磁気単極子(モノポール)
EMANさんのところで,ちょっと磁気単極子(モノポール)のことが話題
になっていて私自身はその存在については懐疑的ですが,これについ
て少し書いてみようと思います。
もしも,"これ=磁気単極子(モノポール)"が存在すればN極やS極
の磁荷が単独で存在することが可能になり,普通の意味でのゲージ
不変性は破れます。
しかし,電気と磁気の双対的な対称性はより明確になるし,電磁場
のMaxwellの方程式も少し修正するだけでそのまま成り立つので,
理論的にはこれの存在を否定する根拠はありません。
さて,量子論では通常は無視される状態ベクトル,または波動関数の
各時空点における位相の効果を考察することによって,
"磁気単極子=モノポール"の存在を仮定すれば,量子力学が理論と
して矛盾しないためには電荷が離散的でなければならない:つまり
粒子が持つ電荷はある素電荷の整数倍のみが許される。"
という"電荷の量子化"が説明できるということをDiracが1931年に
示しました。
これは,十分にモノポールの存在の理論的根拠に成り得るもので
あるとして,一時注目されました。
私としては,既に2006年5/11の記事「波動関数の位相と電磁場」で,
"量子異常(Anomary)"の生じる原因は波動関数の位相(Berryの位相)
がカイラル・カレント(Chiral current)に及ぼす影響である。
という主旨の話を書きました。
その際にも,波動関数の位相の効果として上記のDiracの磁気単極子
やアハラノフ・ボーム効果(Aharonov–Bohm effect)があることなど
についても,少し触れています。
要するに何が問題かというと,皆さんよくご存知のように,
電気の電荷というのは正電荷(+)や負電荷(-)が単独で存在する
ことが可能ですが,磁気における磁荷,つまりN極とかS極とかい
うのは,必ず"対(pair)=双極子(dipole)"でしか存在し得ません。
永久棒磁石などは,いくら切り離してバラバラに分けても金太郎
飴とはちょっと違うけれど,必ず両端にN極とS極が対になって
現われて総体として磁気的に中性になり,決してN極またはS極
が単独で現われることはありません。
実際の実験や観測においても,いくら微小な粒子であっても"単独
のN極あるいはS極のみを持つもの=磁気単極子(monopole:モノ
ポール)"は未だ発見されたことがありません。
現在の電磁気学の基礎方程式であるMaxwell方程式で見ると,電場
では電束密度の湧き出しとして電荷密度ρeが表現されています。
すなわち,divD=ρeです。
これに対し,磁場では磁束密度の湧き出しは必ずゼロになります。
divB=0 ですね。
これは電荷を連続量とみなして,それを電荷密度の積分として表わ
していいほどのオーダー:つまり古典電磁気学のオーダーでは単独
の磁荷は現われない,したがってゼロ以外の磁荷密度は決して現わ
れないという意味で現在の電磁気学の基礎にもなっています。
現在の電磁気学では,電荷は単純に実在するスカラー量の1つであ
るとされているのに対して,磁荷というスカラーは現実に実在する
量ではありません。
磁荷に相当するものとしては,コイルのような回転電流の上下にN
極とS極という2つの磁荷が対になって双極子として出現する存在
でしかないと考えられています。
しかし,電磁気学において磁気単極子(モノポール)が存在しても
矛盾がないことを見るために,まず,真空中の電磁場のMaxwellの
方程式を書き下します。
すなわち,divD=ρe,rotH=∂D/∂t+Je,divB=0,
-rotE=∂B/∂tです。
そして,もしもモノポールが存在するとした場合に,上の方程系は,
一般にはゼロでない磁荷密度ρmと磁荷電流密度Jmの存在を仮定
することによって,一般化されたMaxwellの方程式に修正されます。
すなわち,divD=ρe,rotH=∂D/∂t+Je,divB=ρm,
-rotE=∂B/∂t+Jmです。
そして,この一般化されたMaxwellの方程式に対して,
擬スカラー角ξによる次の双対性変換:
E=E'cosξ+Z0H'sinξ,
Z0D=Z0D'cosξ+B'sinξ,
Z0H=-E'sinξ+Z0H'cosξ,
B=-Z0D'sinξ+B'cosξ,
および,
Z0ρe=Z0ρe'cosξ+ρm'sinξ,
Z0Je=Z0Je'cosξ+Jm'sinξ,
ρm=-Z0ρe'sinξ+ρm'cosξ,
Jm=-Z0Je'sinξ+Jm'cosξ
を施しても方程式の形は不変です。
さらに,もしも全ての粒子で磁荷と電荷の比が同一なら,
双対性変換の結果,ρm'とJm'が共にゼロになるような
擬スカラー角ξを選ぶことが可能となります。
したがって,その変換を実行することにより,一般化された
Maxwellの方程式は通常のMaxwellの方程式に帰着されます。
次に,Diracの磁気単極子の理論を詳しく説明するために,波動
関数の位相について考察してみます。
まず,ある特定のSchroedinger方程式を与えられた境界条件の
下で解いた1つの解ψを考えます。
ψは1成分の波動関数で座標qと時刻tの関数ですから,これを
ψ(q,t)≡A(q,t)exp{iβ(q,t)}と表現します。
ただし,A(q,t),β(q,t)は実数値関数です。
通常の物理的状況を想定し,境界条件は確率として観測可能な量
である|ψ(q,t)|2にのみに依存すると仮定します。
そして,ψの位相βに定数位相を加えて得られる新しい波動関数
をψ'とします。
すなわち,ψ'(q,t)≡A(q,t)exp{iβ'(q,t)},
β'(q,t)=β(q,t)+(定数) とします。
このときψ'はψが満たすのと同じ波動方程式の解であり,実験
との比較における理論的結論においてもψ'とψの間に何の差異
もないことは明らかです。
それ故,ある1点での波動関数の位相という量:β(q,t),
または,β'(q,t)は,それ単独では何の物理的意味も持たない
といえます。
しかし,位相β(q,t),β'(q,t)に共通の性質として重要なの
は,異なるq:つまり異なる2点でのそれらの差は常に一定である
ということです。
すなわち,位相が意味を持つとすれば,それは異なる2点における
位相差のみであるといえます。
このことは,同じ方程式の解となる複数の波動関数についてもいえ
ることです。
例えば,ψがψ=ψ1+ψ2と重ね合わせで与えられるとき,
ψに関して実際に観測可能な物理量は,確率密度:
|ψ|2=|ψ1|2+|ψ2|2+ψ1*ψ2+ψ1ψ2* ですから,ある1点に
おけるψ1とψ2の位相に共通の値を加えても結果は同じです。
しかし,ψ1とψ2に別々の位相を加えて勝手に位相差を変えると
結果が変わってしまいますから,位相差には明確な意味があると
いえます。
ここで,Diracが1931年の論文において考察した1つの一般化を
与えます。
すなわち,物理的に意味のある波動関数は任意の2点に対してで
はなく,近傍にある2点に対してのみ,その位相差が確定した値を
取ることを要求された位相を持つ関数であるとします。
そこで,遠く離れた2点での位相差はそれらを結ぶ経路に依存して
もよいと仮定します。
すると,同一点であっても閉じた経路を周回して戻ったときには,
位相が元の値と異なることがあってもいいことになります。
そして,もしもこの意味でも波動関数の1価性は保持されること
を要求するなら,経路周回によって生じる位相差は,2πの整数倍
でなければなりません。
しかし,ここでは波動関数が必ずしも1価であることは要求しない
ことにします。
そして,そのように仮定しても,理論を応用する上で曖昧さが生じ
ないための条件を求めます。
そのために,波動関数ψを位相が確定した可積分な部分:
点の座標によって"定数を除いて位相が一意的に決まる部分
=いわゆる渦無しの部分,あるいは,非回転的な位相部分:ψ1
と,非可積分な位相γを持つ部分の因子に分けて,
ψ≡ψ1 exp(iγ) と書きます。
そして3次元空間の中を運動する1粒子問題を対象として,座標
qは直角座標xであるとします。
位相γは4次元Minkowski空間のあるベクトル:aμ(x,t)により
γ(x,t)=∫Cx,taμ(yμ)dyμと表現されますが,可積分性:
∂μaν=∂νaμ(μ≠ν)は一般に成立しません。
ただしxμ=(x0,x)であり,x0=t,x=(x1,x2,x3)です。
まず,波動関数の確率解釈の要請は,γには何の制限も与えないこと
を示します。
すなわち,確率,および期待値では,波動関数に対して必ずその複素
共役が対になった積で与えられるので,位相部分の任意性は相殺さ
れます。
しかし,この確率解釈では,物理量をOとして∫C(ψ+Oφ)dxが
考察の対象になることがあります。
O=1の場合は,これは状態ψとφの重なり具合を与えます。
そこで,これは確定した値を持つ必要があり,そのためにはこれらの
被積分関数の2点間の位相差が確定値を取る必要があります。
これは位相γにある制限を与えるようにみえます。
つまり,積分が確定するには任意の波動関数の対:ψとφが閉じた
経路Cの周回については,2πの整数倍を除いて,つまり,mod (2π)
で同じ位相差を持つことが必要十分です。
すなわち,ψ≡ψ1exp(iγ);γ(x,t)=∫x,taμ(yμ)dyμ,
かつ,φ≡φ1exp(iη);η(x,t)=∫x,tbμ(yμ)dyμとした
とき,
Cを閉じた経路として,
∫Caμ(yμ)dyμ-∫Cbμ(yμ)dyμ=2nπ (nは整数)
となることが条件です。
ところが,ここで,2つの条件:
(1)Cが1点にホモトピー(Homotopy)である。
(2)aμ,bμはCの内部で連続的に定義できる。
が満たされているとすると,
∫Caμ(yμ)dyμ-∫Cbμ(yμ)dyμ=2nπの左辺は,
Cを1点に縮小するとゼロになりますから,
この等式が成立するためには右辺のnもゼロになるしか
ありません。
そして,上の2つの条件が全ての閉路Cと波動関数の対ψ,φに対し
て成立しているとします。
n=0 により∫Caμ(yμ)dyμ-∫Cbμ(yμ)dyμ=0 です
から,Stokesの定理によって,
∫C(a-b)μdyμ=∫S{rot(a-b)}μνdSμν=0
です。
これが常に成立するためには,rot(a-b)=0 となることが必要
十分ですから,あるδが存在してa-b=gradδと書けるはずです。
故に,η(x,t)=γ(x,t)-δ(x,t)でありη,γは非可積分
ですがδは可積分です。
そこで,δを可積分位相のみの部分であるφ1の方に含めると,
結局,η(x,t)=γ(x,t) です。
すなわち,非可積分位相は全ての波動関数に共通であるとしてよい
ことになります。
かくして,非可積分位相γは全ての波動関数に共通であるとして
よいことがわかったので,このγの存在は力学系自身の性質であ
って,個々の状態とは無関係であるということになります。
そこで今考えている1粒子系の場合には非可積分位相γは粒子が
置かれている背景の力の場そのものに関係しているはずです。
ところで,
pμψ=ihc∂ψ/∂xμ
=exp(iγ)[ihc(∂/∂xμ)-hcaμ]ψ1です。
(ただし,hc≡h/(2π);hはPlanck定数)
一方,電荷eの粒子と電磁場Aμの相互作用がある場合の
HamiltonianH は,極小相互作用の原理によって,
電磁場Aμが存在しないときのH において,
pμ→ (pμ-eAμ/c)と置き換えればいいことがわかって
います。
そこで,上で求めたpμψ=exp(iγ)(pμ-hcaμ)ψ1なる式を
考慮し,ψは電磁場と相互作用しないとするときには,
ψ1は見掛け上,Aμ=hccaμ/eなる電磁ポテンシャルを持つ
電磁場と相互作用しているように見えます。
さらに,通常の手続きで,その電磁ポテンシャル:
Aμ=hccaμ/eから,B=rotA, E=-∇A0-∂A/∂t
によって電場E,磁場Bを表現することもできます。
あるいは,
逆に電磁ポテンシャルAμと相互作用する波動関数ψ1を求めたい
ときには,Aμ=hccaμ/eと,γ(xμ)=∫xμaμ(yμ)dyμ
を通じて非可積分位相γを計算し,ψ=exp(iγ)ψ1によって新し
い波動関数ψを定義すれば,
これは電磁ポテンシャルのない場合の波動方程式の解ですから,
Aμが既知のときには,ψとψ1は一方が解ければ他方も解ける
という関係になります。
結局,Schroedinger波動関数に対する電磁場の効果は非可積分
位相のみに現われると考えることができます。
ここで,前述の2つの条件のうちの1つ:
"(1)Cが1点にHomotopyである。"が満たされない場合の例として
円周上(0≦θ≦2π)でのSchroednger方程式を調べてみます。
このSchroedinger方程式はPlanckや質量を無視した単位では,
-(1/2)d2ψ(θ)/dθ2=Eψ(θ) です。
これの境界条件として,
ψ(2π)=exp(-2πiA)ψ(0)(Aは実定数)を要求して,
全ての実数θの領域での波動関数ψ(θ)を考察します。
境界条件によって,この問題はEが離散的固有値:
En=(n-A)2/2 (nは整数)を持ち,その固有関数が
ψn(θ)=(2π)-1/2exp{i(n-A)θ}である,
と解かれます。
この波動関数では円周を1回転するごとに-2πA(mod 2π)
の位相変化が生じるのでψ(θ)は1価ではなく非積分位相:
γを持ちます。
γには定数だけの曖昧さがあるので,
γ(θ)≡-∫0θAdθ'=-Aθ と定義します。
位相γをψから分離すると,
ψn(θ)=exp(iγ)ψ1n(θ);ψ1n(θ)=(2π)-1/2exp(inθ)
と書けます。
よって,ψ1n(θ)は円周上で確定した位相を持ちます。
そして,分離によって新しく得られた波動関数ψ1n(θ)の満たす
新しいSchroedinger方程式は,
-(1/2)[(d /dθ)-iA]2ψ(θ)=Eψ(θ)
となります。
満たすべき境界条件はψ(2π)=ψ(0)です。
固有値は,En=(n-A)2/2 (nは整数)で変化しません。
これは考えている円周がxy面上にあるとする座標系で,
A=(-Ay,Ax,0),A0=0 で与えられる電磁場;
Aμ=(A0,A)が存在する下でのSchroedinger方程式とその解
であると解釈できます。
この例は,γ(θ)≡-∫0θAdθ'=-Aθですから,この円周C
は円の内部の1点にHomotopyではありません。
つまり,条件(1)"Cが1点にHomotopyである。"が満たされない例
となっていますが,この場合でも"波動関数ψから非積分位相γを
分離した残りの部分ψ1は1価関数であり電磁場の存在下での状態
を記述する。"という結論はそのまま成立しています。
ただし,条件(1)が満たされないときは一般に波動関数ψは1価関数
ではありません。
一方,条件(2)"aμ,bμはCの内部で連続的に定義できる。"が満た
されない場合を考察します。
ただし,条件(1):"Cが1点にHomotopyである。"の方は満たされて
いると仮定します。
3次元空間で極座標(r,θ,φ);
x=rsinθcosφ,y=rsinθsinφ,z=rcosθを用いて,
次の関数を考えてみます。
ψ1(x,t)=f(r,t)sin(θ/2)exp(inφ)です。
ただし,f(r,t)は1価連続とします。
この例では,ψ1はθ=0 で連続であるにも関わらず,閉路が
半直線θ=0 の周りを1周すると,その閉路が如何に小さくとも
位相の変化は∫φ=0φ=2πdφ{∂(nφ)/∂φ}=2πnです。
よって,θ=0 で位相に不連続な跳躍があるため,
条件(2)"aμ,bμはCの内部で連続的に定義できる。"
が満足されない例となっています。
一般に1価連続の波動関数がゼロとなるところ:ψ1= 0 となる
場所では同様なことが生じる可能性があり,位相が定義できない
ので条件(2)が成立しなくなります。
ψ1= 0 はψ1が複素数値なのでψ1(x,t)の4つの変数(x,t)
に対し2つの独立な制限を与えます。
それ故,時刻tを固定するとψ1= 0 はある1次元の曲線を
定めます。
この方程式:ψ1=0 を満たす零点を示す曲線を節線と呼びます。
1本の節線を指定したとき,これを周回する十分小さい閉路Cに
ついてψ1の位相δの1周の変化量は,
∫C∇δds=2πn(nは整数)
と表わすことができます。
nはこの節線に固有の量ですから,これを指数と呼びます。
指数の符号は節線と閉路Cの相対的位置に依存します。
ここで,元の波動関数ψ=exp(iγ)ψ1の位相(δ+γ)が有限な
大きさの閉路Cの周回に関してどの程度変化するかを評価します。
ただし,Cは多数(k個)の小閉路Cjの合併で,Cjはそれぞれが
高々1本の指数がnjの節線を囲んでいるとします。
Cjが節線を囲んでいない場合は,nj=0 とします。
また,閉路Cを境界とする曲面をSとします。
このとき,∫C∇(δ+γ)ds=∑j(∫C j∇δds)-∫Cads
=∑j2πnj-∫S(∇×a)dS です。
ここで,a=(a1,a2,a3)=-(a1,a2,a3)であり,
γ=∫x,taμdsμ;∫a0ds0=0 です。
さて,電磁ポテンシャルをAμ≡hccaμ/eによって導入し,
上式に,∇×a={e/(hcc)}rotA={e/(hcc)}Bを代入
すると,
総位相変化量は,
∫C∇(δ+γ)ds=∑j2πnj-{e/(hcc)}∫SBdS
=2πN-{e/(hcc)}Φ で与えられます。
最後の式では,指数の代数和をN≡∑jnjとし,Sを貫く全磁束
をΦとしています。
ところで,もしもSが閉曲面なら,そもそもそれは境界Cを持た
ないので位相変化量はゼロのはずです。
したがって,この場合は 2πN-{e/(hcc)}Φ=0 です。
一方,同じくSが閉曲面のとき,指数の総和N=∑jnjにおいて,
節線がS全体を通過している場合,その節線に関する指数njに
よる寄与の総和は相殺されてゼロになりますから,
Nに寄与する節線の指数njとしては,Sの内部に端点のある節線
によるもののみに帰着します。
これは,全磁束Φへの部分小閉路内磁束の寄与についても同じです。
つまり,Sの外から入ってきて外へと通過してしまう磁束なら,
その全磁束Φへの寄与はゼロです。
それ故,Φにゼロでない寄与を与える磁束は,閉曲面Sの内部に
端点を持ち,そこでの湧き出しのみがΦへの寄与になる,
と考えられます。
そもそも,通常の磁場のみでモノポールが全くないなら,磁力線には
端点というものがありませんから,Φ=0 です。
そこで逆に全磁束Φがゼロでないなら,Sの中には磁束の湧き出し
をもたらす"磁力線の端点=電磁場の特異点"があるはずです。
ところが,全磁束Φは問題としている粒子にとっては単に外的な
磁場の効果であり,等式 2πN={e/(hcc)}Φでは右辺は磁場
のみに依存して粒子の状態には無関係な量です。
そこで,この等式は,左辺のNが全ての波動関数に対して,共通な
値であることを意味します。
つまり,"ψ1の零点=節線"のうちSの中で終わっている端点は
電磁場の特異点に対応しているといえます。
閉曲面Sを十分小さく取って,その内部に含まれる電磁場の特異
点は1つだけであるようにします。
電磁場といっても今問題になるのは磁場だけなので,特に唯一の
特異点が原点にあるとして,
電場,磁場が,それぞれ,E=0,B=gr/r3となる場合
を考えます。
このとき,S内の全磁束は,
Φ=∫SBdS=g∫Sr/r3dS=4πg
と計算されます。
磁場Bの強さを示すgは,磁気単極子(モノポール)の磁荷と
呼ばれる量に対応しており,2πN-{e/(hcc)}Φ=0 は,
4πge/(hcc)=2πN,またはg=N{hcc/(2e)}なること
を意味します。
これは,磁荷:gが{hcc/(2e)}の整数倍でなければならないこと
を示しています。
あるいは,e=N{hcc/(2g)}と書けば,逆に,
電荷:eが{hcc/(2g)}の整数倍でなければならないこと
になります。
結局,電荷の量子化が得られたことになります。
位相に関する話題はこの他にもありますが,一応,Diracの
磁気単極子(モノポール)の理論に関連した話だけをしよう
と思ったので,今日のところはここで完結とします。
参考文献:Jackson 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上)」(吉岡書店);
矢吹治一 著「量子論における位相」(日本評論社)
http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。
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コメント
インフレーション時にモノポールが存在したと予測されているようで
↓
インフレーション後にモノポールの存在密度が劇的に低下したと予測されているようで
?
投稿: 凡人 | 2013年5月 3日 (金) 21時01分
11元人様
横から失礼します。
URL先の資料によると統一理論(強い力・弱い力・電磁力)においてインフレーション時にモノポールが存在したと予測されているようで、むしろ理論を補強するようです。
もちろん今後モノポールを完全に否定する理論が表れるかもしれませんが。
投稿: 大絶画 | 2013年5月 3日 (金) 09時11分
↑の修正です。
>>・W[a][0][j]および、F[a][i][0] ・・・ 電場のようなもの
>>・F[a][i][j] (i,jともに0以外) ・・・ 磁場のようなもの
・W[a][0][j]および、W[a][i][0] ・・・ 電場のようなもの
・W[a][i][j] (i,jともに0以外) ・・・ 磁場のようなもの
投稿: 11元人 | 2007年8月24日 (金) 18時31分
TOSHIさん、こんにちは。
ちょっと質問させてください。
電磁場は、電磁場テンソルF[i][j](i,j=0,1,2,3)について、3次元的に、
・F[0][j]および、F[i][0] ・・・ 電場
・F[i][j] (i,jともに0以外) ・・・ 磁場
ですよね。
強い力の場や弱い力の場においては、電磁場テンソルに相当するものが、いわゆるヤンミルズ場テンソルW[a][i][j](i,j=0,1,2,3;a = 1,・・・,N; Nは強い力の場では8まで、弱い力の場では3まで)だと思いますし、3次元的には、
・W[a][0][j]および、F[a][i][0] ・・・ 電場のようなもの
・F[a][i][j] (i,jともに0以外) ・・・ 磁場のようなもの
だと思います。
それで、もし、モノポールが存在すると、電磁場の法則・理論だけでなく、強い力の場や弱い力の場の法則・理論にも、修正・変更が必要になるのでしょうか?
投稿: 11元人 | 2007年8月24日 (金) 18時29分