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2007年6月 5日 (火)

フックス関数の理論(1)(ポアンカレの登場)

連載記事の続きです。1880年代に入って,ついに舞台に天才ポアンカレ(Poincare')が登場します。

1880年1月フランスの科学アカデミーは次の課題の下に懸賞論文を募りました。:「1独立変数の線形微分方程式の理論を何らかの重要な点において改良すること。」

当時25歳の新進数学者ポアンカレはこれに応募し3月22日に1編の論文をアカデミーに投稿しました。

 

しかしその後5月1日に彼はフックス(Fuchs)の1論文を入手しました。これは既にフックスの項で述べた内容の論文です。

 

そしてポアンカレはこの論文から,線形微分方程式の解の一意化という重要なアイディアを思いつきました。

そこで彼は投稿論文のテーマを急遽これに切り替えて5月末までに新論文を書き上げ,前に投稿した論文を撤回して,この新論文をアカデミーに送りました。

 

これは6月1日に受理されています。これが"きっかけ"でした。

この論文は2つの部分から成立していますが,彼の研究の出発点として重要なのはその第2部です。

 

彼はその中で,適当な2階線形微分方程式の2つの解の比)z(x)を用いることにより,dn/dxn+φ1(x)dn-1/dxn-1+..+φn(x)v= 0 の解vをx=x(z),v=v(z)のような形に一意化する,というアイディアを初めて述べています。

以後,このテーマに関して立て続けに発表されたポアンカレの数十個の論文の中から,これに関する彼の理論の全貌が尽くされている重要な4つの論文について述べていきたいと思います。

 

しかし,その前に最も初期に発表された研究速報の初めの2つを読んでみます。これらの初期論文から彼がスタート時点で既に全理論の設計図を作り上げていたことがわかります。

以下,初期論文=研究速報,の内容です。 

zは複素変数で複素平面上の点で表わされる。

 

zをf1(z)に変える作用をK1,zをf2(z)に変える作用をK2とするときzK1=f1(z),zK2=f2(z),zK12=f2[f1(z)]と書くことにする。

原点を中心とする半径1の円を基本円と呼びzを(az+b)/(cz+d) (a,b,c,dは定数)に変えるような作用の群で基本円を不変に保つようなものを双曲線群と呼ぶ。

 

無限小作用,すなわちzを限りなく近くに写す作用を含まない群を不連続群と言う。

 

そして双曲線群に含まれる不連続群を全てフックス群と呼ぶ。フックス群の作用によって値が変化しないzの1価関数をフックス関数と言う。 

(注1)彼は基本円を単位円に限定していますが,別にそうである必要はありません。一定の円または直線を不変に保つ1次分数変換の群を双曲線群と呼ぶとしていいです。(注1終わり)

まず,全てのフックス群を作る必要がある。私(ポアンカレ)は非ユークリッド幾何学の助けを借りてこれを成し遂げたがそれについてはここでは述べない。

私は基本円の内部が次の条件を満たす無限個の領域R0,R1,..Ri,..に無数のやり方で分割できることを示した。

 

Ⅰ.これらの領域は基本円に直交する円に属する円弧を辺とする曲線多辺形である。

Ⅱ.iが何でもRi=R0iとなるような双曲線群の作用Kiが存在する。

 

ことを示した。

 

このような作用Kiの全体が双曲線群に含まれる不連続群,すなわちフックス群を作ることは明らかである。 

そして次の問題Ⅰを設定する。 

問題Ⅰ,無限個の領域R0,R1,..,Ri,..の最初のものR0が与えられた曲線多辺形となるように,この分割を作ることができるか? 

(注2)フックス群が与えられると,それに対応して基本円の内部が基本領域に分割されることは当然ですが,ここでポアンカレが設定しているのはこの逆の問題です。

 

  すなわち,基本円となるべき円が与えられ,それの内部がⅠ,Ⅱを満たすような円弧多辺形R0,R1,..に分割されていれば,それからKiの全体としてフックス群が作られるということです。

 

  そして問題Ⅰは最初の領域R0をどのように与えたらⅠ,Ⅱを満たすような分割ができるか?を問うています。(注2終わり)

1つの特別な例を取る。

 

基本円に直交する円に含まれる弧を辺とする2つの曲線三角形ABC,BCDを考える。

 

これらの三角形の頂角が∠BAC=∠BDC=π/α,∠CBA=∠CBD=π/β,∠BCA=∠BCD=π/γに等しいとする。

 

α,β,γは正の整数で1/α+1/β+1/γ<1 とする。基本円の内部を条件Ⅰ,Ⅱを満たす無数の領域R0,R1,..Ri,..に分けてR0が四辺形ABDCになるようにすることができる。

 

このような分割には,フックス群が対応する。それを群(α,β,γ)と呼ぶことにする。

(注3)この例は,正に,シュワルツ(Schwarz)が発見したものと同じです。そこでは,α,β,γはm,n,pと書かれており,上の条件はλ=1/m,μ=1/n,ν=1/pとして,λ+μ+ν<1 としていたものに相当します。

 

群(α,β,γ)は超幾何方程式のモノドロミー群から導かれます。したがって,この群はそれに準同型な1次分数変換に他なりません。

 

ポアンカレもシュワルツと同じく,超幾何微分方程式の解の比を考えることによってフックス群を発見したに違いないと思われます。

2階線形方程式の解の比の逆関数としてフックス関数を得るというのがポアンカレの着想であったことを思えば,彼がそうしたと見るのは全く自然です。

 

しかし,彼はシュワルツの名前には全然触れていません。つまり,この時点ではポアンカレはシュワルツの論文の存在を全く知らなかったわけで,後に交流のあったクライン(Klein)に教えられて初めてシュワルツの研究を知ったとされています。(注3終わり)

(ポアンカレ)は,一般の場合について問題Ⅰを解く。

 

そして如何にして全てのフックス群を作り,それに合理的な分類を与えることができるかを,2つの異なった見地から示す。

 フックス群の中に特に我々の注目に値するものがある。 

1°群(2,3,∞):これはa,b,c,dをad-bc=1であるような整数としてzを(az+b)/(cz+d)に変える作用の群と同型である。

 

2°整係数の不定値3元2次形式を不変にするような整係数の1次変換の群と準同型なある群

これらの存在によって,数論と今考えている解析的な問題とを結ぶ密接な関連が浮かび上がってくる。

 

(注4)1°に述べられている群:すなわちSL(2,)/{±}は実軸を基本円とするフックス群です。基本領域は,その頂角がπ/2,π/3,π/∞ の三角形を2つ合わせたものですから,(2,3,∞)と同型です。

 

  この群は通常,モジュラー群と呼ばれ楕円モジュラー関数は,この群あるいはこれの部分群に関するフックス関数です。

2°で述べられているフックス群は次のようなものです。整係数の不定値3元2次形式F(x,y,z)が F(x,y,z)=Y2-XZ, t(X,Y,Z)=At(x,y,z)で与えられるものとします。ただしAは要素が全て整数の3×3正方行列です。

 

整係数の1次変換t(x',y',z')=St(x,y,z)を行い,t(X',Y',Z')=At(x',y',z')としたとき,Y'2-X'Z'=Y2-XZが成り立つならばSを2次形式Fのと呼びます。そして,このようなS全体の群Gを作ります。

 

このとき,t(X',Y',Z')=Pt(X,Y,Z)で,Pは次の形を持つことがわかります。行列Pの成分表示をP=(pij)として,(p11,p12,p13)=(α2,2αγ,γ2),(p21,p22,p23)=(αβ,αδ+βγ,γδ),(p31,p32,p33)=(β2,2βδ,δ2),(ただし|αδ-βγ|=1)です。

そして,Sに1次分数変換z→(αz+β)/(γz+δ)を対応させると,このような1次分数変換の全体はGと準同型な群gを作り,gはフックス群です。

 

ポアンカレは2次形式Fに対する条件がフックス群gに対する条件として表わせることを後の論文で示していますが,上記の文章は彼がこの時点でこうした成果をある程度つかんでいたことを示しています。(注4終わり)

zの1価関数Θ(z)でKiをフックス群の任意の作用とするとき恒等的にΘ(zKi)=Θ(z){d(zKi)/dz}-m が成り立つものを,テータフックス関数と呼ぶ。mは任意の正の整数である。

 

言い換えると,ad-bc=1であるような無数のa,b,c,dに対し,恒等的にΘ[(az+b)/(cz+d)]=Θ(z)(cz+d)2mが成り立つようなものである。 

私は収束級数Σi=1(zKi){d(zKi)/dz}で定義されるテータフックス関数が無数に存在することを証明する。

 

ここにmは1より大きい整数でiはフックス群Gの作用,H()はzの有理関数とする。

次の2つの場合が起こり得る。

 

1°基本円の全ての点がΘ(z)の真性特異点である。このときは実際に2つの異なる関数が得られる。

  

1つは基本円の内部においてのみ存在し,もう1つは基本円の外部においてのみ存在する。

 

  なぜなら,一方から他方へ連続的に移ることができないからです

 

2°Θ(z)は基本円上に無数の真性特異点を持つ。しかしこれらの特異点は孤立していて関数は全平面で存在する。

  この関数は基本円の上を除けば常に有理型である。私はそれの異なる零点の数,および異なる無限大の数を数える方法を示す。

ここで初期の2つの論文のうちの1つが終わっているので今日はここまでにします。

参考文献:斎藤利弥 著「線形微分方程式とフックス関数I(ポアンカレを読む)」(河合文化教育研究所)

 

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