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2007年6月29日 (金)

ブラウン運動と伊藤積分(4)

確率過程というのは確率変数の時間発展であり,その"過去の軌跡"を情報と見るとき,これは情報の増大系であるということができます。

 

これを数学的に表現するものは,"フィルトレーション=σ加法族の増大系"です。

今日は,確率過程,特にブラウン運動を時刻と共に我々に得られる情報が増加していくプロセス,つまり,"情報を獲得する1つのフィルター=σ加法族の増大系"というものであると捉える理論について述べたいと思います。

(定義4.1):確率空間(Ω,,P)と={Ωの部分集合の族でσ加法族}の部分集合の族{t }t∈で次の(ⅰ),(ⅱ)を満たすものが与えられているとする。

 

(ⅰ) 0≦s<t に対してs t

(ⅱ)各t∈に対してt はσ加法族である。このとき,(Ω,,P;t)をフィルター付き確率空間と呼ぶ。

(例) 確率空間(Ω,,P)で定義されたN次元ブラウン運動を{t}とするとき,tB≡σ(s;s≦t)={s}s≦tを可測にする最小のσ加法族と置けば,(Ω,,P;tB)はフィルター付き確率空間です。

 

この{tB }を,ブラウン運動{t}の生成する"フィルトレーション"といいます。

以下ではフィルター付き確率空間(Ω,,P;t)が与えられているものとします。

(定義4.2):{t}を距離空間:Ξ上の確率過程とする。

 

(ⅰ) 各tに対しtt-可測であるとき(すなわちAをΞの任意の開集合とするとき:{ω∈Ω:t(ω)∈A}∈tとなるとき),{t}はtに適合している。という。

 

(ⅱ)各tに対し,写像:(s,ω)∈[0,t]×Ω→s(ω)∈Ξが([0,t])×t-可測であるとき,確率過程{t}はt-発展的可測であるという。

 

まず,t-発展的可測性に関する1つの補題を述べて証明します。

(補題4.3):確率過程{t}がtに適合していて,tがtに関して左(右)連続ならば{t}はt-発展的可測である。

(証明)tが右連続であるとして証明します。

まず,s(n)(ω)≡(k+1)t/2n(ω) for kt/2n<s≦(k+1)t/2n,k=0,1,2,..,2n-1と定義します。

 

仮定によって(k+1)t/2n(ω)と1{kt/2n≦s≦(k+1)t/2n}は共に([0,t])×t-可測であり,s(n)(ω)は(k+1)t/2n(ω)と1{kt/2n≦s≦(k+1)t/2n}の合成関数ですから,(s,ω)→s(n)(ω)は([0,t])×t-可測です。

 

(1{kt/2n≦s≦(k+1)t/2n}のような階段集合の定義関数の上でsに依らず一定値:(k+1)t/2n(ω)を取るような単純階段関数は無条件で可測関数であることが自明です。)

 

そして,s(ω)=limn→∞s(n)(ω),(s,ω)∈[0,t]×Ωがsのsに関する右連続性によって成立するので補題の結論が従います。(証明終わり)

(注)一般にσ加法族の可算加法性と半連続性から可測性を導くのはルベーグの測度論において詳しく論じられている内容です。

(定義4.4):t+≡∩τ>0t+τと定義する。t+t となるときt は右連続であるという。(t-≡∩τ>0t-τと定義する。t-t となるとき,t は左連続であるという。)

次に,{t}を(Ω,,P)で定義されたブラウン運動とします。tB≡σ(s;s≦t)は左連続ですが右連続ではないことを証明しましょう。

(証明)tB≡σ(s;s≦t)はA={ω:(t0,t1,..,tk)∈G},0=t0<t1<t2<..<tk =t,G:Ωの開集合で生成されるσ加法族です。

 

n↑t as n→ ∞ のときtlimn→∞snですから,A=∪j=1n=j{ω:(t0,t1,..,sn)∈G}∈t–Bです。故に,tBt–B:すなわちtBは左連続です。

一方,Hn{ω:Bt+1/ni-Bti≧0 (i=1,2,..,N)}と定義し,H≡∪m=1n=mnとおけば,H=∪m=kn=mnt+1/kB ∀kよりH∈t+です。

 

しかし,Hn≡{ω:Bt+1/ni-Bti≧0}はtB≡σ(s;s≦t)には属さないので,H≡∪m=1n=mnt+の元ですがt の元ではありません。故に,tBt+B:すなわちtBは右連続ではありません。(証明終わり)

(定義4.5):[0,∞)に値をとる確率変数τ(ω)は,各tに対して{ω:τ(ω)≦t}∈tとなるとき停止時刻である,あるいはマルコフ時刻であるという。

 

※(注)停止時刻というのは,元々ゼロサムゲームの1つであるマルチンゲール(martingale)という賭博ゲームで賭博をいつやめるか?という時刻,を定める条件を示したもので,未来の未知情報によるのではなく,"現在までに獲得した確実な情報=フィルターt"をベースに,賭博をやめる時刻を決定すべきであるという条件になっています。)

ここでtが右連続のときにはτ(ω)が停止時刻であること:{ω:τ(ω)≦t}∈t であることは,τ(ω)=tの等式を含まない集合{ω:τ(ω)<t}について{ω:τ(ω)<t}∈tとなることと同値であること,そしてまた,t(ω)≡1[0,τ(ω)](t)がt に適合していることと同値であることを証明します。

(ωの集合Aの定義関数1Aは,ω∈Aなら1A= 1,ω∈Aでなければ1A= 0 となるようなωの集合Aの集合関数と定義されます。

  

そして,1A(t)と書いたとき,これは集合Aを定義する関数1Aが時刻tの関数であること:つまりωの集合A自身がtと共に変化していく過程であることを示しています。)

(証明) τ(ω)が停止時刻:すなわち{ω:τ(ω)≦t}∈tであると仮定すると,{ω:τ(ω)<t}∈tであることは自明です。

 

逆に任意のtについて{ω:τ(ω)<t}∈tであって,tが右連続:tt+であるとすれば,{ω:τ(ω)<t+1/k}∈t+1/kです。そこで,∩n=k{ω:τ(ω)<t+1/n}∈t+1/kとなります。

 

それ故,{ω:τ(ω)≦t}∈t+tが得られます。すなわち,τ(ω)は停止時刻です。

また,{ω:1[0,τ(ω)]=1}={ω:0≦t≦τ(ω)}={ω:τ(ω)≧t}={ω:τ(ω)<t}cですから,{ω:1[0,τ(ω)]=0}={ω:1[0,τ(ω)]=1}c={ω:τ(ω)<t}です。

 

t(ω)≡{ω:1[0,τ(ω)]=1}={ω:τ(ω)<t}ct に適合していることは,tがσ加法族なので{ω:1[0,τ(ω)]=0}={ω:τ(ω)<t}∈tであることと同値です。そこでtが右連続:tt+なら,これはτ(ω)が停止時刻であることと同値です。(証明終わり)

さらに停止時刻に関する補題を述べて証明します。 

(補題4.6):{t}を距離空間Ξ上の確率過程とする。そして,tは右連続でtに適合しているとする。さらにtも右連続とする。

 

Ξの任意の開部分集合Gに対して,[0,∞)に属する値σGをσG≡inf{t≧0,t∈G} ({t≧0,t∈G}≠φのとき);σG≡∞ ({t≧0,t∈G}=φのとき);で定義すると,σGは停止時刻である。

 

また,Ξの閉部分集合Fに対してσFを同様に定義するとき,tが連続でtに適合しているならばσFも停止時刻である。

(証明){ωG≧t}={ω:s(ω)∈Gc,s<t}=∩τ<t,τ∈Q+{ω:τ(ω)∈Gc} (Q+は正の有理数の集合)が成立します。

 

ここに,σGはΞの開集合Gに対してt∈Gとなるt≧0 の下限です。そこで,σG≧tであるということは,tはt∈Gとなるtの下限以下なのですから,∀s<tのsに対してs∈Gcであることを意味します。

 それ故,{ωG<t}=∪τ<t,t∈Q+{ω:τ(ω)∈G}です。

 

 Xtが右連続でtに適合しているので,{ω:τ(ω)∈G}∈ττの右連続性から,∩τ<t,τ∈Q+{ω:τ(ω)∈G}={ω:t(ω)∈G}∈tです。

 

 つまり,{ωG<t}∈tです。tが右連続なので,先に示した停止時刻の性質から,これはσGが停止時刻であることを意味します。

 一方,FをΞのある閉集合とします。ρを距離空間Ξの距離であるとして集合GnをGn{∈Ξ:ρ(,F)<1/n}と定義します。(ρ(,F)=inf∈Fρ(,)です。)

そして,σ≡limn→∞σGnと置くと,経路tの連続性によってσ=limn→∞σGnとなりますが,σGn≦σF ∀nです。

 

(なぜなら,σGn=inf{t≧0,ρ(t,F)<1/n},σF≡inf{t≧0,t∈F}ですが,{t≧0,t∈F}⊂{t≧0,ρ(t,F)<1/n}であるからです。) それ故,n→ ∞の極限を取るとσ≦σFです。

 

一方,σGn+1∈Gnより,σ∈Gn∀nですからσ∈∩n=1∞n=Fとなり,σ≧σFも成り立ちます。

 

したがって,σ=σFとなることがわかりますから,{ωF≦t}={ω:σ≦t}=∩n=1∞{ωGn<t}∈tが得られます。つまり,σFも1つの停止時刻であることが示されました。(証明終わり)

途中ですが少し疲れたので,続きは明日以降にして,今日はここまでにします。 

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

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