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2007年8月 8日 (水)

量子力学の基礎(表示の話)(2)

続きです。

 

いろんな読書体験に基づいた記憶に頼りながらエッセンスと考

えられることを思い出して書いているので,ちゃんと整理されて

いるわけではなく,思い付きの順になっています。

 

今日も,まだ書き漏らしていることがあったな,と思い付いたので,

続きを書く気になりました。

 

まず,状態ベクトルの時間発展の話から始めます。

 

通常の非相対論的量子論では,位置座標は物理量を表わす

(線形)演算子((線形)作用素)である,という扱いもしますが,

時間tについては演算子でなくて単なるパラメータであると

考えます。

 

そして,状態ベクトル:|ψ>は時間tに依存するけれども,物理量

を表わす演算子は時間には全く依存しないと考えるような表示を

Schroedinger表示と呼びます。

 

これに対し,状態ベクトル:|ψ>が時間tに全く依存しないで,

演算子の方が時間に依存する表示をHeisenberg表示と呼びます。

 

この他に,状態ベクトル:|ψ>も演算子も共に時間に依存する

表示(例えば相互作用表示など)もあります。

 

以下では,まず,Schoerdinger表示から考察します。

 

そして,この表示では状態ベクトルが時間に依存することを強調

するため,状態ベクトル:|ψ>を|ψ(t)>と書くことにします。

 

物理的な状態を示す純粋状態のベクトル:|ψ(t)>は,どんな

ベクトルでもいいというわけではなくて,これは系を支配する

運動方程式であるSchroedinger方程式を満たす必要があります。

 

つまり時間には全く依存しないエネルギーという物理量を表わす

Hamiltonianと呼ばれる演算子をHと書くとき,状態|ψ(t)>は

ihc(∂/∂t)|ψ(t)>=H|ψ(t)>という時間発展の方程式

=Schroedinger方程式を満足しなければなりません。

 

ただし,hc≡h/(2π)で,hはPlanck定数です。

 

線型微分方程式: ihc(∂/∂t)|ψ(t)>=H|ψ(t)>

は,演算子Hがtを陽には含まないので,これを定数と見なす

ことによって,これの一般的な解|ψ(t)>を,

形式的に,|ψ(t)>=exp(-iHt/hc)|ψ(0)> なる形に

表現できます。

 

ここで時間に依存しない位置の演算子をとするとき,

の固有ベクトル:|>は時間に依存してもしなくても,

どちらでもいいのですが,ここでは|>として,時間には

依存しないものを採用します。

 

そうすると,

|(∂/∂t)|ψ(t)>=(∂/∂t)<|ψ(t)>

となりますから,

 

Schroedingerの運動方程式:

ihc(∂/∂t)|ψ(t)>=H|ψ(t)>は,

 

左から<|を掛けると,

ihc(∂/∂t)<|ψ(t)>=<|H|ψ(t)>

となります。

 

すなわち,ihc(∂/∂t)<|ψ(t)>

=∫d'<|H|'><'|ψ(t)>

と表現することができます。

 

そこで,ψ(,t)≡<|ψ(t)>と書けば,ψ(,t)は時間

依存する-表示の波動関数であり,上の運動方程式は,

ihc[∂ψ(,t)/∂t]=∫d'<|H|'>ψ(',t)

と書き直されます。

 

ところが,エネルギーを表わす演算子=Hamiltonian:Hは,通常は

位置と運動量の関数であって,それの位置での値は定まって

います。

 

すなわち,Hは既に位置の固有値で対角化されていると考える

ことができます。

 

そこで,<|H|'>=H(,)δ(x-x')

=H(,-ihc)δ(x-x')と表現できるはずです。

 

ここで一般性を失うことなく,運動量演算子-表示

として,その特別な形の=-ihc∇ (Schroedinger表現)

を採用しました。

 

つまり,<||'>=-ihcδ(x-x')として,

|f()|'>=f(-ihc)δ(x-x')

と考える表現を採りました。

 

以上から,結局,1個の粒子の波動関数ψが,運動方程式:

ihc[∂ψ(,t)/∂t]=H(,-ihc)ψ(,t)

に従う,という昔からよく知られたSchroedinger方程式の形

を得ました。

 

そして,演算子Hの固有値Eに属する固有べクトルを,

Schroedinger表示で |E,t>と書けば,

H|E,t>=E|E,t>ですから,

 

運動方程式:ihc(∂/∂t)|ψ(t)>=H|ψ(t)>の|ψ(t)>

に,|E,t>を代入することで,これは

ihc(∂/∂t)|E,t>=E|E,t> となります。

 

つまり,-表示での運動方程式として,

ihc(∂/∂t)<|E,t>=E<|E,t>

が成立します。

 

そして,この場合,上の微分方程式は,tについては容易に解くこと

ができて,その解は,|E,t>=exp(-iEt/hc)|E,0>,

または,<|E,t>=exp(-iEt/hc)<|E,0>と表現できる

ことがわかります。

  

一般的な系の状態:|ψ(t)>に対して,エネルギーがEという値

に確定している場合,つまりH|ψ(t)>=E|ψ(t)>の場合には

|ψ(t)>=c|E,t>=cexp(-iEt/hc)|E,0>と書くこと

ができます。

 

あるいは,エネルギーEを持つ固有状態がいくつにも縮退していて,

それらが|E,α,t>で表わされる場合には,

|ψ(t)>=Σαα|E,α,t>

=Σααexp(-iEt/hc)|E,α,0>と,

それらの任意の重ね合わせの形に表わせます。

 

これは-表示では,ψ(,t)=exp(-iEt/hc)ψ(,0);

ψ(,0)≡<|ψ(0)>です。

 

ただし,ψ(,0)は,c<|E,0>,あるいは,

Σαα|E,α,0>で与えられます。

 

いずれにしてもこの場合は,の近傍における粒子の存在

確率は時間tには無関係で,

|ψ(,t)|2|ψ(,0)|2で与えられます。

 

このように,波動関数がψ(,t)=exp(-iEt/hc)ψ(,0)

という形に書けて,時間発展が単に絶対値が1の位相因子の寄与

になるために存在確率が時間的に一定であるような場合の状態:

|ψ(t)>を定常状態と呼びます。

 

そして,に対象としている系で問題としている状態のエネルギー

確定していて,その状態が定常状態であることがわかっている

場合,あるいは,そうした定常状態のみを対象として考察している

場合を想定します。

 

このときは,状態ベクトル:|ψ(t)>から時間発展の位相因子

exp(-iEt/hc)を除いた部分,

今は|ψ(t)>=exp(-iEt/hc)|ψ(0)>なので,

時間に依存しない部分の|ψ(0)>に着目すると,

 

|ψ(t)>が,H|ψ(t)>=E|ψ(t)>を満たすので,

|ψ(0)>も,H|ψ(0)>=E|ψ(0)>を満足します。

 

最後の表式は,-表示では,

H(,-ihc)ψ(,0)=Eψ(,0) と書けます。

 

ここで,ψ(,0)は時間tに依存しないので,ψ(,0)を

改めてψ()と書けば,ψ()=<|ψ(0)>です。

 

この定常状態の運動方程式:H|ψ(0)>=E|ψ(0)>は,結局,

H(,-ihc)ψ()=Eψ()となります。

 

そして,ψ(,t)だけでなく,ψ()も(定常状態の)波動関数

と呼ばれて,この定常方程式もSchroedinger方程式と呼ばれます。

 

それ故,定常状態では波動関数は,

ψ(,t)=exp(-iEt/hc)ψ()と変数分離形に書けて,

の近傍での存在確率は時間tには依らず,

|ψ(,t)|2|ψ()|2ψ()だけで表現する

ことができます。

 

さらに,運動量の固有状態ベクトルも|,t>,あるいは|

と書くことができて,

形式的には|,t>=exp(-iHt/hc)|> です。

 

もしもHとが共立する場合(交換する場合):

すなわち,[H,]=0 となる場合には,Hとの同時的固有状態

が存在可能で,このときは,|,t>=exp(-iEt/hc)|>と表

わすことができます。

 

しかし,一般には,[H,]=0 とは限らないので,

|,t>はエネルギーが確定した定常状態ではなく,

もしも,離散状態だけでこれが展開できるとすれば,

 

|,t>=exp(-iHt/hc)|

=ΣE E exp(-iEt/hc)|

=ΣE <E,t|>exp(-iEt/hc)|E,t>

となります。

 

時間発展tを含むの固有ベクトルは,いくつかのエネルギーE

が確定した定常状態を示す固有ベクトル:exp(-iEt/hc)|

の重ね合わせになります。

 

ところで,ベクトル|'>が運動量演算子pの固有値'に属する

こと:すなわち|'>='|'>であることは,

 

-表示では,

∫d'<||'><'|'>='<|'>

と表現されます。

 

-表示で,Hが<|H|'>=H(,-ihc)δ(x-x')

と対角形で表わされたのと同じく,

-表示でのは,<||'>=(-ihc)δ(x-x')

と書けるので,

 

左辺の積分に代入することで,

結局,<|>は方程式:(-ihc)<|>=|

を満たすことがわかります。

 

これを解けば,ψ()≡<|>=cexp(ipx/hc)と

書けますが,係数cは,|'>=∫d|><|'>

=δ(')と規格化されるように決めるのが慣例です。

 

特に,係数cが実数になるように取れば,

ψ()=<|>=(2πhc)-3/2exp(ipx/hc)

となります。

 

Hamiltonian:Hが具体的に与えられ,また適当な境界条件も

明確に与えられた系の状態ベクトル|ψ(t)>は,運動方程式:

ihc(∂/∂t)|ψ(t)>=H|ψ(t)> の解でなければなら

ないのは,もちろんですが,

 

固有ベクトル|>の完全性によって,これは

|ψ(t)>=∫d|><|ψ(t)>

と展開できるはずです。

 

これに,左から<|を掛けると,

|ψ(t)>=∫d|><|ψ(t)>,

すなわち,ψ(,t)=∫d(t)ψ()と,

波動関数による表現になります。

 

ここで展開係数は,c(t)≡<|ψ(t)>で定義されますが,

このc(t)のことを運動量表示,あるいは-表示の波動関数

といいます。

 

また,上の積分展開による表示はFourier変換(展開)と呼ばれます。

 

運動量表示の波動関数:c(t)=<|ψ(t)>は,

方程式: ihc(∂/∂t)c(t)=H(ihc,)c(t)

の解ですが,

 

-表示の波動関数解と同様,定常状態の重ね合わせとして,

(t)=ΣE(E)exp(-iEt/hc) と表わせます。

 

故に,Fourier積分:ψ(,t)=∫d(t)ψ()は,

ψ(,t)=ΣE∫d(E)ψ()exp(-iEt/hc)

となります。

 

もしも,|ψ(t)>が運動量の固有状態:|ψ(t)>=c(t)|

であるならば,

 

一般に,ihc(∂c(t)/∂t)=H(ihc,)c(t)により,

上記のc(t)と同じく,c(t)=ΣE(E)exp(-iEt/hc)

と展開できます。

 

そこで,その状態ベクトルを,

|ψ(t)>=[ΣE(E)exp(-iEt/hc)]|>,あるいは,

ψ(,t)=[ΣE(E)exp(-iEt/hc)]ψ()

と表わすことができます。

 

特に,[H,]≠0 のときには,|ψ(t)>がの固有状態なら,

Hの固有状態とは成り得ないので,

 

右辺の展開係数:a(E)が,a(E)=a0δ(E,E0)のような

にはならず,|ψ(t)>はエネルギーが一定のHの固有状態

定常状態では有り得ません。

 

 逆に,|φ(t)>がHの固有状態=エネルギーが一定の状態
 である場合:
 
 つまり,|φ(t)>=exp(-iEt/hc)|φ(0)>と書けて,
 定常状態のSchroedinger方程式:H|φ(t)>=E|φ(t)>
 を満足する場合には,
 
 |φ(0)>を|>で展開し,て,
 |φ(0)>=∫d|><|φ(0)>
 =∫d|>;b≡<|φ(0)>と書けば,
 
 |φ(t)>=exp(-iEt/hc)∫d|>,または,
 φ(,t)=exp(-iEt/hc)∫dψ()
 となります。
 

したがって,特に[H,]≠0 のときは,|φ(t)>がHの固有

状態なら,b=b0δ(0) のような形にはならず,

 

|φ(t)>は,運動量が一定のの固有状態

=(一定速度で等速直線運動を行なっている状態)

では有り得ません。

 

つまり,[H,]≠0 のときには運動量の保存が成立している状態

ならエネルギーは保存せず,逆にエネルギーが保存している状態

なら運動量は保存しない,ということになります。

 

したがって,ある系でエネルギーが一定値Eの定常状態:

|φ(t)>=exp(-iEt/hc)|φ>にあるとき:

すなわち,|φ>が定常状態のSchroedinger方程式:

|φ>=E|φ>の解であるとき,

 

もし[H,]≠0 であるなら,|φ>はある|>と一致すること

決してなく,確定した運動量で等速直線運動をしている状態

ではありません。

 

そして,展開|φ>=∫d|>によれば,運動量を観測

したときに,それが+dの範囲にあると観測される

確率が|b|2であるといえるだけです。

 

次に,状態が時間tに依存しないHeisenberg表示を考えます。

 

これは,Schroedinger表示の状態ベクトル:

|ψ(t)>=exp(-iHt/hc)|ψ(0)>において,

ある時刻での粒子の存在確率とは無関係の位相因子だけ異なる

|ψ(t)>のユニタリ変換:|ψ>≡|ψ(0)>を,系の状態を代表

する状態ベクトルとして採用することに相当します。

 

つまり,U(t)≡exp(-iHt/hc)と定義すると,

U(t)U+(t)=U(t)+(t)=1なので,

U(t)はユニタリ演算子ですから,

 

|ψ(t)>=exp(-iHt/hc)|ψ>=U(t)|ψ>,あるいは,

|ψ>=exp(iHt/hc)|ψ(t)>=U+(t)|ψ(t)>

はユニタリ変換です。

 

そして,Schroedinger表示において,ある物理量を表わす同じ

演算子Aが,時間tに依存するHeisenberg表示においては,

A(t)と表現されるとした場合,これらが満たすべき条件は

両方の表示で観測の期待値が一致することで与えられます。

 

すなわち,<ψ(t)|A|ψ(t)>=<ψ|A(t)|ψ>

となることが必要です。

 

|ψ(t)>=exp(-iHt/hc)|ψ>なので,これを上の期待値

が一致すべきである,という条件に代入することにより,

 

Heisenberg表示での演算子Aは,

A(t)=exp(iHt/hc)Aexp(-iHt/hc)=U+(t)AU(t)

なる形式で与えられるべきである,ことがわかります。

 

このとき,Heisenberg表示において物理量を表わす演算子

A(t)は,明らかに,方程式:

 

(ihc)[dA(t)/dt]

=exp(iHt/hc)[A,H]exp(-iHt/hc)

=[A(t),H],または,

 

dA(t)/dt]=[1/(ihc)][A(t),H]

を満足します。

 

Heisenberg表示では状態は時間発展せず,演算子が時間発展します。

 

そして,この演算子A(t)が満たすべき方程式を,Heisenberg

の運動方程式と呼びます。

 

Schroedinger表示,Heisenberg表示のいずれにしても,

系の時間発展は,結局は時間発展のユニタリ演算子:

U(t)=exp(-iHt/hc)を,状態ベクトル,あるいは演算子,

の時間発展の形を借りて表現しているに過ぎないので,

これらの表示が同値であることは自明なことです。

 

ところで,(ihc)[dA(t)/dt]

=exp(iHt/hc)[A,H]exp(-iHt/hc)=[A(t),H]

なので,[A,H]=0 ならdA(t)/dt=0 ,つまり,

A(t)=A(一定)であり,この場合には,いずれの表示でも

演算子は時間tを含まない同じ表現で与えられます。

 

一般に場の量子論では,Heisenberg表示:すなわち,状態が

時間パラメータtを含まない形で定式化されますが,

実はこの状態は時間tだけでなく空間座標のパラメータ

も含まない形に定式化されます。

 

これは,すなわち,Heisenberg表示を採用した方が,時間と空間

対等に扱う相対論的に共変な定式化にとって好都合である

からです。

 

そして,実際場の量子論でのスカラー場では位置演算子は,

=∫dφ+(,t)φ(,t)で与えられ,明らかに時間

の関数なので(t)と書くことができます。

 

そして,位置演算子(t)の固有値に属する規格化された固有

ベクトル|>=c*φ+(,t)|0>もtに依存するので,

|,t>=c*φ+(,t)|0>と表現した方がいいと思います。

 

そして,場の量子論ではこのスカラー場から成る任意の1粒子状態:

|Φ>は,時間tも座標も陽には含まないHeisenberg表示の状態

ベクトルであるとされ,

 

-表示によるSchroedingerの波動関数が,Φ(,t)

≡<,t|Φ>=c<0|φ(,t)|Φ>で与えられることは

以前に記述した通りです。

 

自由なスカラー粒子の波動関数はKlein-Gordon方程式:

(□+m2)Φ(,t)=0 (つまり,p2-m20:E22+m2)

を満足するべきなので,(□+m2)<,t|=0 となります。

 

それ故,(□+m2)|,t>=0 ですが,これは自由スカラー場

の波動方程式:(□+m2)φ(,t)=0 と無矛盾です。

 

とりあえず,これで終わります。

 

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