量子力学の基礎(表示の話)(2)
続きです。
いろんな読書体験に基づいた記憶に頼りながらエッセンスと考
えられることを思い出して書いているので,ちゃんと整理されて
いるわけではなく,思い付きの順になっています。
今日も,まだ書き漏らしていることがあったな,と思い付いたので,
続きを書く気になりました。
まず,状態ベクトルの時間発展の話から始めます。
通常の非相対論的量子論では,位置座標xは物理量を表わす
(線形)演算子((線形)作用素)である,という扱いもしますが,
時間tについては演算子でなくて単なるパラメータであると
考えます。
そして,状態ベクトル:|ψ>は時間tに依存するけれども,物理量
を表わす演算子は時間には全く依存しないと考えるような表示を
Schroedinger表示と呼びます。
これに対し,状態ベクトル:|ψ>が時間tに全く依存しないで,
演算子の方が時間に依存する表示をHeisenberg表示と呼びます。
この他に,状態ベクトル:|ψ>も演算子も共に時間に依存する
表示(例えば相互作用表示など)もあります。
以下では,まず,Schoerdinger表示から考察します。
そして,この表示では状態ベクトルが時間に依存することを強調
するため,状態ベクトル:|ψ>を|ψ(t)>と書くことにします。
物理的な状態を示す純粋状態のベクトル:|ψ(t)>は,どんな
ベクトルでもいいというわけではなくて,これは系を支配する
運動方程式であるSchroedinger方程式を満たす必要があります。
つまり時間には全く依存しないエネルギーという物理量を表わす
Hamiltonianと呼ばれる演算子をHと書くとき,状態|ψ(t)>は
ihc(∂/∂t)|ψ(t)>=H|ψ(t)>という時間発展の方程式
=Schroedinger方程式を満足しなければなりません。
ただし,hc≡h/(2π)で,hはPlanck定数です。
線型微分方程式: ihc(∂/∂t)|ψ(t)>=H|ψ(t)>
は,演算子Hがtを陽には含まないので,これを定数と見なす
ことによって,これの一般的な解|ψ(t)>を,
形式的に,|ψ(t)>=exp(-iHt/hc)|ψ(0)> なる形に
表現できます。
ここで時間に依存しない位置の演算子をxとするとき,
xの固有ベクトル:|x>は時間に依存してもしなくても,
どちらでもいいのですが,ここでは|x>として,時間には
依存しないものを採用します。
そうすると,
<x|(∂/∂t)|ψ(t)>=(∂/∂t)<x|ψ(t)>
となりますから,
Schroedingerの運動方程式:
ihc(∂/∂t)|ψ(t)>=H|ψ(t)>は,
左から<x|を掛けると,
ihc(∂/∂t)<x|ψ(t)>=<x|H|ψ(t)>
となります。
すなわち,ihc(∂/∂t)<x|ψ(t)>
=∫dx'<x|H|x'><x'|ψ(t)>
と表現することができます。
そこで,ψ(x,t)≡<x|ψ(t)>と書けば,ψ(x,t)は時間
に依存するx-表示の波動関数であり,上の運動方程式は,
ihc[∂ψ(x,t)/∂t]=∫dx'<x|H|x'>ψ(x',t)
と書き直されます。
ところが,エネルギーを表わす演算子=Hamiltonian:Hは,通常は
位置xと運動量pの関数であって,それの位置xでの値は定まって
います。
すなわち,Hは既に位置の固有値xで対角化されていると考える
ことができます。
そこで,<x|H|x'>=H(x,p)δ(x-x')
=H(x,-ihc∇)δ(x-x')と表現できるはずです。
ここで一般性を失うことなく,運動量演算子pのx-表示
として,その特別な形のp=-ihc∇ (Schroedinger表現)
を採用しました。
つまり,<x|p|x'>=-ihc∇δ(x-x')として,
<x|f(p)|x'>=f(-ihc∇)δ(x-x')
と考える表現を採りました。
以上から,結局,1個の粒子の波動関数ψが,運動方程式:
ihc[∂ψ(x,t)/∂t]=H(x,-ihc∇)ψ(x,t)
に従う,という昔からよく知られたSchroedinger方程式の形
を得ました。
そして,演算子Hの固有値Eに属する固有べクトルを,
Schroedinger表示で |E,t>と書けば,
H|E,t>=E|E,t>ですから,
運動方程式:ihc(∂/∂t)|ψ(t)>=H|ψ(t)>の|ψ(t)>
に,|E,t>を代入することで,これは
ihc(∂/∂t)|E,t>=E|E,t> となります。
つまり,x-表示での運動方程式として,
ihc(∂/∂t)<x|E,t>=E<x|E,t>
が成立します。
そして,この場合,上の微分方程式は,tについては容易に解くこと
ができて,その解は,|E,t>=exp(-iEt/hc)|E,0>,
または,<x|E,t>=exp(-iEt/hc)<x|E,0>と表現できる
ことがわかります。
一般的な系の状態:|ψ(t)>に対して,エネルギーがEという値
に確定している場合,つまりH|ψ(t)>=E|ψ(t)>の場合には
|ψ(t)>=c|E,t>=cexp(-iEt/hc)|E,0>と書くこと
ができます。
あるいは,エネルギーEを持つ固有状態がいくつにも縮退していて,
それらが|E,α,t>で表わされる場合には,
|ψ(t)>=Σαcα|E,α,t>
=Σαcαexp(-iEt/hc)|E,α,0>と,
それらの任意の重ね合わせの形に表わせます。
これはx-表示では,ψ(x,t)=exp(-iEt/hc)ψ(x,0);
ψ(x,0)≡<x|ψ(0)>です。
ただし,ψ(x,0)は,c<x|E,0>,あるいは,
Σαcα<x|E,α,0>で与えられます。
いずれにしてもこの場合は,xの近傍における粒子の存在
確率は時間tには無関係で,
|ψ(x,t)|2dx=|ψ(x,0)|2dx で与えられます。
このように,波動関数がψ(x,t)=exp(-iEt/hc)ψ(x,0)
という形に書けて,時間発展が単に絶対値が1の位相因子の寄与
になるために存在確率が時間的に一定であるような場合の状態:
|ψ(t)>を定常状態と呼びます。
そして,に対象としている系で問題としている状態のエネルギー
が確定していて,その状態が定常状態であることがわかっている
場合,あるいは,そうした定常状態のみを対象として考察している
場合を想定します。
このときは,状態ベクトル:|ψ(t)>から時間発展の位相因子
exp(-iEt/hc)を除いた部分,
今は|ψ(t)>=exp(-iEt/hc)|ψ(0)>なので,
時間に依存しない部分の|ψ(0)>に着目すると,
|ψ(t)>が,H|ψ(t)>=E|ψ(t)>を満たすので,
|ψ(0)>も,H|ψ(0)>=E|ψ(0)>を満足します。
最後の表式は,x-表示では,
H(x,-ihc∇)ψ(x,0)=Eψ(x,0) と書けます。
ここで,ψ(x,0)は時間tに依存しないので,ψ(x,0)を
改めてψ(x)と書けば,ψ(x)=<x|ψ(0)>です。
この定常状態の運動方程式:H|ψ(0)>=E|ψ(0)>は,結局,
H(x,-ihc∇)ψ(x)=Eψ(x)となります。
そして,ψ(x,t)だけでなく,ψ(x)も(定常状態の)波動関数
と呼ばれて,この定常方程式もSchroedinger方程式と呼ばれます。
それ故,定常状態では波動関数は,
ψ(x,t)=exp(-iEt/hc)ψ(x)と変数分離形に書けて,
xの近傍での存在確率は時間tには依らず,
|ψ(x,t)|2dx=|ψ(x)|2dxとψ(x)だけで表現する
ことができます。
さらに,運動量pの固有状態ベクトルも|p,t>,あるいは|p>
と書くことができて,
形式的には|p,t>=exp(-iHt/hc)|p> です。
もしもHとpが共立する場合(交換する場合):
すなわち,[H,p]=0 となる場合には,Hとpの同時的固有状態
が存在可能で,このときは,|p,t>=exp(-iEt/hc)|p>と表
わすことができます。
しかし,一般には,[H,p]=0 とは限らないので,
|p,t>はエネルギーが確定した定常状態ではなく,
もしも,離散状態だけでこれが展開できるとすれば,
|p,t>=exp(-iHt/hc)|p>
=ΣE aE exp(-iEt/hc)|p>
=ΣE <E,t|p>exp(-iEt/hc)|E,t>
となります。
時間発展tを含むpの固有ベクトルは,いくつかのエネルギーE
が確定した定常状態を示す固有ベクトル:exp(-iEt/hc)|p>
の重ね合わせになります。
ところで,ベクトル|p'>が運動量演算子pの固有値p'に属する
こと:すなわちp|p'>=p'|p'>であることは,
x-表示では,
∫dx'<x|p|x'><x'|p'>=p'<x|p'>
と表現されます。
x-表示で,Hが<x|H|x'>=H(x,-ihc∇)δ(x-x')
と対角形で表わされたのと同じく,
x-表示でのpは,<x|p|x'>=(-ihc∇)δ(x-x')
と書けるので,
左辺の積分に代入することで,
結局,<x|p>は方程式:(-ihc∇)<x|p>=p<x|p>
を満たすことがわかります。
これを解けば,ψp(x)≡<x|p>=cexp(ipx/hc)と
書けますが,係数cは,<x|x'>=∫dp<x|p><p|x'>
=δ(x-x')と規格化されるように決めるのが慣例です。
特に,係数cが実数になるように取れば,
ψp(x)=<x|p>=(2πhc)-3/2exp(ipx/hc)
となります。
Hamiltonian:Hが具体的に与えられ,また適当な境界条件も
明確に与えられた系の状態ベクトル|ψ(t)>は,運動方程式:
ihc(∂/∂t)|ψ(t)>=H|ψ(t)> の解でなければなら
ないのは,もちろんですが,
固有ベクトル|p>の完全性によって,これは
|ψ(t)>=∫dp|p><p|ψ(t)>
と展開できるはずです。
これに,左から<x|を掛けると,
<x|ψ(t)>=∫dp<x|p><p|ψ(t)>,
すなわち,ψ(x,t)=∫dpcp(t)ψp(x)と,
波動関数による表現になります。
ここで展開係数は,cp(t)≡<p|ψ(t)>で定義されますが,
このcp(t)のことを運動量表示,あるいはp-表示の波動関数
といいます。
また,上の積分展開による表示はFourier変換(展開)と呼ばれます。
運動量表示の波動関数:cp(t)=<p|ψ(t)>は,
方程式: ihc(∂/∂t)cp(t)=H(ihc∇p,p)cp(t)
の解ですが,
x-表示の波動関数解と同様,定常状態の重ね合わせとして,
cp(t)=ΣEap(E)exp(-iEt/hc) と表わせます。
故に,Fourier積分:ψ(x,t)=∫dpcp(t)ψp(x)は,
ψ(x,t)=ΣE∫dpap(E)ψp(x)exp(-iEt/hc)
となります。
もしも,|ψ(t)>が運動量pの固有状態:|ψ(t)>=c(t)|p>
であるならば,
一般に,ihc(∂c(t)/∂t)=H(ihc∇p,p)c(t)により,
上記のcp(t)と同じく,c(t)=ΣEa(E)exp(-iEt/hc)
と展開できます。
そこで,その状態ベクトルを,
|ψ(t)>=[ΣEa(E)exp(-iEt/hc)]|p>,あるいは,
ψ(x,t)=[ΣEa(E)exp(-iEt/hc)]ψp(x)
と表わすことができます。
特に,[H,p]≠0 のときには,|ψ(t)>がpの固有状態なら,
Hの固有状態とは成り得ないので,
右辺の展開係数:a(E)が,a(E)=a0δ(E,E0)のような
形にはならず,|ψ(t)>はエネルギーが一定のHの固有状態
=定常状態では有り得ません。
したがって,特に[H,p]≠0 のときは,|φ(t)>がHの固有
状態なら,bp=b0δ(p-p0) のような形にはならず,
|φ(t)>は,運動量が一定のpの固有状態
=(一定速度で等速直線運動を行なっている状態)
では有り得ません。
つまり,[H,p]≠0 のときには運動量の保存が成立している状態
ならエネルギーは保存せず,逆にエネルギーが保存している状態
なら運動量は保存しない,ということになります。
したがって,ある系でエネルギーが一定値Eの定常状態:
|φ(t)>=exp(-iEt/hc)|φ>にあるとき:
すなわち,|φ>が定常状態のSchroedinger方程式:
H|φ>=E|φ>の解であるとき,
もし[H,p]≠0 であるなら,|φ>はある|p>と一致すること
は決してなく,確定した運動量pで等速直線運動をしている状態
ではありません。
そして,展開|φ>=∫dpbp|p>によれば,運動量を観測
したときに,それがpとp+dpの範囲にあると観測される
確率が|bp|2dpであるといえるだけです。
次に,状態が時間tに依存しないHeisenberg表示を考えます。
これは,Schroedinger表示の状態ベクトル:
|ψ(t)>=exp(-iHt/hc)|ψ(0)>において,
ある時刻での粒子の存在確率とは無関係の位相因子だけ異なる
|ψ(t)>のユニタリ変換:|ψ>≡|ψ(0)>を,系の状態を代表
する状態ベクトルとして採用することに相当します。
つまり,U(t)≡exp(-iHt/hc)と定義すると,
U(t)U+(t)=U(t)+U(t)=1なので,
U(t)はユニタリ演算子ですから,
|ψ(t)>=exp(-iHt/hc)|ψ>=U(t)|ψ>,あるいは,
|ψ>=exp(iHt/hc)|ψ(t)>=U+(t)|ψ(t)>
はユニタリ変換です。
そして,Schroedinger表示において,ある物理量を表わす同じ
演算子Aが,時間tに依存するHeisenberg表示においては,
A(t)と表現されるとした場合,これらが満たすべき条件は
両方の表示で観測の期待値が一致することで与えられます。
すなわち,<ψ(t)|A|ψ(t)>=<ψ|A(t)|ψ>
となることが必要です。
|ψ(t)>=exp(-iHt/hc)|ψ>なので,これを上の期待値
が一致すべきである,という条件に代入することにより,
Heisenberg表示での演算子Aは,
A(t)=exp(iHt/hc)Aexp(-iHt/hc)=U+(t)AU(t)
なる形式で与えられるべきである,ことがわかります。
このとき,Heisenberg表示において物理量を表わす演算子
A(t)は,明らかに,方程式:
(ihc)[dA(t)/dt]
=exp(iHt/hc)[A,H]exp(-iHt/hc)
=[A(t),H],または,
dA(t)/dt]=[1/(ihc)][A(t),H]
を満足します。
Heisenberg表示では状態は時間発展せず,演算子が時間発展します。
そして,この演算子A(t)が満たすべき方程式を,Heisenberg
の運動方程式と呼びます。
Schroedinger表示,Heisenberg表示のいずれにしても,
系の時間発展は,結局は時間発展のユニタリ演算子:
U(t)=exp(-iHt/hc)を,状態ベクトル,あるいは演算子,
の時間発展の形を借りて表現しているに過ぎないので,
これらの表示が同値であることは自明なことです。
ところで,(ihc)[dA(t)/dt]
=exp(iHt/hc)[A,H]exp(-iHt/hc)=[A(t),H]
なので,[A,H]=0 ならdA(t)/dt=0 ,つまり,
A(t)=A(一定)であり,この場合には,いずれの表示でも
演算子は時間tを含まない同じ表現で与えられます。
一般に場の量子論では,Heisenberg表示:すなわち,状態が
時間パラメータtを含まない形で定式化されますが,
実はこの状態は時間tだけでなく空間座標のパラメータx
も含まない形に定式化されます。
これは,すなわち,Heisenberg表示を採用した方が,時間と空間
を対等に扱う相対論的に共変な定式化にとって好都合である
からです。
そして,実際場の量子論でのスカラー場では位置演算子Xは,
X=∫dxφ+(x,t)xφ(x,t)で与えられ,明らかに時間
tの関数なのでX=X(t)と書くことができます。
そして,位置演算子X(t)の固有値xに属する規格化された固有
ベクトル|x>=c*φ+(x,t)|0>もtに依存するので,
|x,t>=c*φ+(x,t)|0>と表現した方がいいと思います。
そして,場の量子論ではこのスカラー場から成る任意の1粒子状態:
|Φ>は,時間tも座標xも陽には含まないHeisenberg表示の状態
ベクトルであるとされ,
x-表示によるSchroedingerの波動関数が,Φ(x,t)
≡<x,t|Φ>=c<0|φ(x,t)|Φ>で与えられることは
以前に記述した通りです。
自由なスカラー粒子の波動関数はKlein-Gordon方程式:
(□+m2)Φ(x,t)=0 (つまり,p2-m2=0:E2=p2+m2)
を満足するべきなので,(□+m2)<x,t|=0 となります。
それ故,(□+m2)|x,t>=0 ですが,これは自由スカラー場
の波動方程式:(□+m2)φ(x,t)=0 と無矛盾です。
とりあえず,これで終わります。
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