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2007年7月 8日 (日)

ブラウン運動と伊藤積分(6)

ブラウン運動と確率積分関連の記事の続きです。まず離散時間と連続時間のマルチンゲール(martingale)について説明します。

まず,マルチンゲールの定義を与えます。 

(定義5.1):R1上の確率過程{Xt}t∈Tが以下の条件を満たすとき,この確率過程を劣マルチンゲールである,という。

 

(ⅰ) {Xt}はtに適合している。(つまりt-可測である:すなわちR1上の任意の開集合Aに対し,{ω∈Ω|Xt(ω)∈A}∈t≡σ(Xs;s≦t)である。)

  

(ⅱ)E[|Xt|]<∞  

(ⅲ) E[Xt|s]≧Xs (a.s) ∀t≧s;t,s∈

また,{-Xt}t∈T が劣マルチンゲールであるとき,{Xt}t∈Tを優マルチンゲールであるという。

 

{Xt}t∈Tと{-Xt}t∈Tが共に劣マルチンゲールであるとき,言い換えると,{Xt}t∈Tが劣マルチンゲール,かつ優マルチンゲールであるとき,確率過程{Xt}t∈Tはマルチンゲールであると言う。

マルチンゲールの性質をいくつか述べます。 

まず,{Xt}t∈Tは劣マルチンゲールであるとし,f(x)を単調非減少凸関数とする。(f(x)は非減少で,(λx+(1-λ)y)≦λf(x)+(1-λ)f(y),∀x,y∈1,0≦∀λ≦1とする。)

 

f(t)が可積分なら,{f(Xt)}t∈T も劣マルチンゲールである。

 

特に,{Xt}t∈Tがマルチンゲールなら,fの単調性の仮定を省いても同じ結論が得られる。

 

これを証明します。

(証明)f(x)が凸関数なので,∫f(x)dp(x)≧f(∫xdp(x))です。なぜなら,凸関数性はiξiΔpi)≦ΣiΔpii)とも表わすことができるからです。

そして,∫f(x)dp(x)≧f(∫xdp(x))はE[f(Xt)|s]≧f(E[f(Xt)|s]を意味します。

 

{Xt}t∈Tの"劣マルチンゲール性"E[Xt|s]≧Xsと,f(x)を単調非減少性から,f(E[f(Xt)|s] ≧f(Xs)です。

 

以上から,E[f(Xt)|s]≧f(Xs)を得ます。後半は明らかです。

 

(証明終わり)

次にパラメータ集合が=Z+である場合を考えます。

 

(1){Yn}n∈Z+を確率空間(Ω,,P)で定義された独立同分布確率変数列であるとし,E[Y1]=0 とする。

 

n≡Σi=1ni,n≡σ(Yi;i=1,2,..,n)と定義すると,{Xn}n∈Z+はマルチンゲールである。

 

(2) {Yn}n∈Z+を確率空間(Ω,,P)で定義された独立同分布非負確率変数列であるとし,E[Y1]=1 とする。

 

このとき,Xn≡Πi=1ni,n≡σ(Yi;i=1,2,..,n)と定義すると{Xn}n∈Z+はマルチンゲールである。

 

ことを証明します。

連続時間でこの2つの例に相当するのはブラウン運動であり,ブラウン運動の指数関数から決まる指数マルチンゲールです。 

(証明) (1)独立同分布確率変数列でE[Y1]=0 なので,E[Yi]=0 (i=1,2,..,n)です。

 

また,E[Xn|n-1]=E[Σi=1ni|Y1,Y2,..,Yn-1指定]=Σi=1n-1i+E[Yn]=Σi=1n-1i=Xn-1となります。

 

(2)については対数を取ると(1)に帰着するので自明です。

 

(証明終わり)

以下ではパラメータ集合=Z+の場合に,マルチンゲールに関する諸定理を準備します。

 

そしてしばらくの間はフィルター付き確率空間(Ω,,P;n)n∈Z+で定義された劣マルチンゲール{Xn}n∈Z+を考えていきます。

 

そして,Z+∪{∞}に値をとる停止時刻τ(ω)を考えます。τ(ω)は{τ≦n}∈n) ∀nなる確率変数です。

(定理5.2):(任意抽出定理)

τ12を有界な停止時刻で,τ1≦τ2 a.s なるものとする。

 

このとき,劣マルチンゲールIXn}に対して,E[Xτ2|τ1]≧Xτ1 a.s が成り立つ。

 

したがって,E[Xτ2]≧E[Xτ1]である。またXnが一様可積分,つまり,"limc→∞supnE[|Xn|;|Xn|>c]=0 "なら任意のτ1≦τ2<∞ a.s なる停止時刻に対して上が成立する。

(証明)まず,条件付期待値の性質:ならE「E「X|」|」=E[X|]において,≡{φ,Ω}と置けばE「E「X|」」=E[X]となることがわかります。

 

そこで,E[Xτ2|τ1]≧Xτ1が証明されさえすれば,E[E[Xτ2|τ1]]=E[Xτ2]≧≧E[Xτ1]が従うことが予め確認されました。

そして,条件付期待値の定義から,E[Xτ2|τ1]≧Xτ1を証明するにはE[Xτ2,A]≧E[Xτ1,A] ∀A∈τ1を示せばいいです。

 

そのためには,∀nに対してE[Xτ2,A∩{τ1=n}]≧E[Xτ1,A∩{τ1=n}]なることを見ればいいです。

B≡A∩1=n}∈n ,{τ2≧n+1}∈nです。

(なぜなら,{τ2≦n}∈n )

 

τ2≧τ1=nなる条件下では,E[Xτ1,A∩{τ1=n}]=E[Xτ1,B]=E[Xn,{τ2≧n}∩B]=E[Xn,{τ2=n}∩B]+E[Xn,{τ2≧n+1}∩B]≦E[Xτ2,{τ2=n}∩B]+E[Xn+1,{τ2≧n+1}∩B]=E[Xτ2,{n≦τ2≦n+1}∩B]+E[Xn+1,{τ2≧n+2}∩B]≦E[Xτ2,{n≦τ2≦m}∩B]+E[Xm,{τ2>m}∩B]が成立します。

ここで,2=n+1}∩B∈nより,劣マルチンゲール性E[Xn+1|n ]≧Xnから,E[Xn+1,{τ2≧n+1}∩B]≧E[Xn,{τ2≧n+1}∩B]が成り立つことなどを用いました。

この不等式でmを十分大きく取ればτ2は有界ですから,{n≦τ2≦m}∩B=B,{τ2>m}∩B=φとなり,E[Xτ1,B]≦E[Xτ2,B]が得られます。

 

これで前半は証明されました。

後半は私自身が前半と何が異なるのかについて題意を理解できないので証明もわかりません。

 

もしかしたら,非負整数の各nについてXnが一様可積分ならτ1≦τ2<∞であればτ12が非負整数でなくても定理が成立するということかもしれません。

 

それなら,Xτi(i=1、2)が可積分であることさえ示せれば後は前半と同じです。

 

(証明終わり)

(定理5.3):(Doobの不等式)

{Xn}を非負劣マルチンゲールとする。n*≡max0≦j≦n|Xj|と置くと各ε>0,n≧0 に対しP(Xn*≧ε)≦(1/ε)E[Xn,Xn*≧ε]≦(1/ε)E[Xn]である。

 

E[(Xn*)p]1/p≦[p/(p-1)]E[(|Xn|p]1/p for p>1である。

(証明)τn≡min{j≦n;Xj*≧ε}(if {j≦n;Xj*≧ε}≠φ),n(if {j≦n;Xj*≧ε}=φ)と置きます。

 

つまり,Xn*≧εならτn≦n,Xn*<εならτn=nです。

 

n≦n}={ω:Xn*≧ε}∪{ω:Xn*<ε}=Ω∈nより,τnは停止時刻です。

したがって,{Xn}が劣マルチンゲールでτn≦nですから,先の(定理5.2)によって,E[X]≧E[Xτn]です。

 

そこで,E[Xn]=E[Xn,Xn*≧ε]+E[Xn,Xn*<ε]≧E[Xτn,Xn*≧ε]+E[Xτn,Xn*<ε]=E[Xτn]です。

 

n*<εならτn=nより,E[Xn,Xn*<ε]=E[Xτn,Xn*<ε]ですから,不等式E[Xn,Xn*≧ε]≧E[Xτn,Xn*≧ε]が得られます。

一方,Xnは非負:|Xn|=Xnですから,P(Xn*≧ε)=P(max0≦j≦nj≧ε)=P(Xτn≧ε)です。

 

したがって,チェビシェフの不等式(Chebyshev)によって不等式E[Xτn,Xn*≧ε]=E[Xτn,Xτn≧ε]≧εP(Xτn≧ε)=εP(Xn*≧ε)も得られます。

 

結局,得られた2つの不等式からεP(Xn*≧ε)≦E[Xn,Xn*≧ε]が成り立つことがわかります。

 

そしてXnは非負故,E[Xn,Xn*≧ε]≦E[Xn]ですから,P(Xn*≧ε)≦(1/ε)E[Xn,Xn*≧ε]≦(1/ε)E[Xn]となります。

次にp>1,E[|Xn*|p]<∞とします。

 

E[|Xn*|p]=∫tpdp=∫tp{P(Xn*≦t+dp)-P(Xn*≦t)}=∫0{-tp(dP/dt)}=limt→∞[tpP(Xn*≧t)]+p∫0p-1(P(Xn*≧t)=p∫0p-1(P(Xn*≧t)≦p∫0p-2E[Xn,Xn*≧t]です。(Cauchy-Scwartzの不等式)

さらに,p∫0p-2[Xn,Xn*≧t]dt=pE[Xn0Xn*p-2dt]=[p/(p-1)]E[Xn(Xn*)p-1]≦[p/(p-1)]E[|Xn|p]1/pE[(Xn*)p]p-1/pです。(Hoelderの不等式)

 

そこで,E[(Xn*)p]1/p≦[p/(p-1)]E[|Xn|p]1/pが成立します。

[|Xn*|p]=∞のときは,上述の証明でXn*をXn*∧K(Kは定数)で置き換えれば,E[(Xn*∧K)p]≦[p/(p-1)]pE[|Xn|p]となります。

 

そしてこの式においてK→ ∞ に移行すれば命題の式が得られます。(証明終わり)

ここで,次のような停止時刻の列を考えます。

 

a<bに対してτ0=0 ,τ2m-1=min{n>τ2m-2;Xn≦a},τ2m=min{n>τ2m-1;Xn≧b},m=1,2,..,ただし{ }=φのときはτk=∞と約束します。

 

そしてXnの[a,b]-上向き横断回数Un(a,b)をUn(a,b)≡0 (τ2>nのとき),max{m;τ2m≦n}(τ2≦nのとき)で定義します。

(定理5.4):(横断数定理)

任意のnに対し{Xn}を劣マルチンゲール,(Xn-a)+≡(Xn-a)∨ 0 とするとE[Un(a,b)]≦[1/(b-a)]E[(Xn-a)+]である。

(証明) Xnが劣マルチンゲールで(Xn-a)+≡(Xn-a)∨ 0 はXnの単調非減少凸関数ですから,(Xn-a)+も劣マルチンゲールです。

 

nの[a,b]-上向き横断回数Un(a,b)は(Xn-a)+の[0,b-a]-上向き横断回数に等しいことがわかります。

なぜなら,Xn≦aは(Xn-a)∨ 0 ≦0 と同値でXn≧bは(Xn-a)∨ 0 ≧b-a と同値です。

 

そこでXn≧0 としてE[Un(0,b)]≦(1/b)E[Xn]を示せばよいことになります。

φi(Xi)をφi(Xi)≡1 (τm<i<τm+1<,∃m:奇数),0 (τm<i<τm+1<,∃m:偶数)と定義すれば,φi(Xi)=1 ならXi≧b,Xi-1<b(m+1:偶数);Xi-2<b,..,Xi-k<0 なので,Σj=i-k+1iφi(Xj-Xj-1)≦(Xi-Xj-k)≦bです。

 

そして,この横断数がUn(0,b)なので,bUn(0,b)≦Σi=1nφi(Xi-Xi-1),故に,bE[Un(0,b)]≦Σi=1nφi(E[Xi]-E[Xi-1])です。

ここで,Xnが非負劣マルチンゲールなのでE[Xi]≧E[Xi-1],つまりE[Xi]-E[Xi-1]≧0 です。

 

それ故,bE[Un(0,b)]≦Σi=1nφi(E[Xi]-E[Xi-1])≦Σi=1n(E[Xi]-E[Xi-1])=E[Xn]-E[X0]≦E[Xn]です。

 

以上からE[Un(0,b)]≦(1/b)E[Xn]が示されました。

 

(証明終わり)

(定理5.5):(マルチンゲールの収束定理)

{Xn}は劣マルチンゲールでsupnE[|Xn|]<∞なるものとする。

 

このとき,X∈L1(Ω)があって,limn→∞n(ω)=X(ω) a.sである。

 

さらに,Xnが一様可積分:limc→∞supnE[|Xn|;|Xn|>c]=0 ならE[|Xn-X|]→ 0 as n→∞であり,Xまで含めて劣マルチンゲールとなる。

(証明)今,P(limsupn→∞n(ω)>liminf n→∞n(ω))>0 と仮定します。

 

このとき,{limsupn→∞n>liminf n→∞n}=∪a<b,b∈Q+{limsupn→∞n>b>a>liminf n→∞n}ですから,ある正の有理数(positive rational)の組a<b∈Q+があって,P(limsupn→∞n>b>a>liminf n→∞n)>0 です。

このとき(定理5.4):(横断数定理)によって,E[Un(a,b)]≦[1/(b-a)]E[(Xn-a)+]≦[1/(b-a)](E[Xn+]+|a|)です。

 

したがって,E[U(a,b)]=lim n→∞E[Un(a,b)]≦[1/(b-a)](supnE[Xn+]+|a|)です。

 

ところが,supnE[Xn+]≦supnE[|Xn|]<∞ですからE[U(a,b)]<∞となってしまいます。

 

しかし可算無限個の有理数の組a<b∈Q+があって,各々のa,bについてP(limsupn→∞n>b>a>liminf n→∞n)>0 なので,横断数は無限大ですからE[U(a,b)]=∞のはずです。

これは矛盾です。それ故,P(limsupn→∞n(ω)>liminf n→∞n(ω))=0 でなければなりません。

 

すなわち,X(ω)≡limsupn→∞n(ω)=liminf n→∞n(ω) a.sと置くことができてE[|X|]=E[limn→∞|Xn|]≦liminf n→∞E[|Xn|]≦limsup n→∞E[|Xn|]<∞です。

また,Xnが一様可積分なら積分論の収束定理によってL1で収束すること:つまりE[|Xn-X|]→ 0 as n→ ∞ となることがわかるので,E[X|n]=limn→∞E[Xn|n]≧Xn,つまりXまで含めて劣マルチンゲールです。

 

(証明終わり)

(注意):(ⅰ){Xn}n∈Z+がXn≦c(c:定数)を満たす劣マルチンゲールなら,c≧E[Xn]≧E[X0]なので{Xn}n∈Z+は(定理5.5)の仮定を満たし,∃limn→∞n∈L1 a.sです。

(ⅱ) {Xn}n∈Z+を後ろ向き劣マルチンゲールとします。すなわちmn,n<m,E[Xn|m]=Xm,Xn∈L1とします。

 

このとき,inf nE[Xn]>-∞ならば{Xn}は一様可積分であり、それゆえsup nE[|Xn|]<∞です。

実際,ε>0 を任意に与えたとき,それに対しE[Xk]-liminf n→∞E[Xn]<εを満たすkを取ってn≧kとすると,E[|Xn|,|Xn|>c]=E[Xn,Xn>c]+E[Xn,Xn≧-c]-E[Xn]≦E[Xk,Xn>c]+E[Xk,Xn≧-c]-E[Xk]+ε≦E[|Xk|,|Xn|>c]+εです。

またP(|Xn|>c)≦(1/c)E[|Xn|]=(1/c)(2E[Xn+]-E[Xn])≦(1/c)(2E[X0+]-E[Xn])ですからc→ ∞ のときsup n≧kP(|Xn|>c) → 0 です。

よってlimsup c→∞,n≧kE[|Xn|,|Xn|>c]≦limsup c→∞,n≧kE[|Xk|,|Xn|>c]+ε=εとなりますから。sup nE[|Xn|]<∞となることがわかります。

さて次に連続時間パラメータのマルチンゲールに入ります。

 

パラメータ空間を区間[0,∞)であるとして確率空間の族(Ω,,P;t)t∈Tが与えられているとします。

 

なる可算稠密集合とし,=∪n=1n,n=1,2,..となる有限集合nを取ります。

 

これまでの離散マルチンゲールに関する諸定理はパラメータ集合をnに限定した場合の各nについての劣マルチンゲールに対して成立しています。

(定理6.1):{Xt}t∈Tを右連続非負劣マルチンゲールとしXT*をXT*≡sup0≦t≦T|Xt|で定義すると,(ⅰ)λpP(XT*≧λ)≦E[|XT|p],p≧1 (ⅱ) E[|XT*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1 が成り立つ。

(証明)右辺が有限のときについて示せば十分です。

 

T∈n∀nとしてよいのでそのように仮定します。

 

そしてXn*≡supt∈Dn|Xt|と置きます。Xtは非負劣マルチンゲールですからp≧1 のときには|Xt|pも非負劣マルチンゲールです。

したがって,(定理5.3)により,λ>0 に対してλpP(Xn*≧λ)≦λpP[|Xn*|p≧λp]≦E[|Xn|p]です。

 

それ故,λpP(supt∈Dt*≧λ)≦E[|XT|p],p≧1が得られます。

 

同様にして(定理5.3)によりE[|Xn*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1から,(ⅱ) E[|XT*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1 が得られます。

(注意):(ⅰ)Mtがマルチンゲールのときは|Mt|が非負劣マルチンゲールとなるので,|Mt|に対して上述の(定理6.1)が適用できます。

 

 (f(x)=|x|は単調凸関数ではありませんが,明らかに∫f(x)dp≧f(∫xdp),つまり∫|x|dp≧|∫xdp|より,E[|Mt|s]≧|Ms|が成立します。)

(ⅱ)離散時間パラメータの場合と違って連続時間パラメータの場合は停止時刻:σに対してXσσ-可測であることは自明ではありません。

 

 Xσ|{σ≦t}t-可測であることを言えばよいのですが,σが停止時刻であることから,σ:{ω:σ≦t}→「0,t」は{σ≦t}∩t/B(「0,t」)-可測です。

したがって,ω(σ(ω),ω)は写像:Ω→[0,t]×Ωとしてt/B(「0、t」)×t-可測ですから,Xσは発展的可測過程;Xs(ω):[0,t]×Ω→Xs(ω)です。

 

すなわち,B(「0,t」)×t-可測な写像と写像Ω→[0,t]×Ω:ω→(σ(ω),ω)の合成として可測です。

(定理6.2):{Xt}t∈Tを右連続劣マルチンゲールとする。

 

 σ,τをσ≦τなる有界な停止時刻とするとE[Xτ|σ]≧Xσである。さらにXtが一様可積分のときはσ≦τ<∞a.sなる任意の停止時刻に対して上記が成立する。

(証明)σn(ω)≡k/2n ((k-1)/2n≦σ<k/2nのとき)と置きます。

 

 τに対しても同様にτnを定義すると明らかにσn≦τnです。

 

 また,σn≦τnは停止時刻になっています。

 

 このときσn≧σn+1≧..≧σとなりE「Xσn|σn」≧Xσm ,n<mです。またE「Xτn|σn」≧Xσnです。したがってA∈σσnに対してE[Xτn,A]≧E[Xσn,A]と書けます。

 Xσm,Xτm は後向き劣マルチンゲールでinfnE[Xσn]≧E[X0]>-∞です。

 

 Xtの右連続性により,limn→∞σn=Xσですが,(定理5.5)の後で記述した(注意)によって,この収束はL1の意味にもなっています。

 

 同様にlimn→∞τn=Xτ∈L1(Ω)です。したがってE[Xτ,A]≧E[Xσ,A],A∈σ が得られます。

 

 (証明終わり)

最後に"(ⅰ){Bt}を1次元ブラウン運動とすると,{Bt},および{Bt2-t}はそれぞれマルチンゲールである。(ⅱ){Bt}を1次元t-ブラウン運動とするとき,{exp(Bt-t/2)}はマルチンゲールである。"ことを示します。

(証明)(ⅰ)再掲:(補題4.9):N次元t-ブラウン運動:{t}={(Bt1,Bt2,..,BtN)}について,∀t≧s>0 に対して(ⅰ)E[Bti|s]=Bsi:i=1,2,..,N(ⅱ) E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)である。

によれば,E[Bti|s]=BsiはN=1ではE[Bt|s]=Bsです。

 

また,E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)はN=1,i=j=1とすると,E[(Bt2-Bs2)|s]=t-sです。

 

これは,E[(Bt2-t)|s]=Bs2-sを意味します。

(ⅱ) {t}がN次元t-ブラウン運動であることと同値な関係式:E[exp{itξ(ts)}|s]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}において,N=1としてξ=-iを代入するとE[exp{(Bt-Bs)}|s]=exp{(t-s)/2}:すなわちE[exp(Bt-t/2)|s]=exp(Bs-s/2)です。

(証明終わり)

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

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