遅い粘性流(3)(Oseen近似)
非圧縮かつ密度が一様な単成分ニュートン流体の運動方程式はナビエ・ストークス方程式ρ(∂v/∂t)+ρ(v・grad)v=-gradp+η△vと"連続の方程式=質量保存の方程式"divv=0 で与えられます。
ここでρは流体の密度,v=v(r,t)は流体の速度,pは圧力,ηは第一粘性率です。そして,特に∂v/∂t≡0 で流速vが時刻tによらないとし,無限遠において流れが一様v=Ui(r=|r|→ ∞)となる流体系を考えます。
レイノルズ数(Reynolds number)Rが小さい遅い粘性流について,ストークス近似(Stokes近似)ではナビエ・ストークス方程式の右辺の粘性項と比較して"左辺第二項=慣性項"全体を無視しましたが,今回はより高次の近似を考えるため,一様流に対する摂動をv'とします。
すなわち,v=Ui+v'によってv'を定義します。明らかにv'=0 at |r|→∞ です。
そこでv'の2次以上を無視すると,定常ナビエ・ストークス方程式は U(∂v'/∂x)=-gradp/ρ+η△v'/ρ (1)となり,連続方程式はdivv'=0 (2) となります。
この近似をオセーン(Oseen)近似といいます。
以下,ストークス近似のときと同様,半径aの小球の中心を原点とし,そのまわりの遅い流れについての境界値問題を考察します。
vに対する境界条件がv=0 at r=|r|=a;v=Ui,p=p∞ at r=∞ なので,v'に対する境界条件はv'=-Ui at r=a (3),v'= 0 at r=∞ (4),p=p∞ at r=∞ (5) となります。
しかしながら,(3)から明らかなように球の付近では,摂動の仮定であるU>>|v'|という条件が全く成立しません。
したがって,そこではむしろストークス近似の方が妥当な近似になります。オセーン近似というのは実際にはこうした欠点があるということを承知の上での近似であることに留意しておくことは重要です。
以下では,ストークス近似と同様な方法でv'の解を求めることを試みることにします。
まず,(1)の発散を取り,(2)を適用すると△p=0 (6) となります。したがってpは軸対称な調和関数です。x軸を極軸に取るとpは次式で与えられます。p=p∞+Σl=0∞(Al/rl+1)Pl(cosθ)(7) です。
一方,オセーン近似の方程式:U(∂v'/∂x)=-gradp/ρ+η△v'/ρ (1)は次のように変換することによって非斉次のヘルムホルツ方程式に帰着します。
すなわち,v'≡v~ekx,k=ρU/(2η) (8)とおけば,∂v'/∂x=ekx{(∂v~/∂x)+kv~},△v'=ekx{△v~+2k(∂v~/∂x)+k2v~}となります。
それ故,△v'-(ρU/η)(∂v'/∂x)=ekx(△-k2)v~ですから,結局,オセーン近似の方程式は,非斉次ヘルムホルツ方程式:(△-k2)v~=(e-kx/η)gradp (9) になります。
一方,連続方程式:divv=0 はv~の式ではdivv~=-kv~x (10) と表現されます。
また, v~に対する境界条件は次のようになります。すなわち, v~=-Ue-kxi at r=a (11),およびv~= 0 at r=∞ (12) です。
ヘルムホルツ演算子(△-k2)に対する第一種グリーン関数を次の2つの式を満足するG(r,r')によって定義します。
すなわち,(△-k2)G(r,r')=δ(r-r') (13), G(r,r')=0 at r=a,∞ (14) です。また,対称性:G(r',r)=G(r,r')を要求します。
グリーンの公式によれば,∫V(u△v-v△u)dV=∫S[u(∂v/∂n)-v(∂u/∂n)]dSですから,∫V[u(△-k2)v-v(△-k2)u]dV=∫S[u(∂v/∂n)-v(∂u/∂n)]dSです。
故に,∫V[v~(△-k2)G-G(△-k2)v~]dV=∫S[v~(∂G/∂n)-G(∂v~/∂n)]dSが成立します。
グリーン関数の性質(13),(14)と対称性,そしてv~が(9)~(12)の解であることから次式が成立します。
v~(r)=(1/η)∫r'=ar'=∞G(r,r')e-kr'cosθ'grad'p(r')d3r'+iU∫r'=∞e-kr'cosθ'{∂G(r,r')/∂r'}dS'(15)です。
次に,第一種グリーン関数G(r,r')を具体的に求めます。
よく知られているように,球対称であって,無限遠でゼロとなるようなヘルムホルツ演算子のグリーン関数は,湯川ポテンシャル-e-k|r-r'|/(4π|r-r'|)で与えられます。
つまり,(△-k2)(e-k|r-r'|/|r-r'|)=-4πδ(r-r')です。
そこで(13),(14)を満足するグリーン関数は,この湯川ポテンシャルに斉次ヘルムホルツ方程式(△-k2)ψ(r)=0 の特殊解でr>aの領域で特異点を持たないものを加えることで得られるはずです。
そこで,ヘルムホルツ方程式:(△-k2)ψ(r)=0 を解きます。r'を極軸に取りrのr'に対する偏角をωとするとG(r,r')は極軸に関して対称であり湯川ポテンシャルもまたそうです。
そこで,ψ(r)も極軸に関して対称であるべきなのでψ(r)=ψ(r, ω)とおけば,△ψ=(1/r2)[(∂/∂r){r2(∂ψ/∂r)}]+{1/(r2sinω)}[(∂/∂ω){sinω(∂ψ/∂ω)}]となります。
特に,ψ(r,ω)≡R(r)Ω(ω)とおいて(△-k2)ψ(r,ω)=0 の変数分離の解を求めます。
このとき,(△-k2)ψ=0 は(1/r2)[(d/dr){r2(dR/dr)}] Ω+(R/r2)(1/sinω)[(d/dω){sinω(dΩ/dω)}]-k2RΩ=0 となります。
それ故,(1/sinω)[(d/dω){sinω(dΩ/dω)}]+λΩ=0,(d/dr){r2(dR/dr)}-(k2r2+λ)R=0 が得られます。
この固有値λに対する固有値問題のω部分Ωについてのλに属する固有解の全てはΩλ(ω)=Ωl(ω)=Pl(cosω),λ=l(l+1) (ただしl=0,1,2...)で与えられます。
そこで,動径部分はd2Rl/dr2+(2/r)(dRl/dr)-{k2+l(l+1)/r2}Rl=0 を満たします。
これの解Rl(r)は線形常微分方程式の解を与える公式集によれば,Rl(r)=Jl+1/2(kr)/r1/2です。
右辺のJνはν次のベッセル関数であり,この表現は球ベッセル関数と呼ばれています。
あるいは,B,Cを任意定数としてRl(r)=BIl+1/2(kr)/r1/2+CKl+1/2(kr)/r1/2とも書けます。
ここにIν,Kνはそれぞれν次の第一種,第二種の変形ベッセル関数です。
これらのうちで,r→∞ で有限な解はKl+1/2(kr)/r1/2の定数倍で与えられるので,結局ψ(r,ω)=Σl=0∞{clKl+1/2(kr)/r1/2}Pl(cosω)と表わすことができます。
かくして,G(r,r')=-e-k|r-r'|/(4π|r-r'|)+Σl=0∞{clKl+1/2(kr)/r1/2}Pl(cosω)(r≧a)です。
ここで,以前のストークス近似でも記述したようにr=(r,θ,φ),r'=(r',θ',φ')なら,cosω=cosθcosθ'+sinθsinθ'cos(φ-φ'),Pl(cosω)=Pl(cosθ)Pl(cosθ')+2Σm=1l{(l-m)!/(l+m)!}Pml(cosθ)Pml(cosθ')cos{m(φ-φ')}が成立します。
これらの公式とPl,Pmlの直交性を用いて,r=aでG(r,r')=0 となるような係数clを求めます。
まず,e-k|r-r'|/|r-r'|を変形ベッセル関数とルジャンドル多項式の積の級数に展開すると,e-k|r-r'|/|r-r'|=(rr')-1/2Σl=0∞{(2l+1)Il+1/2(kr)Kl+1/2(kr')}Pl(cosω)(a≦r<r'),およびe-k|r-r'|/|r-r'|=(rr')-1/2Σl=0∞{(2l+1)Il+1/2(kr')Kl+1/2(kr)}Pl(cosω) (a≦r'<r) となります。
それ故,G(r,r')=[-1/{4π(rr')1/2}]Σl=0∞(2l+1)Pl(cosω){Il+1/2(kr)Kl+1/2(kr')-Il+1/2(ka)Kl+1/2(kr')Kl+1/2(kr)/Kl+1/2(ka)} (a≦r<r') (16-1),
および,G(r,r')=[-1/{4π(rr')1/2}]Σl=0∞(2l+1)Pl(cosω){Il+1/2(kr')Kl+1/2(kr)-Il+1/2(ka)Kl+1/2(kr')Kl+1/2(kr)/Kl+1/2(ka)} (a≦r'<r) (16-2) を得ます。
これは確かにr,r'について対称です。
求める第一種のグリーン関数が(16-1,2)式によって完全に求まったので,v~(r)=(1/η)∫r'=ar'=∞G(r,r')e-kr'cosθ'grad'p(r')d3r'+iU∫r'=∞e-kr'cosθ'{∂G(r,r')/∂r'}dS' (15) に従ってv~(r)を求めます。
まず,(15)の右辺第二項(剰余項)を計算します。
e-kacosθ'={π/(2ka)}1/2Σl=0∞(-1)l(2l+1)Pl(cosθ')Il+1/2(ka)であり,一方[Il+1/2(kr)/r1/2}'=-(1/2)r3/2Il+1/2(kr)+kr-1/2I'l+1/2(kr),[Kl+1/2(kr)/r1/2}'=-(1/2)r3/2Kl+1/2(kr)+kr-1/2K'l+1/2(kr)です。
そして,I'ν(z)Kν(z)-Iν(z)K'ν(z)=1/zを用いると,{∂G(r,r')/∂r'}r'=a=[-1/{4πa(ar)1/2}]Σl=0∞[(2l+1)Pl(cosω)Kl+1/2(kr)/Kl+1/2(ka)]なので,次式が得られます。
すなわち,U∫r'=∞e-kr'cosθ'{∂G(r,r')/∂r'}dS'=a2U∫02πdφ'∫-11d(cosθ'){∂G(r,r')/∂r'} r'=aより,(15)の"右辺第二項(剰余項)"=U∫r'=∞e-kr'cosθ'{∂G(r,r')/∂r'}dS'=-U{π/(2k)}1/2Σl=0∞[(-1)l(2l+1)Pl(cosθ){Il+1/2(ka)/Kl+1/2(ka)}{Kl+1/2(kr)/r1/2}] (17)を得ます。
ここで,計算においては三角関数とルジャンドル多項式の直交性を用いました。
(15)式の右辺第一項を求めるために,p=p∞+Σl=0∞(Al/rl+1)Pl(cosθ).(7)からgradpを求めます。
これは既に前記事で得られた表式と同じです。
∂p/∂x=-Σl=0∞{(l+1)Al/rl+2}Pl+1(cosθ)(18),∂p/∂y=-Σl=0∞(Al/rl+2)P1l+1(cosθ)cosφ(19),∂p/∂z=-Σl=0∞{(l+1)Al/rl+2}P1l+1(cosθ)sinφ (20) ですね。
v~(r)を与える(15)式の右辺第一項の表式は(1/η)∫r'=ar'=∞G(r,r')e-kr'cosθ'grad'p(r')d3r'=(1/η)∫02πdφ'∫-11d(cosθ')∫a∞dr'r'2[{π/(2ka)}1/2Σl=0∞(-1)l(2l+1)Pl(cosθ')Il+1/2(ka)]G(r,r')grad'p(r')です。
これに,(16)のG(r,r'),および(18)~(20)のgrad'p(r')の表現式を代入します。
というところで当時は力尽きて未完となっています。
ここから先は当時会社の先輩で契約社員だったN大理工学部助手(当時)のM前(Mさき)さんに頼んで,N大の図書館からこの計算についての1928年のゴールドスタイン(Goldstein)の論文のコピ-を取ってきてもらって,フォローしています。
その内容についてのノートは1982年の6月という2年後に移行しています。そこで切りがいいので今日はここまでにします。
http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。
人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。)
http://homepage2.nifty.com/toshis-kaiga-auction/健康商品の店 「TRS健康ランド」
← クリックして投票してください。(ブログ村科学ブログランキング)
物理学 |
| 固定リンク
「108. 連続体・流体力学」カテゴリの記事
- 震源の探知(大森公式等)(2009.12.10)
- 定量的地震学6(2009.11.30)
- 定量的地震学5(2009.11.17)
- 空気分子の大きさ(アインシュタインとブラウン運動)(2009.10.11)
- 定量的地震学4(2009.09.29)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント