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2007年6月17日 (日)

ハートリー・フォック(Hartree-Fock)近似(2)

電子間相互作用の最も単純で重要な現象は遮蔽効果です。

 

 周期ポテンシャルがある場合の遮蔽はかなり複雑で,

これを論じるのにも自由電子の形を使わざるを得ない

場合もあります。

 

 そこで,簡単のために自由電子ガス近似が有効な場合

遮蔽に話を限定します。

 

 正電荷を持った重い粒子が,電子ガスの中の与えられた

位置に置かれ,そこに固定されているとします。

 

 その粒子は電子を引き付け,自分の近くに余分の負電荷

を作り出すため,正電荷の正味の量に対応する場を減少さ

せます。これを電子による遮蔽効果と呼びます。 

 

 この遮蔽効果を扱うのに2つの静電ポテンシャルを導入

します。

 

 第1のポテンシャル:φextは正電荷粒子そのものから生じる

もので,その電荷密度をρextとすると,これはPoisson方程式:

 -∇2φext()=4πρext() を満足します。

 

 また,第2のポテンシャル:φは正電荷粒子と.それが生み

出した遮蔽電子雲とで作られたもので,遮蔽も含めた全電荷密度

をρとすると,Poisson方程式:-∇2φ()=4πρ()を満足

します。

 

 ここで,全電荷密度ρ()は,ρ()=ρext()+ρind()

与えられます。

ただし,ρind()は外部電荷密度ρext()によって誘起された

電荷密度を示しています。

 

 誘電体の理論と同じく,φとφextはε(,')を局所誘電率

として,方程式:φext()=∫d'ε(,')φ(')で線形

に結ばれているとします。

 

 空間的に一様な電子ガスであると仮定すれば,ε(,')は

2点,'の相対的な距離だけに依存すると考えられるので

ε(,')=ε(')としてよいことになります。

 

 このとき,φext()=∫d'ε(')φ(')

です。

 

 これは,2つの関数のたたみこみ積分なのでこれの

Fourier変換は,それぞれの関数のFourie変換の積に

なります。

 

 すなわち,

 ε()=∫dexp(-iqr)ε()

 ⇔ε()=∫d(2π)-3exp(iqr)ε() 

 φ()=∫dexp(-iqr)φ()

 ⇔φ()=∫d(2π)-3exp(iqr)φ();

 φext()=∫dexp(-iqrext()

 ⇔φext()=∫d(2π)-3exp(iqrext()

とすれば,

 

 φext()=ε()φ() です。

 

 ε()は金属の誘電定数と呼ばれるもので,

 φ()=φext()/ε()とも書けます。

 

 直接計算するのに最も便利な量はε()ではなく,電子ガスに

誘起された電荷密度ρind()です。

 

 ρindとφが線形関係にあるとして,それをFourier変換の形で

 ρind()=χ()φ()と書けば,

 

 -∇2φext()=4πρext(),-∇2φ()=4πρ(),および,

 ρ()=ρext()+ρind()より,

 

 {q2/(4π)}[φ()-φext()]=χ()φ(),

または,φ()=φext()/[1-4πχ()/q2]

が得られます。

 

 これと,φ()=φext()/ε()から,

ε()=1-4πχ()/q21-4πρind()/{q2φ()}

を得ます。

 

 ここまでは,外部の電荷の作用が十分に弱い摂動であるため,

それに対する電子ガスの応答が線形である,という仮定をした

ことを除けば,何も近似をしていません。

 

 しかし,χを計算しようとすると,重大な近似をすることが必要

になります。

 

 そして,χの計算には2つの良く知られた理論があります。

 

 その第1の理論はThomas-Fermiの方法で,第2の理論は

 Lindhard(リンドハルト)法です。

 

 これらは両者とも不純物に誘起された電荷を一般的な

Hartree理論を用いて計算するものを簡単化したものです。

 

 まず,Thomas-Fermiの遮蔽理論です。

 

 全ポテンシャル:φ=φext+φindがあるときの電荷密度を

見出すためにHartree近似を用いる場合,基本的には1電子

のSchroedinger方程式:

{-hc2/(2m)}2ψi()-eφ(i()=εiψi()

を解き,ρ()=-eΣii()|2を用いて1電子波動関数:

ψi()の組から電子密度を求める必要があります。

 

 Thomas-Fermiの方法は,全ポテンシャルφ()が対して

"十分ゆっくり変化する"関数の場合に実行可能な近似の単純化

です。

 

 ここで,"十分ゆっくり変化する"というのは,"位置にある

電子のエネルギーと波数ベクトルの関係式を指定することが

意味を持つ"としてよいということとします。

 

そして,その関係式をε()=hc22/(2m)-eφ()によって

指定します。

 

左辺がの関数なのに,右辺のポテンシャルはの関数

与えられるという等式になっているという表現が,

"十分ゆっくり変化する"という仮定の内容を表わして

います。

 そして,この表式によれば,この場合の1電子のエネルギー

自由電子の値から全ポテンシャルの値だけ異なることが

わかります。

 明らかに,ε()=hc22/(2m)-eφ()は波束を考えるとき

にだけ意味を持ちます。そして,その波束は少なくとも 1/kF

程度の拡がりを持ちます。

 そこで,計算はk<<kFに対してのみ近似的に正しいと考えら

れます。

 

したがって,

{-hc2/(2m)}2ψi()-eφ(i()=εiψi()の解は,

ε()=hc22/(2m)-eφ()のエネルギーを持つ電子を記述

しています。

 

 そうした電子によって作られる全電荷密度

ρ()=-en()=-eΣii()|2を計算するために

フェルミ粒子(Fermion)の熱平衡状態での数密度()

に対する表式を用いることに

すると,

 n()

={1/(4π3)}∫d/[exp(β{c22/(2m)-eφ()-μ}+1]

(β=1/kBT) が得られます。 

 誘起された電荷密度はρind()=-en()+en0

与えられます。

 これの右辺第2項は一様な正電荷のバックグラウンドに

よる電荷密度です。

 

 バックグラウンドの数密度n0(μ)はφextがないとき,それ故,

φがないときの数密度ですから,

0(μ)={1/(4π3)}∫d/[exp(β{c22/(2m)-μ}+1]

なる表式で与えられます。

 

 この表式では,0(μ+eφ)=n()

={1/(4π3)}∫d/[exp(β{c22/(2m)-eφ()-μ}+1]

とも表現できますから,

ρind()=-e[n0(μ+eφ)-en0(μ)]という形に書けます。

これがThomas-Fermi理論の基礎方程式です。

φが十分小さいなら,ρind()=-e[n0(μ+eφ)-en0(μ)]

の右辺を,そのTaylor展開の初項で置き換えて,

ρind()=-e2φ[0 /∂μ]と書くことができます。

 

 これをρind()=χ()φ()と比較すれば,χ()は

依らない定数で与えられ,χ()=-e2[0 /∂μ]

となります。

 そして,これをまた

ε()=1-4πχ()/q21-4πρind()/{q2φ()}

に代入すると,ε()=1+4πe2[0 /∂μ]/q2なる

誘電定数ε()の表現が得られます。 

 ここでThomas-Fermiの波数と呼ばれる定数k0

024πe2[0 /∂μ]で定義すると,ε()=1+02/k2

となります。

 

 k0の意味を見るために,外部ポテンシャルが点電荷のそれ:

 φext()=Q/r,φext()=4πQ/q2である場合を考えます。

 

 この場合,φ()=φext()/ε()=4πQ/(q202)

ですから,φ()=(4πQ)∫d(2π)-3exp(iqr)/(q202)

=Qexp(-0)/rとなります。

 

 これは,遮蔽型のCoulombポテンシャルとか,湯川ポテンシャル

として,よく知られているものです。

 次に,Lindhaldの遮蔽理論です。

 

 Lindhaldの方法でも1電子Schroedinger方程式:

 {-hc2/(2m)}2ψ()-eφ()ψ()=εψ()

から出発します。

 

 Thomas-Fermiの方法とは異なり,φがゆっくり変化する

という半古典近似は使用しません。

 その代わり,初めから誘起されたポテンシャルには

全ポテンシャルの1次の寄与までを必要とするという摂動論

を用います。

φ≡0 のときの1電子Schroedinger方程式の波数ベクトル

対応する解をψk0()とすると,摂動V()=-eφ()に

対する定常摂動論により,これの1次までの波動関数は

ψk()=ψk0()+Σk'[<ψk'0|V|ψk0>/{ε0()-ε0(')}]

となります。

 

 ただし,ε0()は波数ベクトルに対応するエネルギーです。

 そして,波数の電子がFermi分布:

1/[exp(β{c22/(2m)-μ}+1](β=1/kBT)

従って分布しているとして,

ψk()=ψk0()+Σk'[<ψk'0|V|ψk0>/{ε0()-ε0(')}]

を電荷密度の表式:

ρ()=-eΣk()|2=ρ0()+ρind()

に代入してρind()

を求めるわけです。

 

 実際にρind()のFourier変換:ρind()を求めると,

 ρind()

 ={-e2/(4π3)}∫d(fq/2-fq/2)φ()/{c2(kq)/m}

 となります。

 

 すなわち,χ()=ρind()/φ()

={-e2/(4π3)}∫d(fq/2-fq/2)/{c2(kq)/m}

が得られます。

 

qがkFに比べて小さいときには0 の周りで展開して,

±q/2=f±{hc2(kq)/(2m)}[∂f/∂μ]+O(q2)

となり,右辺第1項のqの1次項はThomas-Fermiの結果を

与えます。

 

しかし,qがkF程度になるとLindhaldの誘電定数には

かなりの構造が現われてきます。

特に,T~ 0 では正確に積分が実行できて,

χ()={-e2mkF/(hc2π2)}[(1/2)

{(1-x2)/(4x)}log|(1+x)/(1-x)|

;x≡q/(2kF)

が得られます。

 q~F (x=1)では誘電定数ε=1-4πχ/q2は解析的

ではありません。

 そのため,点電荷の遮蔽ポテンシャルは遠くで

φ(r)~cos(2kF)/r3のようにゆっくり振動しながら減衰する

という挙動を持つ項を含んでいます。 

 また,外部の電荷密度に時間依存性exp(-iωt)がある場合

には誘起されたポテンシャルと電荷密度もまた同じ依存性を

示し,誘電定数は波数だけでなく角周波数ωにも依存する

と考えられます。

 

 衝突が無視できるような極限では定常摂動論のLindhaldの

議論を非定常摂動論に容易に一般化できます。

 すなわち,ε()=1

+[e2/(π22)]∫d(fq/2-fq/2)/[c2(kq)/m]

の被積分関数の分母にhcωを加えるという修正を行なうだけ

でいいので,

ε(,ω)=1

+[e2/(π22)]∫d(fq/2-fq/2)/[c2(kq)/m+hcω]

となります。

 ここまで外部から与えられた電荷分布に対する金属電子の

遮蔽効果を論じてきました。しかし,遮蔽は金属内の2つの

電子の相互作用にも影響を与えます。

 

というのは,残りの電荷から見て,その2つの電子を外部電荷

とみなすことができるからです。

 こう考えることでHartree-Fock方程式に戻ると重要な改善

をすることができます。 

 自己無撞着なHartree場の項は,それ自身が遮蔽を与える項

なので,これを勝手にいじるわけにはいきませんが,

"自由電子近似での交換項の期待値"

=-(4πe2/V)Σk,k'(1/|'|2)

=-{4πe2/(2π)3}∫k<kF'(1/|'|2)

=-(2e2F/π)F(k/kF)

F(x)≡(1/2)+{(1-x2)/(4x)}log|(1+x)/(1-x)|

において,Coulomb相互作用の寄与 1/|'|2を遮蔽

された形の 1/[ε(')|'|2]に置き換える

補正を加えるのが妥当と考えられます。

 

 前記事でも述べたように,この補正によって,k~kF

金属の速度()=[(∂ε()/∂)/hc]が異常発散する

という特異性を除去することができます。

参考文献:アシュクロフト・マーミン 著(松原武生・町田一成 共訳)「固体物理の基礎(上・Ⅱ)(固体のバンド理論)」(吉岡書店)

folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

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