遅い粘性流(1)(Stokes近似)
学生時代は素粒子論が専門でしたが,就職難の1977年に流体の数値シミュレーションが主体の会社に入ってからは,必要に迫られて流体力学と数値計算の勉強をするようになり,これが第2の専門となりました。
応用物理学はやったことがなかったし,仕事もひととおりの公式類を知っていれば特に支障はなかったのですが,持ち前の好奇心もあって入社して数年間は流体力学関係の勉強をしました。
もっとも,当時はプログラマー残酷時代といわれる時代で,残業も半端ではなく,暇があると酒を飲んで発散していました。
それでも,寝る前などに細々と勉強して書き綴ったのが,この記事のネタ本である1980年当時の覚書きノートです。
もっとも,私は,昔から勉強が好きだったというわけではありませんでした。
最近,TOKIOの山口達也君が父親役をやっているドラマで,"受験の神様"と呼ばれる女子中学生に「あなたは勉強したいの,それとも受験がしたいの?」と問われてキョトンとしているシーンがありましたが,「勉強=受験」であった頃は成績は悪くなかったけど,強いられる感じの勉強は好きではありませんでした。
試験の点数がいいとか速く解けるか?ということで他人との競争に負けるのは大して気にならなかったし,答案が不完全とかケアレスミスなども二の次でしたが,いざ自分が取り掛かった問題が解けないとか理解できないということは我慢できない性格でした。
試験ではそうはいかないでしょうが,わからないときは持ち帰って,ちゃんと解けて,理解できるまでは粘ったという記憶があります。
未だに「高々知っているか知らないかの違いじゃないか」というような記憶するだけの知識レベルについては,あまり興味はないのですが,自然現象に限らず社会現象についても,なぜそうなるのか?というような合理性を追求することについては,理解できて解決できないと我慢できないという傾向は少なからず残っています。
その他,言わせてもらえば,語学のような学問は,会話で英語などの外国語とかが読めたり話せたりするだけであれば,その国のネイティブな幼児のほうがより優れていると思えますから,バイリンガルであることにこそ,その意味があると思っています。
社会人になってみると,無理に勉強しなくてもよいし,むしろ勉強や研究をする機会が少なくなりましたが,逆に好奇心だけでいろいろとやってみようという気になりました。
余談はさておき,流体運動の現象というのはこの地球上の表面では薄い層を除いて大部分の領域では粘性が無視できるレイノルズ数(Reynolds number)の大きい流れが主体です。
こうした領域では完全流体の近似が成り立ちます。そして多くは乱流に移行する現象になっています。
しかし,ここでは,1980年当時の覚書きノートから,非圧縮かつ密度が一様な単成分流体のナビエ・ストークスの方程式(Navier-Stokes equation)において,レイノルズ数が比較的小さくストークス(Stokes)近似やオセーン(Oseen)近似が有効なケースについて流体中の球状物体に及ぼされる力=抵抗力を計算してみます。
今日はまず古典的なストークス近似の扱いからはじめます。
非圧縮,かつ密度が一様な単成分ニュートン流体のナビエ・ストークスの方程式はρ(∂v/∂t)+ρ(v・grad)v=-gradp+η△vで与えられます。
また,この場合の"連続の方程式=流体質量保存)の方程式"はdivv=0 です。ここでρは流体の密度,v=v(r,t)は流体速度,pは圧力,ηは第一粘性率です。
そして,レイノルズ数をR≡ρUL/η=UL/νで定義します。ν=η/ρは動粘性係数と呼ばれ,UとLは,それぞれ流れを特徴付ける代表流速と代表長さです。
レイノルズ数:Rが小さい場合は遅い粘性流として,ナビエ・ストークスの方程式の流速の2乗程度の"左辺第2項=慣性項"は非常に小さいので,"右辺の項=粘性項"と比較して省略する近似が可能で,これをストークス近似といいます。
特に,流速vが時刻tに依らない定常流に対する定常ストークス近似の問題は,η△v=gradp (1)とdivv=0 (2)を連立させて解く問題になります。
まず,(1)式の発散を取り(2)を適用すれば,△p=0 (3)を得ますからpは調和関数であることがわかります。
無限遠で,vが一様速度uに,圧力pがp∞(一定)となる非圧縮性流体中に小半径aの球を静止固定させた系において,U≡|u|が小さい低レイノルズ数の線型粘性流に対し定常ストークス近似を適用します。
uの向きをx軸の正の向きに取り,また小球の中心を原点にとります。さらに極座標(r,θ,φ)に対してはx軸を極軸に取ります。
境界条件は次のように与えられます。v=0 at r=|r|=a (4),v=Ui,p=p∞ at r=∞ (5)です。
△p=0 (3)の解p(r)を(1)に代入すると,(4),(5)の境界条件に対して(1),(2)の解を求める問題は,右辺が既知となったポアソン(Poisson)方程式に対する条件付きのディリクレ問題となります。
ここで,η△G(r,r')=δ(r-r') (6),G(r,r')=0 at r=a, ∞ (7) によって演算子η△に対する第一種のグリーン関数G(r,r')を定義すると,(1)の解は次式で与えられます。
v(r)=∫r'=ar'=∞G(r,r')grad'p(r')d3r'+iηU∫r'=∞{∂G(r,r')/∂r'}dS' (8)です。
なぜなら,グリーンの公式:∫V{v(r)△G(r,r')-G(r,r')△v(r)}d3r=∫S{v(r)∂G(r,r')/∂n-G(r,r')∂v(r)/∂n}dSにおいて,両辺にηを乗じη△v(r)=gradp(r),η△G(r,r')=δ(r-r')を代入すれば,S上ではG(r,r')=0 なのでv(r')=∫VG(r,r')gradp(r)d3r+η∫S{∂G(r,r')/∂n}dSとなるからです。
ここで,積分変数をr'としてrとr'を交換すればv(r)=∫V'G(r',r)gradp(r')d3r'+η∫S'{∂G(r',r)/∂n'}dS'です。
さらにグリーン関数の対称性からG(r',r)=G(r,r')であり,よって明らかに∂G(r',r)/∂n'=∂G(r,r')/∂n'ですから,結局v(r)=∫V’G(r,r')grad'p(r')d3r'+η∫S'{∂G(r,r')/∂n'}dS'が得られます。
ただし,V'はr'=aとr'=∞で囲まれる同心球の領域はr'=aとr'=∞ の同心球面を示しており,∂/∂n'はr'=aでは内向き,r'= ∞では外向きの法線方向の微分係数を示しています。
したがって(6),(7)を満足するG(r,r')を求めれば,解v(r)が得られることになります。
そこで,まず,△p=0.を満足する解p(r)を求めます。
系の極軸に対する対称性からpはrとcosθのみの球関数によって表わされます。
r→ ∞でp=p∞となる解の一般形はp=p∞+Σl=0∞(Al/rl+1)Pl(cosθ) (9)で与えられます。ここでPl(z)はルジャンドル多項式(Legendre多項式)です。
次に,gradp=i(∂p/∂x)+j(∂p/∂y)+k(∂p/∂z)を極座標に変換します。
x軸を極軸としているので,∂/∂x=cosθ(∂/∂r)+(sin2θ/r){∂/∂(cosθ)},∂/∂y=sinθcosφ(∂/∂r)-(cosθsinθcosφ/r){∂/∂(cosθ)}-{sinφ/(rsinθ)}(∂/∂φ),∂/∂z=sinθsinφ(∂/∂r)-(cosθsinθsinφ/r){∂/∂(cosθ)}-{cosφ/(rsinθ)}(∂/∂φ)です。
故に,∂p/∂x=-Σl=0∞{(l+1)Al/rl+2}Pl+1(cosθ) (10),∂p/∂y=-Σl=0∞(Al/rl+2)P1l+1(cosθ)cosφ (11) です。
ただし,P1l+1(cosθ)≡sinθ{dPl+1(cosθ)/d(cosθ)}={(l+1)/sinθ}{Pl(cosθ)-cosθPl+1(cosθ)}を用いています。
また,∂p/∂z=-Σl=0∞{(l+1)Al/rl+2}P1l+1(cosθ)sinφ (12) です。
(実際のノートには泥臭い計算の詳細があるのですが,ここでは割愛しています。)
次に(6),(7)を満足する第一種グリーン関数G(r,r')を求めます。
良く知られているように,△(1/|r-r'|)=-4πδ(r-r')です。
そこで,r≧aの全領域でr=r'を除いて特異点を持たず有限確定値を取るポアソン方程式の任意のグリーン関数は,-1/(4π|r-r'|)にラプラス方程式の一般解を加えることによって得られます。
ただし,この場合の極軸(対称軸)はrとr'を結ぶ有向直線です。
これはグリーン関数の対称性によるものです。そこで,G(r,r')={-1/(4πη)}{1/|r-r'|-Σl=0∞(cl/rl+1)Pl(cosω)}(r≧a)と書けます。
ωはrとr'のなす角です。r=(r,θ,φ),r'=(r',θ',φ')なら,cosω=cosθcosθ'+sinθsinθ'cos(φ-φ'),cosω=(r,r')/(|r||r'|)が成立します。
また,式Pl(cosω)=Pl(cosθ)Pl(cosθ')+2Σm=1l{(l-m)!/(l+m)!}Pml(cosθ)Pml(cosθ')cos{m(φ-φ')}も成立します。
1/|r-r'|=1/(r2+r'2-2rr'cosω)1/2をPl(cosω)で展開すると,r=aでG(r,r')=0 となるような展開係数clがPl(z)の直交性から一意的に定まります。
これは静電気学における鏡像の原理と同じ結果を与えます。つまりアポロニウスの定理により,G(r,r')の表現式において右辺第二項の級数和-Σl=0∞(cl/rl+1)Pl(cosω)はr'と同一の向きで半径がa2/r'の位置に大きさ-a/r'の源を持つニュートン・ポテンシャルに一致します。
すなわち,G(r,r')={-1/(4πη)}[1/(r2+r'2-2rr'cosω)1/2-(a/r'){1/(r2+a4/r'2-2ra2/r'cosω)1/2}]です。
そこで,G(r,r')={-1/(4πη)}Σl=0∞{rl/r'l+1-a2l+1/(rr')l+1}Pl(cosω)(a≦r<r'),G(r,r')={-1/(4πη)}Σl=0∞{r'l/rl+1-a2l+1/(rr')l+1}Pl(cosω) (a≦r'<r) (13) となります。
(13)によって,(6),(7)を満足するグリーン関数が完全に決定されたのでv(r)=∫r'=ar'=∞G(r,r')gradp(r')d3r'+iηU∫r'=∞{∂G(r,r')/∂r'}dS' (8)に従って速度v(r)を求めます。
まず,右辺第二項,すなわちvxの剰余的な項を計算します。
以下の計算では,Pl(z)の直交性∫-11dzPl(z)Pl'(z)=2δll'/(2l+1)や,∫-11dz{Pml(z)}2={2/(2l+1)}{(l+m)!/(l-m)!},∫02πdφ'cos{m(φ-φ')}=0 ,∫02πdφ'cos{m(φ-φ')}cos{m'(φ-φ')}=∫02πdφ'sin{m(φ-φ')}sin{m'(φ-φ')}=πδmm'等の公式を用います。
ηU∫r'=∞{∂G(r,r')/∂r'}dS'において,∂G(r,r')/∂r'を考えると(13)の右辺の級数展開で,この積分への寄与がゼロでないものはl=0 に対応する項のみなので次式が得られます。
すなわち,ηU∫r'=∞{∂G(r,r')/∂r'}dS'=-U・limR→∞[R2{-1/R2+a/(rR2)}]=U(1-a/r)です。
途中ですが疲れたので今日はここまでにします。
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