ニュートンの運動の第3法則の重要性
数学の話ばかりが続いたので少し物理の話をしましょう。
原点に還って,ニュートンの運動の法則について考えてみます。
まず,ニュートン自身が意識していたかどうかはわかりませんが,
「運動の第1法則:力の作用していない物体は等速直線運動をする。(慣性の法則)というのは,運動の第2法則(運動の法則):m(dv/dt)=f,またはdp/dt=f(運動方程式)で外力がゼロ:f=0 の特別な場合だから必要のない法則であり蛇足である,というわけではない。」
というのが現在の標準的な解釈です。
そもそも,運動を記述する基準となる準拠系としての座標系が,慣性系ではなく加速系の場合を想定してみてください。
例えば,観測者自身が回転している回転座標系の上に乗っていて,それを基準として現象を見れば,物体に働く本当の力fがゼロでも,見かけ上その物体は静止も含め等速直線運動しないで,回転している自分に対し逆向きの回転運動,または,逆らせん運動をしています。
そこで,この場合は,第1法則(慣性の法則)は成立していないように見えます。
それ故,こうした場合,逆にどのようなときでも運動の第2法則だけは,成り立つという立場に固執するなら,物体が等速直線運動をしていないわけですから,逆に外力fがゼロであっては困ります。
そこで,実際にはfはゼロなのに,わざわざ,あたかも力が働いているかのような"見かけの力=慣性力"(回転系の場合は遠心力やコリオリ力)が働いているはずだ,というような細工をする必要が生じます。
これから,力学の理論を開始しようとする初めから,こうした複雑な問題を抱えるのは全く困ったことです。
ですから,運動を記述する基準となる準拠系,"第2法則(運動の法則)=運動方程式 m(dv/dt)=f,またはdp/dt=fが成り立つ,土俵"としての座標系として,力fが作用してない物体は等速直線運動をするような座標系,つまり"慣性の法則が成り立つような座標系=慣性系",を採用しようという約束が,運動の第1法則(慣性の法則)である。と解釈するわけです。
もっとも,我々は力fとは何なのか?ということも,本当の意味ではわかっていません。つまり,物理学では"トートロジー=同義語反復"ではないという意味で,力fの厳密な定義を与えることは不可能なのです。
そこで,むしろ物体が等速直線運動をしているなら,その物体に働いている力fはゼロである。というのが慣性の法則である,と言ってもいいかもしれません。
次に,運動の第2法則:m(dv/dt)=f,またはdp/dt=f(運動方程式)ですが,この式の中で最初から定義できるのは幾何学的な量,すなわち,質量とか力とかの力学量を含まないもの,つまり純粋に幾何学的な観測で決定できる運動学的な量である,速度v,または加速度a=dv/dtだけです。
すなわち,速度vは位置ベクトル,あるいは変位ベクトルr=r(t)の時間微分:v≡dr/dtで与えられ,加速度aは速度ベクトルv=v(t)の時間微分:a≡dv/dt=d2r/dt2で機械的に与えられますから,これについては数学的に全く問題はありません。
しかし,物理学というのは数学ではありませんから,幾何学的な量だけを用いて演繹的にその法則あるいは公理を与えることはできません。
例えば,質量mが物体の運動方向によって変化するある量であるとしても,それがベクトル量をベクトル量に変換する比例係数の行列としてのある種のテンソル量であり,しかも特に等方的故にスカラー量であるという考察さえも自明ではありません。
また,質量mが時間と共に変化する時間の関数になるロケットの質量のようなものであるなら,,m(dv/dt)=fという表現とdp/dt=f(p≡mv)という表現は同値ではなく,質量や加速度よりより本質的な量であると考えられる運動量pに対する表式で,ニュートン自身の元の表現であるdp/dt=fの方だけを採用しなければなりません。
力fがベクトル量であること,つまり,ベクトルの加法や減法というベクトル算法に従うかどうか?,あるいは座標系の回転に対してベクトル量として変換するかどうか?,ということも,力の定義が不明なのですから,もちろん自明なことではありません。
したがって,逆に質量mがスカラー量あるいはテンソル量であるとしてf≡m(dv/dt)なる式により,力fはベクトル量dv/dtのテンソル倍,またはスカラー倍で与えられる,ということがわかって初めて,fも通常のベクトル算法に従う量である,といえるわけです。
したがって,運動の第2法則というのは一種の定義式であって,既知の運動学的量である加速度a≡dv/dt=d2r/dt2を,2つの独立な未知な力学量である質量mと力fに結合させる関係式を表わすに過ぎないわけです。
もちろん,運動の第2法則は重要な法則を示してはいるには違いないのですが,これを部分的にでも意味がある法則とするためには,質量mと力fの双方を概念規定する必要があります。
これには,以下に述べることから運動の第3法則(作用・反作用の法則)が重要な役割を果たすことが わかります。
運動の第3法則(作用・反作用の法則)は,ある物体が他の物体に力を及ぼすと,その相手となる力を受けた物体は力を加えた元の物体に,その力と大きさが等しく向きが反対の力を及ぼす,というものです。
これを式で表わします。物体aから物体bに及ぼす力をf(a→b)と表記すると,常にf(b→a)=-f(a→b)が成立する,というのが,作用・反作用の法則です。
運動の第2法則によれば,物体a,bの質量,および速度を,それぞれma,mb,およびva,vbとし加速度をaa≡dva/dt,ab≡dvb/dtすると,これら2つの物体以外に,力を及ぼす第3の物体がないと考えられる場合には,f(b→a)=ma(dva/dt)=maaa,f(a→b)=mb(dvb/dt)=mbabが成立しています。
そこで,運動の第3法則(作用・反作用の法則)f(b→a)=-f(a→b)は,maaa=-mbabと表わされます。
したがって,これから重要な式であるmb/ma=|aa|/|ab|が得られました。つまり相互作用をしている2つの物体について運動学的量で観測可能な加速度aa,abを測定すれば,原理的には,それら2つの物体a,bの質量の比を決定することができるわけです。
質量mの比がわかる,ということは基準となる物体を与える,つまり単位を与えることによって,質量mそのものが決まるということを意味しますから,第3法則によって,これまで未知量であった質量mが決定されるということになります。
このmを慣性質量と呼びます。
そして,運動の第2法則:f=m(dv/dt)=maが,力fを定義する定義式であると考えれば,先に加速度の大きさの比較から質量mが決まっている場合には,この物体の加速度aを観測することによって,未知量であった力fをも決定できることになります。
そして,物体a,bの運動量は,それぞれpa=mava,pb=mbvbで定義されるので,第3法則:maaa=-mbabは(d/dt)(mava+mbvb)=(d/dt)(pa+pb)= 0 を意味します。
すなわち,全運動量P≡pa+pbは時間によらず一定,P=一定であるという法則を満足することになるので全運動量の保存則が得られます。
逆に,"外力がない場合=他には全く物体がない場合"の2物体の全運動量の保存則と第2法則から容易に第3法則を導くこともできます。
そして,全運動量の保存則:P≡pa+pb=一定の方は,元々は未知量であった力fという概念を必要としないし,他には全く物体がない場合,という条件下では,2物体に限らず,3物体でも4物体でも成り立つ法則なので,むしろこれを運動の第3法則とした方がよいのではないかと思われます。
上述の記事は1996年から2001年の間に非常勤講師として勤務していた池袋のサンシャインの近くにある専門学校で教養科目としての物理学の授業で講義していた内容の一部です。
専門学校だからというわけではないですが,生徒たちがちゃんと理解していたかどうかは疑問です。いずれにしても,私としては当時も真剣に講義していました。
しかし,なにしろ私は説明が独りよがりでときどき途中式を省略して飛躍したりすることが多いらしくて講義が下手なのを自覚しており,教師としては全然自信がなかったものですから生徒にはいい先生ではなかっただろうと思っています。
http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。
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