場の演算子とリー群(Lie群)の生成子
ちょっとブログネタに困ったので場の理論についての短い覚書き でお茶を濁しておきます。 一般に,n個の生成子Lk(k=1,2,..,n)を持つユニタリ群の 無限小変換はU≡1+iεkLk(Lk+=Lk)と書けます。 実は量子論ではプランク定数:hc≡h/(2π)を用いて
U≡1+iεk(Lk/hc)と書くのが普通ですが,場の理論
ではhc=1という自然単位を用いるのが慣例なので
それに従うことにします。
必要ならLkの表式にhcを掛ければ普通の単位系に
なります。
Hilbert空間の状態ベクトル|ψ>は,この変換に
伴なって|ψ'>=U|ψ>と変換されます。
Uの行列表現の要素Uαβは,Hilbert空間の状態ベクトル
による正規直交基底|ψα> (α=1,2,..)に対する変換性
|ψα'>=U|ψα>≡Uβα|ψβ>で定義され,
Uαβ=<ψα|U|ψβ>と書けます。
Hilbert空間の任意のベクトル|ψ>は基底|ψα>によって
|ψ>=Σγcγ|ψγ>と展開表現されます。
同じユニタリ群の変換Uに対し,|ψ>の変換性は,
|ψ'>≡U|ψ>=ΣγcγU|ψγ>
=Σα(Uαγcγ)|ψα>となります。
すなわち,状態ベクトル|ψ>を|ψα>(α=1,2,..,)を基底
とする無限次元の数ベクトルcと同一視する,
つまり|ψ> ~ c≡t(c1,c2,..),かつ
|ψ'>~ c'≡t(c1',c2',..)と見なして,
Uを改めてUαβを行列成分とする無限次元の行列と考える
ことができます。
このユニタリ変換|ψ'>≡U|ψ>は,無限次元数ベクトル
への行列の作用という線形変換の表現c'=Ucに同定
されます。
そこで,|ψα>=ψα+|0>とすれば,U|0>=|0>という
規約とU|ψα>=Uψα+|0>=Uβαψβ+|0>から,
Uψα+U+=Uβαψβ+と定義されている,
と考えてもいいわけです。
それ故,UψαU+=Uβα*ψβ,すなわち,
UψαU+=Uαβ+ψβとなります。
ユニタリ性の定義によって,行列としてUU+=U+U=1
であり,演算子(作用素)としてもUU+=U+U=1ですから,
ψα=Uαβ+U+ψβU,つまり,Uγαψα=δγβU+ψβU
によって,U+ψαU=Uαγψγと書き直せます。
これは,いわゆる期待値の観測における対応原理
<φ'|ψα|χ'>=<φ|U+ψαU|χ>=Uαβ<φ|ψβ|χ>
とも無矛盾です。
例えば4次元座標xをパラメータとするスピノル波動関数
をψr(x)(r=1,2,3,4)と書くと,これは一般的なLorentz変換
x'μ=Λμνxνの下でψ'r(x')=ψ'r(Λx)=Srsψs(x)
と変換されます。
もしも第二量子化がなされ,ψr(x)は単なるスピノル波動関数
ではなくて量子場を記述する演算子であるなら,変換される
のは場ではなくて,状態ベクトルの方であるとする立場を取る
べきです。
そこで,このとき対応原理から古典場の変換性:
ψ'r(x')=ψ'r(Λx)=Srsψs(x)は,量子場では
<φ'|ψr(x')|χ'>=<φ'|ψr(Λx)|χ'>
=<φ|U+ψr(Λx)U|χ>=Srs<φ|ψs(x)|χ>
と表現されます。
この場合,場の演算子の変換性に着目すると,それは
U+ψr(Λx)U=Srsψs(x),あるいは,
Uψr(x)U+=Srs-1ψs(Λx)と書けます。
そして座標パラメータxが関係しないアイソスピン(荷電スピン)
のような内部空間の回転の場合なら,この対応原理は
既にユニタリ変換に対して前に与えた表現
<φ'|ψα|χ'>=<φ|U+ψαU|χ>=Uαβ<φ|ψβ|χ>
と一致します。
U=1+iεkLk (Lk+=Lk)という表現は,行列表示では
Uαβ=δαβ+iεk(Lk)αβです。
U+ψαU=Uαβψβは,
(1-iεkLk)ψα(1+iεkLk)=[δαβ+iεk(Lk)αβ]ψβ
と書けます。
これにより,[Lk,ψα]=-(Lk)αβψβ,および,
[Lk,ψα+]=(Lk)αβψβ+ が得られます。
ここで,今までの変換の議論とは全く独立で別の話であると考え,
あるn個のエルミート行列:(Lk)αβ(k=1,2,..,n)が存在して
無限小変換ψα→ψα+δψα≡[δαβ+iεk(Lk)αβ]ψβ
=ψα+iεk(Lk)αβψβに対して,LagrangianL が不変である
という対称性がある場合を考えます。
このとき,対称性と関わるネーター(Noether)の定理によって
∂μ[{∂L/∂(∂μψα)}δψα]=0 が成り立ちます。
これに,δψα=iεk(Lk)αβψβを代入すると,
εk∂μ[{∂L/∂(∂μψα)}(Lk)αβψβ]=0
が得られます。
εkは任意の無限小パラメータなので,
Jkμ(x)≡-i{∂L/∂(∂μψα)}(Lk)αβψβ(x)
とおけば,∂μJkμ=0 と結論されます。
つまり,n個の保存するカレント密度Jkμ(x)(k=1,2,..,n)
の存在が確認されます。
これらの保存カレント密度ベクトルJkμの第ゼロ成分
を取って,演算子Lk(k=1,2,..,n)を
Lk≡∫Jk0(x,t)dxで定義します。
これらが,このユニタリ変換の無限小表示:U≡1+iεkLk
でのn個の生成子,つまり線型Lie群のリー代数Lkと一致する
ように理論が形成されているなら,
先の考察:[Lk,ψα]=-(Lk)αβψβは,同時刻交換関係
[∫Jk0(x',t)dx',ψα(x,t)]=-(Lk)αβψβ(x,t)
と同値になります。
これは,結局のところ,
[Jk0(x',t),ψα(x,t)]=-(Lk)αβψβ(x,t)δ3(x'-x)
すなわち,
[-i{∂L/∂(∂μψγ)}(Lk)γδψδ(x',t),ψα(x,t)]
=-(Lk)αβψβ(x,t)δ3(x'-x)を意味しています。
例えばψα(x)がFermi粒子(Fermion)の場であるとすると,
{ψδ(x'),ψα(x)}=0 であり,
一般に[AB,C]=A{B,C}-{A,C}Bなので,スピン添字
を無視すれば,
-(Lk)γδ{-i{∂L/∂(∂μψγ)}x',t,ψα(x,t)}ψδ(x',t)
=-(Lk)αβψβ(x,t)δ3(x'-x)です。
これから,{-i{∂L/∂(∂μψγ)}x',t,ψα(x,t)}
=δγαδ3(x'-x) を得ます。
自由場のLagrangian密度L0=ψα+γ0(iγμ∂μ-m)ψαに
ψの微分を含まない相互作用を付加した,Lagrangian密度L
では,ψγ+=-i{∂L/∂(∂μψγ)}となります。
それ故,上述の交換関係は
{ψγ+(x',t),ψα(x,t)}=δγαδ3(x'-x)となり,
正準反交換関係と一致しますから,上記の生成子Lkの定義
Lk≡∫Jk0(x,t)dx'は正準量子化の理論のそれと一致
することがわかります。
そして,このとき,
Jkμ(x)=ψα+(x)γ0γμ(Lk)αβψβ(x)ですから,
このユニタリ変換群の生成子は,
Lk=∫Jk0(x,t)d3x=∫ψα+(x,t)(Lk)αβψβ(x,t)d3x
と表現されます。
∂μJkμ=0 ,つまり保存カレントなのでdLk/dt=0 です。
各生成子Lkは保存量となります。
ちなみに,座標系の平行移動x'=x-bに対しては,
ψr(x-b)=U+ψr(x)Uで,これの無限小変換
x'=x-εでは(1-iεμPμ)ψr(x)(1+iενPν)
=ψr(x-ε)=ψr(x)-εμ∂μψrより,
平行移動という変換は,i[Pμ,ψr]=∂μψrなる交換関係
で特徴づけられます。
このとき平行移動の生成子:Pμは場の演算子によって
Pμ=i∫ψr+(x,t)∂μψr(x,t)dxと表現され,
これは4元運動量の演算子を表わしています。
例としてスピンが 1/2 のFermi粒子を想定しましたが
Bose粒子(Boson)でも同様であって,もちろん正準量子化
と無矛盾です。
そして,U=1+iεkLk (Lk+=Lk)の無限小パラメータεkが
時空間の全ての点xに対して共通な場合の変換は
大局的ゲージ変換,あるいは第一種のゲージ変換と呼ばれます。
Noetherの定理による保存量,保存カレントの存在は,第一種の
変換に対する理論の不変性だけから保証されます。
もしも,この無限小パラメータεk が時空の位置xの関数:
εk=εk(x)である場合には,同じユニタリ変換:
U(x)=1+iεk(x)Lkは局所的ゲージ変換,あるいは第ニ種
のゲージ変換と呼ばれます。
ところが,この第ニ種のゲージ変換に対してもLagrangian密度
Lが不変(=理論が不変)であるとした場合には,
一般にその不変性を保証すべき等式の中にεk(x)の微分が
存在するため,対象としている物質場の系の中に,さらに
ゲージ場と呼ばれる質量がゼロのベクトル場
(スピンが1のBose場)を導入する必要性が生じます。
これが,例えば電磁相互作用を媒介する"電磁場=光子(photon)"
であったり,また,QCD(量子色力学)のグルオンであったり,重力場
の重力子であったりするというわけで,
内山龍雄先生がヤン・ミルス(Yang-Mills)に先を越されてしまった
ゲージ理論のエッセンスですね。
念のために述べておきますが,
"第ニ種ゲージ変換=局所的ゲージ変換"に対して理論が不変な
場合には,特に無限小変換のパラメータεk(x)が全てのxに対
して共通な定数である場合,つまりεk(x)=εkである特別な
場合の"第一種ゲージ変換=大局的ゲージ変換"に対しても,
もちろん理論は不変です。
したがって保存量として変換の生成子Lkが存在して,これを
物理量として定義できることは言うまでもありません。
もちろん,時間や空間の一様性という対称性とエネルギーや
運動量の保存の関係のように"第一種ゲージ変換=大局的ゲージ
変換"に対する不変性しか成立しない例はたくさんありますから,
一般に上に述べたことの逆は成り立ちません。
すなわち,一般に"第一種ゲージ変換=大局的ゲージ変換"に
対する不変性が成り立つからといって"第ニ種ゲージ変換
=局所的ゲージ変換"に対する不変性も成り立つとは限り
ません。
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コメント
こんばんは。凡人さん、TOSHIです。
イヤ、お互いアマチュア同士であることはわかっているのに、気分がハイだったせいもあって、ちょっといかにもという感じの専門用語をふりまわしたりして、少し大人げなかったかな、と反省しています。
以後は自分のブログとfolomy以外では自重しようかなと考えている次第です。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年8月 7日 (火) 23時58分
EMANさんのところでは、どうもお世話になりました。
凡人の浅知恵に付き合っていただき、申し訳ありませんでした。
投稿: 凡人 | 2007年8月 7日 (火) 23時15分