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2007年6月19日 (火)

フォノンによる電子間引力(超伝導の基礎)

超伝導の理論において1対の電子がクーパー対を作り複号粒子としてボーズ粒子(Boson)となる原因は理論的には低温ではクーロン斥力が"フォノン(phonon)=格子振動"によって遮蔽されて引力に変わるためである,とされています。

 

前項でハートリー・フォック近似(Hartree-Fock近似)を述べて電子間引力を説明する準備ができたのでそれを紹介します。

ハートリー・フォック(Hartree-Fock)近似(2)」で与えた遮蔽効果の議論では格子イオンを何の働きもないただの一様な正電荷のバックグラウンドである,として扱いました。

 

しかし,これは外部電荷が電子だけでなくイオンの電荷分布もゆがめ,それにより誘起電場を生じさせるという事実を見逃がしています。

そこで,通常やるように,外部電荷によるポテンシャルφext()と遮蔽も含めた全電場のポテンシャルφtot()のフーリエ(Fourier)変換を,それぞれφext()とφtot()とします。

 

そして,それらの間にはε(tot()=φext()なる線形関係が存在するとします。ここで比例係数ε()を全誘電定数と呼びます。

さらに,電子のみによる誘電定数をεel()とし,電子なしでイオンだけがある場合の裸のイオンの誘電定数をεbareion()とします。

 

また,遮蔽電子の雲をまとった衣を着たイオンの誘電定数をεdression()といます。

媒質は電子だけでイオンによるポテンシャルφionは外部の電荷源に寄与すると考えれば,εel(tot()=φext()+φion()です。

 

一方,媒質は電子のない裸のイオンだけであるとすると,εbareion(tot()=φext()+φel()です。

それ故,el()+εbareion()-ε())φtot()=φext()+φel()+φion()=φtot()という等式が成立します。

 

これらの関係により,ε()=εel()+εbareion()-1なる表式が得られます。

 

一方,εdression(tot()=φext()/εel()ですから,1/ε()=1/[εdression(el()]であり,εdression()=1+[εbareion()-1]/εel()も得られます。

ここで,話題を少し戻して,金属中に振動電場があるとき,一般に金属中でイオン等によって散乱を受けている電子の誘電定数はどうなるかということについて考察してみましょう。

金属中で電子が散乱を受ける際の衝突頻度を 1/τとします。つまり緩和時間をτとすると,時刻tで電場(t)の内部にある電子の運動量(t)はd/dt=-/τ-eという運動方程式に従います。

 

なぜなら,ニュートンの運動法則によれば,1個の電子はt~t+Δtの間に(-e(t))Δtなる運動量を獲得します。

 

一方,確率Δt/τで衝突して,その運動方向の運動量を失なうので,結果として,(t+Δt)=(1-Δt/τ)((t)-e(t)Δt+O[(Δt)2])Δt+O[(Δt)2]となるからです。

そして,時間変動をする場を(t)=Σω(ω)exp(-iωt)のように振動数ωの調和振動に分解した表現で展開すると,先の運動方程式は-iω(ω)=-(ω)/τ-e(ω)と変換されます。

 

したがって,電流密度=-neを振動数表現して,(ω)=-ne(ω)/mとすれば,(ω)=(ne2/m)(ω)/(1/τ-iω)となります。(ここにneは電子数密度,mは電子質量です。)

 

この表式を,振動数に依存した電気伝導度をσ(ω)とした通常のオームの法則(ω)=σ(ω)(ω)と対応させると,σ(ω)=σ0/(1-iωτ);σ0 ≡ne2τ/mと書くことができます。

 

ここで,電荷のない空間におけるマクスウェル方程式∇= 0,∇= 0 ,∇×=-(1/c)(∂/∂t),∇×=4π/c+(1/c)(∂E/∂t)(伝統的なc.g.s単位)から,振動数表現での電磁波の方程式を求めることができます。

 

∇×=-(1/c)(∂/∂t)の回転を取れば,∇×(∇×)=-∇2(iω/c)(∇×)=(iω/c)(4πσ/c-iω/c)です。すなわち-∇22/c2)(1+4πiσ/ω)が得られます。

ところで,誘電定数(誘電率)がεの誘電体中での電場に対する波動方程式は∇2(ε/c2)(∂2/∂t2)です。(c.g.s単位では真空の誘電定数ε0は1) これは振動数表現では,-∇22/c2です。

これを-∇22/c2)(1+4πiσ/ω)と比較すれば,振動数に依存した誘電定数ε(ω)がε(ω)=1+4πiσ(ω)/ω=1+4πiσ0 /{ω(1-iωτ)}によって与えられることがわかります。

 

それ故,ωτ>>1ではε(ω)~1-(4πne2/m)/ω21-ωp22なる誘電定数の表現式を得ます。ここで,ωp24πne2/mで与えられるωpは電子のプラズマ振動数と呼ばれています。

上の議論を電子の振動による誘電定数ではなく,イオンの振動による誘電定数に置き換えると,εbareion(,ω)~1-Ωp22,Ωp24πni(Ze)2/M=(Zm/M)ωp2 (ni=ne/Zはイオン数密度,Mはイオン質量)となります。

さらに,εel()をトーマス・フェルミの遮蔽理論で与えられた電子で遮蔽され誘電定数εel(,ω)=1+02/q2である,とすれば,結局ε(,ω)=εel(,ω)+εbareion(,ω)-1 は,ε(,ω)=1+02/q2-Ωp22と書けます。

 

ここで,εdression(,ω)=1+[εbareion(,ω)-1]/εel(,ω)を利用してεdression(,ω)=1-Ωp2/{εel(,ω)ω2}≡1-ω()22ω()を定義すると,1/ε(,ω)=1/[εdression(,ω)εel(,ω)]により,1/ε(,ω)=1/(1+02/q2)[ω2/{ω2-ω()2}]と書くこともできます。

記事「ハートリー・フォック(Hartree-Fock)近似(2)」において電子のみによって遮蔽されたクーロンポテンシャル=遮蔽ポテンシャルのフーリエ変換が,4πe2/[εel(,ω)k2]=4πe2/(k202)で与えられることを見ました。

 

完全な誘電定数ε(,ω)を用いた遮蔽ポテンシャルは,等式:1/ε(,ω)=1/[εdression(,ω)εel(,ω)]によれば,4πe2/[ε(,ω)k2]=[4πe2/(k202)][ω2/{ω2-ω()2}]で与えられることがわかります。

それ故,波数ベクトル'を持つ1対の電子について,'とし,交換される"フォノン=格子振動"の角振動数をω=(εk-εk')/hcとすれば,クーロン力は有効相互作用として[4πe2/(q202)][ω2/{ω2-ω()2}]なる表現で与えらます。

衣を着たフォノンの振動数ω()はデバイ振動数ωD程度です。

 

そこで,1対の電子のエネルギーεk k'の差がhcωDよりずっと大きいときにはフォノンによる補正は無視できますが,εk k'の差がhcωD 以下になると,ω2<ω()2となってフォノンによる寄与:2/{ω2-ω()2}]は負になります。

 

このため,クーロン力の有効相互作用が符号を変えて,斥力から引力に変わろことになります。

 

この過剰遮蔽が,近代的な超伝導理論において,決定的役割を果たすわけです。

 

なお,Ωp2p2=(Zm/M)<<1であり,振動数がω~ωD~Ωp程度の格子振動に対しては,ε(ω)=1+4πiσ(ω)/ω=1+iωp2τ/{ω(1-iωτ)}~1+iωp2τより,金属は不透明であり,

 

ん?おかしいなあ。。c.g.s単位では,ω→ 0の極限でε(ω) → 1となるはずなのに。。。,そうか,そもそもω→ 0では-∇22/c2)(1+4πiσ/ω)や-∇22/c2などの電磁波の振動数表現という設定そのものが破綻していますね。

 

それ故,いずれにしてもω~ωD~Ωp程度の長波長,低振動数の格子振動=フォノン,について論じている限り,誘電定数を見積もる際にεel(,ω)においてε(ω)=1+4πiσ(ω)/ωの第2項の寄与は無視してよいはずです。

 

まあ,こういうところが"物理学は完全に数学であるというわけではない"というところでしょうかね。

参考文献:アシュクロフト・マーミン 著(松原武生・町田一成 共訳)「固体物理の基礎(上・Ⅰ)(下・Ⅰ)」(吉岡書店)

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

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