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2007年8月

2007年8月30日 (木)

S行列とレッジェ理論(5)

 前回の続きです。

 

今回はRegge極(レッジェ極:Regge pole),あるいは,Regge軌跡

(レッジェ軌跡:Regge trajectory)に関して説明し,

 

ツールとしてSommerfeld-Watson(ゾンマーフェルト・ワトソン)

変換を紹介します。

 

例として,2つの異なるポテンシャル:Coulombと3次元調和振動子

のポテンシャルを考察することから始めます。

 

これらは幾つか共通の特徴を持っています。

 

 これは,それらを相互作用ポテンシャルとするSchroedinger方程式

 が共に正確に解けて,エネルギー固有状態として無数の束縛状態を

 持つこと,しかもそれらのほとんどが縮退していることなどです。

 

 Coulombポテンシャルにおける束縛状態には,

 角運動量l,磁気量子数m,および,単にエネルギー列の階級を示す

 主量子数nというラベルを付けるのが習慣です。

 

 しかし,主量子数nの性質というのは,明らかに他とちょっと変

 ていて,小さい摂動があるとエネルギーレベルの縮退が解け

 分離するので,主量子数の定義は完全に修正する必要があります。

 

 一方,3次元調和振動子にも,角運動量lや主量子数nがあって,

 これらには奇妙な関係式があります。

 

 すなわち,(l-n)は常に偶数でなければならないという性質を

 持っています。

 

 実際,En(n+3/2)hcωであって,

 n=0 ならl=0;n=1 ならl=1;

 n=2ならl=0,2;n=3ならl=1,3 etc.

 です。

 そして,nにはあまり物理的意味はありません。

 ここで,c≡h/(2π)でhはPlanck定数です。

 

 ときには,主量子数の代わりに内部量子数,すなわち,節の数nr

 を動径量子数と呼びnに置き換えます。

 

 そして,nよりこのnrの方がより多くの意味を持つ可能性が

 あります。

 

 nrとnの関係は,Coulombポテンシャルでは,

 n=nr+l+1(nr0,1,2,..),

 3次元調和振動子ではn=2nr+l(nr0,1,2,..)

 です。

 

 正確な解による情報から,

 原子番号がZの原子のCoulombポテンシャル内の電子の束縛状態

 のエネルギー準位はn=hc22/(2m)=-Z2/n2

 =-Z2/(nr+l+1)2 (nr0,1,2,..) (B≡me4/(2hc))

 で与えられることがわかっています。

  

 これにより,角運動量lをエネルギーk2 c22/(2m)の関数

 として表現すると,(nr+l+1)2=-C2/k2ですから,

 

 l=[C(-k2)-1/2]-nr1 (nr0,1,2,..)

 (C≡mZe2/hc3/2)と表現されます。

 

 同様に,3次元調和振動子では,

 En=hc22/(2m)=(n+3/2)hcω=(2nr+l+3/2)hcω

 であり,l=[hc2/(2mω)]-2nr3/2 (nr0,1,2,..)

 となります。

 

 さらに無限に深い球対称な井戸型ポテンシャルでは,井戸の半径

 をaとするときr<aでの動径方程式の解は,

 

 l次の球Bessel関数をjl(kr)≡{π/(2kr)}1/2l+1/2(kr)

 として,jl(kr)×(定数)で与えられます。

 

 そして,エネルギー準位はl(ka)=0 を満たすkから得られます。

 

 jl(ka)の零点を小さい順にknr(nr1,2,..)とすると,例えばka>>lなら,jl(ka)~{1/(ka)}sin(ka-lπ)と近似されるため,knra=(l+nr)πにより,角運動量lとエネルギー2の関係はl=[ka/π]-nr (nr1,2,..)なる式で与えられます。

 それぞれのケースについて,-k2平面上に束縛状態に対応する点(k2,)をプロットし,内部量子数nrが同じである点をlの小さい方から順に結んで仮想的な連続曲線群を作ると各々のnrに対応する補間曲線がとても滑らかな曲線であることに気付きます。

 

 そこで,これらが単に束縛状態の離散的な点の集まりではなく連続曲線になるように内挿補間し,それにwell-definedな意味付けをしたいという誘惑にかられます。

 エネルギーk2は元々連続的な量ですから,この内挿補間は動径波動関数のシュレーディンガー方程式において角運動量lを整数でない値に拡張することを意味すると考えられます。

 

 lを整数とは限らないパラメータと考えたときにも,動径方程式はなお解を持ち,lが実数である限り節の数rでラベル付けできます。

 

 そして,これによって仮想的な補間曲線に正確な定義を与えることができます。

 しかし,非整数角運動量概念を導入するための便宜上で例として挙げたこれら無限に深い井戸とか調和振動子のような,中心力場としては幾分病的なポテンシャルにこれ以上の興味はありません。

 

 それに,当面の問題である強い相互作用の物理学にとっては無数の束縛状態を持つポテンシャル一般にも大して関心はありません。

 

 我々が本当に興味があるのは,これまで考察してきた湯川ポテンシャルなので,以下ではこうしたポテンシャルに対する補間曲線の解析に集中することにします。

 lが整数であろうとなかろうと,何らかの意味で散乱振幅の部分波展開が可能であって,部分波振幅に対するこれまでの論議はそのまま成立するとします。

 

 そして,常微分方程式の解に対するポアンカレの定理によってJost関数φ±(l,2)は,2の解析関数であると同時にlの解析関数でもあることがわかっています。

 

 角運動量がlのときの束縛状態のエネルギー2は,φ+(l,2)の零点で与えられます。補間曲線はφ+(l,2)=0 をlについて解くことで得られるはずです。その解曲線をl=α(2)と記述します。

ところで,既に述べたようにul(k2*,r)=[ul(k2,r)]*ですから,2が実数ならl(k2,r)も実数です。

 

負の実数2に対してk=iK(K>0)とすれば,l(k2,r) ~ φ-(l,k2)exp(ikr)+φ+(l,k2)exp(-ikr)~φ-(l,k2)exp(-Kr)+φ+(l,k2)exp(Kr)ですが,r→ ∞ではexp(Kr)>>exp(-Kr)なので,2<0 ならφ+(l,k2)は実数です。

 

それ故,負の実数2に対してはφ+(l,k2)=0 の解であるk2の関数l=α(2)も一般に実数になります。

 

しかし,正の実数2に対しては,もはやφ+(l,k2)は実数とは限らないので,その場合はφ+(l,k2)=0 の解l=α(2)も一般に複素数になります。

 

そこで,lとしては非整数値だけではなく,複素数値をも考える必要があります。

 この拡張は,既に部分波振幅として定義したal(2)を複素変数lと2の両方の複素関数と考えてよいことを意味します。そして,al(2)はφ+(l,k2)の零点l=α(2)を除いて解析的です。

 

 これらの零点l=α(2)はal(2)の極であり,これを強い相互作用の場にはじめて導入したレッジェ(Regge)の名を取って,レッジェ極と呼び2の関数としてのlα(2)をレッジェ軌跡と呼びます。

 レッジェ軌跡lα(2)がlの整数値を通過するときにはいつでもその点が正確にエネルギーが20 の束縛状態に対応することは既にわかっています。実際,その事実が非整数角運動量概念を導入する動機になりました。

 ここで,より定量的な関連性を得るために現在ゾンマーフェルト・ワトソンの公式と呼ばれている式を導入します。

 

 これは次の展開から導出されます。

 

 すなわち,(k2,cosθ)=∑l=0(2l+1)al(k2)Pl(cosθ)なる物理的な部分波展開式が出発点です。

  

 これの右辺は,lを任意の複素パラメータに拡張するとき,動径方程式により定義される部分波振幅としてlの解析関数(2l+1)al(k2)を含みます。

 また,Pl(z)もlの解析関数として定義できます。これはルジャンドの微分方程式の解でzの正則関数です。そしてz=1のときには1に等しい関数です。

 

 整数でないlに対しては,この微分方程式の解Pl(z)はもはやzの多項式ではなく,z=-1 から∞ に分岐切断を持つzの超越関数でルジャンドル関数と呼ばれます。

 そこで,最終的には角運動量lを非整数と考えたときには,f(k2,cosθ)=∑l=0(2l+1)al(k2)Pl(cosθ)なる部分波展開の右辺の級数表示を如何に解釈すべきか?という問題だけが残ります。

 

 ところが,今の場合,"右辺の級数和を可算無限個の極を持つ複素関数の全ての留数の和と見なす"という方法を適用することで,lを複素数に拡張しても理解が可能な表式に直接移行することができます。

 まず,{(2l+1)al(k2)Pl(-cosθ)/sin(πl)}なる式を複素数lの関数と見るとき,これはlの各整数値にsin(πl)の零点由来の極を持ちます。

 

 そして,これはまたal(k2)をlの関数と見たときのlの極,つまりレッジェ極と呼ばれる非整数の極l=α(2)持つと思われます。

 ここで,複素l平面上に,実軸上Rel=∞の無限遠の点を出発して実軸に平行で微小な負の虚数部(-iε)(ε>0)を持つ半直線上を実軸に沿って負の向きに原点Oを超えた点まで進み,そこでOを巻くように転回して今度は正の実軸のすぐ上の虚数部(+iε)を持つ半直線上を正の向きに進んでRel=∞まで戻る経路を想定して,これをC1と呼びます。

 

 C1を実軸上Rel=∞の点で閉じた閉曲線と考えて,複素数lの関数{(2l+1)al(k2)Pl(-cosθ)/sin(πl)}を経路C1に沿って周回する複素積分を考えます。

 

 閉経路C1は向きが時計回り(負回転)で,被積分関数はその内部に1位の極としてsin(πl)の零点l=0,1,2,..を持つ以外は正則ですから,留数定理によって,この積分の値はそれら無限個の極での全ての留数の和に(-2πi)を乗じたものになります。

 lの各整数値におけるlの関数 1/sin(πl)の留数はlimx→l[(x-l)/sin(πl)]=(-1)l/πです。

 

 そして,同じ整数lに対してはPl(-cosθ)=(-1)ll(cosθ)ですから,被積分関数{(2l+1)al(k2)Pl(-cosθ)}/sin(πl)の留数の和は[∑l=0(2l+1)al(k2)Pl(cosθ)]/πです。

 

 結局,f(k2,cosθ)=(i/2)∫C1[(2l+1)al(k2)Pl(-cosθ)/sin(πl)]dlなる複素積分形式で,lを複素数に拡張しても理解可能な"部分波展開"の式を得ることができました。

 ここで,さらに有用な公式を得るために,正の実軸を囲んで負の向きに周回する経路C1を,別の経路に変形できる可能性を考えます。

1上の実軸上の端点Rel=∞=Rのを出発点として,原点Oを中心とする半径R=∞の円周上を反時計回りに進んでいくと直線Rel=-1/2にぶつかります。

 

そして交点-1/2+i∞=-1/2+iRで向きを変えて,直線 Rel=-1/2の上を-1/2+i∞ から下向きに-1/2-i∞=-1/2-iR まで直進します。そこで再び円Oに乗り換えて,円周上を進んで実軸上のRel=∞=Rのまで戻ります。この経路をC2とします。

このとき,C1+C2,すなわちC1を通ったあとに続けてC2を通る経路を考えると,これも1つの閉曲線の経路です。

 

しかも,この閉曲線:C1+C2はsin(πl)の零点l=0,1,2,..による極を全て外部に避けて,逆に内部には直線 Rel=-1/2より右側:Rel>-1/2にある全てのレッジェ極を含みます。

 

そこで,(i/2)∫C1+C2[(2l+1)al(k2)Pl(-cosθ)/sin(πl)]dl=∑jj(k2)Pαj(k2)(-cosθ)/sin{παj(2)}]なる表式が得られます。

 

ここでβj(k2)≡-π{(2αj(2)1)}Res{al(k2)}|l=αj(k2)と置きました。(Resは留数(residue)を意味します。)

故に,f(k2,cosθ)=(i/2)∫C1[(2l+1)al(k2)Pl(-cosθ)/sin(πl)]dl=(-i/2)∫C2[(2l+1)al(k2)Pl(-cosθ)/sin(πl)]dl+∑jj(k2)Pαj(k2)(-cosθ)/sin{παj(2)}]となります。

 

さらに,Iml→±∞ のとき,l(2l+1)/sin(πl)=[2il(2l+1)/{exp(iπl)-exp(-iπl)}]→ 0 なので経路C2上の積分においては半径Rの円Oの上での積分は無視できるので,虚軸に平行な直線 Rel=-1/2 上の積分のみが残ります。

したがって,f(k2,cosθ)=(i/2)∫-1/2-i∞-1/2+i∞[(2l+1)al(k2)Pl(-cosθ)/sin(πl)]dl+∑jj(k2)Pαj(k2)(-cosθ)/sin{παj(2)}]なる公式を得ます。

 

この公式をゾンマーフェルト・ワトソンの公式と呼び,これを求めた上の手順をゾンマーフェルト・ワトソン変換と呼びます。

 簡単のためにゾンマーフェルト・ワトソンの公式におけるレッジェ極の寄与を与える項βj(k2)Pαj(k2)(-cosθ)/sin{παj(2)}で添字jをはずした典型的な形の項:β(k2)Pα(k2)(-cosθ)/sin{πα(2)}を考察します。

 まず,散乱振幅(k2,cosθ)は基本的に2の負の実数の領域に束縛状態に対応する2極を持つはずですから,これを求めた積分路などの経緯は忘れて,ゾンマーフェルト・ワトソンの公式による表式においても,もちろんそうした極が存在するはずです。

 

 そして,一般項β(k2)Pα(k2)(-cosθ)/sin{πα(2)}は,明らかにsin{πα(2)}が消えるところ,つまりα(2)が整数になるところに極を持ちます。

 

 このレッジェ極l(整数)=α(2)に対応するエネルギー2が負の実数なら,それは束縛状態に対応する極を示していると考えられます。

 

 この極:α(2)=l(整数)がk2のある値kl2<0 において生じると仮定します。

 

 このとき,sin{πα(2)}=π{α(2)-l}cos(πl)+O({α(2)-l}2)=(-1)lπ(∂α/∂2)k2=kl2(2-kl2)+O((2-kl2)2),β(k2)Pα(k2)(-cosθ)=(-1)lβ(kl2)P(cosθ)+((2-kl2))と展開されるはずです。

  

 そこで,2 l2では,β(k2)Pα(k2)(-cosθ)/sin{πα(2)}~β(kl2)P(cosθ)/[π(∂α/∂2)k2=kl2(2-kl2)]+(正則関数)となります。

N≡β(kl2)/[π(2l+1)(∂α/∂2)k2=kl2と置き,B=-l20 と置けば,上式は2~ -Bで(k2,cosθ)=(2l+1)[NP(cosθ)/(k2+B)]+(正則関数)となります。

 

こうして,前記事において求めた束縛状態に対応するk2の極(-B)の近傍での散乱振幅の表式F(k22)=(2l+1)[NPl(1-Δ2/(2k2))/(k2+B)]+(正則関数)が再現されました。

物理的解釈を与えることができると思われるもう1つのケースは,レッジェ軌跡l=α(2)がk2の正の実軸上を真っ直ぐに進むとき,lの整数値を通過するのではなくlの実軸の近傍を通過していく場合です。

そうした2近傍でl=α(2)が2について解析的であると仮定すると,そこでは等角写像です。

 

そこで,k2が実軸で変動するとき,軌跡l=α(2)がlの実軸からlの虚部が正の方向に曲がるときには,その近傍での2の変動の方向を実軸上から2の虚部が負の方向に曲がる方向に変更すれば,l=α(2)が丁度lの実軸上の値と一致するようにできるはずです。

しかし,前記事で述べたように,このときの極に対応する2=kl2-iεは非物理的シート上の点です。これは実はl番目の部分波における非物理的シート上の1つの2の極に対応しているので,前に述べた共鳴と考えることができます。

一方k2を物理的領域の方向に曲げたときにはlは非物理的になると考えられます。この選択は影状態と呼ばれる準安定状態に対応します。

 

この場合,k=kl+iε;kl,ε>0 で,かつφ+(l,k2)=0 なので,束縛状態の場合と同じく,r→ ∞でul(k2,r)~φ-(l,k2)exp(-εr)exp(iklr)となって減衰(崩壊)していく状態を表現しています。

ゾンマーフェルト(Sommerfeld)が最初にこうした問題に取り組んだきっかけは,ラジオ波の地球の周りの伝播に関することに関連してであり,水平線を越えての指数的減衰(トンネル効果)の現象を解析するのが彼の主要な研究対象でした。

 

そして,アンテナから非常に離れたところで生じることについて調べていたのですが,結局,最小の虚部を持つ極,すなわち減衰が最も遅いケースがこれに対する実際的な解答を与えたのでした。

そして,元々こうした無関係な動機から始まったこの種のアプローチがなぜ強い相互作用の物理学にとって興味深い結果をもたらしたのか?ということの理由についてはよくわかりません。

 

ただ強い相互作用の物理学にとっての最も興味深い極は,ゾンマーフェルトの研究対象とは対照的に最大の実部を持つ極です。

今日はこのくらいにします。次回はまず具体的な形のポテンシャルを想定してそれに対するレッジェ極を調べる予定です。

参考文献:R.omnes,M.Froissart「Mandelstam Theory and Regge Poles」W.A.Benjamin,Inc,New York(1963),猪木慶冶,川合 光 著「量子力学Ⅰ」(講談社)

 

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2007年8月28日 (火)

S行列とレッジェ理論(4)

 前回の続きです。

 

 今までは部分波振幅の解析性を論じてきましたが,ここでこれまで

 の議論も踏まえて全散乱振幅f(k2,cosθ)の性質を調べます。

 

ここでもk2の複素数値への拡張の誘惑にかられますが,さらに

cosθの複素数値を導入するとより便利な解析が可能となります。

 

しかし,cosθという変数のままでは有用な拡張がむずかしいので,

cosθの代わりに運動量遷移の平方:Δ2を用いることにします。

 

すなわち,を入射粒子,'を散乱粒子の運動量(波数)として,

Δ2をΔ2('-)2'222'=2k2(1-cosθ)で

定義します。

 

この式から逆に,cosθがcosθ=1-Δ2/(2k2)と表現できます。

 

そこで,散乱振幅f(k2,cosθ)を(k22)の関数と考えて視覚

化します。

 

この段階では,2つの変数:k2とΔ2は実数で,k22平面上の点

として表示できます。

 

そうした2次元平面上に点(k22)をプロットすると,k2の物理的

な値は正の実数値ですが,

 

cosθの物理的に可能な値は-1と1の間ですから,これに対応して

2次元平面上での物理的領域は, 0≦Δ24k2(k20)で示され

る領域です。

 

これは,正のk220)とΔ24k2なる直線で区切られた角度

領域を示しています。

 

Δ22k2(1-cosθ)なので,cosθ=(定数)は原点(k22)=(0,0)

を通る直線で表わされます。

 

特に物理的領域の境界:正のk220),および,Δ24k2は,

それぞれ,cosθ=+1,および,cosθ=-1に対応しています。

 

 

散乱振幅f(k2,cosθ)=f(k2,1-Δ2/(2k2))に対してF(k22)

なる新しい表記を与えます。

 

そしてF(k22)を22の複素関数として,その解析性を調べる

ことにします。

 

散乱振幅F(k22)を部分波に展開することが可能な場合には,

F(k22)=∑l=0(2l+1)al(k2)Pl(cosθ)

=∑l=0(2l+1)al(k2)Pl(1-Δ2/(2k2))と,

級数表示で書けます。

 

そして,こうした場合,F(k22)が,各部分波振幅al(k2)が

持つような解析性を持つことを期待して,F(k22)自体の解

析性を論じるのに部分波振幅al(k2)の解析性を利用すること

も考えられます。

 

しかし,一般の物理的とは限らない固定したΔ2に対して,上に

示したF(k22)の展開級数の収束性を調べると,それが収束

することは必ずしも自明なことではなく,当然有限な収束半径

を持つと考えられます。

 

F(k22)の解析性を論じる際には,右辺の級数の収束半径

より外部の領域まで解析接続された(k22)の関数として

定義可能な全領域を対象とすべきであると思われるので,

これとは全く異なるアプローチをすることにします。

 

そして,以下に記述する方法の正当性についての証明を与える

ということに関しては,如何なる試みもしませんが,ある程度

もっともらしい論旨での簡単な説明はします。

 

実際,以下の方法による結果を厳密に証明しようとすれば,高度

な数学的道具が必要になりますから,それを証明するという問題

についての論議は別の機会に回します。

 

ここで採用する方法は以前に与えた散乱振幅のBorn級数展開に

おいて,個々の項の解析的性質を分析する方法です。

 

そして,ここでは級数が収束するかどうか気にせず,散乱振幅

解析性は下に再掲するBorn級数の和の解析性と同一である

と仮定します。

 

既に以前の記事で与えた散乱振幅:(k22)≡f(,')

Born級数展開式は,

 

(k22)=-4πf(,')

'|V|

+(2π)-3∫d'|V|>[(k+iε)2-p2]-1|V|

+(2π)-6∫d12'|V|1>[(k+iε)2-p12]-1

1|V|2>[(k+iε)2-p22]-12|V|>+..

 

です。

 

まず,ポテンシャルVが純粋に湯川ポテンシャル:

(r)=gexp(-μr)/rであるような単純な場合

を考えます。

 

Born級数を陽に表現するには,|V|'>を評価することが

必要なのでこれを計算します。

 

|V|'>=g∫exp{i(')}{exp(-μr)/r}d

なる表式において,右辺を極座標表示して積分を実行します。

 

|V|'>

=g∫exp{i|'|rcosθ-μr}rdrd(cosθ)dΦ

=2πg0dr[{exp(i|'|r)-exp(i|'|r)}

/(-i|'|)]{exp(-μr)}

=4πg/{(')2+μ2]

なる陽な表式が得られます。

 

この結果は,直ちにBorn級数:F(k22)=-∑n=1n(k22)

に反映されて,

 

1(k22)=g/(Δ2+μ2),

2(k22)={g2/(2π2)}∫d/[{('-)2

+μ2}(k2-p2iε){()2+μ2}],

 

3(k22)={g3/(4π4)}∫12/[{('-1)2+μ2}

(k212iε){(12)2+μ2}(k22iε)

{(2)2+μ2}] and so on,

 

と書けることになります。

 

第1項F1(k22)=g/(Δ2+μ2)は単純で,k2にはよらないの

で固定したΔ2に対しては,もちろん全てのk2に関して解析的です。

 

他の項の解析性については,それほど容易ではないですが,対応する

積分は分母が消えない限りはk2とΔ2についてwell-definedであり,

解析的であると思われます。

 

この条件から直ちに,正のk2軸上に1つの特異性が存在することが

わかります。

 

何故なら,k22のような分母があり,2 0 から ∞ まで変動

するので,それは2のある値に対して消えるからです。

 

この特異性は,前に部分波振幅の解析で見た右切断であると考えら

れます。

 

そして,'の虚部が十分小さい限り,ポテンシャルに由来

する()2+μ2('-)2+μ2の分母が消えることは

ありません。

 

というのは,1i2と置くと,()2+μ20 は,

(1)2-k22μ20  ,かつ 20 を意味し,最初の

等式は虚部の2乗k22が少なくともμ2より大きいことを要求

するからです。 

 

生憎,このk22に対する制限はそれほど十分な拘束条件を与える

ものではありません。

 

そして,より大きな領域での解析性を見出すには,例えば1に関

する実積分を複素積分に変更するとか,部分的にFeynmanの方法に

よる積分を実行するとか,ここで展開する予定には入っていない

複雑な数学的手法に頼る必要があります。

 

そこで,ここでは単にそうした手法で証明できる結果を述べるだけ

にします。

 

すなわち,

 

"固定した非負のΔ2に対して,ポテンシャルが湯川ポテンシャルで

ある場合のBorn級数:F(k22)=-∑n=1n(k22)の右辺

項は,2軸の右切断を除く全ての複素数k2について解析的である。"

 

という結論が得られています。 

 

(k22)のΔ2の関数としての解析性は,より複雑であり,既に

与えたFn(k22)の陽な積分表現から容易に帰納することはで

きません。

 

しかし,Δ2の特異性は物理的領域に密接したところにあると

考えられるので,それの物理的意味を調べるのは重要であると

思われます。 

 

第1の特異点は,最も単純なもので,それはBorn級数の第1項:

1(k22)=g/(Δ2+μ2)に由来する1つの極:Δ2=-μ2

です。

 

これは明らかにポテンシャルに依存する特異点,つまり動力学

的特異点です。 

 

この特異性が単純な極であるという事実は,明らかに相互作用

ポテンシャルが単一の湯川ポテンシャルのみから成る,とした

事実とユニークに関連しています。

 

そして,この極の位置はポテンシャルのレンジ(=有効範囲):

1/μで決まります。

 

レンジが大きいほど,μは小さく,極Δ2=-μ2は,

"物理的領域=0≦Δ24k2;k20 "に近くなります。

 

(極限のケースは,"μがゼロの湯川型=Coulombポテンシャル"で

あり,その場合の特異点はΔ20 で,これはθ=0 の前方散乱を

意味し物理的領域の端点です。)

 

Born級数の他の項に由来する特異性を理解するには,それらの項

の物理的意味を思い出すのが最善です。

 

つまり,項Fnはポテンシャルによるn回の継続的散乱に対応して

いることを思い出すわけです。

 

こうした単に物理的意味だけから複雑な特異性を理解しようと

する扱いは,実際上厳密な扱いとはいえませんが,ここではこの

方法で得られる特異性についての可能な限りの情報を理解しよ

うと努めるのみです。 

 

Fの第1項F1がΔ2=-μ2におい無限大になるという事実は,

多くの粒子が非物理的な遷移運動量:Δ1

('=Δ1;Δ1iμ:Δ12=-μ2)を持ち逃げするという

意味に解釈できます。

 

何故なら,このケースには散乱振幅が無限大になるように見える

からです。

 

もしも,それら散乱振幅において支配的な粒子が再び散乱される

なら,それらは再び同じ大きさの運動量遷移Δ2:Δ2iμをもた

らすと予期されます。

 

しかし,この第2の運動量遷移は,一般に同じ空間方向に生じると

は限りません。

 

すなわち,'=Δ1Δ2であり,

2(k22)={g2/(2π2)}∫d/[{('-)2+μ2}

(k2-p2iε){()2+μ2}]において,

ΔΔ1Δ2です。

 

||=iμはの特異性に属しますが,

Δ2の特異性に対応して,||=iμのとき常に,

|'-|=iμが成立する場合は,,,'が同一直線上

にあって,Δ=|'-|=|Δ1Δ2|=2iμとなる場合

だけです。

 

そこで,F2において特異点Δ2=-2が存在すると予測されます。

 

同様に考えてFnには特異点Δ2=-n2μ2が存在します。 

 

しかし,問題はそれほど直線的で単純ではなくて,特異性を生じる

別の道筋もあります。

 

運動量の代わりに角度を考えると,Δ2=-μ2における特異性は,

またcosθ01+μ2/(2k2)で決まる角度θ=θ0における特異性です。 

この角度θ=θ0があたかも物理的な角度であるかのような推論をしてみます。

 

この角度に1回散乱された粒子群は前方のまわりに半角がθ0の円錐を作ります。

 

ただし散乱強度はとても大きいと仮定しています。

 

それらが再び散乱されると,その円錐上の粒子は再び優先的に角度θ0で散乱されて滑らかに半角がθ=0の円錐内に分布します。 

そして,この新しい円錐表面の散乱粒子群は再び散乱角θ=0の特異性に対応していてこの仮想的散乱角において粒子散乱振幅が増大するという特異現象が存在するはずです。

 

そしてcosθ01+μ2/(2k2)と2倍角の公式cos2θ02cos2θ0-1から cos2θ01+2μ2/k2+μ4/(2k4)となるので,Δ2の特異点としてΔ22k2(1-cos2θ0)=-4μ2-μ4/k2が得られます。 

2におけるΔ2の特異性は,2つの特異点Δ2=-2Δ22k2(1-cos2θ0)=-4μ2-μ4/k2のみです。 

3では特異点が3つあってΔ2=-2Δ22k2(1-cos3θ0),およびこの2つのメカニズムの混合に由来するものです。

 

つまりF2におけるΔ2=-2からcosθ11+4μ2/(2k2)によって得られるθ1方向への第3の散乱によって,θ=θ0+θ1の方向に起こる特異性によりΔ22k2{1-cos(θ0+θ1)}に持つと考えられる特異点です。

45つの特異点を持ちます。

 

そしてFnの持つ特異点の個数はnの増加につれてnの任意のベキよりも急速に増加します。

 

各々の特異点の具体的な位置を書き下すことも可能ですが,それらは全てΔ2≦-2を満たすΔ2負の実数値に対応しています。 

以上からFはΔ2≦-2の実Δ2軸上に無限個の特異点を持つことがわかりましたが,特異点Fnの全ての特異点は大きい正の2の値に対して,負の方から特異点Δ2=-n2μ2に群がるという傾向を持ちます。 

結論として,あらゆる2とΔ2≦-2の実Δ2軸と極Δ2=-μ2を除くΔ2のあらゆる値に対して,F(k22)は解析的であるといえます。

 

そしてポテンシャルが単独の湯川ポテンシャルではなくて幾つかの湯川型の重ね合わせの場合なら,Δ2=-μ2に対応した幾つかの極を持ち,他の特異性についても詳細な構造については,はるかに複雑になると考えられますが本質においては何ら変わらず,新しい特異性が生じることはないと思われます。 

次に,核子-核子散乱のような多粒子問題を想定すると,こうした相互作用では直接力だけではなくて交換力もあることを知っています。

 

この修正に対してこれまでの結論がどのような影響を受けるかを考察します。

交換力における交換とはどういう意味であったか,を思い起こしましょう。交換ポテンシャルの演算子Vexは,次式に従って波動関数Ψ()に作用します,すなわちVexΨ()=Ve(r)Ψ(-)です。

※注:"交換力"とはハイゼンベルク(Heisenberg)とマヨラナ(Majorana)によって導入された概念です。

 

一般に水素Hと水素イオンH+の間には,1つの電子が2つの陽子(水素原子核)の間で交換されることによって,HがH+に,+がHになってHとH+の位置が入れ替わることで働く力があります。

 

核力もこれに類似したものであり,中性子と陽子の間に何らかの粒子交換があって,"陽子と中性子の位置が入れ替わることで働く力=交換力"がその主要な力であろうと想定されます。 

そして,彼らは中性子と陽子の位置座標をそれぞれ1,2とし,r=|12|として,スピン座標を無視したとき,これら2粒子系の波動関数をΨ(1,2)としてこれに働く核力ポテンシャルの演算子をVHとすればVHΨ(1,2)=vH(r)Ψ(2,1)となると考えました。

 

実際には,核力には交換力だけではなく非交換力の寄与もあります。

 

そしてこの2体問題を1体のポテンシャル問題として12とすれば,交換力はVHΨ()=vH(r)Ψ(-)と表現されます。(注終わり)

通常の相互作用ポテンシャルV(r)の他に交換力Vexがある場合にもこれまでの議論が適用できるようにするために,まず波動関数Ψが偶関数である,すなわちΨ(-)=Ψ()と仮定します。

 

このときはVexは明らかに通常のポテンシャルVe(r)に等価です。

 

そこで入射波が偶数角運動量のみを含むならば有効ポテンシャルとしてV+(r)≡V(r)+Ve(r)を定義して,V(r)の代わりにV+(r)を用いれば,これまでの議論はそのまま当てはまります。

ポテンシャルV+(r)に対するシュレーディンガー方程式を普通に解いて得られる散乱振幅をf+(k2,cosθ),ポテンシャル{V(r)+Vex}に対する真の散乱振幅をf(k2,cosθ)とすると,{f(k2,cosθ)+f(k2,-cosθ)}/2={f+(k2,cosθ)+f+(k2,-cosθ)}/2となります。

なぜなら,(∇2+k2)[exp(ikr)f(k2,cosθ)/r]=[V(r)f(k2,cosθ)+Ve(r)f(k2,-cosθ)]{exp(ikr)/r}かつ,(∇2+k2)[exp(ikr)f(k2,-cosθ)/r]=[V(r)f(k2,-cosθ)+Ve(r)f(k2,cosθ)]{exp(ikr)/r}より,

 

(∇2+k2)[exp(ikr){f(k2,cosθ)+f(k2,-cosθ)}/r]={V(r)+Ve(r)}[exp(ikr){f(k2,cosθ)+f(k2,-cosθ)}/r]となるからです。

同様に入射波も散乱波も奇関数の場合は,VexΨ()=Ve(r)Ψ(-)=-Ve(r)Ψ()なので,散乱は有効ポテンシャルV-(r)≡V(r)-Ve(r)で記述されます。

 

これに対応するシュレーディンガー方程式による散乱振幅をf-(k2,cosθ)とすると,{f(k2,cosθ)-f(k2,-cosθ)}/2={f-(k2,cosθ)-f-(k2,-cosθ)}/2が得られます。

以上から,f(k2,cosθ)={f+(k2,cosθ)+f+(k2,-cosθ)+f-(k2,cosθ)-f-(k2,-cosθ)}/2 が得られます。

 

そして,cosθ=1-Δ2/(2k2)より,-cosθ=1-(4k2-Δ2)/(2k2)ですから,cosθを-cosθに変えるのはΔ2(4k2-Δ2)に変えるのと同じことになります。

 

そこで,F(k22)={F+(k22)+F+(k2,4k2-Δ2)+F-(k22)-F-(k2,4k2-Δ2)}/2 と書けます。

振幅F+(k22)とF-(k22)は共に交換力を含まないポテンシャルに対する散乱振幅なので,明らかにこれまでに確立した散乱振幅が有するのと同じ解析性を持っています。

 

したがって,それらはk2の正の実軸とΔ2の負の実軸上に生じる特異性を除いて解析的です。

 

そして,F+(k2,4k2-Δ2)とF-(k2,4k2-Δ2)は同じk2の正の実軸の特異性と4k2-Δ2が実数で4k2-Δ20 なる領域にあるk22を除いて解析的です。 

ポテンシャルが十分大きくて引力ならば束縛状態があると予想されます。既に記述したように束縛状態があるときはB>0 をその束縛エネルギーとして部分波振幅al(k2)はk2=-B< 0 に極を持ちます。

 

この極は,もちろん全振幅f(k2,cosθ)における極でもあり部分波展開から示される特異性であると思われます。

 

実際k2=-Bの近傍ではal(k2)は本質的にN/(k2+B)という形になり,そうしたk2の値に対しては全振幅f(k2,cosθ)においても,この項が支配的に出現すると考えられます。

すなわち,k2=-Bの近傍ではf(k2,cosθ)=(2l+1)[NPl(cosθ)/(k2+B)]+(正則関数),F(k22)=(2l+1)[NPl(1-Δ2/(2k2))/(k2+B)]+(正則関数)となるはずです。

しかし,F(k22)のボルン級数展開の項では,こうした束縛状態に対応するk2の極が存在するという性質を見出すことができません。

 

それは,少なくともボルン級数が束縛状態の存在と同時に発散するのがその理由であるということを示しています。

 

ボルン級数の解析性から全振幅の解析性を得るという推論において,ボルン級数だけが全てではない,ということも含めて手法的に注意を要することを示しています。

 

しかし,今まで述べてきたあらゆる結果は,普通にシュレーディンガー方程式から出発して地道に解を求めることからも証明できます。

 

我々がボルン級数の解析を展開したのは,それらが相対論的S行列理論に属する唯一のツールであるからです。

 

ここで得られた一般的で正しい結果は,ポテンシャル散乱の場合には,ここで言及したあらゆる特異性が存在するという事実だけであって,それ以上ではありません。

 

この部分を終わるのに際して得られた特異性を列挙しておきます。

 

(1)k2:実数で正,Δ2:任意 (2) Δ2:実数,Δ2<-2,k2:任意

(3) 4k2-Δ2:実数,4k2-Δ2<-2,k2:任意 

 もしもこれらの特異性が複素平面上での切断を作り,これを横切ることを禁止するならどんな特異性を横切ることも避けられます。

 

 我々の見出した結果は散乱振幅F(k22)を2つの引数の解析関数として扱うことを許すということです。

 

 ただし,これは非相対論的ポテンシャル散乱にはそれほど有用ではありません。というのも,これらについての全ての有益で適切な物理的情報は直接シュレーディンガー方程式から得ることができるからです。

散乱振幅F(k22)の解析性への関心は,これを相対論的な相互作用に拡張できるところにあります。

今日はここまでにします。

 

次回はいよいよ角運動量を複素数に拡張して"レッジェ極"の話題に入る予定です。

参考文献:R.omnes,M.Froissart「Mandelstam Theory and Regge

poles」W.A.Benjamin,Inc,New York(1963)

 

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2007年8月26日 (日)

S行列とレッジェ理論(3)

 散乱理論の続きです。

 

 l(k2,r)の漸近的性質を考えるとき,それがexp(±ikr)に

 比例する2つの項の和として挙動することを保証したいなら,

    

 2l(k2,r)/dr2[k2-V(r)-(l+1)/r2]l(k2,r)

=0 の左辺の他の項:2l(k2,r)/dr22l(k2,r)

と比較して,(r)l(k2,r)とl(l+1)ul(k2,r)/r2

 をr→ ∞で無視できることが必要です。

 

そして,これが可能なら,exp(±ikr)が

2l(k2,r)/dr22l(k2,r)=0

の独立な2つの解なので,確かに,l(k2,r)r→∞

~  φ-(l,k2)exp(ikr)+φ+(l,k2)exp(-ikr)

なる表式が正しくなり,Jost関数はwell-definedである

はずです。

 

次に,k2を複素数に拡張したときには,kの意味するところを明確

にすることが必要です。

 

それを定義するのに,√k2 が正の虚部を持つように選びます。

 

つまり,Green関数の定義で現われたように物理的なケースでは,

kとして,(k+iε)が示唆されるような簡単な通路を許すように

定義するわけです。

 

波動関数ul(k2,r)のk2の関数としての解析性がφ±(l,k2)

の解析性を意味しない場合があります。

 

というのは,近似式:

l(k2,r)r→∞

~ φ-(l,k2)exp(ikr)+φ+(l,k2)exp(-ikr)

がうまく当てはまらない場合があるからです。

 

まず第1に,k2が実数で,かつ負なら正の虚部を持つという条件

では,k=i|k|なのでul(k2,r)の漸近形の第1項における因子

exp(ikr)exp(ikr)=exp(-|k|r)となりますが,

 

第2項における因子:exp(-ikr)は,

exp(-ikr)=exp(|k|r)となり,こ

第2項はr→ ∞ で爆発的に増加するという

挙動を示します。

 

今,ポテンシャルとして想定している湯川型のポテンシャルの形

exp(-μr)/rであり,指数因子exp(-μr)を持っているので,

 

l(k2,r)r→∞

~ φ-(l,k2)exp(ikr)+φ+(l,k2)exp(-ikr)

における第1項の分離が正当化されるのは,|k|が小さくて,

exp(ikr)=exp(-|k|r)がそれほど速い減衰を示さない

場合のみです。

 

ポテンシャルが単一の湯川ポテンシャル:

(r)=gexp(-μr)/rの場合には,

=i|k|としたときr→ ∞ ではul(k2,r)の第2項:

φ+(l,k2)exp(-ikr)が支配的になるので,

 

r→ ∞ では,(r)l(k2,r)

~ gφ+(l,k2) exp{(|k|-μ)r}/r となります。

 

この|k|-μ>0 のときに爆発的な挙動を示す項において,

|k|>(μ/2)ならば,(|k|-μ)>-(μ/2)>-|k|が成立する

ので,exp{(|k|-μ)r}>exp(-|k|r)です。

 

したがって,(r)l(k2,r)>gφ+(l,k2)exp(-|k|r)/r

となるため,ポテンシャル項:V(r)l(k2,r)は,

少なくとも,exp(-|k|r) 程度の大きさを保持します。

 

ところが,k2l(k2,r)の第1項の部分も,

2φ-(l,k2)exp(ikr)=k2φ-(l,k2) exp(-|k|r)

なる挙動をしますから,

 

そもそもこの場合には,k2l(k2,r)に対して,(r)l(k2,r)

を無視するという近似は無意味になります。

 

そこで,(r)l(k2,r)を無視するという近似で求めたJost関数

による球面波の分離という漸近形そのものが意味を持たなくなると

考えられます。

 

それ故,k=i|k|,かつ|k|>(μ/2),

すなわち,実数であって-∞<k2<-μ2/4 を満たす

エネルギーk2に対しては,Jost関数φ±(l,k2)はwell-defined

ではなく,ul(k2,r)の解析性からこれの解析性を推論するのは

不可能です。

 

そこで,より一般的に相互作用のポテンシャルが湯川ポテンシャル

の重ね合わせの場合に,φ±(l,k2)の解析性を論じるとき,

 

ポテンシャルにおけるμの最小値μ0に対してJost関数:

φ±(l,k2)は複素k2平面の実軸上k2=-μ02/4に特異点を

有し,実軸上-∞<k2<-μ02/4に切断を持つと考えて,

この部分を常に避ける必要があります。

 

動径波動関数の漸近近似として,

l(k2,r)~ φ-(l,k2)exp(ikr)+φ+(l,k2)exp(-ikr)

が正しくないもう1つの場合はk2 0 のときです。

 

というのは,そのときには,もちろんk2と比較して2つの項

((r) +l(l+1)/r2)を無視することはできないからです。

 

そこで非常に大きい値Rを取ると2十分小さい値:

2=l(l+1)/R2に対して,r<Rでは上記の漸近形は正しく

ないといえます。

 

言い換えるとエネルギーがゼロ,つまり20 では遠心力障壁:

(l+1)/r2は常に入射粒子のゼロ運動エネルギーより大きく,

それ故,波動関数は内向き球面波と外向き球面波との和で与えら

れた上記の漸近形とは全く異なる形になるわけです。

 

そこで,Jost関数は20 のまわりにも特異点を持つと予測

されます。

 

実際,これは基礎量子力学でも知られており,小さいk2の物理的

(正の)値に対して位相のずれ:δl(k2)はk2l+1のような挙動を

することが示されています。

 

そこでは,δl(k2)はk2ではなくkの解析関数となります。

 

同じ結果はJost関数に対しても正しく,これらがkの関数

としても解析的であることを示すことができます。 

 

そこで,変数をk2ではなくkとして,Jost関数φ±(l,k2)を

φ±(l,k)と書くことにします。

 

kの関数としては,Jost関数は原点k=0 に特異性を持たず,

20 の切断-∞<k2<-μ02/4の上ではwell-definedで

ないので,対応してkの2つの切断k=iμ0/2~i∞,および

k=-iμ0/2~-i∞が存在することになります。

 

kと-kの交換はk2のみに依存するSchroedinger方程式を

変えないし,原点でのul(k2,r)の境界条件も変えないので,

l(k2,r)はこの交換で変化しません。

 

そこで,Jost関数にも関連した対称性があります。

 

すなわち,kと-kの交換ではexp(±ikr)が交換されるので,

φ+(l,k)=φ-(l,-k)という関係式が得られます。

 

これらの関数をk2の関数として視覚化してみます。

 

複素k2平面をkの可能な2つの選択に対応して2つのRiemann面

の重ね合わせと見ることにします。

 

 

つまり,複素k2面は

Imk>0 を想定した物理的シート(Physical sheet)と,

Imk<0 を想定した非物理的シート(Unphysical sheet)の2枚

が,境界:Imk=0;複素k2面の正の実軸を共有して交差した形で

重なり合っていると考えます。 

 

すなわち,A:k2iε(物理的シート)は,B:k2

(非物理的シート:Imk<0)のごく近傍にあります。

 

然るに,物理的シート(Imk>0)の上にあるけれども,k2虚部

負のC:k2iε(物理的シート;Imk2<0ですが,Imk>0)は,

A,Bの両方から遠いと考えます。

 

これは,物理的シートでは,Imk>0 ,非物理的シートでは,

Imk<0 なので,

 

物理的シート上のA:k2iεに対してのkを,A≡k+iε,

非物理的シート上のB:k2iεに対してのkを,kB≡k-

とおいたとき,

 

物理的シート上のC:2iεのkはC≡-k+iεとなり,

~ -kA ~ -kB となるからです。

 

20 はいわゆる分岐点です。そして複素k2面の正の実軸

切断です。これを右切断と呼ぶことにします。

 

また,物理的シートには,もちろん実軸上-∞<k2<-μ02/4

に切断があります。これは左切断と呼びましょう。

 

物理的シートAから物理的シートCへの移動は,kから-k

への移動なので,単なるφ+とφ-の交換に対応しています。

 

つまり,これは,

exp{2iδl(k2)}=S(l,k2)=(-1)l+1φ-(l,k2)/φ+(l,k2)

→ exp{-2iδl(k2)}=1/S(l,k2)

=(-1)l+1φ+(l,k2)/φ-(l,k2)

なる変換であり,

 

S(l,k2)を逆数:1/S(l,k2)にする変換に対応しています。

 

次に部分波振幅:al(k2)=[exp{2iδl(k2)}-1]/(2ik)

={S(l,k2)-1}/(2ik)を考察します。

 

S(l,k2)=(-1)l+1φ-(l,k2)/φ+(l,k2)より,

l(k2)=(-1)l+1-(l,k2)-φ+(l,k2)}/{2ikφ+(l,k2)}

でありal(k2)はJost関数と同じ特異性を持つk2の解析関数です。

 

すなわち,これも左切断と右切断を持ちます。

また,φ+(l,k2)がゼロになるところに極を持ちます。

 

部分波振幅:al(k2)の極については後で詳細に考察するとして,

今は,まずkの関数,あるいは物理的,非物理的シート上でのk2

関数として部分波振幅:al(k2)の性質を明らかにすることに

努めます。

 

これは,まずS(l,k2)の性質を考えることで容易になされます。

 

再び,Riemann面上の2点B:k2iε(非物理的シート),および,

C:k2iε(物理的シート)を考えます。

 

これらは,一方が他方の真上にあって,同一のk2の値に対応して

います。

 

当面の課題は非物理的シート上の点BでのS(l,k2)を明確に

することです。

 

ここで明確な区別をするため,物理的シート上のk2に対しては

今まで通りS(l,k2)なる表記を保持し,非物理的Sシート上のk2

に対してはSIm(l,k2)と表記することにします。

 

前にkC ~ -kA ~ -kBと表現したように,BとCはkの反対

符号の値に対応しています。

 

それ故,直ちにSとSImの関係が得られます。

 

すなわち,SIm(l,k2)=(-1)l+1φ-(l,-k)/φ+(l,-k)

(-1)l+1φ+(l,k)/φ-(l,k)=1/S(l,k2)です。

 

そこで,この式はal(k2)の解析接続によって取られる値:

Iml(k2)を定義します。

 

すなわち,al(k2)={S(l,k2)-1}/(2ik)からk → -k

としてaIml(k2)をaIml(k2)={SI(l,k2)-1}/(-2ik)

={1/S(l,k2)-1}/(-2ik) で定義します。

 

したがって,aIml(k2)=al(k2)/{1+2ikal(k2)}

となります。

 

かくして,非物理的シート上で生じることは,物理的シート上で

生じることから決定されるという結論が導かれました。

 

結果として特に非物理的シート上にもk2<-μ02/4 に切断

(左切断)が存在するといえます。

 

そこで特に断らない限り,以下の議論は物理的シート上の話に

制限します。

 

それ故,k2の正の実軸(右切断)を横切ることは特別な注意なし

には禁止します。

 

既に見たように,左切断とポテンシャルの到達距離(1/μ)の間に

は重要な関係があります。

 

相互作用のレンジが小さいほど低エネルギーでの位相のずれは

急速に変動すると予想されます。

この種の関連性は非常に重要です。

 

そして,この時点で先に示唆した部分波振幅al(k2)の極の話に

戻ると極と位相のずれとのより重要な関連性が得られます。

 

すなわち,部分波振幅はal(k2)=[exp{2iδl(k2)}-1]/(2ik)

=(-1)l+1-(l,k2)-φ+(l,k2)}/{2ikφ+(l,k2)}と表わさ

れるので,

 

あるk2値でφ+(l,k2)が消える場合を除けば,φ±(l,k2)が解析的

である場合はいつでもal(k2)は解析的です。

 

そして,al(k2)の極はφ+(l,k2)の零点なので,1つの極k2

まわりではφ+(l,k2)=0 によって,

 

r→ ∞ での波動関数の漸近形式が,

l(k2,r) ~ φ-(l,k2)exp(ikr)+φ+(l,k2)exp(-ikr)

から,ul(k2,r) ~ φ-(l,k2)exp(ikr)なる形に帰します。

 

そしてこれが物理的シート(Imk>0)の上の極であるなら,

波動関数ul(k2,r)の主要因子exp(ikr)の絶対値:

exp{-(Imk)r}は減衰指数関数になります。

 

つまり,al(k2)の物理的シート(Imk>0)上の極:k2のまわりで

r→ ∞での確率=r2|ul(k2,r)/r|2 がゼロになるので,

ここでのul(k2,r)は有限な到達距離の内部に局在する状態の

動径関数を表わしています。

 

このときの波動関数ul(k2,r)の表現する物理的状態は束縛状態

以外の何物でもないと考えられます。

 

すなわち,al(k2)の物理的シート(Imk>0)上の極はこの系の

束縛状態を示しています。

 

ところが束縛状態ではエネルギーは負の実数ですから,この極k2

は負の実数です。 

 

通常の相互作用ポテンシャルV(r)には現実に物理的状態として

束縛状態がありますから,物理的シートの上には確かにこれに対

応する実軸上でk2<0 のl(k2)の極があるはずです。

 

そして物理的シートの上には,それ以外の極は存在しないでしょう。

 

しかし非物理的シートの上にはどこかに極があるかも知れません。

 

なぜなら非物理的シート上の極k2の近傍での動径波動関数の

漸近近似l(k2,r)~ φ-(l,k2)exp(ikr)はImk<0

のため,爆発的に増加する指数関数を与え,

極の位置を固定(fix)するような如何なる物理的情報も与えない

からです。

 

とにかく,そうした非物理的シート上の極に物理的解釈を与える

ことが可能か否かを考察してみます。

 

実際,その極が物理的領域の非常に近くにあるとき,つまり負の

虚部が小さいB:k2iε(非物理的シート)のような点であれば

物理的解釈が可能です。

 

そうした極はk2の正の実数値に対応する物理的な点の非常に近く

で部分波振幅:al(k2)の挙動に大きな影響を与えます。

 

それを見るために再びS(l,k2)=exp{2iδl(k2)}

=1+2ikal(k2)を考えます。

 

l(k2)の極とS(l,k2)の極は一致します。

 

(l,k2)が非物理的シート上のk2=kr2r/2 に1つの極

を持つとすると,

そこではSIm(l,k2)=1/S(l,k2)=∞となりますが,

より正確に書けば,SIm(l,k)=1/S(l,-k)=∞ です。

 

したがって,それは物理的シート上でのS(l,k2)=S(l,-k)

の零点になりますが,この状況をより詳細に分析してみます。

 

Schroedingerの動径方程式:

2l(k2,r)/dr2[k2-V(r)-(l+1)/r2]l(k2,r)

=0 を満たすl(k2,r)と,これの複素共役を取った方程式

の解l(k2*,r)とを比較すると,l(k2*,r)=[ul(k2,r)]*

であると考えられます。

 

一方,Imkの符号が保存されるように,√2*=-k*なる合理的な

規約を取れば,

l(k2,r)の漸近形から,l(k2*,r)

~ φ-(l,k2*)exp(-ik*)+φ+(l,k2*)exp(ik*)

なる漸近表式が得られます。

 

したがって,ul(k2,r)=[ul(k2*,r)]*によって,

l(k2,r)

~ [φ-(l,k2*)]*exp(ikr)+[φ+(l,k2*)]*exp(-ikr)

となり,φ±(l,k2*)=[φ±(l,k2)]*となるはずです。

 

それ故,S(l,k2*)=[S(l,k2)]*です。

 

より明確にS(l,k2)をS(l,k)と表記すれば,

(l,-k*)=[S(l,k)]*です。 

 

今,Sが非物理的シート上のk2=kr2r/2に極を持つとすると,

Im(l,kr2r/2)=1/S(l,kr2r/2)=∞です。

 

このときkr>0と仮定して,Im(l,kr2r/2)をSIm(l,kriε)

と書き,S(l,kr2r/2)をS(l,-kriε)と書いておきます。

 

(l,k2*)=[S(l,k2)]*,

つまり(l,-k*)=[S(l,k)]*は物理的シート上では,

(l,kriε)=[S(l,-kriε)]*であり,

 

非物理的シート上では,

Im(l,kriε)=[SIm(l,-kriε)]*であること

を意味します。

 

ここで,k2複素関数S(l,k2)が非物理的シート上

2=kr2r/2に極を持つので,

Im(l,kr2r/2)=SIm(l,kriε)=1/S(l,-kriε)

=∞ですから,S(l,-kriε)=0 であり,

 

そこで(l,kriε)=[S(l,-kriε)]*=0 ,

すなわち,S(l,kr2r/2)=0 となります。

 

つまり,元々のSchroedingr方程式の係数の実数性のために

S行列の部分波成分がk2=kr2r/2に極を持つことは,

2=kr2r/2 に零点を持つことを意味します。

 

S行列の部分波成分S(l,k2)は非物理的シートから正の実軸

(右切断)を避けて物理的シートに解析接続したものであると

考えられますから,

 

それは2=kr2r/2 に極を持ち,k2=kr2r/2 に零点

を持つことがわかりました。

  

そこで,物理的,非物理的云々ではなくS(l,k2)は複素数k2

1価の複素関数としては2=kr2付近で,

(l,k2)=[(k2-kr2r/2)/(k2-kr2r/2)]Sp(l,k2)

という形式に書けると考えられます。

 

ここでSp(l,k2)はk2について比較的ゆっくり変動する関数です。

 

(l,k2)=[(k2-kr2r/2)/(k2-kr2r/2)]Sp(l,k2)

を,δl(k2)を使って,

 

exp{2iδl(k2)}

=[(k2-kr2r/2)/(k2-kr2r/2)]exp{2iδlp(k2)}

と書けば,

 

cos{2(δl-δlp)}+isin{2(δl-δlp)}

={(k2-kr2)2-Γr2/4-iΓr(k2-kr2)}/{(k2-kr2)2+Γr2/4}

となります。

 

結局,位相のずれ:δl(k2)のk2の関数としての表現:

δltan-1r/{2(k2-kr2)}+δlp が得られます。

 

これはエネルギーがkr2,幅がΓrの共鳴の近傍での位相のずれ

に対する"Breit-Winerの表現"そのものです。

 

δlpは慣習的にポテンシャル・フェーズ・シフトと呼ばれ,主要な

第1項は共鳴フェーズ・シフトと呼ばれます。

 

以上を要約すると次のような発見がなされたことになります。

 

すなわち,部分波振幅の動力学的特異性(ポテンシャル特異性)は

次の3つの事実に対応しています。

 

1.     その位置が力の到達距離(レンジ)と関連する左切断の存在

2.     束縛状態のエネルギー位置に物理的シート上の極がある。

3.     エネルギーk2の正の実軸に近いならば共鳴と解釈できる非物理的シート上の極がある。

 

 さらにk2の負の実軸に近い非物理的シート上の極に言及して

 おけば,例えば低エネルギーでの単一の陽子-中性子散乱では,

 100keV程度の負エネルギーの非物理的シート上に1つの極が

 ある,ことなど仮想状態に対応していると考えられます。

 

 束縛状態と共鳴の両方に部分波振幅の極が関わっているという

 事実はこの2つの概念の間には強い一致があることを示唆して

 いると考えられます。

 

 洋書を読んで翻訳した後に理解して要約したものを記事にして

 いるので若干直訳調でわかりにくくなっているところもありま

 すがご容赦ください。

 

 今日はここまでにします。

 

参考文献:R.omnes,M.Froissart

「Mandelstam Theory and Regge Poles」

W.A.Benjamin,Inc,New York(1963)

  

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2007年8月25日 (土)

磁気単極子(モノポール)(補遺)

 前記事では電場や磁場などの場の強さについて言及していなかった

のが少し気になったので補足しておきます。

 

まず,磁気単極子(モノポール:monopole)など全く存在しない

普通の電磁気学では,磁場(磁束密度)は,常に発散がゼロの

条件:div=∇=0 を満たすので,ベクトルポテンシャル

が存在して,=rot=∇×と表現できます。

 

そして,これを電場を含む方程式:rot=∂/∂t に代入

すると,rot(+∂/∂t)=0 なので,スカラーポテンシャル

Φが存在して,+∂/∂t=-∇Φ=-gradΦと書けます。

 

そこで,A0=Φとおいて,4元ベクトルとして,

電磁ポテンシャル:μ(0,)を定義すれば,

 

rot=∇×,かつ,=-gradA0-∂/∂t

=-∇A0-∂/∂tと表わすことができます。

 

これを用いると,場の強さである電場と磁場は,

4次元Minkowski空間の反対称テンソル成分として,

μν≡∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xν

=∂μν-∂νμ;Bi=-1/2εijkik=-εijkjk

=εijkjk,i=Fi0=∂i0-∂0i=-∂i0-∂0i

と表現されます。

 

そして,こうした場の強さの定義から,勝手なスカラー関数:Λ

に対して,電磁ポテンシャルに,Aμ→ AμμΛ なる変換

加えても場の強さ:μν=∂μν-∂νμは不変である,

というゲージ(gauge)不変性が成立することは明白です。

 

余談になりますが,

より一般に場の量子論において,生成子(generators):{Ta}の

交換関係が変換群Gの構造定数fabcで,[Ta,Tb]=ifabcc

(a,b,c=1,2,..,N=dimG)で規定されるような一般の

非可換局所ゲージ変換群Gの下で,

理論が不変であるとします。

 

このとき,ゲージ場の4元ポテンシャルを,

μ≡∑a=1Naμa,共変微分をDμ≡∂μ+igAμ

とすると,

  

この場合の"場の強さ=曲率テンソル"は一般に,

μν≡∂μν-∂νμ-(i/g)[Dμ,Dν]

=∂μν-∂νμ+ig[Aμ,Aν]

で定義されます。

 

ただし.Fμν≡∑a=1Naμνaであり,

aμν≡∂μaν-∂νaμ-gfabcbμcν

(a,b,c=1,2,..,N)です。

 

そして,この場合のゲージ不変性は"N成分の勝手な関数Λにより,

μ=∑a=1Naμaから,Aμ→ AμμΛなる変換:

 

すなわち,Aaμ→ AaμμΛa-gfabcbμΛcなる変換

加えても,

 

場の強さ:

μν≡∂μν-∂νμ-(i/g)[Dμ,Dν]

=∂μν-∂νμig[Aμ,Aν], 

あるいは, 

aμν≡∂μaν-∂νaμ-gfabcbμcνが不変である。"

という法則になります。

 

そして,物質場:ψがなくゲージ場Aμだけが存在する場合の

自由ゲージ場のLagrangian密度は,

=-(1/4)N-1tr(Fμνμν)

=-(1/4)Faμνaμν

で与えられます。

 

これは,電磁場なら=-(1/4)Fμνμν=(1/2)(22)

です。

 

これを"Haniltonian =エネルギー"に変換すれば,

=(1/2)∫(22)dとなります。

 

もちろん,これらはゲージ不変です。

 

しかし,磁気単極子(モノポール)がある場合の一般化された場

では,divρm0 なので,がベクトルポテンシャル:

よって=rotと書けるということはなく,

 

より一般に,は発散がゼロの部分と,回転がゼロの部分の和として

=rot+gradχと表わせます。

 

また,これとrot=∂/∂t+mからは,

rot(+∂/∂t)+grad(∂χ/∂t)+m0

となります。

 

ところで,一般化されたMaxwellの方程式では擬スカラー角ξに

よる双対性変換:

 

'cosξ+Z0'sinξ,

0=Z0'cosξ+'sinξ,

0=-'sinξ+Z0'cosξ,

=-Z0'sinξ+'cosξ,

 

および,

 

0ρe=Z0ρe'cosξ+ρm'sinξ,

0e=Z0e'cosξ+m'sinξ,

ρm=-Z0ρe'sinξ+ρm'cosξ,

m=-Z0e'sinξ+m'cosξ

 

を施行しても方程式の形が不変なことがわかっています。

 

そこで,ρm'=m'=0 とできる場合には,div'0,かつ

-rot'=∂'/∂t となるので,

'rot','=-∇A0'-∂'/∂tと書けます。

  

そこで,Aμ'=(0',')とすれば電場',磁場'は反対称

テンソル:μν'≡∂Aν'/∂xμ-∂Aμ'/∂xν

=∂μν'-∂νμ' で表わされ,

 

磁場はBi'=-1/2εijkjk',電場はEi'=Fi0'

とすることができます。

 

そこで,このように双対性変換された場では,ゲージ不変性,

つまり"Aμ'→ Aμ'+μΛなる変換を加えても,場の強さ:

μν'=∂μν'-∂νμ'は不変である。"

という法則が成立します。

 

しかし,このゲージ変換を逆に元の場での変換に翻訳すると,

これに対応するのは同じ形のゲージ変換ではなく,何らかの

かなり複雑な変換であろうと推測されます。

 

でも,とにかく,この変換で場の強さ,が不変になる,

という何らかのゲージ不変モドキの対称性はありますが,

既に素朴な意味でのゲージ不変性とはいえない複雑なもの

になっています。

 

現実にはモノポールは発見されておらず,もし存在しても僅かで

あるか,特別な条件下でしか存在し得ないでしょうから,

双対性変換の擬スカラー角ξは非常にゼロに近い値であろうと

思われ,実質的なMaxwell方程式からのずれはないに等しい程度

ではないかとは思います。

 

しかし,とにかくこうした変換性では恐らく複雑すぎて,私には

自然の理論体系として"美しい"とは感じられないので,私自身

は磁気単極子(モノポール)の存在には懐疑的なのです。

 

しかし,現在がむしろ"対称性の破れの逆行"であるというような

意味,宇宙初期の高温高密状態で,そうしたものが存在した可能性

を否定することはできませんね。

 

もちろん,磁気単極子(モノポール)が存在しても,それは電磁的性質

影響を与えるのみであって他の種類の強い力,弱い力,重力などに

直接の効果として影響を与えるものではないと思います。

 

PS:最後の部分ではろくに調べもしないで,知ったかぶりをして,

ややいい加減なことを書いたので,検索して参考にした

PDF:表題「インフレーション」 から,モノポールに関する部分についての

内容を要約しておきます:

 

(※引用):素粒子の大統一理論が正しい,という前提に立つと,

宇宙初期の高温:T~ 1015GeV(~ 1028K)の時期には,電弱理論

と同じように,強い相互作用と電磁相互作用も統一されて区別で

きないような対称性を持っていたのが,温度が下がると共に,

いわゆる自発的対称性の破れ,または真空の相転移により,

強い相互作用と電磁相互作用に分化したことになります。

 

この相転移による対称性の破れの方向は一様ではなく,宇宙の

領域によって様々であり,もしもこの"領域の境界面=位相欠陥"

が" 0次元=点状"なら,

 

それはトフフト・ポリヤコフ(t'Hooft-Polyakov)の

磁気単極子(モノポール)になるとされています。

 

この磁気単極子(モノポール)の質量:mMPは素粒子としては異常

大きく,それは1017GeV~ 10-8g程度もあって,非常に重く安定

はずです。

 

そして,モノポールができる臨界温度:TCは1015GeV程度であり,

T ~ TCの頃の最初のモノポールの生成数は少ないのですが,

重くて安定なので,宇宙のスケール因子をa=a(t)とすると,

 

モノポールの密度は膨張と共にa-3で減少するのに対し,輻射

密度はa-4で減少するので,

 

aが1012倍に膨張したT~ 10-12C程度の頃には,宇宙全体で

モノポールが優勢になります。

 

こうした見積もりから,理論上は現在の宇宙にモノポールが豊富

に存在しなければならないのに,現実には全く発見されていない

という問題があります。

 

しかし,"宇宙初期の時刻:t~10-37secから10-36sec程度の間

=現在の感覚からはほぼ瞬間と思われる時間"に宇宙が急速に

膨張したとする「インフレーション宇宙の理論」が正しいと

するなら,

 "これ=インフレーション"を経過したときにモノポールの

は宇宙全体で1個くらいに薄められ,観測事実とは矛盾しな

いことになって,上記の問題は解決されるらしいです。

 

参考文献:Jackson 著(西田 稔 訳)[電磁気学(上)](吉岡書店);

九後汰一郎「ゲージ場の量子論Ⅰ」(培風館)

 

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2007年8月24日 (金)

磁気単極子(モノポール)

EMANさんのところで,ちょっと磁気単極子(モノポール)のことが話題

になっていて私自身はその存在については懐疑的ですが,これについ

て少し書いてみようと思います。

 

もしも,"これ=磁気単極子(モノポール)"が存在すればN極やS極

の磁荷が単独で存在することが可能になり,普通の意味でのゲージ

不変性は破れます。

 

しかし,電気と磁気の双対的な対称性はより明確になるし,電磁場

のMaxwellの方程式も少し修正するだけでそのまま成り立つので,

理論的にはこれの存在を否定する根拠はありません。

 

さて,量子論では通常は無視される状態ベクトル,または波動関数の

各時空点における位相の効果を考察することによって,

"磁気単極子=モノポール"の存在を仮定すれば,量子力学が理論と

して矛盾しないためには電荷が離散的でなければならない:つまり

粒子が持つ電荷はある素電荷の整数倍のみが許される。"

 

という"電荷の量子化"が説明できるということをDiracが1931年に

示しました。

 

これは,十分にモノポールの存在の理論的根拠に成り得るもので

あるとして,一時注目されました。

 

私としては,既に2006年5/11の記事「波動関数の位相と電磁場で,

"量子異常(Anomary)"の生じる原因は波動関数の位相(Berryの位相)

がカイラル・カレント(Chiral current)に及ぼす影響である。

という主旨の話を書きました。

 

その際にも,波動関数の位相の効果として上記のDiracの磁気単極子

やアハラノフ・ボーム効果(Aharonov–Bohm effect)があることなど

についても,少し触れています。

 

要するに何が問題かというと,皆さんよくご存知のように,

 

電気の電荷というのは正電荷(+)や負電荷(-)が単独で存在する

ことが可能ですが,磁気における磁荷,つまりN極とかS極とかい

うのは,必ず"対(pair)=双極子(dipole)"でしか存在し得ません。

 

永久棒磁石などは,いくら切り離してバラバラに分けても金太郎

飴とはちょっと違うけれど,必ず両端にN極とS極が対になって

現われて総体として磁気的に中性になり,決してN極またはS極

が単独で現われることはありません。

 

実際の実験や観測においても,いくら微小な粒子であっても"単独

のN極あるいはS極のみを持つもの=磁気単極子(monopole:モノ

ポール)"は未だ発見されたことがありません。

 

現在の電磁気学の基礎方程式であるMaxwell方程式で見ると,電場

では電束密度の湧き出しとして電荷密度ρeが表現されています。

 

すなわち,div=ρeです。

 

これに対し,磁場では磁束密度の湧き出しは必ずゼロになります。

 

div=0 ですね。

 

これは電荷を連続量とみなして,それを電荷密度の積分として表わ

していいほどのオーダー:つまり古典電磁気学のオーダーでは単独

の磁荷は現われない,したがってゼロ以外の磁荷密度は決して現わ

れないという意味で現在の電磁気学の基礎にもなっています。

 

現在の電磁気学では,電荷は単純に実在するスカラー量の1つであ

るとされているのに対して,磁荷というスカラーは現実に実在する

量ではありません。

 

磁荷に相当するものとしては,コイルのような回転電流の上下にN

極とS極という2つの磁荷が対になって双極子として出現する存在

でしかないと考えられています。

 

しかし,電磁気学において磁気単極子(モノポール)が存在しても

矛盾がないことを見るために,まず,真空中の電磁場のMaxwell

方程式を書き下します。

 

すなわち,div=ρe,rot=∂/∂t+e,div=0,

 -rot=∂/∂tです。

  

 そして,もしもモノポールが存在するとした場合に,上の方程系は,

 一般にはゼロでない磁荷密度ρmと磁荷電流密度mの存在を仮

 することによって,一般化されたMaxwellの方程式に修正されます。

 

 すなわち,div=ρe,rot=∂/∂t+e,div=ρm,

 -rot=∂/∂t+mです

 

 そして,この一般化されたMaxwellの方程式に対して,

 擬スカラー角ξによる次の双対性変換:

 

   'cosξ+Z0'sinξ,

 Z0=Z0'cosξ+'sinξ,

 Z0=-'sinξ+Z0'cosξ,

   =-Z0'sinξ+'cosξ,

  

 および,

 

 Z0ρe=Z0ρe'cosξ+ρm'sinξ,

 Z0e=Z0e'cosξ+m'sinξ,

  ρm=-Z0ρe'sinξ+ρm'cosξ,

  m=-Z0e'sinξ+m'cosξ

  

 を施しても方程式の形は不変です。

 

さらに,もしも全ての粒子で磁荷と電荷の比が同一なら,

双対性変換の結果,ρm'とm'が共にゼロになるような

擬スカラー角ξを選ぶことが可能となります。

  

したがって,その変換を実行することにより,一般化された

Maxwellの方程式は通常のMaxwellの方程式に帰着されます。

 

次に,Diracの磁気単極子の理論を詳しく説明するために,波動

関数の位相について考察してみます。

  

まず,ある特定のSchroedinger方程式を与えられた境界条件の

下で解いた1つの解ψを考えます。

  

ψは1成分の波動関数で座標と時刻tの関数ですから,これを

ψ(,t)≡A(,t)exp{iβ(,t)}と表現します。

 

ただし,A(,t),β(,t)は実数値関数です。

 

通常の物理的状況を想定し,境界条件は確率として観測可能な量

である|ψ(,t)|2にのみに依存すると仮定します。

  

そして,ψの位相βに定数位相を加えて得られる新しい波動関数

ψ'とします。

 

すなわち,ψ'(,t)≡A(,t)exp{iβ'(,t)},

β'(,t)=β(,t)+(定数) とします。

 

このときψ'はψが満たすのと同じ波動方程式の解であり,実験

との比較における理論的結論においてもψ'とψの間に何の差異

もないことは明らかです。

 

それ故,ある1点での波動関数の位相という量:β(,t),

または,β'(,t)は,それ単独では何の物理的意味も持たない

といえます。

 

しかし,位相β(,t),β'(,t)に共通の性質として重要なの

は,異なる:つまり異なる2点でのそれらの差は常に一定である

ということです。

 

すなわち,位相が意味を持つとすれば,それは異なる2点における

位相差のみであるといえます。

 

このことは,同じ方程式の解となる複数の波動関数についてもいえ

ることです。

 

例えば,ψがψ=ψ1+ψ2と重ね合わせで与えられるとき,

ψに関して実際に観測可能な物理量は,確率密度:

|ψ|21|22|2+ψ1*ψ2+ψ1ψ2* ですから,ある1点に

おけるψ1とψ2の位相に共通の値を加えても結果は同じです。

 

しかし,ψ1とψ2に別々の位相を加えて勝手に位相差を変えると

結果が変わってしまいますから,位相差には明確な意味があると

いえます。

 

ここで,Diracが1931年の論文において考察した1つの一般化を

与えます。

 

すなわち,物理的に意味のある波動関数は任意の2点に対してで

はなく,近傍にある2点に対してのみ,その位相差が確定した値を

取ることを要求された位相を持つ関数であるとします。

 

そこで,遠く離れた2点での位相差はそれらを結ぶ経路に依存して

もよいと仮定します。

 

すると,同一点であっても閉じた経路を周回して戻ったときには,

位相が元の値と異なることがあってもいいことになります。

 

そして,もしもこの意味でも波動関数の1価性は保持されること

要求するなら,経路周回によって生じる位相差は,2πの整数倍

でなければなりません。

 

しかし,ここでは波動関数が必ずしも1価であることは要求しない

ことにします。

 

そして,そのように仮定しても,理論を応用する上で曖昧さが生じ

ないための条件を求めます。

 

そのために,波動関数ψを位相が確定した可積分な部分:

の座標によって"定数を除いて位相が一意的に決まる部分

=いわゆる渦無しの部分,あるいは,非回転的な位相部分:ψ1

と,非可積分な位相γを持つ部分の因子に分けて, 

ψ≡ψ1 exp(iγ) と書きます。

 

そして3次元空間の中を運動する1粒子問題を対象として,座標

は直角座標であるとします。

 

位相γは4次元Minkowski空間のあるベクトル:aμ(,t)により

γ(,t)=∫Cx,tμ(yμ)dyμと表現されますが,可積分性:

μν=∂νμ(μ≠ν)は一般に成立しません。

 

ただしxμ=(x0,)であり,x0=t,=(x1,x2,x3)です。

 

まず,波動関数の確率解釈の要請は,γには何の制限も与えないこと

を示します。

 

すなわち,確率,および期待値では,波動関数に対して必ずその複素

共役が対になった積で与えられるので,位相部分の任意性は相殺さ

れます。

 

しかし,この確率解釈では,物理量をOとしてC+Oφ)d

考察の対象になることがあります。

 

O=1の場合は,これは状態ψとφの重なり具合を与えます。

 

そこで,これは確定した値を持つ必要があり,そのためにはこれらの

被積分関数の2点間の位相差が確定値を取る必要があります。

 

これは位相γにある制限を与えるようにみえます。

 

つまり,積分が確定するには任意の波動関数の対:ψとφが閉じた

経路Cの周回については,2πの整数倍を除いて,つまり,mod (2π)

で同じ位相差を持つことが必要十分です。

 

すなわち,ψ≡ψ1exp(iγ);γ(,t)=∫x,tμ(yμ)dyμ,

かつ,φ≡φ1exp(iη);η(,t)=∫x,tμ(yμ)dyμとした

とき,

 

Cを閉じた経路として, 

Cμ(yμ)dyμCμ(yμ)dyμ2nπ (nは整数)

なることが条件です。

 

ところが,ここで,2つの条件:

 

(1)Cが1点にホモトピー(Homotopy)である。

(2)μ,bμCの内部で連続的に定義できる。

 

が満たされているとすると,

 

Cμ(yμ)dyμCμ(yμ)dyμ2nπの左辺は,

Cを1点に縮小するとゼロになりますから,

この等式が成立するためには右辺のnもゼロになるしか

ありません。

 

そして,上の2つの条件が全ての閉路Cと波動関数の対ψ,φに対し

て成立しているとします。

 

n=0 によりCμ(yμ)dyμCμ(yμ)dyμ0 です

から,Stokesの定理によって,

C(a)μdyμS{rot(a)}μνdSμν0

です。

 

これが常に成立するためには,rot(a)=0 となることが必要

十分ですから,あるδが存在してab=gradδと書けるはずです。

 

故に,η(,t)=γ(,t)-δ(,t)でありη,γは非可積分

ですがδは可積分です。

 

そこで,δを可積分位相のみの部分であるφ1の方に含めると,

結局,η(,t)=γ(,t) です。

 

すなわち,非可積分位相は全ての波動関数に共通であるとしてよい

ことになります。

 

かくして,非可積分位相γは全ての波動関数に共通であるとして

よいことがわかったので,このγの存在は力学系自身の性質であ

って,個々の状態とは無関係であるということになります。

 

そこで今考えている1粒子系の場合には非可積分位相γは粒子が

置かれている背景の力の場そのものに関係しているはずです。

 

ところで,

μψ=ihc∂ψ/∂xμ

exp(iγ)[ihc(/∂xμ)-hcμ]ψ1です。

(ただし,hc≡h/(2π);hはPlanck定数)

 

一方,電荷eの粒子と電磁場Aμの相互作用がある場合の

Hamiltonianは,極小相互作用の原理によって,

 

電磁場Aμが存在しないときのにおいて,

μ→ (pμ-eAμ/c)と置き換えればいいことがわかって

います。

  

そこで,上で求めたpμψ=exp(iγ)(pμ-hcμ)ψ1なる式を

考慮し,ψは電磁場と相互作用しないとするときには,

ψ1は見掛け上,Aμ=hccaμ/eなる電磁ポテンシャルを持つ

電磁場と相互作用しているように見えます。

 

さらに,通常の手続きで,その電磁ポテンシャル:

μ=hccaμ/eから,=rot,=-∇A0-∂/∂t

によって電場E,磁場を表現することもできます。

 

あるいは,

逆に電磁ポテンシャルAμと相互作用する波動関数ψ1を求めたい

ときには,μ=hccaμ/eと,γ(xμ)=∫μ(yμ)dyμ

通じて非可積分位相γを計算し,ψ=exp(iγ)ψ1によって新し

い波動関数ψを定義すれば,

 

これは電磁ポテンシャルのない場合の波動方程式の解ですから,

μが既知のときには,ψとψ1は一方が解ければ他方も解ける

という関係になります。

 

結局,Schroedinger波動関数に対する電磁場の効果は非可積分

位相のみに現われると考えることができます。

 

ここで,前述の2つの条件のうちの1つ:

"(1)Cが1点にHomotopyである。"が満たされない場合の例として

円周上(0≦θ≦2π)でのSchroednger方程式を調べてみます。

 

このSchroedinger方程式はPlanckや質量を無視した単位では,

-(1/2)d2ψ(θ)/dθ2=Eψ(θ) です。

 

これの境界条件として,

ψ(2π)=exp(-2πiA)ψ(0)(Aは実定数)を要求して,

全ての実数θの領域での波動関数ψ(θ)を考察します。

  

境界条件によって,この問題はEが離散的固有値:

n(n-A)2/2 (nは整数)を持ち,その固有関数が

ψn(θ)=(2π)-1/2exp{i(n-A)θ}である,

と解かれます。

 

この波動関数では円周を1回転するごとに-2πA(mod 2π)

の位相変化が生じるのでψ(θ)は1価ではなく非積分位相:

γを持ちます。

 

γには定数だけの曖昧さがあるので,

γ(θ)≡-∫0θAdθ'=-Aθ と定義します。

 

位相γをψから分離すると,

ψn(θ)exp(iγ)ψ1n(θ);ψ1n(θ)=(2π)-1/2exp(inθ)

と書けます。

 

よって,ψ1n(θ)は円周上で確定した位相を持ちます。

 

そして,分離によって新しく得られた波動関数ψ1n(θ)の満たす

新しいSchroedinger方程式は,

-(1/2)[(d /dθ)-iA]2ψ(θ)=Eψ(θ)

となります。

 

満たすべき境界条件はψ(2π)=ψ(0)です。

 

固有値は,En(n-A)2/2 (nは整数)で変化しません。

 

これは考えている円周がxy面上にあるとする座標系で,

(-Ay,Ax,0),A00 で与えられる電磁場;

μ=(A0,)が存在する下でのSchroedinger方程式とその解

であると解釈できます。

 

この例は,γ(θ)≡-∫0θAdθ'=-Aθですから,この円周C

は円の内部の1点にHomotopyではありません。

 

つまり,条件(1)"Cが1点にHomotopyである。"が満たされない例

となっていますが,この場合でも"波動関数ψから非積分位相γを

分離した残りの部分ψ1は1価関数であり電磁場の存在下での状態

を記述する。"という結論はそのまま成立しています。

 

ただし,条件(1)が満たされないときは一般に波動関数ψは1価関数

ではありません。

 

一方,条件(2)"μ,bμCの内部で連続的に定義できる。"が満た

されない場合を考察します。

 

ただし,条件(1):"Cが1点にHomotopyである。"の方は満たされて

いると仮定します。

 

3次元空間で極座標(r,θ,φ);

rsinθcosφ,yrsinθsinφ,zcosθを用いて,

次の関数を考えてみます。

 

ψ1(,t)=f(r,t)sin(θ/2)exp(inφ)です。

ただし,f(r,t)は1価連続とします。

 

この例では,ψ1はθ0 で連続であるにも関わらず,閉路が

半直線θ0 の周りを1周すると,その閉路が如何に小さくとも

位相の変化は∫φ=0φ=2πφ{∂(nφ)/∂φ}=2πnです。

 

よって,θ0 で位相に不連続な跳躍があるため,

条件(2)"μ,bμCの内部で連続的に定義できる。"

が満足されない例となっています。

 

一般に1価連続の波動関数がゼロとなるところ:ψ10 となる

場所では同様なことが生じる可能性があり,位相が定義できない

ので条件(2)が成立しなくなります。

 

ψ10 はψ1が複素数値なのでψ1(,t)の4つの変数(,t)

に対し2つの独立な制限を与えます。

 

それ故,時刻tを固定するとψ10 はある1次元の曲線を

定めます。

 

この方程式:ψ1=0 を満たす零点を示す曲線を節線と呼びます。

 

1本の節線を指定したとき,これを周回する十分小さい閉路Cに

ついてψ1の位相δの1周の変化量は,

C∇δdn(nは整数)

と表わすことができます。

 

nはこの節線に固有の量ですから,これを指数と呼びます。

 

指数の符号は節線と閉路Cの相対的位置に依存します。

 

ここで,元の波動関数ψ=exp(iγ)ψ1の位相(δ+γ)が有限な

大きさの閉路Cの周回に関してどの程度変化するかを評価します。

  

ただし,Cは多数(k個)の小閉路Cjの合併で,Cjはそれぞれが

高々1本の指数がj節線を囲んでいるとします。

 

jが節線を囲んでいない場合は,nj0 とします。

 

また,閉路Cを境界とする曲面をSとします。

 

このとき,C(δ+γ)d=∑j(∫C j∇δd)-∫C

j2πnj-∫S(∇×)dS です。

 

ここで,=(a1,a2,a3)=-(a1,a2,a3)であり,

γ=∫x,tμdsμ;∫a0ds00 です。

 

さて,電磁ポテンシャルをAμ≡hccaμ/eによって導入し,

上式に,∇×={e/(hcc)}rot={e/(hc)}を代入

すると,

 

総位相変化量は,

C∇(δ+γ)d=∑j2πnj{e/(c)}∫S

2πN{e/(hc)}Φ で与えられます。

 

最後の式では,指数の代数和をN≡jjとし,Sを貫く全磁束

をΦとしています。

 

ところで,もしもSが閉曲面なら,そもそもそれは境界Cを持た

ないので位相変化量はゼロのはずです。

 

したがって,この場合は 2πN{e/(hc)}Φ=0 です。

 

一方,同じくSが閉曲面のとき,指数の総和N=jjにおいて,

節線がS全体を通過している場合,その節線に関する指数j

よる寄与の総和は相殺されてゼロになりますから,

 

Nに寄与する節線の指数jとしては,Sの内部に端点のある節線

によるもののみに帰着します。

 

これは,全磁束Φへの部分小閉路内磁束の寄与についても同じです。

 

つまり,Sの外から入ってきて外へと通過してしまう磁束なら,

その全磁束Φへの寄与はゼロです。

 

それ故,Φにゼロでない寄与を与える磁束は,閉曲面Sの内部に

端点を持ち,そこでの湧き出しのみがΦへの寄与になる,

と考えられます。

 

そもそも,通常の磁場のみでモノポールが全くないなら,磁力線には

端点というものがありませんから,Φ=0 です。

 

そこで逆に全磁束Φがゼロでないなら,Sの中には磁束の湧き出し

をもたらす"磁力線の端点=電磁場の特異点"があるはずです。

 

ところが,全磁束Φは問題としている粒子にとっては単に外的な

磁場の効果であり,等式 2πN={e/(hc)}Φでは右辺は磁場

のみに依存して粒子の状態には無関係な量です。

 

そこで,この等式は,左辺のNが全ての波動関数に対して,共通な

値であることを意味します。

 

つまり,"ψ1の零点=節線"のうちSの中で終わっている端点は

電磁場の特異点に対応しているといえます。

 

閉曲面Sを十分小さく取って,その内部に含まれる電磁場の特異

点は1つだけであるようにします。

 

電磁場といっても今問題になるのは磁場だけなので,特に唯一の

特異点が原点にあるとして,

電場,磁場が,それぞれ,=0,=g/r3となる場合

を考えます。

 

このとき,S内の全磁束は,

Φ=∫S=gS/r34πg

と計算されます。

 

磁場の強さを示すgは,磁気単極子(モノポール)の磁荷と

呼ばれる量に対応しており,2πN{e/(hcc)}Φ=0 は,

4πg/(hcc)=2πN,またはg=N{hcc/(2e)}なること

を意味します。

 

これは,磁荷:gが{c/(2e)}の整数倍でなければならないこと

を示しています。

 

あるいは,e=N{hcc/(2g)}と書けば,逆に,

電荷:eが{c/(2g)}の整数倍でなければならないこと

になります。

 

結局,電荷の量子化が得られたことになります。

 

位相に関する話題はこの他にもありますが,一応,Diracの

磁気単極子(モノポール)の理論に関連した話だけをしよう

と思ったので,今日のところはここで完結とします。

 

参考文献:Jackson 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上)」(吉岡書店);

矢吹治一 著「量子論における位相」(日本評論社)

 

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2007年8月23日 (木)

S行列とレッジェ理論(2)

 前記事の続きです。

 

 Born級数による扱いが可能になったので弾性的な散乱についての

 見通しは幾分よくなりましたが,既述したように束縛状態の存在

 や共鳴散乱のある場合に,それらを散乱振幅へと反映する手法と

 しては,そうした扱いは有効ではありません。

  

そこで,一般的な散乱をも扱える別の手法を模索してみます。

  

まず,求めるポテンシャル:Vが球対称な一般的ケースでは波動関数

の角変数部分が球面調和関数で展開できることを利用し,

  

いわゆる部分波解析の方法を用いることにより,こうした種々の

散乱についても有益な情報が得られるかどうかを調べてみます。

  

そのため,散乱のポテンシャル:Vは球対称なV(r)である,

それもV(r)が核子-核子散乱の相互作用を,πのような中間子

の交換によるものと見なし,

   

1937年に湯川によって導入された湯川ポテンシャル:

exp(-μr)/rのようなものであるとします。

  

すなわち,V(r)は有効レンジ:r01/μを持っていて,

r<r0ではr-1のような挙動をし,r>r0では急減少する

ようなrの関数とします。

 

このとき,有効ポテンシャルは角運動量:lがゼロでないときには,

c≡h/(2π)=1の単位で,V(r)+l(l+1)/r2となります。

  

この,遠心力項,または障壁項と呼ばれる項:(l+1)/r2

-2の効果を与えますから,この項と比較するとポテンシャル

(r)のr<r0におけるr-1の効果は無視できます。 

 

そこでV(r)として同じ性質を持つ一般的な湯川ポテンシャル

の重ね合わせ:

V(r)≡A1exp(-μ1)/r+A2exp(-μ2)/r+..

+∫μ0dμ'{B(μ')exp(-μ'r)/r}のような形を想定して

おきます。

 

粒子間の相互作用が全て種々の有効レンジを持つ粒子の交換に

起因すると見るなら,こうした形のポテンシャル設定はとりた

てて非現実的なものであるとはいえないと思います。

 

さてz軸を入射ビームの向きに取り,それを極軸とした極座標

を考えます。

 

動径をr≡||としがz軸となす角をθとします。

 

このとき,波動関数Ψ()は,rとθのみに依存し角度φには依存

しません。

 

そして,Ψ()は角運動量演算子:の平方:2の固有値l(l+1)

に属する固有関数であるl次のLegendre多項式:Pl(cosθ)によっ

て展開されます。

 

すなわち,Ψ()=∑l=0[yl(r)/r]Pl(cosθ)と書けます。

 

3次元のSchroedinger方程式:

2Ψ()+[k2-V(r)]Ψ()=0 は,

1次元の動径方程式の集まり:

2l(r)/dr2[k2-V(r)-(l+1)/r2]l(r)0

(l=0,1,2,..)に帰着します。

 

展開:Ψ()=∑l=0[yl(r)/r]Pl(cosθ)の右辺の(1/r)の

存在から,r~ 0 での存在確率は,

 

[|yl(r)|2/r2]r2drd(cosθ)dφ

~ |yl(0)|2drd(cosθ)dφ

となります。

 

それ故,Ψ()が0でも確率波であるという物理的解釈が保持

されて原点に特異性を持たないためには,|yl(0)|が有限である

必要があります。

 

しかも,後に示すように,結局全てのlに対してyl(0)=0 でなけ

ればならない,ことがわかります。

 

また,rが十分大きいところでは定数k2に比して指数的に減少する

(r)と遠心力(l+1)/r2は無視できるので,

 

Schroedingerの波動方程式の動径部分は,

2l(r)/dr22l(r)=0  となります。

 

この方程式は簡単に解けて正弦関数になります。

  

その解における積分定数の1つとして定数位相を指定してそれを

αlとすると,解は,sin(kr+αl)に比例します。

 

そこで,

l(r)r→∞~ Glsin(kr-lπ/2+δl) と表現できます。

 

ここで,(r)がないときの動径方程式:

2l(r)/dr2[k2(l+1)/r2]l(r)0 の解は,

l(r)=Alrjl(kr)=Al{π/(2kr)}1/2l+1/2(kr)

で与えられることがわかります。

 

これはr→ ∞で,yl(r)~ (Al/k)sin(kr-lπ/2)

なるので,これを考慮してαl≡δl-lπ/2 としました。 

 

そして,いわゆる散乱波動関数の部分波における"位相のずれ

(phase-shift(=δl"は,ポテンシャルV(r)によって完全に

決定され,V(r)が消えるとδlも消えることになります。 

 

散乱振幅:f(θ)と位相のずれ:δlの間の関係を得るためには,

動径波動関数:yl(r)を,全波動関数の漸近形:

Ψ()=exp(ikz)+f(θ)exp(ikr)/r+O(1/r2)

に関連付ける必要があります。

 

そのため,yl(r)やΨ()を構成する項を

内向き球面波:exp(-ikr)/rと,

外向き球面波e:xp(ikr)/r の重ね合わせとして表現する

ことを考えます。

 

まず,l(r)r→∞~ Glsin(kr-lπ/2+δl)

={Gl/(2i)}[exp(ikr-ilπ/2+iδl)

-exp(-ikr+ilπ/2-iδl)]と

書けます。

 

また,exp(ikz)=exp(ikrcosθ)

=∑l=0[Yl(r)/r]Pl(cosθ)なる展開公式があります。

 

ただし,Yl(r)=il(2l+1)rjl(kr)

~ {(2l+1)/(2ki)}[exp(ikr)

-exp(-ikr+ilπ)] as r→ ∞ です。

 

散乱のプロセスは,外向き波のみを生成し,yl(r)の内向き成分

は,exp(ikz)を維持します。

 

それ故,yl(r)r→∞と,Yl(r) r→∞の対応する内向き項は一致

しなければなりません。

 

したがって,Gl{(2l+1)/k}exp(iδlilπ/2)と書けます。

 

その結果,

l(r)r→∞

~ {(2l+1)/(2ki)}[exp(ikr+2iδl)

-exp(-ikr+ilπ)] となります。

 

ここで,yl(r)≡Yl(r)+ylsc(r)と書いて,

 

散乱状態波動関数:

Ψ() r→∞ exp(ikz)+f(θ)exp(ikr)/r

=∑l=0[yl(r)/r]Pl(cosθ)

の展開級数における動径関数:l(r)から,

 

平面波部分:exp(ikz)=∑l=0[Yl(r)/r]Pl(cosθ)の寄与:

l(r)を分離して,散乱部分波ylsc(r)を取り出します。

 

(θ)exp(ikr)/r=∑l=0[ylsc(r)/r]Pl(cosθ)

ですから,散乱部分波:ylsc(r)は,散乱波動関数::

f(θ)exp(ikr)/rの角運動量lの部分への寄与を与える

ものです。

 

他方,ylsc(r)=yl(r)-Yl(r)

={(2l+1)/(2ki)}exp(ikr)[exp(2iδl)-1]

={(2l+1)/k} exp(iδl)sinδlexp(ikr) です。

 

以上から,散乱振幅:f(θ)をf(k2,cosθ)と書けば,

散乱振幅の基本方程式として,

 

f(k2,cosθ)=∑l=0{(2l+1)/k}exp(iδl)sinδll(cosθ)

なる展開形が得られます。

 

これはf(k2,cosθ)=∑l=0(2l+1)al(k2)Pl(cosθ);

l(k2)≡{exp(iδl)sinδl}/kと書き直すことができます。

 

このとき,al(k2)を部分波振幅と呼びます。

 

逆に,Legendre多項式:Pl(x)の直交性:

-11l(x)Pm(x)dx=2δlm/(2l+1)を用いると,

 

散乱振幅f(k2,cosθ)が既知のとき,

l(k2)=(1/2)∫-11l(cosθ)f(k2,cosθ)d(cosθ)

によって,原理的には,部分波振幅al(k2)を求めることが

できます。

 

あらゆる運動学的特徴を考慮し,数学的整合性のみに従って

散乱振幅の基本方程式を定式化しましたが,

 

位相のずれ:δlを実際のポテンシャルV(r)と関連付けると

いう本質的な動力学の問題が残っています。

 

そのための数学的な筋道としては,動径方程式:

2l(r)/dr2[k2-V(r)-(l+1)/r2]l(r)0

の解を見出し,その漸近形を求めて,

l(r)r→∞

~ {(2l+1)/(2ki)}[exp(ikr+2iδl)-exp(-ikr+ilπ)]

との比較からδl見出すという手続きを実行すればよい

と考えられます。

 

しかし,遠心力項l(l+1)/r2が存在するため,動径方程式は

原点r=0 では十分特異なので,まずr=0 の近傍における解

l(r)の挙動から調べることにします。

 

rが小さいとき,limr→0|r2(r)|→ 0 ですから,

遠心力項 ~ r-2に比してV(r)やk2は無視できて,

r~ 0 では,動径方程式が

2l(r)/dr2(l+1)yl(r)/r20 であるとする

ことができます。

 

そして,これは簡単に解けて独立な2つの解として,

l(r)=rl+1,r-lを取ることができます。

  

そしてl≠0 のときには,limr→0-l=∞ となるので

-lは物理的な解から除外され,l=0 のときのr-l=1なる

定数解も除外されます。

  

なぜなら,l=0 のときl(r)~ r-l=1は,確かに

2l(r)/dr2(l+1)yl(r)/r2=d2l(r)/dr20

の解ですが,

 

正確な方程式:

2l(r)/dr2[k2-V(r)]yl(r)=0 の 0 において

は明らかに解とは成り得ないからです。

 

それに対して,yl(r)~ rl+1 0 は正しい解と成り得ます。