ブラウン運動と伊藤積分(3)
さらに前記事の続きです。
すぐ前の記事において,確率空間(ΩN,BN,P)の上で定義され,ほぼブラウン運動の条件を満たす確率過程{Xt}の存在が確認されました。
その確率過程{Xt}の修正として,連続確率過程{Yt}が存在し,それによって実際にブラウン運動が実現されることを示すのが,今日の記事の目的です。
そして,その目的に到達するために,いきなり次の定理を述べることから始めます。
(定理3.2):確率空間(Ω,F,P)で定義された確率過程{Xt}t∈[0,1]が次の条件を満たしているとする。
すなわち,"E[|Xt-Xs|α]≦c|t-s|1+β;0≦s,t≦1,∃α,β,c> 0 "を満たしているとする。このとき,"{Xt}の修正である連続確率過程{Yt}が存在して,あるδ>0 に対し,P(ω:∃η(ω)>0 such that sup0≦s、t≦1,|t-s|<η(ω){|Yt-Ys|/|t-s|λ}≦δ)=1,for some λ:0<λ≦β/α"なる命題が成り立つ。
これを証明するためには補題として,次の「ボレル・カンテリの補題(Borel-Cantelli lemma)」が必要です。
(ボレル・カンテリの補題):"{An}n=1,2,.を集合列とし,Aをこれらの集合の無限個の共通に含まれる要素の集合とし,Pを確率測度とする。
このとき,「(a)ΣP(An)<∞ならP(A)=0 」,「(b)ΣP(An)=∞で事象Anが独立ならP(A)=1」である。"
(上の補題の証明)(a) A=∩r=1∞∪n=r∞Anと書けます。よって∀rについてA⊂∪n=r∞Anです。
ΣP(An)<∞より,ΣP(An)は収束するので,ε>0 を任意に取れば十分大きいrに対して,P(A)≦P(∪n=r∞An)≦Σn=r∞P(An)<εと書けます。ε>0 は任意なのでP(A)=0 です。
(b) A=∩r=1∞∪n=r∞AnよりAc=∪r=1∞∩n=r∞Ancです。1-P(A)=P(Ac)=P(∪r=1∞∩n=r∞Anc)≦Σr=1∞P(∩n=r∞Anc)≦Σr=1∞Πn=r∞[1-P(An)]です。
ここで,ΣP(An)=∞なので,各rについて無限積はゼロに発散します。(つまりΣlog[1-P(An)]≦-ΣP(An)=-∞より,Πn=r∞[1-P(An)]=exp(-∞)=0 です。)
故に,P(A)=1です。(補題の証明終わり)
(定理3.2の証明)仮定によって,任意のε>0 に対してP(|Xt-Xs|>ε)≦E[|Xt-Xs|α]/εα≦cε-α|t-s|1+βが成立します。
(なぜなら,E[|Xt-Xs|α]≧P(|Xt-Xs|>ε)・εα)
よって,ε≡2-λn;0<λ<β/αとすると,P(sup1≦k≦2n|Xk/2n-Xk-1/2n|>2-λn)=P(∪k=12n(|Xk/2n-Xk-1/2n|>2-λn))≦Σk=12nP(|Xk/2n-Xk-1/2n|>2-λn)≦2nc2-n(1+β-αλ)=c2-n(β-αλ)が成立します。
そして,(β-λα)>0 よりΣnc2-n(β-αλ)<∞ です。それ故,ΣnP(sup1≦k≦2n|Xk/2n-Xk-1/2n|>2-λn)<∞ を得ます。
故にボレル・カンテリの補題より,∀nに対して,sup1≦k≦2n|Xk/2n-Xk-1/2n|>2-λn なる集合をA⊂Ωとすると,P(A)=0 です。
そこで,Ω0≡Acとおけば,P(Ω0)=1でΩ0∈Fです。
そして,"∀ω∈Ω0に対して,∃n0(ω)∈Z+:sup1≦k≦2n|Xk/2n-Xk-1/2n|<2-λn if n≧n0(ω)"が成立します。
(Z+は正の整数全体の集合)
ここでDn≡{k/2n:k=0,1,2,..,2n},D≡∪n=1∞Dnとします。
s,t∈Dn,n>n0(ω)とし,さらに 0<t-s<2-n0(ω)とすると,n0(ω)<m<nなるmがあって,1/2m+1≦t-s<1/2mとなります。
s1≡min{s'∈Dn-1,s≦s'},t1≡max{t'∈Dn-1,t'≦t}とおくと,|s-s1|,|t-t1|≦1/2n です。
ここで,"P(Ω0)=1なるΩ0∈Fが存在して,∀ω∈Ω0に対し∃n0(ω)∈Z+:sup1≦k≦2n|Xk/2n-Xk-1/2n|>2-λn if n≧n0(ω)"となるので,そのΩ0について,∀ω∈Ω0に対し|Xt-Xt1|,|Xs-Xs1|≦2-λnとなります。
したがって,|Xt-Xs|≦21-λn+|Xt1-Xs1|,s1,t1∈Dn-1,t1-s1<1/2m を得ます。
s,tをs1,t1に置き換えることによって,s,tを基にした選択から新パラメータs1,t1を獲得したようにs1,t1を基にして同様にs2,t2を獲得することができます。
これを繰り返して,s3,t3,..を逐次取っていくと,sn-(m+1),tn-(m+1)∈Dm+1;|Xt-Xs|≦2Σj=0n-(m+2)2-λ(n-j)+|Xtn-(m+1)-Xsn-(m+1)|とすることができます。
このとき,tn-(m+1)-sn-(m+1)=1/2m+1となるので,結局,|Xt-Xs|≦2Σj=0n-(m+1)2-λ(n-j)≦{2/(1-2-λ)}(2-λ)m+1≦δ|t-s|λ (δ≡2/(1-2-λ))となります。
これで,各ω∈Ω0に対してXt(ω)のヘルダー(Hölder)連続性:|Xt(ω)-Xs(ω)|≦δ|t-s|λが成立することが示されました。
Ω0に属さないωに対しては,Yt(ω)≡0と置きます。
ω∈Ω0に対しては,t∈[0,1]なる各tについてtn∈D,limn→∞|tn-t|=0 となる2進数の数列{tn}を取って,Yt(ω)≡limn→∞Xtn(ω)と定義することができます。
P(Ω0)=1であり,0<t-s<2-n0(ω)なるs,t∈[0,1]とω∈Ω0に対して|Xt-Xs|≦δ|t-s|λとなるので,このようにして構成した{Yt}はP(ω:∃η(ω)>0 such that sup0≦s,t≦1,|t-s|<η(ω){|Yt-Ys|/|t-s|λ≦δ})=1を確かに満足します。
また,t∈Dなるtに対しては,ほとんどいたるところで,つまり確率1でXt=Ytです。
一方,t∈Dc∩[0,1]なるtに対しては,任意のε>0 に対しP(|Xt-Xs|>ε)≦E[|Xt-Xs|α]/εα≦cε-α|t-s|1+βが成り立ちますから,limn→∞P(|Xtn-Xt|>ε)=0 for ∀ε>0 です。
これと,P(limn→∞(|Xtn-Yt|=0)=1から,P(|Xt-Yt|=0)=1 が得られます。つまり,YtはXtの修正である,ことが示されました。(証明終わり)
(注)ここでは,t∈[0,1]としましたが一般性を失うことなく,t∈[0,T]とすることができるのは明らかです。
それ故,定理は容易にパラメータ空間を[0,∞)にした確率過程に適用できるよう拡張できます。
ここで,(定理3.1)とg(t,x)≡(2πt)-N/2exp{-|x|2/(2t)},x∈RN,t>0,t0=0<t1<t2<..<tn に対して,μt0,t1,..tn(B0×B1×..×Bn )≡∫B0×B1×..×Bnν(dx0)Πi=1Ng(ti-ti-1,xi-xi-1)dx1dx2..dxnで作った(ΩN,BN,P)上の確率過程{Xt}の各成分{Xti}(i=1,2,..,N)について,φ(ξ)≡E[exp{iξ(Xti-Xsi)}]=exp{-(t-s)ξ2/2}=Σk=0∞[(-1/2)k(t-s) kξ2k/k!]です。
したがって,φ(2n)(ξ)=Σk=0∞[(-1/2)k(t-s)k/k!](2k)(2k-1)..(2k-2n+1)ξ2k-2nですから,φ(2n)(0)=(-1/2)n(t-s)n(2n)!/n!です。
それ故,E[|Xti-Xsi|2n]=|φ(2n)(0)|=cn|t-s|n;cn≡(2n)!/2nn! For ∀n;i=1,2,..,Nが成立します。
つまり,α=2n,β=n-1,c≧cnとすれば,E[|Xti-Xsi|α]≦c|t-s|1+βが成り立ち,0<λ<β/αは 0<λ<1/2となります。
こうして,(ΩN,BN,P)上で定義された{Xt}の修正である連続確率過程{Yt}があって,その標本路は確率1で,λ次ヘルダー連続(0<λ<1/2)であることがわかりました。
以上のことから,Y.(ω):ΩN → WNを用いて,P^(ω)をP^(ω)≡P(Y.(ω)-1)で定義し,w∈WNの座標関数をBt(w)≡w(t)と取れば,確率空間(WN,BN,P^)で定義された連続確率過程{Bt}は初期分布をνとするN次元ブラウン運動になります。
これで当面の目的を達成したので,今日はここまでとします。
参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)
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コメント
どもhirotaさん、TOSHIです。チェックありがとうございます。
>(定理3.2)
>sup...{|Yt-Ys|/|t-s|^λ≦δ}
sup...{|Yt-Ys|/|t-s|^λ}≦δ でしょ?
その通りです。なおします。ありがとうございました。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年9月17日 (月) 11時34分
>(定理3.2)
>sup...{|Yt-Ys|/|t-s|^λ≦δ}
sup...{|Yt-Ys|/|t-s|^λ}≦δ でしょ?
投稿: hirota | 2007年9月16日 (日) 04時00分