光電効果と光の量子論(1)
ちょうど,今から1年前の2006年5月26日のブログ記事
「光子の干渉とコヒーレンス」では,追伸として次のようなことを
書いています。
"ここらへんの話は私自身,ちょっと誤解があるかもしれません。
今,Loudon著(小島訳)の「光の量子論」を読んで検討中です。
その後,光電効果を波動論で説明できるかどうか?に挑戦する
予定です。"
と書きました。
実は私は色々なことに興味が移り易く何を読んでいても長続き
しません。
というわけで,御多分に洩れず,「光の量子論」を読むのにもすぐ飽き
てしまいましたが,それでもときどき思い出したように読んでいて,細々
と続けていました。
その結果,ようやく,"第5章:量子化された場と原子の相互作用"の
§5.6 光電効果の項目,に到達しました。そこで1年前のこの記事の
ことを思い出したわけです。
この部分を読んで得られたことから次のように結論されます。
光電効果(photoelectric effect)は始状態:|i>から終状態:|f>
への量子遷移速度:1/τ(遷移時間の逆数)によって評価できますが,
これは,相互作用Hamiltonianに対する時間を含む摂動論の低次の項で
見積もることができます。
ところで,電子など光以外の粒子の状態関数のみを第2量子化(個数表示)にして,"光=電磁場"については古典的な波動場,外場として扱う理論を半古典的理論(semi-classical theory)といいます。
そして,光電効果の量子遷移速度1/τの計算は,半古典的理論で行なっても,光以外の粒子も光(電磁場)も共に第2量子化する完全に量子化された場の理論で行なっても,パラメータに対する関数形として全く同じ結果が得られます。
ただ,その定数係数などの具体的な値を与えるのは半古典論だけでは
不可能で,それらを決めるには完全に量子化された場の理論が要求さ
れます。
それ故,光電効果の主な性質は"光=電磁場"を古典的な波動場として
扱う半古典的理論によって説明できるということになります。
そこでよく言われていることとは異なり,光電効果という現象の存在が光を光子(photon)として1個2個と数えるような光(輻射場)の量子化の必要性を証明することにはならないようです。
こうしたことは,東大名誉教授であり,私も学生時代に教科書としてお世話になった「エレクトロニクスの基礎」などの著者でもある霜田光一先生が既にご指摘のことであるとも聞いています。
具体的な計算内容については,今は時間がないので後日書きます。
参考文献:Loudon著(小島忠宣・小島和子 共訳)「光の量子論 第2版」(内田老鶴圃)
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コメント
このPDFで、僕が興味を引くのは、
「Schrodinger 方程式は古典論である」と述べている点です。
>古典論、量子論の定義の問題である。一般には Planck の h を含むものが量子物理で、h → 0で残るものが古典物理であるが、これを少し変えたい。巨視世界と微視世界を分けているのは Avogadro 数 N である。O(1/N) の量を扱うのを量子物理、N → ∞ で生き残るのを古典物理とする。
<
という理由です。
投稿: kafuka | 2007年5月12日 (土) 14時03分
宮沢弘成博士も同様の見解のようです。
http://www7.ocn.ne.jp/~miyazaw1/papers/quantum.pdf
の「質疑応答」
http://www7.ocn.ne.jp/~miyazaw1/papers/QA.htm
で、述べておられます。
投稿: kafuka | 2007年5月12日 (土) 13時54分