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2007年6月15日 (金)

ハートリー・フォック(Hartree-Fock)近似(1)

前記事までの陽イオン(ion)の格子振動をフォノン

(phonon)と捉えて論じる,という描像とは前後しますが,

 

謂わゆる"静止格子模型"においての金属中の電子の性質

を調べるための方法として採用されるもの,を考察します。

 

 

すなわち,今日は,静止した格子イオンの周期ポテンシャル

の中で,電子-電子相互作用の効果をも取り入れた多体近似式

の1つとしてハートリー・フォック(Hartree-Fock)近似に

ついて,おさらいをしてみます。

 

格子イオンによる周期ポテンシャルが存在している金属内

電子間相互作用の効果をも含めると,独立電子近似として

各電子ごとに独立した1粒子のSchroedinger方程式:

{-hc2/(2m)}2ψ()+U()ψ(r)=εψ()

を設定する際のポテンシャルU()をうまく選定すること

すら,かなり厄介な問題となります。

 

基本的には,こうしたU()を粗い近似としてではなく,精密

に選ぶことは不可能であると思われます。

 

ただし,hc≡h/(2π)でhはPlanck定数です。

 

近似によらず,金属中の電子を正しく計算しようとすれば,

改めて莫大な個数:全N個の電子のN粒子波動関数を,

Ψ(11,22,..,NN)として,

 

H^Ψ=Σi=1N[{-hc2/(2m)}i2Ψ-Ze2ΣR(1/|i|)Ψ]

+(1/2)Σi≠j(e2/|ij|)Ψ=EΨ

という正しい表式から出発すべきでしょう。

 

もちろん,こうした方程式を近似を行なうことなく解くことは,

不可能と思われるので,物理的考察を行なって簡単化する必要が

あります。

 

(※↑もっとも,昨今はコンピュータも進化し,数値計算技法も

発達してきているので,数値計算の近似以外の近似を行なうこと

なく,強引に解いてしまう計算物理学的手法もありそうですが。。)

 

1つには,再び,1電子Schroedinger方程式:

{-hc2/(2m)}2ψ()+U()ψ(r)=εψ()

を想定して,これが意味を失わない程度にポテンシャル:U()

を比較的正しい近似で表現することを考えるやり方があります。

 

 

このU()は,まず,イオンによる効果:

ion()≡-Ze2ΣR(1/||) を含んでいます。

 

さらに,注目している1電子は他の全ての電子の作る電場

をも感じるはずですから,電子が今のところは未知の電荷

密度:ρ()=-eΣii()|2で分布していると仮定して,

 

電子間相互作用を平均化近似した平均場ポテンシャル:

el()≡-e∫d'ρ(')/|'|

を作ります。

 

全体の独立電子ポテンシャル:U()には,これの効果も含まれる

はずです。

 

ここでψi()は,この金属系において準位iにある個々の電子の

1電子波動関数です。

 

それ故,

()=Uion()+Uel()とおいて1電子方程式を作れば,

形式的な方程式系:

{-hc2/(2m)}2ψi()+Uion(i(r)

+[e2∫djj()|2/|'|]=εiψi()

が得られます。

 

 

このように各々の占有された1電子準位ψi()に,それぞれ,

1電子方程式が存在しているという近似で得られた一連の方程式

はハートリー方程式(Hartree equation)として知られています。

 

そして,この方程式を具体的に解くには,

まず,1電子波動関数:ψi()を適当に予測仮定して,

el()=e2∫djj()|2/|'|を作り,

 

そのUel()に対する1電子方程式:

{-hc2/(2m)}2ψi()+Uion(i(r)

+[e2∫djj()|2/|'|]=εiψi()

を,例えば数値計算によって解きます。

 

そして,これで得られた近似解:ψi()をUel()の表式に代入

して,新たに得られた1電子方程式を解くという逐次近似の方法

を採用します。

 

理想的には,この逐次近似法の繰り返しは,Uel()が繰り返し計算

の前後で不変になるまで続ければいいということになります。

 

こうした理由で,"Hartree方程式を用いたこの近似=Hartree近似"

は自己無撞着場(self-consistent)の近似と呼ばれています。

 

電子-電子相互作用の存在によって生じる問題は,こうした単純な

自己無撞着場近似を用いて正しく扱うことはできませんが,この

近似を通じて把握できる幾つかの重要な物理的側面があります。

 

例えば,以下のような側面です。

 

(ⅰ)自己無撞着場の方程式を拡張し,交換相互作用として知られる

相互作用を取り入れる。

 

(ⅱ)遮蔽現象:これは電子間相互作用に対するもっと正確な理論

展開する際や,イオン,不純物,他の電子などの荷電粒子に対する

金属中の電子の応答を調べる際には重要になる。

 

(ⅲ)LandauのFermi液体論:これについては金属の電子的性質に対

する電子間相互作用の定性的な効果を研究するための現象論的な

手段を与える。

 

 

などです。

 

以下では,これらを論じます。

 

なお,電子間相互作用を系統的,かつ本格的に扱うという問題

多体問題と呼ばれ,これを扱う系統的方法として,場の理論

や,それにおける摂動法での伝播関数の描像をも含めた一般的

なGreen関数の方法などがあるようです。

 

では,まず(ⅰ)の交換相互作用(交換力)について論じましょう。

 

まず,N電子系の正確なSchroedinger方程式:H^Ψ=EΨに

戻ります。

 

量子論の変分原理によれば,これの解Ψは,

これと等価な変分形式:H>Ψ=<Ψ|H^|Ψ>/<Ψ|Ψ>

を停留値にする状態:Ψを求めることで得られます。

 

特に,基底状態の波動関数は,<H>Ψ=<Ψ|H^|Ψ>/<Ψ|Ψ>

を最小にするΨです。

 

そこで,Hartree方程式の解は,

Ψ(11,22,..,NN)

=ψ1(112(22)..ψN(NN)の形の全てのΨについて

<H>Ψ=<Ψ|H^|Ψ>/<Ψ|Ψ>を最小にするものを求める

ことから得られる,と考えられます。

 

ここで,{ψi(ii)}(i=1,2,..,N)は,直交規格化されたN個

の1電子波動関数の組です。

 

しかし,このN体電子の波動関数Ψの,Ψ=ψ1ψ2..ψNという単純

な形式のままでは,一般に,"N体電子の波動関数は任意の1対の

電子の位置とスピンの変数の入れ換えに対して反対称であるべき

である。"という,Pauliの原理とは相容れません。

 

したがって,最も簡単には,Hartree近似を一般化して波動関数Ψ

単純に反対称化すればいいわけです。

 

それ故,Ψのψiによる表式として,謂わゆるSlator行列式を採用

することにします。

 

 

すなわち,

i(jj)}を,ψi(jj)を(i,j)成分の行列要素とする

N×N行列とし,Ψは,その行列式(determinant)を規格化した

Ψ(11,22,..,NN)=(1/N!)1/2det{ψi(jj)}

という表現,を採用します。

 

これを用いてエネルギーの期待値:

<H>Ψ=<Ψ|H^|Ψ>/<Ψ|Ψ>を計算すれば,

 

<H>Ψ=Σi∫dψi*()[{-hc2/(2m)}2+Uion()]ψi()

+(2/2)Σi,j∫d'[1/|'|]|ψi()|2j(')|2

(2/2)Σi,jδsisj∫di*()ψi(')[1/|'|]

ψj*(')ψj()

 

となります。

 

右辺の最後の項は負であり,通常の1電子の組み合わせ:|ψi()|2

の代わりに,積:ψi*()ψi(')を含んでいます。

 

このエネルギー期待値に対して,ψi*の変分に対する変分原理を

適用すると,

 

{-hc2/(2m)}2ψi()+Uion(i()+Uel(i()

-(2/2)Σjδsisj∫d'[1/|'|]ψj*(')ψi(')ψj()

=εiψi()

が得られます。

 

これを,Hartree-Fock方程式と呼び,この近似をHartree-Fock近似

といいます。

 

そして,この方程式は,左辺の第3項の分だけHartree方程式とは

異なっています。この余分の左辺第3項を交換項と呼びます。

 

この方程式もHartree方程式と同じく非線形の方程式です。

 

しかも,交換項は∫V(,')d'という積分演算子の形になって

いますから,これの扱いは,さらにむずかしいものといえます。

 

例外は,周期ポテンシャルがゼロ,または定数の自由電子の場合で,

このときには,ψiを直交規格化された平面波と取ることによって,

方程式は正確に解けます。

 

もっとも,自由電子の場合の解を現実の金属中に束縛されている

電子の場合に適用するのは疑問です。

 

しかし,これは周期ポテンシャルがゼロでも定数でもない現実の

金属電子のHartree-Fock方程式を,より取り扱いやすくするため

の近似を考える際の助けにはなります。

 

すなわち,自由な平面波:

ψi(s)=(1/V)1/2exp(ikr)×(スピン関数)

を考えると,これはHartree-Fock方程式の1つの解となって

います。

 

ただし,Fermi波数:kFより小さい波数ベクトル:はスピンの向き

(up,down)の各々に対応してSlator行列式の中に2度出現します。

 

実際,上記の平面波の組が解であるなら,Uelを決める電荷密度は

一様になりますが,自由電子ではイオンも正に帯電した一様な分布

で表わせるので,これらは互いに打ち消しあって,U=Uion+Uel0

となりますから,相互作用項ポテンシャルの項としては,交換項だけ

が残ることになります。

 

ここで,CoulombポテンシャルをFourier変換すると,

2/|'|=(4πe2/V)Σ(1/q2)exp{i(')}

→ (4πe2)∫d[1/{(2π)32}exp{i(')}

なる表式が得られます。

 

これと,自由平面波:ψi(s)=(1/V)1/2exp(ikr)

×(スピン関数)をHartree-Fock方程式の左辺に代入すれば,

{-hc2/(2m)}2ψi()+Uion(i(r)

+[e2∫djj()|2/|'|]=εi(i()

となります。

 

ここに,εi()=hc22/(2m)-(4πe2/V)Σk,k'(1/|'|2)

=hc22/(2m)-{4πe2/(2π)3}∫k<kF'(1/|'|2)

=hc22/(2m)-(2e2F/π)F(k/kF)

 

ただし,

F(x)≡(1/2)+{(1-x2)/(4x)}log|(1+x)/(1-x)| です。

 

よって,確かに自由平面波がHartree-Fock方程式の1つの解である

ことが示され,波数ベクトルの1電子準位のエネルギーが,

上記のεi()で与えられることがわかりました。

 

そして,N電子系の全エネルギーは,この自由電子近似では,

E=k<kF{hc22/(2m)}-(e2F/π)

Σk<kF [1+{(kF2-k2)/(2kkF)}log|(kF+k)/(kF-k)|]

となります。

 

そして,第2項の和を積分に変えれば,

E=N[3εF/5-3e2F/(4π)]が得られます。

 

この結果は,Rydberg単位:Ry≡e2/(2a0)≒13.6eV

(a0はBohr半径)と,パラメータ:(rs/0)(rsはV/N=4πrs3/3

で与えられる1電子の占める体積の半径),を用いると,

 

/N=e2/(2a0)[3(kF0)2/5-3(kF0)/(2π)]

≒[2.21/(s/0)2-0.916/(s/0)]Ry

と簡単になります。

 

金属中の(rs/0)は大体 2~6なので,第2項は第1項と同程度

大きさですから,金属中の電子のエネルギーを自由電子近似で

評価するときには電子間相互作用を無視できません。

 

より詳しい計算によれば,

電子ガスの基底状態の高密度展開(小さい(rs/0)による展開)

の主要項が,E/N≒[2.21/(s/0)2-0.916/(s/0)

+0.0622log(s/0)-0.096+O(s/0)]Ry

となることがわかっています。

 

ただし,1電子の占有する平均半径:sは,

F(3π2n)1/3=(9π/4)1/3(1/s)を満たす長さです。

 

これによれば,右辺の初めの2項はHartree-Fock近似の結果と

一致しています。

 

しかし,金属の(rs/0)は小さくないので,金属電子に対しては

この展開自体が疑問です。

 

それ故,実際には右辺第3項以下は物理的な意味のない誤差に

過ぎないと思われます。

 

しかし,こうした展開式の導出は電子間相互作用のより正確な

理論を作るための最初の系統立った試みの1つになりました。

 

 

この表式では,自由1電子のエネルギー:c22/(2m)からの

交換項による平均の変化分は,丁度E/Nの表式の右辺第2項

で与えられます。

 

すなわち,<Eexcha>=3e2F/(4π)=-0.916Ry/(s/0)

です。

 

この形から,Slaterは次のような指摘をしました。

 

すなわち,非一様な系,特に格子の周期ポテンシャルがあるとき,

局所的密度から求めたkFを持つ,

<Eexcha>=3e2F/(4π)=-0.916Ry/(s/0)

2倍で与えられる局所エネルギーを,交換項に置き換えれば

Hartree-Fock方程式を簡単化できるという指摘をしました。

 

つまり,∫V(r)d=N=V/(4πrs3/3)=nV,かつ,

(r)=kF()3/(3π2)(n=kF3/(3π2))より,

 

excha()=-3kF()a0y/π

=-(81/π)1/3(a03(r))1/3y≒-2.95(a03(r))1/3y

を,U()=Uion()+Uel()に,さらに加えることで交換項

に代える方程式を提案したわけです。

 

まあ,これらは粗い近似であり,単に種々の近似方法の1つに

しか過ぎないことがわかっていて,特筆すべきほどのものでは

ありません。

 

最後に自由電子近似でのエネルギーの表式:

εi()=hc22/(2m)-(2e2F/π)F(k/kF);

F(x)≡(1/2)+{(1-x2)/(4x)}log|(1+x)/(1-x)|

によれば,k=kFにおいては金属内電子の速度:

[(∂εi()/∂)/hc]対数的に無限大になります。

 

このため,低温の電子比熱がTに比例するという法則を求める

に用いたSommerfeld展開が有効でなくなり,低温の電子比熱

の表現に,[T/{log(T)}]に比例する特異な項が現われます。

 

これは,Coulombポテンシャル:e2/rのFourier変換:(4πe2/k2)

がk=0 において発散することに起因していますから,

Coulombポテンシャル:e2/rを湯川型の遮蔽ポテンシャル:

2 exp(-k0)/rで置き換かえれば,発散は除去されます。

 

次回はこの遮蔽効果について述べることにして,

今日はここまでにします。

 

(※なお,ここでは,記述の簡明さのために電磁気の単位として

MKSA単位ではなく,c.g.s単位を採用しています。)

 

参考文献:アシュクロフト・マーミン 著(松原武生・町田一成 共訳)

「固体物理の基礎(上・Ⅱ)(固体のバンド理論)」(吉岡書店)

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」

サブマネージャーです。

 

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