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2007年6月30日 (土)

ブラウン運動と伊藤積分(5)

続きです。 

次項でのマルチンゲール(martingale)の説明への準備として停止時刻とσ加法族の増大系の関係についての種々の性質を紹介しましょう。

まずτを停止時刻とします。このとき,τ{A∈:A∩{τ≦t}∈t ∀t}と置けばτはσ加法族となることを証明します。

(証明)φ∈τは明らかです。A∈τのとき,A∈よりAcです。そして,τは停止時刻なので{τ≦t}∈t,それ故,{τ>t}∈tが成立します。

 

c∩{τ≦t}=(A∪{τ>t})cですが,(A∩{τ≦t})∪{τ>t}∈tですから,A∪{τ>t}∈tとなります。よって,Ac∩{τ≦t}∈tが得られ,結局Acτとなることがわかります。

次にAnτ,n=1,2,..なら,Anより,∪n=1nです。また,An∩{τ≦t}∈t∀tより,(∪n=1n)∩{τ≦t}=∪n=1(An∩{τ≦t})∈t ∀tです。

 

それ故,∪n=1nτも成立します。以上から,τが1つのσ加法族であることが示されました。(証明終わり)

次に主な6つの性質を列記して証明します。

 

(補題4.7):σ,τ,σn,n=1,2,..を停止時刻とする。(ただし,場合によっては,文字σをσnの極限値として用います。そのときはσnは停止時刻ですが,極限値σは停止時刻とは仮定されていません。) 

 

このとき,

(ⅰ)σ∨τ,σ∧τは共に停止時刻である。

(ⅱ)σn↑(nについて単調増加)のとき,σ≡lim n→∞σnは停止時刻である。また,tが右連続のとき,σn↓(nについて単調減少)なら,σ≡limn→∞σnは停止時刻である。

(ⅲ)σ(ω)≦τ(ω)∀ωなら,στである。

(ⅳ)tが右連続のとき,σn(ω)↓σ(ω)∀ωなら,∩n=1σnσである。

(ⅴ)σ∧τστである。

(ⅵ){τ<σ},{τ≦σ},{τ=σ}∈στである。

(証明)(ⅰ){(σ∨τ)≦t}={σ≦t}∩{τ≦t},{(σ∧τ)≦t}={σ≦t}∪{τ≦t}が成立します。

 

そこでσ,τが停止時刻であること:{σ≦t}∈t {τ≦t}∈t,およびtがσ加法族であることから,{(σ∨τ)≦t}∈tとなります。それ故,{(σ∧τ)も停止時刻であることは自明です。

(ⅱ)σn↑のとき,{σ≦t}={σ>t}c=(∪n=1n>t})cです。よってσnが停止時刻なら{σn>t}={σn≦t}ct ∀nです。

 

そこで,σ≡lim n→∞σnが停止時刻であることは自明です。

 

σn↓のとき,{σ<t}=∪n=1n<t}で{σn<t}∈t ∀nです。したがって{σ<t}∈t ですが,t が右連続なのでσ≡lim n→∞σnは,やはり停止時刻です。

(ⅲ)σ(ω)≦τ(ω) ∀ωなら,{τ≦t}={σ≦t}∩{τ≦t}です。故に,A∩{τ≦t}=A∩{σ≦t}∩{τ≦t}です。そこで,A∩{σ≦t}∈tなら,{τ≦t}∈tよりA∩{τ≦t}∈tとなります。

 

すなわち,A∈σならA∈τです。つまりστです。

(ⅳ)A∩{σ≦t}∈tなら,A∩{σ<t}∈tです。また,A∩{σ<t}∈tなら∩n=1{σ<t+1/n}∩A∈∩n=1t+1/nよりA∩{σ≦t}∈t+です。

 

したがって,tが右連続:t+tなら,A∩{σ≦t}∈tとA∩{σ<t}∈tは同値です。

σn(ω)↓σ(ω) ∀ωなら,{σ<t}=∪n=1n<t}ですから,A∩{σ<t}=∪n=1(A∩{σn<t})です。

 

そして,σ≦σn∀nより,σσn ∀nです。それ故,σ⊂∩n=1σnです。

 

一方,A∩{σn<t}∈t∀n,すなわちA∈∩n=1σnならσ=limn→∞σntがσ加法族であることから,A∩{σ<t}∈tです。

 

それ故,A∈σですから,∩n=1σnσも成立します。以上からtが右連続なら,∩n=1σnσです。

(ⅴ)σ∧τ≦σ,σ∧τ≦τですから,(ⅲ)よりσ∧τστとなります。

 

一方,等式A∩{σ∧τ≦t}=(A∩{σ≦t})∪(A∩{τ≦t})により,A∈στなら,A∩{σ≦t}∈t,かつA∩{τ≦t}∈tなのでA∩{σ∧τ≦t}∈tです。

 

したがって,στσ∧τも成立します。以上から,σ∧τστを得ます。

(ⅵ) {σ≦τ}∩{τ≦t}={σ≦t}∩{τ≦t}∩{σ∧t≦τ∧t}です。そうして,σ∧t,τ∧tはt-可測です。

(なぜなら,{σ∧t≦a}={σ≦a}∪{t≦a}={σ≦a}(if t>a), Ω(ift≦a)です。

 

そこで,σは停止時刻ですからt>aならatより,{σ≦a}∈at:すなわち,t>aなら{σ∧t≦a}={σ≦a}∈tです。

 

一方,t≦aならtがσ加法族なので,{σ∧t≦a}=Ω∈tです。

 

したがって,いずれにしても,{σ∧t≦a}∈tですから,σ∧tはt-可測です。同様にして,τ∧tがt-可測であることも示すことができます。)

よって,{σ∧t≦τ∧t}∈tです。一方σ,τは停止時刻なので,{σ≦t}∈t,{τ≦t}∈tですから,結局{σ≦τ}∩{τ≦t}∈tです。それ故,{σ≦τ}∈τが成立します。そこで,{σ>τ}={σ≦τ}cτです。

 

また,{σ<τ}∩{τ≦t}={σ∧t<τ∧t}∩{τ≦t}なので,{σ<τ}∩{τ≦t}∈t:すなわち{σ<τ}∈τです。

さらに,{σ=τ}={σ≦τ}∩{σ≧τ}∈τです。σとτを入れ換えることにより,{τ<σ},{σ>τ},{τ≦σ},{σ≦τ},{τ=σ}∈στσ∧τが成立することがわかります。(証明終わり)

(定義4.8):確率過程{t}は次の(ⅰ),(ⅱ),(ⅲ)を満たすときN次元t-ブラウン運動であるという。

 

(ⅰ){t}はtに適合している。

(ⅱ)各t>s≧0 に対して(ts)はsと独立な:平均ベクトルがゼロ,共分散行列が(t-s)EのN次元ガウス変数である。

(ⅲ){t}は連続確率過程である。

そして,上の(定義4.8)の(ⅱ)は,条件付期待値の特性関数に関する等式E[exp{itξ(ts)}|s]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}が成立することと同値です。

(証明)E[exp{itξ(ts)}|s]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}なら,∀A∈sに対してω∈Aであるという条件付期待値はE[exp{itξ(ts)};A]=E[E[exp{itξ(ts)}|s];A]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}P(A)を意味しますから,(ts)はsと独立です。

 

確かに,平均ベクトルはゼロ,共分散行列は(t-s)Eです。逆が成立することは自明です。(証明終わり)

例えば,N次元ブラウン運動:{t}={(Bt1,Bt2,..,BtN)}に対して,tB≡σ(s;s≦t)と置くと,各Bti:i=1,2,..,Nは1次元tBi-ブラウン運動です。

また,{t}をN次元ブラウン運動とすると,(t+ss)はs+Bと独立で,{t}はN次元t+B-ブラウン運動となります。

(証明)E[exp{itξ(ts)}|s+B]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}を示せばいいです。

t>s+1/nのとき,E[exp{itξ(ts+1/n)}|s+1/nB]=exp{-|ξ|2(t-s-1/n)/2}より,∀A∈s+Bに対してE[exp{itξ(ts+1/n)};A]=exp{-|ξ|2(t-s-1/n)/2}P(A)です。

 

n→ ∞の極限では,E[exp{itξ(ts+1/n)};A]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}P(A)を得ます。(証明終わり)

(補題4.9):N次元t-ブラウン運動{t}={(Bt1,Bt2,..,BtN)}について,∀t≧s>0 に対し(ⅰ)E[Bti|s]=Bsi:i=1,2,..,N (ⅱ) E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)である。

(証明)既に,E[exp{itξ(ts)}|s]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}であることを示しました。(ⅰ)ξiで微分してξ0 と置くと,E[i(Bti-Bsi)|s]=[-ξiexp{-|ξ|2(t-s)/2}]ξ0 =0 です。

 

故に,E[Bti|s]=Bsi:i=1,2,..,Nです。(ⅱ)ξijで微分してξ0 と置くと,E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)です。(証明終わり)

(補題4.10):{t}を確率空間(Ω,,P)で定義された,初期分布をνとするN次元ブラウン運動とする。

 

tB≡σ(s;s≦t),B≡∨t≧0tB,≡{F⊂Ω:F⊂∃GcB,P(G)=0},ttBとすると,t+tである。

 

(ここで,2つの集合族,に対して集合族≡{F|∃E∈:(F-E)∪(E-F)∈}で定義します。)

(証明)以前に導入した密度関数:g(t,)=(2πt)-N/2exp{-||2/(2t)},∈RN,t>0 を用いて,Ttf()=∫g(t,)f()dと定義します。

 

このとき,f()が有界可測ならTtf()も有界可測です。また,先に示したことにより,(t+ss)はs+Bと独立なN次元t+B-ブラウン運動です。

そこで,s≦t1<t2としf1,f2を有界可測とすると,E[f1(t1)f2(t2)|s+B]=E[f1(t1)E[f2(t2t1+Bt1)|t1+B]|s+B]=E[f1(t1)Tt2-t12(t1)|s+B]=Tt1-s1{Tt2-t12 }(s)=E[f1(t1)f2(t2)|sB](P-a.s)=(確率的にほとんど確実に)となります。

これを繰り返せば,0≦t1<t2<..<tk-1<s<tk<tk+1<..<tnと有界可測なf1,f2,..,fnに対して,E[f1(t1)f2(t2)..fn(tn)|s+B]=f1(t1)f2(t2)..fk-1(tk-1)E[fk(tk)..fn(tn)|s+B]=f1(t1)f2(t2)..fk-1(tk-1)E[fk(tk)..fn(tn)|sB] (P-a.s)を得ます。

特に,有界可測な関数をfi()≡1Γi()(Γiはボレル集合,i=1,2,..,n)に取れば,P(t1∈Γ1,t2∈Γ2,..,tn∈Γn|s+B)=1{Bt1∈Γ1,Bt2∈Γ2,..Btk-1∈Γk-1}P[tk∈Γk,..,tn∈Γn|sB] (P-a.s)となります。

したがって,{F∈B:P(F|s+B)がsB可測な修正を持つ}と定義するときはディンキン系(族)(Dynkin class)です。

(ディンキン系の定義):Ωをある集合としΩの部分集合からなる集合族が次の条件を満たすとき,はディンキン系(ディンキン族)である,と言います。

(ⅰ)Ω∈(ⅱ)A,B∈,A⊂BならB-A∈(ⅲ)An,An⊂An+1,n=1,2,..なら∪n=1n

     (ディンキン系の定理)ディンキン系の有する性質の1つです。

をΩの部分集合からなる族でA,B∈ならA∩B∈となるものとする。()をを含む最小のディンキン系とすると,()はσ()である。

 

(つまり,を含む最小のσ加法族と一致する。)(証明は簡単なのでここでは証明しません。)

 よって,ディンキン系の定理を用いると,(B)=σ(B)より,Bですから,∀G∈Bに対してP(G|s+B)はsB可測な修正を持ちます。

 

 その修正を1~Gと表わすことにします。つまりG∈s+Bを取ったとき,G~≡{1~G=1}はGの修正ですから,明らかに(G-G~)∪(G~-G)=[{1~G≠1G}∩(G∪G~)]∈です。(P[{1~G≠1G}∩(G∪G~)]=0 です。)

 

それ故,G∈ssBが成立します。

あらゆる閉集合:F∈s+=∩n=1s+1/nに対し,各nについてGns+1/n,(F-Gn)∪(Gn-F)∈なるGnが存在するので,G=∩n=1nと取れば(G-F)∈,かつ(F-G)∈です。

 

しかも,G∈s+BsですからF∈s:すなわち,s+sが得られます。したがって,結局s+sが得られました。(証明終わり)

切りがいいので,今日はここまでにします。

 

なお,条件付期待値に関する演算の性質については,時を改めてやさしい解説記事を書くつもりです。

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

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110. 複雑系・確率過程・非線型・非平衡」カテゴリの記事

コメント

A∪B∈D(C) だけで音を上げてては情けないので、証明を続行しますと、
 A∩B ⊂ A∪B → ( B∩(Ω―A) )∪( A∩(Ω―B) ) = (A∪B) ― (A∩B) ∊ C(F)
も成り立つので、前の結果と合わせて少なくとも A , B の 2つからなる有限加法族は D(C) に含まれます。
ここからは要素数 n に対する数学的帰納法で、要素 n 個の有限集合 F⊂C に対して F を含む有限加法族が D(C) に含まれるとすると、F に Z∊ C を追加しても F∪{Z} (要素 n+1 個) を含む有限加法族が D(C) に含まれる事を示します。
そのため、まず Z の中と外に問題を分けて、{ X∩Z | X∊ F } と { X―Z | X∊ F } (どちらも要素 n 個) を含む有限加法族が D(C) に含まれる事を示します。
まず、{ X∩Z | X∊ F }⊂C なので、こっちは自明。
C' = { X―Z | X∊ F } については、
 (A―Z)∩(B―Z) = (A∩B)―Z ∊ D(C)
なので、
 A'∊ C', B'∊ C'→A'∩B'∊ C'
が成り立つから、これを含む有限加法族が D(C')⊂D(C) に含まれるので、やはり成立。
そして、Z の中と外を合わせた X , Y ∊ D(C), X⊂Z, Y⊂Ω―Z に対して、
 Y⊂ Ω―Z ⊂ Ω―X → Ω― (X∪Y) = (Ω―X) ―Y ∊ D(C) → X∪Y ∊ D(C)
となるから F∪{Z} (要素 n+1 個) を含む有限加法族が D(C) に含まれる事が示される。
以上で C 含む有限加法族が D(C) に含まれる事が証明された。
σ(C) の方は、有限加法族の要素の可算個の合併全部を要素とする集合族を考えれば、それも D(C) に含まれるので自明。

投稿: hirota | 2007年10月13日 (土) 17時28分

 どもhirotaさん、TOSHIです。

 簡単というのは、あくまで主観です。まあ,人によって色々と過去の証明の記憶などがありますからね。

 私の場合は,
>(A∩B)⊂B → B-A=B-(A∩B)∈D(C)
のプロセスを省略したから簡単だと感じたのだと思います。

(ⅱ)A,B∈D,A⊂BならB-A∈D

なので(A∩B)⊂Dの場合はA⊂Bという条件が不要だというのが、たまたま別の証明経験から直感されただけです。

B-A=B∪A^c,で(B∪A)∩(B∪A^c)=Bもほぼ自明という感じです。

 いずれにしろ,私はオッチョコチョイを自認しているのに,とりあえず思いつきというか行動の方が先で,後から考えて反省するというタイプの人間なので色々とご指摘ください。

           TOSHI

 

投稿: TOSHI | 2007年10月 9日 (火) 00時09分

>D(C)はσ(C)である
>証明は簡単
どのくらい簡単なのかと思って、ちょっと試してみたら、A⋃B∈D(C) の確認だけで
(i) → Ω∈D(C)
A⊂Ω → Ω-A∈D(C)
(A∩B)⊂B → B-A=B-(A∩B)∈D(C)
Ω-(A⋃B)=(Ω-A)-(B-A)∈D(C) → A⋃B∈D(C)
なんて手間がかかってしまった!
単に手間がかかるだけだから「簡単」ではあるけど・・・
(よく教科書などで、「証明は自明」なんて書いてあるのを証明しようとすると、やたら面倒だったりする奴ですかね)

投稿: hirota | 2007年10月 8日 (月) 17時36分

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