« 花火大会 | トップページ | 量子力学の基礎(表示の話)(1) »

2007年8月 7日 (火)

場の演算子とリー群(Lie群)の生成子

 

 ちょっとブログネタに困ったので場の理論についての短い覚書き

 でお茶を濁しておきます。

 一般に,n個の生成子k(k=1,2,..,n)を持つユニタリ群

 無限小変換はU≡1+iεkk(Lk+=Lk)と書けます。

 実は量子論ではプランク定数:hc≡h/(2π)を用いて

 U≡1+iεk(Lk/hc)と書くのが普通ですが,場の理論

 ではc=1という自然単位を用いるのが慣例なので

 それに従うことにします。

 

 必要ならLkの表式にhcを掛ければ普通の単位系に

 なります。

 Hilbert空間の状態ベクトル|ψ>は,この変換に

 伴なって|ψ'>=U|ψ>と変換されます。

 

 Uの行列表現の要素Uαβは,Hilbert空間の状態ベクトル

 による正規直交基底|ψα(α=1,2,..)に対する変換性

 |ψα'>=U|ψα>≡Uβαβ>で定義され,

 Uαβ=<ψα|U|ψβ>と書けます。 

Hilbert空間の任意のベクトル|ψ>は基底|ψα>によって

|ψ>=Σγγγ>と展開表現されます。

 

同じユニタリ群の変換Uに対し,|ψ>の変換性は,

|ψ'>≡U|ψ>=Σγγγ

=Σα(Uαγγ)|ψα>となります。

 

すなわち,状態ベクトル|ψ>を|ψα(α=1,2,..,)を基底

とする無限次元の数ベクトルと同一視する,

つまり|ψ> ~ t(c1,c2,..),かつ

|ψ'>~ '≡t(c1',c2',..)と見なして,

Uを改めてUαβを行列成分とする無限次元の行列と考える

ことができます。

 

このユニタリ変換|ψ'>≡U|ψ>は,無限次元数ベクトル

への行列の作用という線形変換の表現'=Uに同定

されます。

そこで,α>=ψα+|0>とすれば,U|0>=|0>という

規約とU|ψα>=Uψα+|0>=Uβαψβ+|0>から,

Uψα++=Uβαψβ+と定義されている,

と考えてもいいわけです。

 

それ故,Uψα+=Uβα*ψβ,すなわち,

Uψα+=Uαβ+ψβとなります。

 

ユニタリ性の定義によって,行列としてUU+=U+U=1

であり,演算子(作用素)としてもUU+=U+U=1ですから,

ψα=Uαβ++ψβU,つまり,Uγαψα=δγβ+ψβ

によって,U+ψαU=Uαγψγと書き直せます。 

これは,いわゆる期待値の観測における対応原理

<φ'|ψα|χ'>=<φ|+ψα>=αβ<φ|ψβ

とも無矛盾です。

例えば4次元座標xをパラメータとするスピノル波動関数

ψr(x)(r=1,2,3,4)と書くと,これは一般的なLorentz変換

x'μ=Λμννの下でψ'r(x')=ψ'r(Λx)=Srsψs(x)

と変換されます。

 

もしも第二量子化がなされ,ψr(x)は単なるスピノル波動関数

ではなくて量子場を記述する演算子であるなら,変換される

のは場ではなくて,状態ベクトルの方であるとする立場を取る

べきです。

 

そこで,このとき対応原理から古典場の変換性:

ψ'r(x')=ψ'r(Λx)=Srsψs(x)は,量子場では

<φ'|ψr(x')|χ'>=<φ'|ψr(Λx)|χ'

=<φ|+ψr(Λx)U|χ>=rs<φ|ψs(x)|χ

と表現されます。

この場合,場の演算子の変換性に着目すると,それは

+ψr(Λx)Ursψs(x),あるいは,

Uψr(x)U+rs-1ψs(Λx)と書けます。

 

そして座標パラメータxが関係しないアイソスピン(荷電スピン)

のような内部空間の回転の場合なら,この対応原理は

既にユニタリ変換に対して前に与えた表現

<φ'|ψα|χ'>=<φ|+ψα>=αβ<φ|ψβ

と一致します 

1+iεkk (Lk+=Lk)という表現は,行列表示では

αβ=δαβk(Lk)αβです。

+ψαU=Uαβψβは,

(1-iεkkα(1+iεkk)=[δαβk(Lk)αββ

と書けます。

 

これにより,[Lkα]=-(Lk)αβψβ,および,

[Lkα+]=(Lk)αβψβ+ が得られます。 

ここで,今までの変換の議論とは全く独立で別の話であると考え,

あるn個のエルミート行列:(Lk)αβ(k=1,2,..,n)が存在して

無限小変換ψα→ψα+δψα[δαβk(Lk)αββ

ψαk(Lk)αβψβに対して,Lagrangian が不変である

という対称性がある場合を考えます。

このとき,対称性と関わるネーター(Noether)の定理によって

μ[{∂/∂(∂μψα)}δψα]=0 が成り立ちます。

 

これに,δψαk(Lk)αβψβを代入すると,

εkμ[{∂/∂(∂μψα)}(Lk)αβψβ]=0

が得られます。

  

εkは任意の無限小パラメータなので,

kμ(x)≡-i{∂/∂(∂μψα)}(Lk)αβψβ(x)

とおけば,μkμ0 と結論されます。

 

つまり,n個の保存するカレント密度kμ(x)(k=1,2,..,n)

の存在が確認されます。

これらの保存カレント密度ベクトルkμの第ゼロ成分

を取って,演算子Lk(k=1,2,..,n)を

k≡∫k0(,t)dで定義します。

 

これらが,このユニタリ変換の無限小表示:U≡1+iεkk

でのn個の生成子,つまり線型Lie群のリー代数kと一致する

ように理論が形成されているなら,

先の考察:[Lkα]=-(Lk)αβψβは,同時刻交換関係

[∫k0(',t)d'α(,t)]=-(Lk)αβψβ(,t)

と同値になります。

これは,結局のところ,

[k0(',t),ψα(,t)]=-(Lk)αβψβ(,t)δ3('-)

すなわち,

[i{∂/∂(∂μψγ)}(Lk)γδψδ(',t),ψα(,t)]

=-(Lk)αβψβ(,t)δ3('-)を意味しています。

例えばψα(x)がFermi粒子(Fermion)の場であるとすると,

δ(x'),ψα(x)}=0 であり,

一般に[AB,C]=A{B,C}-{A,C}Bなので,スピン添字

を無視すれば,

-(Lk)γδ{i{∂/∂(∂μψγ)}x',tα(,t)}ψδ(',t)

=-(Lk)αβψβ(,t)δ3('-)です。

 

これから,{i{∂/∂(∂μψγ)}x',tα(,t)}

=δγαδ3('-) を得ます。

自由場のLagrangian密度0ψα+γ0(iγμμ-mα

ψの微分を含まない相互作用を付加した,Lagrangian密度

では,ψγ+i{∂/∂(∂μψγ)}となります。

 

それ故,上述の交換関係は

γ+(',t),ψα(,t)}=δγαδ3('-)となり,

正準反交換関係と一致しますから,上記の生成子kの定義

k≡∫k0(,t)d'は正準量子化の理論のそれと一致

することがわかります。

そして,このとき,

kμ(x)=ψα+(x)γ0γμ(Lk)αβψβ(x)ですから,

このユニタリ変換群の生成子は,

k=∫k0(,t)d3=∫ψα+(,t)(Lk)αβψβ(,t)d3

と表現されます。

 

μkμ0 ,つまり保存カレントなのでdLk/dt=0 です。

各生成子Lkは保存量となります。 

 

ちなみに,座標系の平行移動x'=x-bに対しては,

ψr(x-b)=+ψr(x)Uで,これの無限小変換

x'=x-εでは(1-iεμμ)ψr(x)(1+iενν)

=ψr(x-ε)=ψr(x)-εμμψrより,

平行移動という変換は,i[Pμ,ψr]=∂μψrなる交換関係

で特徴づけられます。

 

このとき平行移動の生成子:Pμは場の演算子によって

μ=i∫ψr+(,t)∂μψr(,t)dと表現され,

これは4元運動量の演算子を表わしています。

 

例としてスピンが 1/2 のFermi粒子を想定しましたが

Bose粒子(Boson)でも同様であって,もちろん正準量子化

と無矛盾です。

 

そして,U=1+iεkk (Lk+=Lk)の無限小パラメータεk

時空間の全ての点xに対して共通な場合の変換は

大局的ゲージ変換,あるいは第一種のゲージ変換と呼ばれます。

 

Noetherの定理による保存量,保存カレントの存在は,第一種の

変換に対する理論の不変性だけから保証されます。

 

もしも,この無限小パラメータεk が時空の位置xの関数:

εk=εk(x)である場合には,同じユニタリ変換:

U(x)=1+iεk(x)Lkは局所的ゲージ変換,あるいは第ニ種

のゲージ変換と呼ばれます。

 

ところが,この第ニ種のゲージ変換に対してもLagrangian密度

が不変(=理論が不変)であるとした場合には,

一般にその不変性を保証すべき等式の中にεk(x)の微分

存在するため,対象としている物質場の系の中に,さらに

ゲージ場と呼ばれる質量がゼロのベクトル場

(スピンが1のBose場)を導入する必要性が生じます。

 

これが,例えば電磁相互作用を媒介する"電磁場=光子(photon)"

であったり,また,QCD(量子色力学)のグルオンであったり,重力場

の重力子であったりするというわけで,

内山龍雄先生がヤン・ミルス(Yang-Mills)に先を越されてしまった

ゲージ理論のエッセンスですね。

 

念のために述べておきますが,

"第ニ種ゲージ変換=局所的ゲージ変換"に対して理論が不変な

場合には,特に無限小変換のパラメータεk(x)が全てのxに対

して共通な定数である場合,つまりεk(x)=εkである特別な

場合の"第一種ゲージ変換=大局的ゲージ変換"に対しても,

もちろん理論は不変です。

 

したがって保存量として変換の生成子Lkが存在して,これを

物理量として定義できることは言うまでもありません。 

もちろん,時間や空間の一様性という対称性とエネルギーや

運動量の保存の関係のように"第一種ゲージ変換=大局的ゲージ

変換"に対する不変性しか成立しない例はたくさんありますから,

一般に上に述べたことの逆は成り立ちません。

 

すなわち,一般に"第一種ゲージ変換=大局的ゲージ変換"に

対する不変性が成り立つからといって"第ニ種ゲージ変換

=局所的ゲージ変換"に対する不変性も成り立つとは限り

ません。

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。)

http://homepage2.nifty.com/toshis-kaiga-auction/健康商品の店 「TRS健康ランド」

にほんブログ村 科学ブログへクリックして投票してください。(ブログ村科学ブログランキング)

にほんブログ村 トラコミュ 物理学へ
 物理学

|

« 花火大会 | トップページ | 量子力学の基礎(表示の話)(1) »

111. 量子論」カテゴリの記事

102. 力学・解析力学」カテゴリの記事

114 . 場理論・QED」カテゴリの記事

コメント

 こんばんは。凡人さん、TOSHIです。

 イヤ、お互いアマチュア同士であることはわかっているのに、気分がハイだったせいもあって、ちょっといかにもという感じの専門用語をふりまわしたりして、少し大人げなかったかな、と反省しています。

 以後は自分のブログとfolomy以外では自重しようかなと考えている次第です。

           TOSHI

投稿: TOSHI | 2007年8月 7日 (火) 23時58分

EMANさんのところでは、どうもお世話になりました。
凡人の浅知恵に付き合っていただき、申し訳ありませんでした。

投稿: 凡人 | 2007年8月 7日 (火) 23時15分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 場の演算子とリー群(Lie群)の生成子:

» サカタのタネ [サカタのタネ]
いいブログですね。こんにちは。突然のトラックバック失礼します。初心者ですがブログ始めました。よろしくお願いします。 [続きを読む]

受信: 2007年8月 7日 (火) 22時14分

« 花火大会 | トップページ | 量子力学の基礎(表示の話)(1) »