIさん お答えありがとうございます。 文章を読んで意見が違うと思っていたところ、同じ考え方をしていいただいていると安心しました。以下の読み方を確認させてください。
1
------------------
つまり,D(p)=Dは成り立ちませんから,Dを定義域とするp=-ihcd/dxは自己共役演算子の条件を満足しません。
------------------
実際,物理的に見ても剛体壁のため粒子は往復運動を続けるしかないので,この系では決して運動量が確定することはありません。つまり,こうした状況では,そもそもpは観測量であるという要件を満たしていません。
------------------
それにどんな意味があるかは疑問です。)
----------------------
甘泉法師の考え:「Dを定義域とする」から問題が発生し、空間(-∞,∞)を定義域とするならpは自己共役演算子であり観測量であって、フーリエ変換は有限井戸の場合とかわらぬ意味を持つ。
2
---------------
しかし,それを量子力学の対象と考える場合,特に時間に無関係な定常状態(Stationary state)=エネルギー一定(constant eneragy)のあるエネルギー固有状態だけの問題として捉える場合には,観測対象の物理量がその定常状態における保存量(conserved quantity)でないならば,私にはその物理量の確定値=固有値を観測しようという行為が何らかの意味を持つとは思えません。
---------------
一般に,物理学での,ある物理系で物理量=観測量として定義され名称を与えられているものは,パラメータである位置座標や時刻を除けば時間的な保存量に対してのみであると考えられます。
---------------
ただ,1次元の箱の中の1粒子でも,それが量子論では無関係な全体にかかる位相(phase)を無視した定式化で,粒子が往復運動をするという描像を忘れて運動量が保存量となるような境界条件を与えるならば、(-∞,∞)で与えられた一般的なものと同様に運動量を1つの物理量として定義することが可能であるように定義を拡張することはできます。
---------------
甘泉法師の考え:ハミルトニアンの固有状態で、ハミルトニアンと可換な物理量は確定値を持つことができ、非可換な物理量は観測値がばらつく。演算子が物理量であるかどうかは系のハミルトニアンと関係ない。それが保存量であるかどうかは、系のハミルトニアンと可換か非可換かで決まる。 「運動量が保存量となるような境界条件」は知らないが、運動量を保存量とするにはハミルトニアンをいじる必要はある。
=甘泉法師=
投稿: 甘泉法師 | 2008年6月24日 (火) 15時01分
ども甘泉法師さん、TOSHIです。
folomyでは、はんどるさんと長いお話が続いているようですが内容チェックしていません。ただ表示が違えば物理量の期待値が違うなどということは計算しなくても物理的に有り得ないと思っているので,もし計算で違っているなら計算あるいは考え方がおかしいとは思っています。
>私には無限井戸だけ別扱いせず、有限井戸と同じく運動量演算子やフーリエ変換を考えるとするのが思考の経済のように思います。 御意見をおきかせください。
そう考えて何か不都合があるのでしょうか?とこちらが聞きたいくらいです。。数学として有限→無限の連続性が成立してる話でしょうから,基本的にそれで問題ないと思いますが。。
PSですが,有限井戸ならトンネル効果で井戸の外へしみ出すわけでしょう?無限井戸でもしみ出すかどうかは計算結果でわかるとするのが普通でしょう。
井戸型ポテンシャルというポテンシャルが井戸の外では定義されないような特別な実体であれば話は違いますが,計算結果として2が得られるならそうでしょう。
最初から1であるとか井戸の外ではゼロとかいう拘束条件を与えればそれは量子力学とは違った話になるかも。。。。
答えになっていますか?
TOSHI
投稿: TOSHI | 2008年6月24日 (火) 09時53分
TOSHIさん Folomy folo:fphys/290/topic/1/59 でお尋ねしましたが議論は展開されませんでした。再度おききします。
有限井戸の系で通常の位置演算子、運動量演算子やフーリエ変換が適用できることには御異論ないと存じます。有限井戸の計算結果、たとえば波動関数など、で井戸の深さ→∞の極限値をとれば、それは無限井戸系の計算と一致することも確認いただけると存じます。このことから私には無限井戸だけ別扱いせず、有限井戸と同じく運動量演算子やフーリエ変換を考えるとするのが思考の経済のように思います。 御意見をおきかせください。
PS ふたつの立場
1 井戸の外の座標というものはない。よって井戸の外のψなどありえない。
2 井戸の外の座標はある。そこではψ(x)=0 である
で、私は2で考えているのですが、TOSHIさんはどちらでしょうか。
投稿: 甘泉法師 | 2008年6月23日 (月) 15時03分
一般的な話だと誤解してました。
投稿: hirota | 2007年8月30日 (木) 11時53分
こんばんは、hirotaさん、TOSHIです。コメントありがとうございます。
>すると、舞台となる宇宙自体が変化し続けている状況では、観測量など何一つ存在しないわけですか。
一応、本文は定常状態の話をしているのですが、そうした舞台の問題を特に定常状態の問題として記述する必要があるのでしょうか?
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年8月30日 (木) 00時01分
すると、舞台となる宇宙自体が変化し続けている状況では、観測量など何一つ存在しないわけですか。
投稿: hirota | 2007年8月29日 (水) 14時19分