遅い粘性流(2)(Stokes近似)
前記事の続きです。
次に(10),(11),(12)の∂p/∂x,∂p/∂y,∂p/∂zの表現を用いてv(r)=∫r'=ar'=∞G(r,r')gradp(r')d3r'+iηU∫r'=∞∂G(r,r')/∂r'dS' (8) の右辺第一項を求めます。
x成分は,vx-U(1-a/r)={1/(2η)}Σl=0∞{2(l+1)AlPl+1(cosθ)/(2l+3)}[∫0r{r'l+1/rl+2-a2l+1/(rr')l+2}(1/r'l)dr'+∫r∞{rl+1/r'l+2-a2l+1/(rr')l+2}(1/r'l)dr']です。
この積分を実行すると,vx=U(1-a/r)+{1/(2η)}Σl=0∞{(l+1)AlPl+1(cosθ)/(2l+1)}{(r2-a2)/rl+2} (15) となります。
同様に,vy={1/(2η)}Σl=0∞{(l+1)AlP1l+1(cosθ)cosφ/(2l+1)}{(r2-a2)/rl+2}(16),およびvz={1/(2η)}Σl=0∞{(l+1)AlP1l+1(cosθ)sinφ/(2l+1)}{(r2-a2)/rl+2}(17)を得ます。
圧力pの一般形:p=p∞+Σl=0∞(Al/rl+1)Pl(cosθ) (9)と,今求めたばかりのvに対する(15),(16),(17)の表式により,境界条件(4),(5)と△p=0 (3)を満たす圧力pとポアソン方程式:η△v=gradp (1)の解として流速vが得られたことになります。
しかし,これらが連続の方程式:divv=∂vx/∂x+∂vy/∂y+∂vz/∂z=0 (2)を満たすかどうかはわかりません。
そこで,具体的に(15),(16),(17)のdivvを計算し,それをゼロとおくことによって係数Alの満足すべき条件を求めます。
泥臭い計算によって,∂vx/∂x=aUcosθ/r2+{1/(2η)}Σl=0∞(l+1)Al[{-lr2+(l+2)a2}cosθPl+1(cosθ)+(r2-a2)sin2θ{dPl+1(cosθ)/d(cosθ)}]/{(2l+1)rl+3},
∂vy/∂y={1/(2η)}Σl=0∞Al[{-lr2+(l+2)a2}sinθcosφP1l+1(cosθ)+(r2-a2)(cosθsinθcosφ{dP1l+1(cosθ)/d(cosθ)}-(sinφ/sinθ)P1l+1(cosθ))]/{(2l+1)rl+3},
∂vz/∂z={1/(2η)}Σl=0∞Al[{-lr2+(l+2)a2}sinθsinφP1l+1(cosθ)+(r2-a2)(cosθsinθsinφ{dP1l+1(cosθ)/d(cosθ)}-(cosφ/sinθ)P1l+1(cosθ))]/{(2l+1)rl+3}
が得られます。
sinθ{dPl+1(cosθ)/d(cosθ)}=P1l+1(cosθ),sinθ{dP1l+1(cosθ)/d(cosθ)}=(cosθ/sinθ)P1l+1(cosθ)-(l+1)(l+2)Pl+1(cosθ)を用いて変形します。
すると,divv=aUcosθ/r2+(1/η)Σl=0∞Al[sin2θ{dPl+1(cosθ)/d(cosθ)}+(l+1)cosθPl+1(cosθ)]/{(2l+1)rl+1}となります。
さらに,公式(1-z2){dPl(z)/dz}+lzPl(z)=lPl-1(z)によって,sin2θ{dPl+1(cosθ)/d(cosθ)}+(l+1)cosθPl+1(cosθ)=(l+1)Pl(cosθ)です。
結局,divv=aUcosθ/r2+(1/η)Σl=0∞(l+1)AlPl(cosθ)/{(2l+1)rl+1}=0 (18)を得ます。
これが成立するためには,2Al/(3η)=-aUδl1,つまりAl=-(3/2)ηaUδl1(19)となるのが必要十分です。
したがって,p=p∞-(3/2)ηaUcosθ/r2=p∞-(3/2)ηaUx/r3 (20)です。
また,u≡vx=U(1-a/r)-{aU/(4r)}(1-a2/r2)(3cos2θ-1)=U-{aU/(4r)}(3+a2/r2)-{3aUx2/(4r3)}(1-a2/r2)(21),v≡vy=-{3aU/(4r)}(1-a2/r2)cos2θsinθcosφ=-{3aUxy/(4r3)}(1-a2/r2) (22),w≡vz=-{3aU/(4r)}(1-a2/r2)cos2θsinθsinφ=-{3aUxz/(4r3)}(1-a2/r2) (23)も得られます。
かくして,方程式(1)~(5)は完全に解かれ,解は一意的であることも示されました。
方程式が解かれたので,この解を利用して流体が球に及ぼす力を求めることができます。
この力は球面上に働く応力(単位面積当たりに働く力;法線および接線応力)を小球面にわたって積分することで求めることができます。
まず,一般的な応力テンソルPijを考えます。運動がナビエ・ストークスの方程式に従う流体は,応力テンソルが次のニュートン・ストークスの法則に従う線形ニュートン流体です。
すなわち,応力テンソルPijはPij=(-p+ζell)δij+2η(eij-ellδij/3) (i,j=1,2,3はそれぞれx,y,z成分に対応) (24)で与えられます。
ここで,pは圧力,η,ζはそれぞれ第一粘性率,第二粘性率であり,eij≡(∂vi/∂xj+∂vj/∂xi)/2は歪み速度テンソルです。
非圧縮性流体では連続の方程式としてdivv=ell=0 が成立するので,(24)はPij=-pδij+η(∂vi/∂xj+∂vj/∂xi) (25)となります。
応力fと応力テンソルPijの関係はfi=Pijnj(jはアインシュタインの規約に従うダミー添字)で与えられます。
また,nは応力fの働くべき面の外向き法線ベクトルで,小球面上ではn≡(nx,ny, nz)=r/r=(x/r,y/r,z/r)r=a=(cosθ,sinθcosφ,sinθsinφ)と表わされます。
小球全体に働く力Dは応力fによってD=∫fdSで与えられます。ところが流れはx軸に関して対称(uはy,zの偶関数),v,wはy,zの奇関数)ですから,∫f2dS=∫f3dS=0 となるはずです。
実際,f2=P2jnj,f3=P3jnjなので,解からf2(-n)=-f2(n),f3(-n)=-f3(n)あるいはP2j,P3jがnjの偶関数であることが示されます。
まず,-pδ2j,-pδ3jですが,p=p∞-(3/2)ηaUx/r3は明らかにy,zの偶関数であり,よって-pδ2j,-pδ3jはy,zの偶関数です。さらにnjのj=1,つまりxについてはこれらはゼロなのでもちろん偶関数です。
また,v=vy=v2,w=vz=v3はx,y,zの奇関数ですから明らかに∂v2/∂xj,∂v3/∂xjはnjの偶関数です。
さらに,∂vj/∂x2,∂vj/∂x3についてはj=1だけの問題になりますが,uはxの偶関数ですから∂u/∂y,∂u/∂zもnjの偶関数です。以上からf2(-n)=-f2(n),f3(-n)=-f3(n)が確証されました。
したがって,Dはx成分のみ,つまり抵抗成分のみを有すると考えられます。
これをDで表わすと,D=∫P1jnjdS=∫PrxdS;Prx≡P1jnj=P11(x/r)+P12(y/r)+P13(z/r)=-pcosθ+η[(xj/r)(∂vx/∂xj)+(xj/r)(∂vj/∂x1)] (26)となります。
そして,∂u/∂r={3aU/(4r2)}[(1+cos2θ)+a2(1-3cos2θ)/r2],∂u/∂θ={3aUcosθsinθ/(2r)}(1-a2/r2)です。
一方,∂/∂x=cosθ(∂/∂r)-(sinθ/r)(∂/∂θ),∂/∂y=sinθcosφ(∂/∂r)+(cosθcosφ/r)(∂/∂θ)-{sinφ/(rsinθ)}(∂/∂φ),∂/∂z=sinθsinφ(∂/∂r)+(cosθsinφ/r)(∂/∂θ)+{cosφ/(rsinθ)}(∂/∂φ)です。
そこで,∂u/∂x={3aUcosθ/(4r2)}[(3cos2θ-1)+a2(3-5cos2θ)/r2],∂u/∂y={3aUsinθcosφ/(4r2)}[(3cos2θ+1)+a2(1-5cos2θ)/r2],∂u/∂z={3aUsinθsinφ/(4r2)}[(3cos2θ+1)+a2(1-5cos2θ)/r2]となります。
それ故,(xj/r)(∂vx/∂xj)={3aU/(4r2)}[(1+cos2θ)+a2(1-3 cos2θ)/r2]=∂u/∂r (27)が得られます。
同様に,∂v/∂x={3aUsinθcosφ/(4r2)}[(3cos2θ-1)+a2(1-5cos2θ)/r2],∂w/∂x={3aUsinθsinφ/(4r2)}[(3cos2θ-1)+a2(1-5cos2θ)/r2] (28)より,(xj/r)(∂vj/∂x1)={3aU/(4r2)}[(3cos2θ-1)+a2(1-5cos2θ)/r2]です。
(20),(25),(27),(28)から,f1=p1jnj=-p∞cosθ+{(3/2)ηaU/r2)}[3cos2θ+a2(1-3cos2θ)/r2] (29)です。特に,球面上(r=a)では,f1|r=a=-p∞cosθ+(3/2)ηU/a=(1/a){-p∞x+(3/2)ηU}r=a (30)です。
結局,D=∫r=af1dS=2πa2∫-11d(cosθ)f1=6πηaU (31)を得ました。すなわち,球は流れの向きに大きさ6πηaUの力を受けるという有名なストークスの法則が得られました。
実は,これほど苦労して偏微分方程式の境界値問題としてマニュアル通りに解かなくても,Lambや今井功氏の流体力学の教科書にもあるように,さまざまな物理的考察や手法を交えた工夫を用いることよって,より簡単に解を求めることができます。
しかし,当時は物理的な意味などをあまり考えることなく,なるべく式に忠実に数理的に解いても同じ答えがちゃんと得られるか?に興味があって,あえて泥臭い計算をしたのでした。
こうした偏微分方程式の境界値問題をマニュアル通りに解くという泥臭い計算は,その後確か,気象学関係で雲などによる光の散乱の散乱断面積を計算する必要があって,実行しこともありました。
すなわちり,ボルン,ウォルフ著の「光学の原理」にもある"光=電磁波"の古典的なミイ(Mie)散乱の散乱断面積の式を確認する際にもやったという記憶があります。
ところで,最後にストークスの法則のガリレイの相対性原理との関係を記述しておきます。
すなわち,先の"流体+小球"の系を一様な相対速度uで動く並進座標系から見た場合を考えます。
元の座標系での位置ベクトルをr,新しい系での同じ点の位置ベクトルをr'で表わします。
便宜上t=0 で両系が一致すると仮定するとrとr'の関係はガリレイ変換:r'=r-ut (32)で与えられます。
位置rに存在している流体素片の速度v(r)はラグランジュ微分Dr/dtに等しいので,v'(r')≡Dr'/dt=Dr/dt-D(ut)/dt=v(r)-u,すなわち,v'(r')=v(r)-u (33)です。
一方,小球は元の系では静止していたので,新しい系では-uなる速度を有します。
また,x'j=xj-ujtより∂/∂xj=(∂x'k/∂xj)∂/∂x'k +(∂t/∂xj)∂/∂t=∂/∂xjです。それ故,∂2/∂xk∂xj=∂2/∂x'k∂x'jです。特に△=△'かつgrad=grad'です。
さらに流速のオイラー微分は,∂v(r,t)/∂t=∂v(r'+ut,t)/∂t-(u・grad')v(r'+ut,t)となります。
そこで,ナビエ・ストークスの方程式:ρ(∂v/∂t)+ρ(v・grad)v=-gradp+η△vを,新しい座標系で見ると,ρ{∂(v-u)/∂t}+ρ{(v-u)・grad'}(v-u)=-grad'p+η△'(v-u)です。
ところで,先に見たようにv'=v-uです。また,圧力p(r,t)は運動学的な量ではないのでガリレイ変換のスカラーです。すなわちp'(r',t)= p(r,t)です。
結局,ρ(∂v'/∂t)+ρ(v'・grad')v'=-grad'p'+η△'v'となります。
よって,新しい系でもナビエ・ストークスの方程式の形は保存されます。また,連続の方程式が保存されること:div'v'=0 も自明です。
したがって,ガリレイ変換(32),(33)に対してナビエ・ストークスの方程式が保存されるので,ニュートン流体に対してはガリレイの相対性原理が成立します。
また,境界条件が与えられた場合にもガリレイの相対性原理が無矛盾であることは自明です。
それ故,ストークス近似の流体方程式の組:η△v=gradp (1),divv=0 (2) において,無限遠で静止した流体中を一様速度-u=-Uiで運動する小球がある系に対する流体速度の解は,既に求めた(21)~(23)式のvに-uを加えたもので与えられることがわかります。
以上の考察から,静止流体中を速度Uiで運動する小球があるような系に対して,境界条件:v=Ui at r=a (34),v=0 ,p=p∞ at r=∞ (35)を満足する(1),(2)の解は次式で与えられます。
すなわち,p=p∞-(3/2)ηaUx/r3 (36),また,u≡vx={aU/(4r)}(3+a2/r2)+{3aUx2/(4r3)}(1-a2/r2) (37),v≡vy={3aUxy/(4r3)}(1-a2/r2) (38),w≡vz={3aUxz/(4r3)}(1-a2/r2) (39)です。また,D=-6πηaU (40)も自明です。
つまり小球は進行方向に正反対の向きに大きさ6πηaUの抵抗を受けることになります。
ここで,レイノルズ数:R=ρUL/η=UL/νにおいて通常は代表長さLとして小球の直径d=2aを選びます。
このとき無次元化された抵抗係数CD≡D/(ρU2S/2)=D/(ρU2πa2/2)をストークスの抵抗法則で表わすとCD=24/Rとなります。
しかし,こうしたストークス近似が可能で抵抗が運動速度に比例するというストークスの抵抗法則が有効なレイノルズ数Rの範囲は非常に狭く,この法則はせいぜいR~100前後でしか成立しません。
通常の雨滴落下や冷却塔の温排気の凝結した水滴落下の終末速度の計算などにおいても,経験上はほとんど適用不可能であることがわかっています。
次は,もう少しはましな近似であるオセーン近似(Oseen近似)の計算をする予定です。
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