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2007年6月18日 (月)

ハートリー・フォック(Hartree-Fock)近似(3)

次に,主としてLandauによるFermi液体論の概要を紹介します。

 

これは,次の疑問(a),(b)を明らかにするものです。

 

(a) 電子間相互作用が強いのに,なぜ独立電子近似

(相互作用している多くの電子が存在するという実際の問題

各電子個々のSchroedinger方程式を考えることで近似する

方法)がうまくいくのか?

 

(b) 多くの場合,特に輸送現象の計算において,電子間相互作用

の結果をどう定性的に考慮すればいいか?

 

実際,これまでの議論で電子間相互作用を解析してきた結果として,

1電子準位と波数ベクトルとの関係は,かなりの変更を受けること

を知りました。

 

しかし,ここで対象としてきたハートリー近似やハートリー・

フォック近似にしても,"金属の電子的性質は1電子準位の特定

の組の占有によって決まる"という独立電子近似であるという

基本的構造は変わっていません。

 

そこで,まず一般の相互作用をしていない電子の系を想定し,それ

らにゆっくりと相互作用が入ってゆくという描像を考えます。

 

このとき2種類の効果が生じます。

 

(ⅰ)各1電子準位のエネルギーが変化する。

 

 これは既にハートリー・フォック近似とその改良されたもの

で示されました。

 

(ⅱ)電子は散乱されて電子の準位から出たり入ったりする。

もはや定常ではない。

 

 これはハートリー・フォック近似においては生じなかった

ことです。

 

ここで,(ⅱ)の散乱が独立電子近似を無効にする程深刻なもので

あるか否かは,散乱の頻度がどの程度のものであるかに依存して

います。

 

それが十分少ないものであれば,輸送現象の説明に用いた緩和時間

を導入して他の散乱メカニズムと同様な議論で扱うことができます。

 

そして,電子-電子散乱における緩和時間が他の緩和時間より

はるかに長いとすれば,この散乱を無視し去ってよいので,

1電子準位と波数ベクトルとの関係を変更しさえすれば,

独立電子近似を用いて差し支えない,

ということができます。

 

Coulonb相互作用は遮蔽されたときでさえ強いので,通常は

電子-電子散乱の頻度はかなり高いと考えてよいと思われます。

 

しかし,Pauliの排他原理は,着目する多くの場合に散乱頻度を

極端に減らすように働きます。

 

電子の配置が熱平衡からあまりずれていないときには,こうした

減少効果が起こります。

 

例えば,N電子の場合にこうした排他原理による散乱頻度への影響

を見るため,

 

まず,N電子状態が,満ちたFermi球(T=0 での平衡状態)と,

エネルギー準位εがε=ε1>εFの励起電子から成ると仮定

します。

 

このε=ε1>εFの電子が散乱されるためには,εFより小さい

エネルギー:ε=ε2<εFを持つ電子と相互作用する必要があり

ますが,電子のエネルギーがεFより小さい電子状態は全て占有

されているので,

 

排他原理によって散乱相互作用の後には,この2つの電子は,

空いている状態にのみ散乱されます。

 

したがって,それらの状態のエネルギー準位をε=ε34

すればε3>εF4>εFが満たされています。

 

それ故,ε1>εF2<εF3>εF4>εFで,

ε1+ε2=ε3+ε4 となります。

 

ε=ε1が丁度εFに等しいとき,つまりε1=εFを満たすときには,

エネルギー保存:ε1+ε2=ε3+ε4は,ε2=ε3=ε4=εFの場合

にのみ満足されます。

 

すなわち,このときには電子2,3,4にとって許される波数

ベクトル空間の体積がゼロの領域:Fermi上のみです。

 

そして,Fermi面は面積はあっても体積がゼロのため,

これによる散乱過程に許される位相体積はゼロです

から,散乱断面積への寄与は無限に小さいということ

になります。

 

これは,T=0 でのFermi面上の電子の寿命は無限大であると

表現することもできます。

 

ε=ε1がεFと少し異なる場合には,

散乱過程に許される位相体積は少し増加するため,電子2,3,4

はFermi面をはさんだ厚さが|ε1-εF|程度の殻の中を,

ε1>εF2<εF3>εF,ε4>εF,かつ,

ε1+ε2=ε3+ε4を満足しながら動くため,

散乱の頻度は1-εF)2程度の大きさになります。

 

励起電子準位を,T=0 の"詰まったFermi球"に付け加えられた

準位ではなく,有限温度T>0 での電子の熱平衡の分布に付け

加わえられたものとすれば,

 

εFを中心として(kBT)程度の幅の殻の中に部分的に占有された

準位が存在します。

 

このため,ε1=εFであってもε1+ε2=ε3+ε4を満足する

エネルギーには選択の余地があって,(kBT)程度の幅を持つため,

この位相体積が,散乱頻度:1/τ(τは緩和時間)に,(kB)2程度

の寄与をします。

 

以上から,有限温度:T>0 でFermi面の付近にあってエネルギー

値がε=ε1で指定された電子が受ける散乱頻度:1/τは,

 

エネルギー:ε1と温度Tの両方に依存し,ε1やTに依らない係数

,bを用いて,1/τ~a(ε1-εF)2+b(kB)2なる近似式で

表現できるとわかります。

 

ほとんどの低エネルギーの金属の性質は,Fermi球の内部にある

凍結された電子ではなくFermiエネルギーεFから(kBT)程度の

範囲にある電子に強く影響されるので,

 

物理的に意味のある緩和時間τは 1/T2のように挙動します。

 

この1/τを定量的に見積もるための議論をしてみます。

 

まず,緩和時間τの温度依存性は完全に1/T2で規定されるとします。

 

"最低次の摂動論:Born近似"を用いると,1/τは,

相互作用ポテンシャルのFourier変換の平方の形で電子-電子

相互作用に依存します。

 

遮蔽に対する議論によって,それは 4πe2/k02より常に小さい

Thomas-Fermiの遮蔽ポテンシャルで表現できます。

 

したがって,緩和時間:1/τは温度依存がT2で規定され,さらに

4πe2/k02の平方の形で相互作用に依存するので,

1/τ∝(kB)2(4πe2/k02)2,あるいは,

1/τ∝(kB)22c2/mkF2)2 なる形になります。

 

これの比例定数を求めるために,(kB)2は固定して,

他にはkF,m,hcのみを使って次元解析をすると,

1/τ=A(kB)2/(hcεF);εF=hc2F2/(2m)を作る

ことができます。

 

無次元量Aはオーダー的に,1~100程度としておきます。

 

常温で(kBT)は10-2eV程度Fは1eV程度ですから,

(kB)2F10-4eV程度です。

 

それ故,上の評価式では金属内の電子-電子散乱の寿命τは,

10-10 秒程度になります。

 

これは典型的な金属の常温での緩和時間10-14秒に対応する

主要な散乱機構に対して,電子-電子散乱が104倍だけ少ない

頻度でしか起こらないことを意味します。

 

しかも,低温では寿命τは 1/T2で増加しますから,

電子-電子散乱は全温度でほとんど影響がないとみてよい

ことになります。

 

こうして,少なくともFermiエネルギー:εFから(kBT)の

領域の状態については,電子-電子相互作用によって独立

電子近似が無効になることはないことが示されました。

 

以上の議論は,もし独立電子近似が第1近似として"よいもの"

であれば,少なくともFermiエネルギー:εFの付近では,たとえ

相互作用が強くても.この独立電子描像が有効でなくなること

はない,ということを主張しています。

 

しかし,"電子-電子相互作用が強いときに独立電子近似が第1

近似として正しい。"ということは全く有りそうもないこと

ですから,上述の論理をどう解釈すべきか?を調べる必要が

あります。

 

Landauウはこの難問を,"独立電子描像は正しい出発点ではない。"

と初めから認めることによって解決しました。

 

しかし,彼は,もし電子ではなく"独立なある何か"が正しい第1近似

を表わしているなら,上の議論は適用可能であることを強調しました。

 

そして,彼はこの"独立なある何か"が存在するとしたき,それを

"準粒子(quasi-particle)"と名付けました。

 

Landauによると"準粒子"の定義の概要は次のようなものです。

 

相互作用をしていない電子系に電子-電子相互作用が入って

ゆき,やがて強く相互作用するN電子系の状態へと移行してゆく

際,相互作用をしていない電子系状態と1対1に対応付けられる

状態へと連続的に移行すると仮定します。

 

相互作用をしていないN電子系の励起状態は,基底状態からどの

程度異なっているか?,

 

すなわち,kF以上を占有する準位の波数ベクトル1,2,..,n

と,kF 以下の空いている準位1',2',..,m'とを列挙すること

で特徴付けることができます。

 

そこで,強く相互作用しているN電子系について,上のように特徴

付けられた系の状態と1対1に対応付けられる状態を,

 

m個の電子1',2',..,m'の準位から励起して,

n個が励起準位:1,2,..,nに存在する,ということ

記述することにします。

 

このとき,励起状態のエネルギーは,基底状態のエネルギーに

ε(1)+ε(2)+..+ε(n)-ε(1')

-ε(2')-..-ε(m') を加えたものです。

 

このように記述できる状態を"準粒子"といいます。

 

ただしε()の具体的形,つまり,εとの関係を決定するのは

とても難しい問題です。

 

Fermi液体,すなわち相互作用のあるFermi粒子系を考察して

電子-電子相互作用がどのように作用するかを調べてみます。

 

ここでFermi-Dirac統計に従う相互作用粒子系を,正常Fermi系

と呼びます。そして,以下,正常Fermi液体を想定します

 

多くの電子が相互作用している系において,"準粒子描像"が正しい

とすると,電子-電子相互作用によって,まずは自由電子とは異なる

励起エネルギーの値ε()が生じます。

 

これは,輸送過程の構造に重要な意味を持っています。

 

すなわち,金属中に電流や熱流が生じたとき,電子の分布関数

g()は熱平衡のときの値:f()から変化します。

 

ここで,もし電子が独立であるとすると,金属中に電流や熱流が

生じても,これはεとの関係式に何の影響も与えません。

 

しかし,"準粒子"の場合のエネルギーは電子-電子相互作用の帰結

ですから,他の電子の配置が変化すれば変わるはずです。

 

分布関数がδn()=g()-f()だけ変われば,

 

線形応答理論によって, 

"準粒子"のエネルギーは,

δε()=(1/V)Σkk'(,')δn(')だけ変化を

受けます。

 

これはハートリー・フォック理論で,誘電定数が,

ε()=1+(4πe2/q2)[∂n0/∂μ]で与えられる

ときに見たのと同じ事態です。

 

そこでは,f(,')は4πe2/(')2なる形でした。

より正確にはfは遮蔽されたハートリー・フォック理論の

形:4πe2/[(')2+k02]で与えられます。

 

一般には,どちらの近似形も正しいわけではなく正確なf関数

を計算するのは困難です。

 

しかし,正しい輸送理論においては,

δε()=(1/V)Σkk'(,')δn(')

という関係式が存在するということだけは間違いない

と思われます。

 

しかし,ここで最も重要な結論の1つは,時間に依存しない過程

ではf関数は輸送理論から落ちて効かず,輸送理論では電子-電

子相互作用は非定常な散乱過程による散乱頻度に影響する

という意味でのみ重要になる。ということです。

つまり,単純な独立電子近似は定常過程のみに対応し,

"準粒子近似"は非定常散乱を伴う過程に対応しています。

 

そして,単なる電子ではなく実は"準粒子"を扱っているのだ

ということを認識していて忘れないなら,独立電子描像は極

めて正しい扱いであると考えてよいでしょう。

  

以上でこの項目,ハートリー・フォック近似を終わります。

 

参考文献:アシュクロフト・マーミン 著(松原武生・町田一成 共訳)「固体物理の基礎(上・Ⅱ)(固体のバンド理論)」(吉岡書店)

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

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