量子力学の基礎(表示の話)(1)
前記事に引き続いて表示の理論を中心に量子論における"基礎的な話
=常識"をいくつか書いてみます。
観測可能な量(物理量):Λがあって,Λの固有値λに属する固有状態
を表わす固有ベクトルを|λ>と書きます。
これはつまり,|λ>≠0 であって,Λ|λ>=λ|λ>を満たすもの
ですね。
量子論によれば,実際的な観測誤差がないなら,Λの1回1回の観測
において観測される物理量Λの値は,Λの固有値に限られ,それ以外
の値が観測されることは決してありません。
そして任意の状態ベクトル:|ψ>は,この|λ>によって,
|ψ>=Σλcλ|λ>(離散的な場合),または,
|ψ>=∫λcλ|λ>dλ(連続的な場合),あるいはこれらの混合
した形でスペクトル展開されます。
こうして展開できることを,物理量の演算子(作用素)Λ,あるいは
固有ベクトル系:{|λ>}の完全性(completeness)といいます。
(※ 実際には,連続的な場合に,|ψ>=∫λcλ|λ>dλと表現で
きるとは限らず,より一般的にはスティスチェス(Stieltjes)積分;
記号的には,|ψ>=∫λcλd(|λ>)と表現されます。)
そして,展開係数は,cλ=<λ|ψ>です。
なぜなら,離散的な場合を例にとると,
<λ'|ψ>=Σλcλ<λ'|λ>=cλ'となるからです。
この最後の等式では,|λ>が正規直交化されている:つまり,
<λ'|λ>=δλ'λである,という仮定を用いました。
もしもそうでないなら,|λ>を<λ|λ>1/2で割ったものを,
改めて|λ>と定義すればいいだけです。
量子論によれば,状態を定数倍しても同じ状態を表わすとされて
いますからね。
そして,もちろん状態 |ψ>も規格化されている:<ψ|ψ>=1と
なるように取られているとします。
つまり,<ψ|ψ>=Σλ'λcλ'*cλ<λ'|λ>=Σλ|cλ|2=1
であるとします。
そして,物理系が状態|ψ>にあるとき,この状態をこわすことなく
観測可能な量Λを無限に多数回観測することが可能なとき,
(※ 実際には1つの系で実験装置が単独のとき,
観測行為は純粋状態:|ψ>を必ずこわすので,
全く同一の(物理系+実験装置)を無限に多数個用意する必要
があり,これを"(純粋)アンサンブル=(純粋)集団"と呼びます。)
Λの期待値(観測値平均):<Λ>は,
<Λ>=<ψ|Λ|ψ>=Σλ'λcλ'*cλλ<λ'|λ>
=Σλλ|cλ|2 で与えられるとします。
ところで,Λの"期待値=平均値"<Λ>は,Λがλという値をとる
確率をPλと書くとき,<Λ>=ΣλλPλで与えられるはずです。
これと,<Λ>=<ψ|Λ|ψ>=Σλλ|cλ|2を比較すると,
Pλ=|cλ|2であること:
つまり,Λの観測値が固有値λをとる確率Pλがcλの絶対値の
2乗:|cλ|2=|<λ|ψ>|2で与えられることがわかります。
そして,このときΣλ|cλ|2=Σλ|<λ|ψ>|2=1ですから,
|cλ|2の総和は1であり,確かに確率であるための条件を満た
しています。
一方,連続的な場合には,<Λ>=<ψ|Λ|ψ>
=∫dλ'dλcλ'*cλλ<λ'|λ>=∫dλλ|cλ|2です。
ここで連続的な場合の正規直交性:<λ'|λ>=δ(λ'-λ)を
用いました。
観測量Λが,その固有値λとλ+dλの間の値として観測される
確率をp(λ)dλとすると,Λの期待値は,
<Λ>=∫dλλp(λ)で与えられるはずなので,
p(λ)=|cλ|2=|<λ|ψ>|2 を得ます。
(※ここでは連続的な場合の確率が,確率論のラドン・ニコディム
(RadonNikodym)の定理の成立条件である絶対連続性を満足している
と仮定しています。)
連続的な場合には,p(λ)=|cλ|2=|<λ|ψ>|2は確率密度を
示していて,p(λ)dλ=|cλ|2dλ=|<λ|ψ>|2dλが確率
になる,というのが,
離散的な場合の,Pλ=|cλ|2=|<λ|ψ>|2が確率そのものに
なる,というのと異なっているところです。
そして,1=<ψ|ψ>=∫dλp(λ)=∫dλ|<λ|ψ>|2なので,
この確率の定義も,確かに確率の公理を満たしています。
離散的,連続的に関わらず,こうしたΛの固有値と固有ベクトル
で展開する表示をΛ-表示といいます。
もしも,観測可能な量Λとして位置座標xを取ると,これは固有値
が連続的な場合に相当するので,
位置xの観測量の期待値は,
<x>=<ψ|x|ψ>=∫dxx|cx|2で与えられ.
p(x)dx=|cx|2dx=|<x|ψ>|2dxと書く
ことができます。
通常この係数:cx=<x|ψ>を波動関数と呼び,ψ(x)なる
関数記号で表わします。
つまり,ψ(x)=<x|ψ>であり,位置xがxとx+dxの間
に見出される確率は,p(x)dx=|cx|2dx=|ψ(x)|2dx
で与えられると解釈されます。
そして,xの期待値の表現は
<x>=<ψ|x|ψ>=∫dxx|cx|2=∫dxx|ψ(x)|2
=∫dxψ*(x)xψ(x) となります。
つまり,x-表示では<ψ|x|ψ>=∫dxψ*(x)xψ(x)
と表現されます。
この場合には,規格化条件:<ψ|ψ>=1は,
∫dxψ*(x)ψ(x)=∫dx|ψ(x)|2=1を意味します。
連続固有ベクトルの正規直交性;<λ'|λ>=δ(λ'-λ)は,
このx-表示の場合,<x'|x>=δ(x'-x)ですから,
xの固有値x0 に属する固有ベクトルの波動関数は,
<x|x0>=δ(x-x0) で与えられることになります。
これの絶対値の2乗は,位置xがx0 に決まっているときに位置
がxである確率密度を与えるものです。
ここで,前記事では,場の量子論においてψr(x,t)(r=1,2,3,4)
がスピノル場の演算子のとき,4元運動量の演算子:Pμが,
Pμ=ihc∫dxψr+(x,t)∂μψr(x,t)で与えられる
ことを見ました。
そこで,3次元の空間運動量P=(P1,P2,P3)については,
P=∫dxψr+(x,t)(-ihc∇)ψr(x,t)となります。
また,スピノル場でなく単成分のスカラー場なら,
P=∫dxφ+(x,t)(-ihc∇)φ(x,t)と書けます。
ここでhc≡h/(2π)でhはPlanck定数です。
このことから場の量子論においての単成分スカラー場に対する
位置演算子Xは,X=∫dxφ+(x,t)xφ(x,t)で与えられ
ると推測されます。実際,その通りで間違いないのですが。。。
そして真空|0>に生成演算子φ+(x,t)を作用させて,
(x,t)で粒子が生成されたという状態:φ+(x,t)|0>
を作ると,
Xφ+(x,t)|0>
=∫dx'φ+(x',t)x'φ(x',t)φ+(x,t)|0>
=xφ+(x,t)|0>となるので,
φ+(x,t)|0>は,位置演算子Xの固有値xに属する固有状態
になっていることがわかります。
つまり,|x>=c*φ+(x,t)|0>です。
ここで定数c* は,|x>を<x'|x>=δ(x'-x)と規格化
するために必要な複素定数です。
したがって,このスカラー場から成る任意の1粒子状態を|Φ>
とするとき,Φ(x,t)≡<x|Φ>=c<0|φ(x,t)|Φ>と
おけば,これがこのスカラー場:φ(x,t)だけで構成される場
の理論での1粒子状態:|Φ>に対応する波動関数を表わしてい
ると解釈されます。
今日はこのくらいにしておきます。
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コメント
こんにちはkafukaさん、TOSHIです。
>p演算子を、ただの、ihc・∂μψr(x,t) と考えていて、支障ないのか、不安に思ったからです。
もちろん、pはそれでいいでしょう。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年10月 4日 (木) 12時17分
僕も、そう思っていまして、場の場の量子論は、やっていません。
(ブログにも、量子論という言葉は使っていません)
で、まぁ、何で質問したかというと、
p演算子を、ただの、ihc・∂μψr(x,t) と考えていて、支障ないのか、不安に思ったからです。
投稿: kafuka | 2007年10月 3日 (水) 19時48分
ども,いらっしゃいませkafukaさん、TOSHIです。ここでは久しぶりですね。
前記事のことは前記事を参照してください、と言いたいところですが前記事でも導入とか定義関係のことをやさしく解説しているわけではなく、そもそもわからない奴は読まなくて結構という個人的で高飛車なブログになっています。
というわけでいっぺんに全部のことをやろうと性急にならないで(思索するだけに費やすのなら人生は意外と長いので)、とりあえず、普通の量子力学を先にして場の量子論は後回しにすることをお勧めします。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年10月 3日 (水) 15時02分
さっそく、参りました。
>前記事では,場の量子論において、、、演算子PμがPμ=ihc∫dxψr+(x,t)∂μψr(x,t)で与えられることを見ました<
とありますが、ラグラジュアンからでしょうか?もう少し補足していただけませんでしょうか。
僕の持ってる本では、p演算子は、ただの、ihc・∂μψr(x,t) に相当するので。
投稿: kafuka | 2007年10月 2日 (火) 22時53分