« ブラウン運動と伊藤積分(8) | トップページ | 準線形計画法(ネットワーク輸送問題)(1) »

2007年7月12日 (木)

ブラウン運動と伊藤積分(9)

 次のステップとして確率積分という主題に移ります。 

以下では,フィルター付確率空間(Ω,,P;t)はtが右連続であり,かつ次の条件を満たしているものとします。すなわち,≡{A∈Ω|∃B∈:A⊂B,P(B)=0}⊂0 であるとします。

2(0,T)≡{M:E[|MT|2]<∞;{Mt}t∈[0,T]は右連続マルチンゲール},2,c(0,T)≡{M∈2(0,T):{Mt}t∈[0,T]は連続}と置きます。

 

また,特にσ-加法族の増大系tを強調する場合には,2(0,T;t),2(t),2,c(0,T;t),2,c(t)のように表わします。

(系7.6)によれば,∀M∈2,cに対し,ある<M>∈+,cがあって,Mt2-<M>tはマルチンゲールになっています。

M∈2,cに対して2(0,T;<M>)≡{φ:φは発展的可測でE[∫0Tφ(s,ω)2d<M>s]<∞},2(<M>)≡{φ:φは発展的可測でE[∫0Tφ(s,ω)2d<M>s]<∞,∀T}とおきます。

乗可積分(連続)マルチンゲール全体の空間のヒルベルト構造に関する次の補題は,確率積分の定義において重要な役割を果たします。

(補題8.1):(ⅰ)2(0,T),2,c(0,T)は||T≡E[|MT|2]1/2をノルムとするヒルべルト空間である。(ⅱ)2,2,cは,その2つの元M,Nに対してd(M,N)≡Σn=0(|M-N|n∧1)/2nを距離とする完備距離空間である。

(証明)(ⅰ) {MnT}n=1,2,..2(0,T),または2,c(0,T)に属するL2(Ω,,P)のコーシー列とします。

 

再掲(定理6.1):"{Xt}t∈Tを右連続非負劣マルチンゲールとしXT*≡sup0≦t≦T|Xt|とおくと,(ⅰ)λpP(XT*≧λ)≦E[|XT|p],p≧1 (ⅱ) E[|XT*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1 が成り立つ。"

 

により,E[sup0≦t≦T|Mnt-Mmt|2]≦4E[|MnT-MmT|2]です。

再掲(補題7.4):"{Ysn}をtに適合した連続確率過程でlimn,m→∞E[sups≦t|Ysn-Ysm|2]=0 なるものとする。

  

このとき連続確率過程{Ys}でtに適合したものがあり{Ysn}の適当な部分列{Ysnk}を取れば,P(sups≦t|Ysnk-Ys|→ 0 as k→ ∞)=1であり,limk→∞E[sups≦t|Ysnk-Ys|2]=0 となる。"

 

によって,連続確率過程:M={Mt}t∈[0,T]が存在して,n→∞のとき確率1で[0,T]上一様にMnt-Mt→ 0 となることがわかります。

このとき,もちろんE[sup0≦t≦T|Mnt-Mt|2]→ 0 as n→∞ です。

 

それ故,∀A∈sについてE[(Mns-Ms),A]→ 0,E[(Mnt-Mt),A]→ 0 です。

 

 Mnのマルチンゲール性:E[Mnt,A]=E[Mns,A],∀A∈sと合わせると,E[Mt,A]=E[Ms,A],∀A∈sです。すなわち,M={Mt}t∈[0,T]もマルチンゲールです。

 

よって,M={Mt}t∈[0,T]も{MnT}n=1,2,..と同じく,2(0,T)または2,c(0,T)に属することがわかりますから,2(0,T),M2,c(0,T)はL2空間として完備なノルム空間であることがわかりました。

もちろん,このノルム空間において,||T≡E[|MT|2]1/2がノルムになっていることは自明です。

 

そして,M,Nの内積(M,N)を(M,N)≡(1/4)[|M+N|2T|M-N|2T]=E[MTT]で定義することにより,2(0,T),M2,c(0,T)をヒルベルト空間とすることができます。

(ⅱ){Mn}n=1,2,..2をn,m →∞ のときd(Mn,Mm)→ 0 となるような列とします。

 

このとき,∀Tについて{Mnt}t≦T2(0,T)のコーシー列になるので,(ⅰ)よりMT={MTt}t≦T2(0,T)が存在して|n-MT|T→ 0 as n →∞ となります。

 

ところで,T1≧Tとすると極限の一意性によって,0≦∀t≦TについてMT1t=MTtですからMT1=MTが成立しています。

それ故,0≦∀t≦∞ に対してMt≡Mttと置くことによって,Mt=limT→∞Ttを定義することができて,M={Mt}t≦∞とすると,d(Mn,M) → 0 as n→ ∞ となりM={Mt}∈2です。

 

したがって,2はその2つの元M,Nに対して,d(M,N)≡Σn=0(|M-N|n∧1)/2nを距離とする完備距離空間です。

 

さらに2,c2の閉部分空間なので,2,cも同じ距離について完備距離空間です。

(証明終わり)

(補題8.2):(ⅰ)2(0,T;<M>)は∀φ∈2(0,T;<M>)に対して|φ|T≡E[∫0Tφ(s,ω)2d<M>]1/2をノルムとするヒルべルト空間である。

 

(ⅱ)2(<M>)は∀φ122(<M>)に対してρ(φ12)≡Σn=1(|φ1-φ2|n∧1)/2nを距離とする完備距離空間である。

(証明)(詳細は略して概略のみ記述します。)

(ⅰ)m(A)≡E[∫0T1A(s,ω)d<M>s]1/2,A∈([0,T])×tによって([0,T])×Ω,([0,T])×t)の上での測度を定義すればL2([0,T])×Ω,([0,T])×t,dm)はm=|・|Tをノルムとしたヒルベルト空間です。

2(0,T;<M>)はL2([0,T])×Ω,([0,T])×t,dm)の閉部分空間ですから命題が成立します。

(ⅱ)(ⅰ)から明らかです。

(証明終わり) 

     φ(t,ω)=Σi=0kξi(ω)1(ti,ti+1)(t);0=t0<t1<..<tk+1,k=1,2,..で各ξiti-可測で有界なもの,で与えられるφを初等確率過程と呼びます。そして初等確率過程の全体を0で表わすことにします。

(補題:8.3):02(<M>)内で稠密である。

(証明)∀φ∈2(<M>)に対してlimn→∞φn=φ a.s inL2,つまりlimn→∞E[∫0Tn(s,ω)-φ(s,ω)|2d<M>s]=0 を満たす関数列{φn}n=1,2,..0 が存在することを示せばいいです。

そこで,φ∈2(<M>)とすると,E[∫0Tφ(s,ω)2d<M>s]<∞,∀Tですが,φは有界であるとしsの近傍でのφの平均値としてφnをφn(s,ω)≡∫(s-1/n)+sφ(u,ω)d<M>u/[<M>s-<M>(s-1/n)+]で定義します。ただしa+≡a∨0 です。

 

そして,さらにφ~(s,ω)≡limsupn→∞φn(s,ω)と置きます。

 このとき上極限の定義によって,d<M>s,∀s∈[0,T]のほとんど到るところで部分列が存在してlimn→∞φn(s,ω)=φ~(s,ω)であり,定義から∫0Tφ~(s,ω)d<M>s=∫0Tφ(s,ω)d<M>sが成り立っています。

 また,φが発展的可測なので,φn(s,ω)はtに適合しています。

 

 分割Δ:0=t0<t1<..<tk+1に対し,φn(Δ)(s,ω)≡Σi=0kφn(ti,ω)1(ti,ti+1)(s)とおけば,φn(Δ)0でありφnは左連続ですから,lim|Δ|→0φn(Δ)(s,ω)=φn(s,ω)∀(s,ω)です。

 したがって,E[∫0Tn(Δ)(s,ω)-φn(s,ω)|2d<M>s]→ 0 as |Δ|→ 0 となります。

 

 また,limn→∞φn(s,ω)=φ~(s,ω)より,limn→∞0Tn(s,ω)-φ~(s,ω)|2d<M>s]=0 ですから,lim n→∞,|Δ|→0E[∫0Tn(Δ)(s,ω)-φ~(s,ω)|2d<M>s]=0 を得ます。

 ところが,∫0Tφ~(s,ω)d<M>s=∫0Tφ(s,ω)d<M>sですから,lim n→∞,|Δ|→0E[∫0Tn(Δ)(s,ω)-φ(s,ω)|2d<M>s]=0 です。

  

 以上から02(<M>)内で稠密であることが証明されました。

 

 (証明終わり)

(定義8.4):(初等確率過程に対する確率積分の定義)

 φ(s,ω)=Σi=0kξi(ω)1(ti,ti+1)(s)∈0に対して確率積分I(φ)をI(φ)(t,ω)≡Σti+1<tξi(ω)(Mti+1-Mti)+ξl(ω)(Mt-Mtl),tl≦t≦tl+1と定義する。そして,これをI(φ)(t,ω)=∫0tφ(s,ω)dMsと表わす。

ここでξi(ω)がti-可測であることに注意されたい。

 

つまり積分和の係数である確率変数の値として分割の分点の左側の値を取っていることが確率積分の特徴です。後述するように,この取り方のおかげで確率積分はマルチンゲールになります。

さらに,初等確率過程に対する確率積分I(φ)の性質として次の補題を証明しておきます。

(補題8.5):I(φ)∈M2,cで,(ⅰ)<I(φ)>t=∫0tφ(s,ω)2d<M>sである。(ⅱ)E[I(φ)t2]=E[∫0tφ(s,ω)2d<M>s]である。

(証明)s≦tのときE[I(φ)t|s]=E[Σti+1<tξi(ω)(Mti+1-Mti)|s]+E[ξl(ω)(Mt-Mtl)|s]=Σti+1<sξi(ω)(Mti+1-Mti)+ξp(ω)(Ms-Mtp)=I(φ)sより,確かにI(φ)(t,ω)はマルチンゲールです。

 

 さらに,M∈M2,cよりI(φ)∈M2,cです。

(ⅰ)tm≦s≦tm+1≦tl≦t≦tl+1とします。

 

 Mのマルチンゲール性から,E[{I(φ)(t)-I(φ)(s)}2|s]=E[{Σi=m+1l-1ξi(Mti+1-Mti)+ξl(Mt-Mtl)+ξm(Mtm+1-Ms)}2|s]=Σi=m+1l-1E[ξi2(Mti+1-Mti)2|s]+E[ξl2(Mt-Mtl)2|s]+E[ξm2(Mtm+1-Ms)2|s]=Σi=m+1l-1E[ξi2(<Mti+1>-<Mti>)|s]+E[ξl2(<Mt>-<Mtl>)|s]+E[ξm2(<Mtm>-<Ms>|s]です。

 

 すなわち,E[{I(φ)(t)-I(φ)(s)}2|s]=E[∫stφ(u,ω)2d<M>u|s]となります。

 また,I(φ)のマルチンゲール性から,E[{I(φ)(t)-I(φ)(s)}2|s]=E[I(φ)(t)2-I(φ)(s)2|s]ですから,結局,E[I(φ)(t)2-∫0tφ(u,ω)2d<M>u|s]=I(φ)(s)2-∫0sφ(u,ω)2d<M>uとなり,I(φ)t2-∫0tφ(s,ω)2d<M>sがマルチンゲールとなることがわかりました。

(φ)∈M2,cですから,(系7.6)の二次変分の一意性によって,<I(φ)>t=∫0tφ(s,ω)2d<M>sです。

(ⅱ)I(φ)(0)=0 なので,(系7.6)(ⅲ)より直ちにE[I(φ)t2]=E[∫0tφ(s,ω)2d<M>s] を得ます。(証明終わり)

(定義8.6):(確率積分の定義)

 一般のf∈2(<M>)に対して確率積分を定義する。

 

 (補題8.3)により,fn0でlimn→∞E[∫0T|fn(s,ω)-f(s,ω)|2d<M>s]=0 ∀Tを満たすものを取ることができる。

 そして,XntI(fn)=∫0tn(s,ω)dMsと置くと,(補題8.5)によってn,m→∞ のときE[|Xnt-Xmt|2]=E[∫0t|Xns-Xms|2d<M>s]→ 0 ∀tである。

 

 またE[sups≦t|Xns-Xms|2]=4E[|Xnt-Xmt|2]ですから,{Xnt}n=1,2,..のある収束する部分列{Xnkt}k=1,2,..があって,その極限値をXtと置けばX={Xt}∈M2,cでlimk→∞d(Xnk,X)=0 かつP(Xnkt→Xt,k→∞,広義一様収束)=1となる。

このX={Xt}はfn0の取り方によらない。

実際,fn,f~n0でlimn→∞E[∫0T|fn(s)-f(s)|2d<M>s]=0 ,limn→∞E[∫0T|f~n(s)-f(s)|2d<M>s]=0 を満たすものを取ります。

 

上のやり方で連続マルチンゲールXtとX~tが決められたとすると,E[sups≦t|Xs-X~s|2]=4E[|Xt-X~t|2]=limn,m→∞4E[|Xnt-Xmt|2]=limn,m→∞4E[∫0t|fn(s)-fm(s)|2d<M>s]=0 ∀tなので,Xt=X~t a.s が結論され,X={Xt}はfn0の取り方によらず一意的に決まります。

こうして決まるX={Xt}をfのMによる確率積分といい,Xt=∫0tf(s,ω)dMsと表わす。

 

ここで,確率積分X={Xt}の二次変分はどのように与えられるか?について言及しておきます。

 

(補題8.7):E[X2]=E[<X>T]=E[∫0Tf(s,ω)2d<M>s]なる等式が成り立つ。

(証明)(補題8.5)から<Xn=∫0Tn(s,ω)2d<M>sです。

 

 <Xnのn→∞の極限で<X>=∫0Tf(s,ω)2d<M>s a.s です。X={Xt}∈M2,cより(系7.6)(ⅲ)からE[X2]=E[<X>T]=E[∫0Tf(s,ω)2d<M>s]が成立します。

 

(証明終わり)

特に,Btを原点から出発するブラウン運動とすると,Bt2-tのマルチンゲール性によって,<Bt>=tです。

 

既に示したように,自然数nについてE[|Bt-Bs|2n]=cn(t-s)n,cn=2-n(2n)!/n!です。すなわち,E[Bt2n]=cnnですから,E[∫0Tt2ndt]<∞です。

そこで,確率積分X=∫0Tt2ndBtが定義できて,E[X2]=E[∫0Tt2nd<Bt>]=E[∫0Tt2ndt]=cn0Tndt=cnn+1/(n+1)となります。

 

ブラウン運動のような確率過程では(Bt-Bs)2~(t-s)より,(dBt)2 ~dt,すなわち,dBt ~ (dt)1/2なので(dBt)2は2次の微小量ではなく1次の微小量です。

 

そこで積分法や微分法において,これをdtと比較して無視することができません。こうした事情が確率積分をむずかしくしている原因であろうと思われます。

 

切りがいいので今日はここまでにします。 

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

  

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。)

http://homepage2.nifty.com/toshis-kaiga-auction/健康商品の店 「TRS健康ランド」

にほんブログ村 科学ブログへクリックして投票してください。(ブログ村科学ブログランキング)

にほんブログ村 トラコミュ 物理学へ
    物理学

|

« ブラウン運動と伊藤積分(8) | トップページ | 準線形計画法(ネットワーク輸送問題)(1) »

110. 複雑系・確率過程・非線型・非平衡」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ブラウン運動と伊藤積分(9):

« ブラウン運動と伊藤積分(8) | トップページ | 準線形計画法(ネットワーク輸送問題)(1) »