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2007年7月23日 (月)

e とπの超越性

 木曜からの風邪がだんだんひどくなり,セキが止まらないので仕方なく近くの滝野川病院で診察を受け,薬をもらいました。

 近くなのに病院まで歩いていけなくてタクシーを拾いました。普通は風邪くらいなら市販薬を飲んで寝るだけなのですが,手術の予後で体力回復が万全でないので心配になったのです。

 それにしても私はこのところ病院づいていますね。

しかし,もらった薬は食後に飲むように指定されていて,自宅には米以外の食料がなかったので病院のすぐそばにあったスーパーでいろいろと食料を買いましたが,自宅まで歩けないのでまた仕方なくタクシーに乗りました。

 

でも自宅に帰ってもおかゆさえ食べる気にならず,まあいいやと食前だけど薬を飲んだところ,プラシーボかもしれないが,さすがは病院の薬であるせいなのか,すぐに症状は軽減されました。

最近,ブログネタもないので,本の受け売りですが,以前の2007年5月27日の記事「代数的数と超越数」の続きとして,eとπの超越性の証明でも書いておきます。

(eの超越性の証明)

eが代数的数であると仮定すると,a0+a1e+..+ann0 を満たす整数の組a0,a1,..,anが存在します。n≧1,a0n0 です。

ところで,f(x)をm次の多項式,tを複素数とし積分路を0とtを結ぶ直線としてtの関数I(t)をI(t)≡et0t-x(x)dxで定義し,部分積分を繰り返すと,I(t)=et(0)-f(t)+et0t-x(df/dx)dx=etΣj=0m(j)(0)-Σj=0m(j)(t)が得られます。

(x)をf(x)≡xp-1(x-1)p..(x-n)pとします。

 

pは十分大きい素数です。

 

J≡-{a0(0)+a1(1)+..+an(n)}とおくと,J=-(a0+a1e+..+annj=0m(j)(0)+a0Σj=0m(j)(0)+a1Σj=0m(j)(1)+..+anΣj=0m(j)(n) =a0Σj=0m(j)(0)+a1Σj=0m(j)(1)+..+anΣj=0m(j)(n)となります。

ただし,m=degf=np+p-1であり,0≦j≦mなるjに対してf(j)(x)はxp-1,(x-1)p..,(x-n)pの各々をそれぞれ0,1,..,n回ずつ(Σi=0li=j)微分した項の積和ですから,右辺の各f(j)(k)(k=0,1,2,..,n)は全て整数であり,それゆえJも整数です。

 

そして,j<pなら明らかにf(j)(k)=0 (k=1,2,..,n)でj<p-1ならf(j)(0)=0 です。

ところで,k≧lのときk(k-1)..(k-l+1)/l!はl!で割り切れるので整係数多項式g(x)のl回導関数の係数はすべてl!で割り切れます。したがってj≧pのときf(j)(x)の係数はj!で割り切れ,よって全てp!で割り切れます。

したがって,f(j)(k)はj=p-1かつk=0 の場合を除いて,p!で割り切れます。ところが,f(p-1)(0)=(-1)p(p-1)!(n!)pであり,これは(p-1)!では割り切れますが,pが十分大きいときpでは割り切れません。

 

それ故,Jはゼロでない整数であり,(p-1)!で割り切れます。よって,|J|≧(p-1)!です。

一方,0≦x≦k,0≦k≦nのとき,|x|,|x-1|,..,|x-n|≦2nなので |I(k)|=|∫0kk-x(x)dx|≦kek(2n)です。

 

それ故,|J|≦|a0||I(0)|+|a1||I(1)|+..+|an||I(n)|≦(2n)Σk=0n|ak|kekです。m=np+p-1ですから,pに無関係な定数c>0 が存在し,|J|<cp が成立します。

ところが,Stirlingによれば,pが大きいとき,(p-1)!~pp-pですから,素数pを大きくすると,やがて(p-1)!>cpとなります。

 

そこで,2つの不等式|J|≧(p-1)!と|J|<cp は両立しませんから,これは矛盾です。したがって,eが代数的数であるとした仮定が間違いであり,eは超越数であることがわかります。(証明終わり)

(πの超越性の証明):

πを代数的数であると仮定すると,iπも代数的数です。ここでθ=iπの共役:つまりθ=iπの最小多項式における相異なるn個の根の組をθ1=θ,θ2,..,θd;d≡degθとします。

 

このとき等式(Euler's formula)e1=0 より,(θ11)(θ21)..(θd1)=0 となります。

 

そして左辺を展開すると,Σi=1,2,..,nδi=0,1δ1θ1+δ2θ2+..+δdθd0 となります。

2d個のδ1θ1+δ2θ2..+δdθdi0または1)のうちで 0 でないものがn個あったとし,それらをα1,α2,..,αnをとします。

 

また,n<j≦2d に対してはαj0 とします。そうすると,q+α1α2+..+αn0 が得られます。ここで,q2d0です。

ここで,eの超越性の証明と同様に,I(t)=et0t-x(x)dxを考え,今度はf(x)≡lnpp-1(x-α1)p..(x-αn)pとします。

 

ただしpは十分大きい素数で,lはlθ1,lθ2,..,lθd ,したがってlα1,lα2,..,lαn 代数的整数となるような整数です。

 

ここで,βが代数的整数であるとは,代数的数βの整数係数の最小多項式がその最高次の係数=1の形つまり整数係数のモニックになることをいいます。

そして,J≡-{I(α1)+I(α2)+..+I(αn)}とおくとJ=-(α1α2+..+αnj=0m(j)(0)+Σj=0m(j)(α1)+Σj=0m(j)(α2)+..+Σj=0m(j)(αn)=qΣj=0m(j)(0)+Σj=0m(j)(α1)+Σj=0m(j)(α2)+..+Σj=0m(j)(αn), m=np+p-1です。

 

多項式f(x)の各係数はlα1,lα2,..,lαnの整数係数の対称式,したがって,lθ1,lθ2,..,lθdの整数係数の対称式です。

ところが,lα1,lα2,..,lαnを根とするモニックの最小多項式をP(x)とすると,P(x)=(x-lα1)(x-lα2)..(x-lαn)=xn-s1n-1+s2n-2-..+(-1)snであって,s1,s2,..,snlα1,lα2,..,lαnの基本対称式であり,lα1,lα2,..,lαnが代数的数なのでこれらは整数です。

 

しかもlα1,lα2,..,lαnの全ての整数係数の対称式は基本対称式の整数係数の多項式として表わせることは明らかなので,(x)の各係数は整数になります。

したがって,f(j)(0)も整数です。また,Σk=1n(j)(αk)(j≧0)もlα1,lα2,..,lαnの整数係数の対称式なので,上と同じ論旨から,これは整数になります。

 

そして,j<pなら明らかにf(j)(αk)=0 (k=1,2,..,n)で,j<p-1ならf(j)(0)=0 です。したがってj≧pのとき,f(j)(x)の係数は全てp!で割り切れます。

以上から,f(j)(αk)とj≠p-1のときのf(j)(0)は,p!で割り切れます。ところが,f(p-1)(0)=(-1)p(p-1)!(lα1lα2..,l)pであり,これは,(p-1)!では割り切れますが,pが十分大きいときpでは割り切れません。

 

それ故,Jはゼロでない整数であって,(p-1)!で割り切れます。よって,|J|≧(p-1)!です。

一方,0≦x≦αkまたは,αk≦x≦0 for 0≦k≦nなるxに対して,M=maxk|2αk|とおくと,|x|,|x-α1|,..,|x-αn|≦Mなので,|I(αk)|=|∫0αkαk-x(x)dx|≦|αk|αknpです。

 

それ故,|J|≦|I(0)|+|I(α1)|+..+|I(αn)|≦lnpΣk=0n|αk|αkと評価できます。ここで,m=np+p-1ですからpに無関係な定数c>0 が存在して|J|<cpが成立します。

pが大きいとき,(p-1)!>cpとなりますから,2つの不等式|J|≧(p-1)!と|J|<cp は両立しません。したがってπが代数的数であるとした仮定が間違いでありπは超越数であることがわかります。(証明終わり)

これで,eおよびπは超越数であることが証明されました。超越数ですから当然無理数ですが,いささか本末転倒ながらこれらが無理数であることをもっと直接的に証明してみます。

(eが無理数であることの証明):

e=1+1/1!+1/2!+1/3!+..ですから,0<n!e-n!Σk=0n(1/k!) =n!Σk=n+1(1/k!)≦{1/(n+1)}(1+1/2+1/22+..)=2/(n+2)→ 0 as n→∞ が成立します。

ところが,一般にαが有理数でα=a/b(a,b∈Z,b>0)なら,αと異なる全ての有理数p/qに対して|qα-p|=|qa-pb|/b≧1/bですから,αにのみ依存する正の定数cが存在して,|α-p/q|≧c/qとなります。それ故,0<|qnα-pn|→ 0 as n→ ∞ なる整数列{pn},{qn}が存在するならαは無理数です。

以上から,eは無理数であることが示されました。(証明終わり)

(πが無理数であることの証明):

実係数の多項式f(x)に対してF(x)≡f(x)-f(2)(x)+f(4)(x)-f(6)(x)+..とおきます。f(x)は多項式なので右辺は有限項で終わりF(x)も多項式になります。

このとき,{F'(x)sinx-F(x)cosx}'={F"(x) +F(x)}sinx=f(x)sinxなので,∫0π(x)sinxdx=F(0)+F(π)と書くことができます。

今,πが有理数であると仮定して,π=a/b(a,b∈Z,b>0)とし,上式でf(x)=(bn/n!)xn(π-x)n(1/n!)xn(a-bx)nとおきます。

 

ただし,nは十分大きい正の整数とします。明らかに,j<nのとき(j)(0)=0 で,j≧nのときは多項式:{xn(a-bx)n}(j)のすべての係数は,j!したがってn!で割り切れます。故に,j≧0なるすべてのjについてf(j)(0)は整数です。

ところで,j≧0なるすべてのjについてf(j)(x)=(-1)j(j)(π-x)よりf(j)(π)=(-1)j(j)(0)も整数です。

 

以上から,∫0π(x)sinxdx=F(0)+F(π)の右辺{F(0)+F(π)}は整数です。

 

一方,左辺は,0<∫0π(x)sinxdx≦(bnπ2n/n!)∫0πsinxdx=2bnπ2n/n!<cn/n!です。cはnに依存しない正の定数です。

 

これからn! ≦cn ですが,nが十分大きいときには成立しません。

以上からπは無理数であることが示されました。(証明終わり)

参考文献:塩川宇賢 著「無理数と超越数」(森北出版)

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

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